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怒り・悲しみ・憎しみ・恐れ……どんなネガティブな感情も、丁寧に解きほぐすと、その根源に「愛」が見いだせる。不安で包まれているように思える世界も、理性の光を通して見ると、「善」が満ちあふれている。中世哲学の最高峰『神学大全』を、教師と学生の対話形式でわかりやすく読み解き、自他を肯定して生きる道を示す。
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Posted by ブクログ
授業で指定されて読んだ本。トマス・アクィナスの感情論が分かりやすく、かつ明確に示されていた。愛があらゆる感情の根源であり、欲望されうるものの心における刻印こそが愛。欲望されうるもの=善が自分の周囲に転がっている可能性に気づくことで自分から見える世界はより豊かなものになりうる。
トマス・アクィナスの「神学大全」という大作のうち、感情論にテーマを絞ってトマス哲学の核心的な位置づけと見なされる肯定の哲学という観点から講釈いただけております。哲学者と学生の対話形式で綴られていますので、取っつきやすくかつ日常的な例を挙げてながら進めているので、自分の経験とリンクさせて理解が深まる。...続きを読む 喜びや希望といった正の感情、絶望や恐れ・忌避などの負の感情含めすべての根源的な感情として「愛」があるのだ。絶望・恐れ不安に襲われている際にも、そこには対象「欲求されうるもの」への愛所以という論理を心に留めておくことで、直面している悲惨な現状に対して少しでも拠り所として機能するのではにないか。 また、愛するということは一見能動的な動作や感情に思えるが、そこにまず「欲求されうるもの」からの働きかけがあり、その働きかけに呼応することで深まっていくもの、つまり発端はどちらかというと受動的なものとなる。これは、愛、言い換えると「善なるもの」は独断的で独りよがりなものではなく、その対象との相互的な関係性によって成り立っているのだという考え。また、「欲求されうるもの」はこの世の中に沢山散りばめられており、その出会いと深化が人生を豊かにするのだとい楽観主義的な思想が、悲観に満ちかけた時などの気持ちの支えになってくれそうとか思いますの。 以下、付箋個所をトレースしてみます。 P140 「憎しみ」の根底には「愛」があるという気づき。憎しみという負の感情に飲み込まれないための、心の錨として落としておきたい考えです。 P165 「発展的スコラ哲学」トマスが古代ギリシア哲学とキリスト教の神学を統合して洞察を深めていったように、トマスの哲学と現代の知的発展を統合してさらに発展的な知的探求を行おうという試み。トマス的な取り組みを現代でも継承していこうというこの意気込みは、「神学大全」をただのキリスト教の教義だと決めつけていては到達できない観点ですね。 P187 不倫や賄賂などのいわゆる悪に属する行いも、「性的快楽」や「拝金主義」といったある場面においては追求されることもある善を歪んだ形で発揮してしまっている所以であり、「悪」を愛しているわけではない。このように陥ることを防ぐため、「徳」が必要なのである。 P200 善に対する「実在的な一致」と「心における一致」では後者がより重要性を増している。心に喜びを伴わない場合では、実際に喜びを与えてくれる対象を手に入れていても真に愛することはできない。深いお言葉。 P220 「もう一人の自己」「相互内在」 人間が有する特徴である。自分ではない他者に対して、自分の喜ばしいことのように感じ入れる。これは、神の似姿としての人間のみに与えられた善の分与・共有の精神に近しいのではないでしょうか。 P289 神学的な観点から考察する感情論との親和性 「傷つきやすさ」をもつ不完全な人間だからこそ、受動的に善に出会うことができ、相互に感じ入れることができる。愛すべき、ビバ人間。 人テーマに絞り込み、あまり神学との絡みをあえて省いた本質的な論を展開してくれているので、自分の人生の糧となるでしょう。良本でございます。しぇいしぇい。
この本を読み終えると、ホントに「世界は善に満ちている」と思える。 最初はなんか偽善的?なタイトルだなぁと思った。それに「トマス・アクィナス哲学講義」というサブタイトルが付いている。ものすごく難しそうで到底読みきれないと不安に思いながら手に取る。 ページを開くと対話形式になっている。学生と哲学者。少し...続きを読む読むと、とても読みやすいことに気づく。時々引用されている原典の文は、全く歯が立たない、チンプンカンプンなのだが、本書にも書かれている通り、対話になった部分を読んでいくと、なんと、最初全く意味が取れなかったものが、あーそういうことか、と一応わかるようになるのがすごい。 内容は、今の私のために書かれているのではないかというくらいビジビシ納得し慰められ、もうメモをとりまくった。長すぎてアップできない。 今の私とは、全く「世界は善に満ちている」と思えず、「世界は善に満ちていない」、なんなら「世界は悪に満ちている」と思っている状況。 そういう人たちのための薬になる本だと思う。 世界は善に満ちている!
