「達成心理学」、「成功の心理学」という分野の研究者として第一人者である、中国系アメリカ人のアンジェラ・ダックワース史による著作。世の中で成功するために必要なのは才能よりも努力、すなわち「やり抜く力=GRIT」である事を研究によって明らかにした本である。
冒頭、アメリカ陸軍のエリート養成機関として知られるウェストポイントの士官学校のエピソードから始まる。
そこはハーバードよりも難関とさえ言われており、成績優秀でリーダーシップがあり、身体能力抜群である全米選りすぐりの優秀な高校生が集まるというが、入学した生徒の5人に1人が途中で中退してしまうという。更に中退者の半分が、入学して最初の7週間、ビーストと呼ばれる過酷な訓練に耐えきれずに辞めていくという。才能あふれるエリート達がなぜ、挫折してしまうのか?そして、挫折せずに卒業出来る人達との違いは何なのかが明らかにされる。
書中では全米の各分野の成功者達のインタビューから引き出された考え方や哲学、生き方、影響を与えた人物などが掘り下げられている。以下、印象に残った学びである。
■ ジョン・マッデン: UCLAバスケットボールを率いて全米選手権10連覇を達成
「チームが成し遂げるべきことは山ほどあるが、その屋台骨としてビジョンを確立する事が最も重要である。哲学を持たなければいけない。明確に定義された哲学は、選手たちに指針や境界線を示して、みんなを正しい方向に導くことができる」
■ グリーンベレー
モットーは「機転、対応、克服」である。
ただし「何度やってもダメだったら他のやり方を試すこと」
■ 10年ルール、1万時間ルール
ドイツの音楽学校で最も優秀なバイオリニスト達は、最上級レベルに到達するまでに10年以上、1万時間の練習をしていた一方、 あまり上達しなかった生徒たちは同じ10年で半分程度だったという。。モールス信号の打電方法を習得するには10年かかる。通信指令係が熟練したベテランになるには10年を要するという100年前の研究もある。
■ 意図的な練習
エキスパート達は、ただやみくもに何千時間も練習をしている訳ではなく「意図的な練習 (Deliberate Practice)を行っている」
- 明確に定義されたストレッチ目標
- 完全な集中と努力
- すみやかで有益なフィードバック
- たゆまぬ反省と改良
■ 意図的ではない練習はいくら続けても意味がない
米オリンピック ボート競技金メダリスト マット・ラムスセンが日本のチームに招かれて訪日した際に、選手たちの練習時間のあまりの長さに衝撃を受けたという。「ただ何時間も猛練習をして、自分達を極度の疲労に追い込めばいいというものではない」と愉したという。
■アリストテレス:幸福を追求する方法は2つある
目先の快楽 (Hedonic)
内なる精神(Eudaimonic)
■ レンガ職人の寓話
何をしているんですか?と聞かれると
職人 1 「レンガを積んでいるんですよ」
職人 2 「教会をつくっているんですよ」
職人 3 「歴史に残る大聖堂をつくっているんですよ」
3番目の答えの人は「やり抜く力」が強い。一方で自分の仕事の事を転職だと思っている人はごく僅かしかいないという。
■ 学習性無力感
犬を使った実験で、パネルを押すと電気ショックが止まることを覚えた犬たち、パネルが無く電気ショックが終わるまで待つだけの犬たちと分け、その後、ケージに一頭ずつ入れられた。ケージにはジャンプすれば飛び越えられる壁があるが、再び電気ショックを与えると電気ショックが止まることを覚えた犬だけが壁を飛び越えるという。つまり「無力感」をもららすのは苦痛そのものではなく「苦痛を回避出来ないと思うこと」である事が証明された。→この研究結果は企業などの大組織において蔓延する無力感とそれに付随する現状維持バイアスにも関連する。
■ロンダ・ヒューズ 教え子
数学で博士号を取るも、教員採用試験に79回不採用となり、80回目に採用された。
「私は『挫折してもめげない』という表現が好きになれません。だって、挫折してめげない人なんているでしょうか?だからこう言うべきだと思うんです。『私は挫折しても、めげたままではいない。わたしは立ち直る』」ではどう立ち直るのか?
■ 課外活動をするべし
高校で課外活動を1年以上続けた生徒の大学卒業率は高い。また、2年以上続けた生徒の中で、週あたりの課外活動時間が多い生徒ほど、就業率と収入が高い事が分かった。
■ビル・ゲイツのプログラマー採用面接
選考試験の課題として、単調なトラブルシューティングにひたすら何時間も取り組む問題を出題していたという。問われるのはIQやプログラミングスキルではく、粘り強く黙々と問題に取り組み最後までやり遂げる能力を試すものだったという。
■ 家庭所得とグリッドスコアの懸念すべき相関性
国から給食費の援助を受けている生徒は、恵まれた家庭の生徒と比べてグリッドスコアが1ポイント以上低いと分かった。← 貧困が連鎖する一つの要因といえる。
■ シアトル・シーホークス
人々が明確な理由をもって同意の下に集まるところは独特の文化が存在する。これを心理学では内集団という。シーホークスでは「絶対に成功してみせる。実力を証明してみせる。という気概のある選手たちを集めている」という。
■ アンソン・どーランス 米国女子サッカー代表監督
「才能は珍しいものではない。偉大な選手になれるかどうかは、才能を伸ばすためにどこまで努力できるかにかかっている」
困難に負けずに立ち向かう姿勢
彼らは「満足していない自分」に満足していた。
彼らは、やらざるを得ないからとか、金銭的に魅力的だから、という理由で仕事をしているわけではない。