殺人・都市伝説・近親相姦・カニバリズムなどなど、いわゆる「猟奇」について語った文章を集めた一冊。
軽快な文体の隙間からひょいと顔を出す、猟奇的異界への鋭い考察が読みどころです。「当たり前」が充ち満ちている日常への違和感を持つ方々には共感するところが多いのではないでしょうか。
中でも「殺人現場から見
...続きを読むる『冥途』の風景」は出色。件→観衆→件という視線の動きを経て、件と観衆ーーすなわち異界と現界とがメルトするという指摘はとても興味深いです。
「私たちが猟奇を読む必然性があるとすれば、生を取り巻く闇の世界に自意識の領分を広げ、不可解への耐性を養うことだ」(p. 7)。
然り、彼岸と此岸は紙一重なのかもしれません。
文体は軽妙で読みやすく、文庫としても薄手。ポケットの中の猟奇としてお勧めします。