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日本民族に独自の美意識をあらわす語「いき(粋)」とは何か。「運命によって〈諦め〉を得た〈媚態〉が〈意気地〉の自由に生きるのが〈いき〉である」――九鬼は「いき」の現象をその構造と表現から明快に把えてみせたあと、こう結論する。再評価の気運高い表題作に加え『風流に関する一考察』『情緒の系図』を併収。 (解説 多田道太郎)
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Posted by ブクログ
・九鬼周造は、江戸の美意識であった「粋(いき)」の意味を哲学的に探り、恋愛にある緊張感や儚さ、近松や西鶴の描く、心の交情。その本質的なところに「いき」があると云っています。 「いきの第一の徴表は、相手に対する媚態である。 関係が、いきの原本的存在を形成していることは、いきごとが、いろごと、...続きを読むを意味するのでも分かる。 媚態の要は、距離を出来得る限り接近せしめつつ、距離の差が、極限に達せざることである。 いきは媚態でありながら、なお相手に対して、一種の反抗を示す強みを持った意識である」 (九鬼周造) まず第一に、「いき」には「媚態」があり、相手を惹き付けようとする色気こそが、いきの大前提なのだそうです。 そして、恋愛には、緊張感が大切で、いざ深い仲になってしまうと、その媚態は消え去り、いきではなくなってしまうのだそうです。 近づきたいから生まれるのが、いき。しかし、近づきすぎてもだめ……。この微妙な距離感でないと、いきにはなりません。そこで、生まれたのが、意気地(いきじ)という反抗的な態度です。たとえば、武士は食わねど高楊枝、宵越しの金は持たぬ、というどこか突き放したやり方も、いきといわれる所以です。 また、運命を受け入れる、諦めの気持ちもいきには必要といいます。 恋愛においては、相手を好きになっても構わないけれど、そのことで束縛や、未練があるなら、それは断つ(諦める)のだそうです。好きだとしても、相手に縛られるということは、「いき」ではなくなってしまう。好きでありながらも、その支配下には入らない、のが良いそうです。 この、媚態、意気地、諦観、の三位一体がいきの定義としていて、成る程と興味深いのですが、ここで、九鬼自身が実例として挙げているのを見ると、いき特有の複雑さが分かります。 (九鬼の女性観に対するいき) 「只、まっすぐ立っているのではなく、 少し姿勢を崩し、姿はほっそり柳腰。丸顔よりも、細面が宜しい。 目は、流し目。過去の憂いを感じさせる光沢。軽やかな諦めと、凛とした張りがあること。 口は、緊張と緩みの絶妙なところが好い。憂いを感じさせて、厚化粧は野暮である。 髪形は、きちっとさせないつぶし島田など、少し崩したものがいきである。 着物は揺れる物で、襟足を見せるように引き下げた抜衣紋(ぬきえもん)が色っぽい。 湯上がりのような上気した肌に浴衣を羽織って解れ髪。こういうのがいきである……」 個人的に思うのは、アメリカなどでは、胸が大きければ大きいほど良いというのがアメリカ人のエロスの考え方ですが、うなじがなんとなく、見えたり見えなかったりするのが色っぽい、エロスだ、というのは、アメリカ人の感覚にはないです。 「いいな」「いきだな」、と思う日本人の振るまい、生き方に蓄積されていったものを知れると同時に、国際的な第三者の考えでいうと、あまり意味のない「一体なにしているんだろう」、とも思ってしまいます。 直接的すぎてはいけないし、直接的じゃなくてもいけない。 かっこいいだけではなくて、けれどかっこ悪くてもいけない。そのあいだの微妙なところを歩いていくのが、「いき」であり、日本人の美徳だと九鬼は述べています。 江戸時代、江戸っ子が蕎麦の汁をちょっとしか浸けないで食べるのは、いきなことだと云われていましたが、それは確かにかっこよくもあり、また変な人だとおかしくもあります。 つまり、江戸時代の人たちのメンタリティは、外からの敵がいない状況のなか、かっこよさとおかしさが、複雑に、そして独特に絡み合い、しかもその絡み合いの概念が、「いき」と人々の間で共有されてしまっていました。それは、異分子(諸外国)から見ると、考えられない光景でした。 九鬼は、いきをさらに明らかにしようと、他のさまざまな言葉と、どんな関係にあるのかを探り続けました。 「この時のいきは何かである」と言わないで、その「何か」というのは、常に他のものとの関係性で、はじめて出てくるいきであり、曖昧なものでも、曖昧なもののまま、追求はできるのだということを、一手に引き受けて論じてくれました。 好む、や好奇心を持つなどの、「好き」は、髪を梳く、紙を漉く、土を鋤く、風がすく、透き通る、ということの「数寄」に由来していますが、この「いき」も、何となく曖昧に揺れ動く「好き」に近いです。 現代のいきは、決して日本人だけのものではなくて、色々なところに伝わって語っていける、いきな、恋心であり、いきな、かっこよさになっていけたらいいなと思いました。