中世ヨーロッパの哲学者トマス・アクィナスが記した『神学大全』のうち「感情論」にフォーカスして、教授と生徒の対話形式で人間の感情に関する洞察をなぞる本。 つい先日、自分も「感性」について考察したいたこともあり、それはもうノリノリで読めた。 トマスの感情論は感覚的な説得に依らず、論理的に心の動きを分析...続きを読むすることに特徴を持つ。 導入で「希望」という感情の要件を ①善であること ②未来を対象とすること ③獲得困難なものであること ④獲得可能なものであること とし、もし④が不可能であるならばそれは「絶望」の要件となると示す。「希望」と「絶望」、対極に位置する感情が紙一重の要件境界をまたぐことによって鮮やかに塗り変わることを示され、ここでいきなりトマスの思想にぐっと引き込まれてしまう。 まずトマスはあらゆる感情のベースには「愛」が存在するとし、愛の定義と愛によって躍動する心について説いていく。 「愛」はなにものかの存在により心に働きかけを受け、励起させられることにより生じる受動的な感情であるとし、そのものを手に入れようと「欲望」が生まれ、それを手にした時に「喜びが」生じると考える。 このような手法で、負の感情である「憎しみ」「忌避」「悲しみ」などについても整理していく。 うおぉ…と思わされたのは、「憎しみ」は単体で生じることなく自身が「愛」を持った存在を害された時に生じる感情であり、「憎しみ」の根底には必ず「愛」が在るという話。 確かに例外は全く思いつかず、今後自分が「憎しみ」を覚えた際に自分は何に「愛」を持っているのかを問うことが出来るだろう。 あらゆる存在は人を欲求させ得る可能性を有し、人はそれらの内で「気に入ったもの」を浴びて生きている。この視点は自分が「感性」や「素直さ」を重要視している感覚と一致する。、つまらない世界だと感じても、世界はそのような「善」を持つもので満ちているという感覚は豊かに生きる上で重要だろう。 このような感情論に対しキリスト教からの視点を混じえた解説も面白かった。 感情は受動的活動であるが、神は完全な存在であるため影響を受け変化することは無い、故に神は感情を持たないと考える。など、宗教に関しても一貫した説明を与えることに成功し、その強固なロジックに対して感銘を受けた。 自分の思想と突き合わせながら読み、本を閉じた時には「自分、トマス・アクィナスと会話できてるな…」と思え、それがとてもよかった。 対話形式で具体例を用いて解説が進むので、前提知識がない人でも哲学の面白さを十二分に浴びれる本なんじゃないか。オススメすぎる本、是非読んでみてください。
論理的に感情を説明した本。 なるほどな、と思いました。 なかなか難しい内容で何度もページを戻って確認しつつ読み終わりました。 学生と教授の対話形式なのも、難しい話に入りやすく、よかったです。
感情が受動的なものであるという点、東洋哲学や心理学と共通の何かがある気がする。 感情が生まれる過程を微分し解きほぐす説明に、感情の嵐に巻き込まれないヒントがありそうだ。 心理学やらが新たな発見だと言っているようなものと近いのではないか。心の本質的なところは、すでに遠い昔に観想されていたのだなあ。 ...続きを読む印象的な言葉 ・感情passioは英語のpassive受動的の語源。passioは外界の影響を受動して生まれてくる心の動き全般のことを指していてそれをここでは感情と呼んでいる(p38) ・トマスの感情論を手がかりにすることによって、恐れと絶望は対象を異にした根本的に異なる感情だということがわかってきます。恐れについて言えば、差し迫った未来の困難な悪を自分は恐れているのだということに気づきます。他方、絶望について言えば、未来の善がもはや達成不可能だと思い、既に自分が失望絶望していることに気づきます。 感情の倫理学を踏まえた上で自らの感情を振り返ってみると、何がそうした感情を呼び起こしているのか、と言うことに改めて気づくことができるようになります。絡まりあって混乱しがちな自らの感情をうまく腑分けし整理するための手がかりを与えてくれるのです(p42) ・私たちは「欲求されうるもの」からの働きかけを「受動」しうるからこそ(受容しうるからこそ)能動的に活動しうる。 受動すること、この世界のなかの魅力的な美点によって心打たれることは、真に充実した人生を送っていく前提条件とも言えるでしょう。 確かに自分からやみくもにに何かを愛そうとするより、何らかの対象の方から自分への働きかけがないかどうか、目を凝らし耳をすませ、心を開いておくことが愛を引き寄せる第一歩なのかもしれませんね(p77~78) ・欲望的な感情passio concupiscibilis 対象が困難なものであるか否かに関わらない。