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2004年の統計によると、高卒男性と大卒男性の平均賃金の差は、
60歳までで約7000万円になる。
このような差が生まれる理由として、教育経済学では2つの理論がある。
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1つは人的資本論と呼ばれるもので、工場の設備(資本)に多くの金を投入すれば生産性が高まって結果的に収益が増えるように、人間
...続きを読むにも多くの時間や知識を投入すれば生産性が高まり、それによって収益が増えるという考え方。
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もう1つはシグナリング理論と呼ばれるもの。この理論において、まず初めに企業は「大卒者は高卒者に比べて仕事がよくできる」という仮説に基づいて、大卒者に高い賃金を与える。すると、同年代の高校生のうち、能力の高い者は高い賃金を求めて大学に進学する。能力の低い者もできることなら大学進学を志すが、能力の低い者にとってはそのためのもろもろの費用が高くつくため、大学進学を諦め、高卒で就職する。すると、企業は求職者の能力を問わずに学歴だけで判断したにも関わらず、結果的には高能力者に高い賃金を払えていることになる。この時点では求職者の能力について企業は情報を持っていないが、10年後に彼らの能力者をよく把握した上で検証してみると、やはり大卒者の方が高い能力を示していることが確認される。もともとの能力が高い上に、高所得によってモチベーションも高いためである。このようにして、初めは単なる思い込みでしかなかった「大卒者=高能力者」という理論が実質を帯びることとなる。
企業の採用決定者が責任回避的なほど、シグナリング理論が成立しやすくなる。採用決定者は、自身が採用した社員が入社後に成果を上げないとその責任を問われるが、その際にシグナルに従って判断したと言えば責任が回避できるためである。逆に言えば、シグナルにとらわれずにリスクをとって採用活動を行うことで、他の責任回避的な企業では気づかない優れた学生を採用する可能性もありえる。
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オーストラリアの学校納付金の支払い方法は、在学中にはそれを支払う必要がなく、卒業してから一定水準以上の所得(最近では400万円以上)を得るようになったら、その所得額に応じて徐々に返済を開始するという無利子のローン制度。しかも、その支払いは税金とともに行われる。
この制度によって、貧しい家庭の子が大学に行けないということがなくなり、かつ、大学を卒業したはいいがその後何らかの理由により職につけず、借金地獄に陥るという可能性もなくなる。
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子どもの学歴に対して影響が大きいのは、父親よりも母親の学歴である。子どもが成人になるまでの接触時間・会話時間を考えると、朝早く会社に行って夜遅くに帰ってくる父親に比べて、基本的には家にいることの多い母親の方が子どもとの接触時間が圧倒的に長いためである。すなわち、子どもと多く話す人の知的レベルによって、子どもの将来の学力が規定されるということになる。
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体系的学習をすることの利点は、何か問題が起きたときに、既存の体系の中に位置付けてその問題を理解できることである。浅くとも広い知識を備えていれば、多くの問題に対して適切なアプローチを生み出すことができ、誤った判断をすることが少なくなる。
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新しい考えを生み出すためには、まずは豊富な既存知識が無ければいけない。閃きとは本当に何もないところからは生まれず、潜在意識下にある豊富な知識の組み合わせから生まれるためである。豊潤な土壌が無ければ、種が芽を出すことはないということである。