「いき」の核にあるのは、見た目でもなく振る舞いでもなく二元性。 江戸のいきな人たちと同じような生活はできないけれど、現代の日本人の中にも「いき」の精神は生き続けることができる いきでありたい
「うまいこと言えないけどなんとなくあんな感じでなんかいい感じのあれ」という「いき」について、丁寧に要素を取り出して、整理しなおしてくれた感じです。「そうそう、うまく表現できなかったけどそういう感じだよ!」という謎のテンションで一気読みしました。筆者の意図を掴めているかは大いに疑問です。 具体例として...続きを読むあげられているものも素敵で、三本線とばちと柳と桜の花、なんて組み合わせを見たときはうっかりときめいてしまいました。あれ?本当にその組み合わせだったかなあ。 ふざけた内容で恐縮ですが、枯れ木も山、ということでご勘弁願います。
本書は、『「いき」の構造』の他に、『風流に関する一考察』、『情緒の系図』が併収されている。 『「いき」の構造』では、「いき」という言葉の独自性が西洋哲学の手法を用いて論じられている。「いき」を媚態、意気、諦めの3つの言葉を用い定義しつつ、他の様々な日本語との関連から分析している。着眼点の鋭さにた...続きを読むだただ舌を巻いた。『風流に関する一考察』では「風流」について、『情緒の系図』では「情緒」について、それぞれ『「いき」の構造』と同様に様々な日本語を用いて分析している。日本文学や和歌を沢山引用しており、それらの比較を通して次々に概念が浮き彫りになっていく感覚は得もいわれぬ。どの作品においてもいえることだが、日本文化を礼賛しているようには感じられず、中立性を保てているため、好印象を受けた。これは西洋哲学の視点から論じられているからだと考えられる。 著者の哲学や言語学への造詣の深さが感じられ、また日本語の多義性や多様性、その奥深さを存分に堪能できる一冊である。
流し読みして自分で勝手に翻訳すれば大筋は割と理解しやすい。逆にくそまじめに書いてあることを逐一理解しようとすると眠くなって読むのが苦痛でしかなくなる。って感じでした そのうえで、粋に関する具体的な体験の羅列・分析→抽象的な定義づけ→フレームワークの構築っていう九鬼さんの進行に素直に乗っからないと、...続きを読む文章がむずいから途中で迷子になってわからなくなるという印象。 あと個人的にはa○emaの某番組の、ちょうどいい匂わせ選手権っていう企画が、読み進める上で手助けになった気がする。
『「いき」の構造』は、実証性の薄い考察で、容易に肯からぬところがある。しかし、残りの2篇は、実に示唆に富む内容であり、こちらだけでも目を通すことを薦めたい。 九鬼は実存主義研究者であるが、その考え方は構造主義的ではないかと思う。
平野啓一郎の「かっこいいとは何か」に触発されて読みました。「いき」とは何か、上品、派手、渋味など、似た言葉と比較して、論証していくプロセスが面白く、引き込まれました。難解な語句が多く、読みにくいところもありましたが、筆者の、多くの文献を基に論理的に主張を組み立てていく姿勢に、誠実さを感じました。筆者...続きを読むが哲学者であることも初めて知りましたが、ジャンルに関係なく、多くの人に読んで欲しい一冊です。
「いき」、風流、そして情緒の構造・系譜を解きほぐそうと試みた一冊。 文体も古く難解だが、「情緒の系譜」は比較的わかりやすい。 情緒の系譜にたどりつきなるほどと一定の理解をし、あらためて「いき」の構造に対峙するのがよいかもしれない。
こーーーーれは凄い(笑) 細い外見は、肉の衰えを示すと共に精神自体を表現している 野暮は揉まれて粋となる 粋な声についたらされて、嘘と知りてもほんまに受けて 自分には英文でも読んでるかのように難解だけど、めちゃくちゃ深いです
「いき」とは「媚態」を根本として、それに「意気地」と「諦め」が加わった様子のことをいう。 日本独特の美意識を、哲学の言葉で明快に書き表している。 とはいえ、どんな言葉を使っても、こういう美意識をニュアンスまで完全に言い表すことはできない。このことを筆者自らはっきりと言っているところに、九鬼周造の哲...続きを読む学者としての覚悟のようなものが感じられる。 残念ながら現代人の私には、現実で「いき」な人やものに出会う機会がないが、これを読むとなんとなく分かる気がするのは日本人だからなのか。 ただ、本当に「いき」を理解するには、やはり自分には人生経験が全然足りていない。
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「いき」の構造 他二篇
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