魅力的なものと関わりたい嫌なものと関わりたくないと言う人間の心の最も基本的で自然な運動によって生まれてくるもの 愛、憎しみ、欲望、忌避、喜び、悲しみ。 気概的な感情: passio irascibilis 自然な運動の達成を妨げる困難との出会いによって生まれてくるもの。欲望的な感情があって初めて生まれてくる二次的な心の動き。 困難なものを対象とする。 希望、絶望、恐れ、大胆、怒り。(p81) ・「自らのうちに有り余るほどに豊かな善が存在していてそこから他者へと分かち与えるcommunicareことができるほどだ。」 communicareという動詞は、文脈に応じて、分かち与える、共有する、伝達するなどと訳すことができます。 例えば太陽は自らの有する光や熱を独占したりはせず、おのずと周囲の者にも光や熱を分け与えていきます。また、泉も、こんこんと湧き上がる水を自分だけで独占したりはせず、おのずと周囲の者もいるをしていくわけですね。そのように、優れたもの、充実したもの、すなわち善いものは、自らの卓越性や充実を自らのうちのみに独占することなく、おのずと周囲へと拡散させていく。 この原理は、善は自己拡散的であるbonum est diffusivum sui、と言う形をとってトマスの思考体系の様々なところに登場します。善の自己拡散性、善の自己伝達性、と言う言葉でまとめることができます(p252) ・富であれ権力であれ快楽であれ、自分だけで何かを独占したいと言う心の動きは誰にでもあるわけですが、でも人間にとっての喜びはそれだけではない。それだけで心が完全に満たされる言うような事はありえない。自分の豊かさを他者と分かち合う、そういう喜びも人生にとって大切なものとして存在するのだ、とトマスは述べているのです(p258) ・人間は善の自己拡散性がある。 この世界の真相をありのままに認識することによって人間は理想的存在としての自らの可能性を十全に開花させることができ、大きな喜びを感じ取ることができる。そしてその喜びは自己閉鎖的なあり方へと人間を導いていくのではなく、真理を他者と分かち合い共有すると言う仕方で、より大きな喜びに満ちた他者との共鳴へと人間を導いていく、とトマスは述べているのです。(p259) ・人間が愛と言う感情を抱くのは、外界の善(欲求されるもの)の働きかけを受け、その刻印が心に刻まれていることだ、と言う話をこれまでしてきましたが、それを言い直すと、人間は不完全な存在であるからこそ、自分とは異なる善(欲求される者)の働きかけを受容し、より豊かな存在になっていることができると言うことになります。(p266) ・今自分に見えているものがこの世界の全てではない。この世界の内には、まだ自分には見えていない様々な価値、様々な善が存在している。ある種の訓練、例えば味覚の訓練を積むことによって、または徳を身に付けることによって、もしくは自分の心にふとした機会に訴えかけてくる何らかの善との出会いによって、より多様で豊かな善の世界へと自らが開かれていく。私たちの生きているこの世界には未知なる善が計り知れないほど埋もれているのだ。そういう感覚を持って生きることができれば、人生の奥行きというか、広がりというか、そういうものが随分と変わってくるのではないかと思います。それが肯定の哲学。 良質なワインのおいしさがワインを飲み慣れていく中で徐々にわかってくるのと同じように、この世界の素晴らしさと言うものも最初から全て把握できるようなものではありません。そうではなく、それぞれの人生を生きていく中で徐々に明らかになっていくものなのです。(p283)
情動の根源は愛であり、愛がなければ感情が無くなり、世界に対して無関心になってしまう怖さを感じた。適切な情動は、どんなものであれ、善い感情であるという考えは勉強になった。悲しいという感情も、適切なものであれば、善いものなのである。
善(よいもの)に導かれた愛(好きという気持ち)がすべての感情のもとになる、というトマスの感情論をひも解いていくことで現代の私たちの生活をも照らそうとする内容。キリスト教神学の視点はほとんどなくて、宗教に抵抗のある一般層向けになっている。私は自己啓発的な話ではなくて神学のほうが読みたかったので肩透かし...続きを読む感はあったけど、トマスの雰囲気はなんとなく掴めるようになった気がする。精緻でありながら、アリストテレスらしい有機的な解釈、明るい哲学。 神学大全の文章をものすごくかみ砕いて説明してくれて非常にわかりやすかった。
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山本芳久
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