不思議なお客を乗せて、発車!
松井さんは、空色のタクシーの運転手。松井さんのタクシーには、不思議なお客さんが次々に乗ってきます。優しくて不思議な8つの物語。
■小さなお客さん
松井さんは、タイヤの修理を手伝ってくれた2人の子どもをタクシーに乗せてあげます。子どもたちは初めて乗る車に大はしゃぎ。2人がタクシーをおりると、座席には金色の毛が散らばっていて…。
車をおり、客せきのドアをあけたとたん、松井さんは、
「なんだ? こりゃ……」
と、つぶやきました。
ほそいみじかい金色の毛が、みどりのシートにちらばっています。
松井さんにできなかったタイヤの修理をやってのける子どもたちにびっくりしたり、子どもたちの正体を想像する楽しさに、むねがはずんだりするお話です。
■うんのいい話
松井さんは、魚つり帰りのお客をタクシーに乗せて走っていました。お客がうとうとし始めると、車の目の前を魚たちが泳ぎ出し、お客の網の中からは、魚たちが出ていって……。
まどというまどが、ぜんぶ、すうっとおりました。水が、ひんやりと、風のようにながれこんできました。
松井さんとお客さんの指は、ふるえています。春ももう終わりの頃なのに、ふしぎですね。「かえせ かえせ かえせ」「きたよ きたよ きたよ」という魚たちの声も、ちょっとこわくて、でも楽しいです。
■白いぼうし
松井さんが、もぎたての夏みかんをのせてタクシーを走らせていると、道ばたに落ちた白いぼうしを見つけます。車をおり、ぼうしをつまみ上げると、中からモンシロチョウが飛び出しました。ぼうしのうらには、赤いししゅう糸で、「たけ山ようちえん たけのたけお」と書いてあります。
(せっかくのえものがいなくなっていたら、この子は、どんなにがっかりするだろう。)
そう思った松井さんは、いいアイデアをおもいつきます。それは、夏みかんを……。
魔法みたいなアイデアを思いついて心をおどらせる松井さんでしたが、松井さんにも魔法みたいな出来事が起こります。このふしぎを味わってみてね。
■すずかけ通り三丁目
松井さんのタクシーに乗ってきたのは、40才くらいの女の人。行き先は、松井さんも知らない、「すずかけ通り三丁目」の「白菊会館」近く。22年前、戦争が終わるまではその家で暮らしていたそうなのです。そして、今日は、3才の双子の息子をなくしてから、ちょうど22年の日なのでした。女の人は語ります。
「むすこたちは何年たっても3さいなのです。母おやのわたしだけが、年をとっていきます。
でも、むすこをおもうときだけは、ちゃんと、このわたしも、もとのわかさにもどる気がするんですよ。……おもしろいものですね。」
女の人は帰り際、小さなおばあさんになっていたのでした。