①
2004年の統計によると、高卒男性と大卒男性の平均賃金の差は、
60歳までで約7000万円になる。
このような差が生まれる理由として、教育経済学では2つの理論がある。
②
1つは人的資本論と呼ばれるもので、工場の設備(資本)に多くの金を投入すれば生産性が高まって結果的に収益が増えるように、人間にも多くの時間や知識を投入すれば生産性が高まり、それによって収益が増えるという考え方。
③
もう1つはシグナリング理論と呼ばれるもの。この理論において、まず初めに企業は「大卒者は高卒者に比べて仕事がよくできる」という仮説に基づいて、大卒者に高い賃金を与える。すると、同年代の高校生のうち、能力の高い者は高い賃金を求めて大学に進学する。能力の低い者もできることなら大学進学を志すが、能力の低い者にとってはそのためのもろもろの費用が高くつくため、大学進学を諦め、高卒で就職する。すると、企業は求職者の能力を問わずに学歴だけで判断したにも関わらず、結果的には高能力者に高い賃金を払えていることになる。この時点では求職者の能力について企業は情報を持っていないが、10年後に彼らの能力者をよく把握した上で検証してみると、やはり大卒者の方が高い能力を示していることが確認される。もともとの能力が高い上に、高所得によってモチベーションも高いためである。このようにして、初めは単なる思い込みでしかなかった「大卒者=高能力者」という理論が実質を帯びることとなる。
企業の採用決定者が責任回避的なほど、シグナリング理論が成立しやすくなる。採用決定者は、自身が採用した社員が入社後に成果を上げないとその責任を問われるが、その際にシグナルに従って判断したと言えば責任が回避できるためである。逆に言えば、シグナルにとらわれずにリスクをとって採用活動を行うことで、他の責任回避的な企業では気づかない優れた学生を採用する可能性もありえる。