本書は1968年に、川端康成が日本人初の受賞者となったノーベル文学賞のスピーチ「美しい日本の私」(サイデンステッカーによる英題は「Japan, the Beautiful, and Myself」)を含む、随筆集である。3日間の徹夜のもとで、スピーチ直前に書き上げられた「美しい日本の私」は、やはり川端康成の文学世界を理解する上では一級のドキュメントであろう。
その点では、原題と英題の微妙なズレを意識することは極めて重要であるように思われる。原題は「美しい日本の私」であり、接続詞により”私”は”美しい日本”に包含されることが明示される。この二語の関係は、”美しい日本”という世界が”私”の主観的世界に依拠するものであるという川端康成の主張を示すものであると理解される。一方、英題の「Japan, the Beautiful, and Myself」では、”Japan, the Beautiful”と”Myself”は”and”という並列詞で接続されている。この並列詞により、”美しい日本”は”私”とは無関係に、ア・プリオリに存在しているかのような印象を抱いてしまう。この微妙な原題と英題のずれにこそ、川端康成が考える日本文学の特異性が最も表出しているのかもしれない。