【感想・ネタバレ】ニムロッドのレビュー

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感情タグBEST3

Posted by ブクログ

淡々と紡がれていく文章がとても心地よく、一息で読み終えた。
情緒的でもなく、悲劇的でも無いと言えるような文章で描かれる独特な作品。
なんとなくテーマは分かるが、作者の意図やそれに対する答えなどが書かれているわけでなく、正直そのテーマを取り巻くものはよく分からなかった。
しかし、何となく感じるボーッと浸れるこの読後感、主張しすぎない文章、冷静に独立したただここに在る作品、とても僕の好みであった。
何度か読み返す作品となるだろう。

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2021年02月24日

Posted by ブクログ

ネタバレ

本作に通底しているテーマの一つには「存在証明」があると思う.

無から生み出され,存在が記述され,多くの人に求められることでその価値を保つBTCをはじめ,
「ダメな飛行機」(=飛べない飛行機)という本来の目的を果たせない造形物や
子孫繁栄を命題とする動物の一種でありながら中絶を行う田久保紀子は本来の役割を果たせないものの象徴であり,その例示である.
感情の伴わない涙も,ただ堆く高さだけを誇る塔も.

果たして,本来の役割を果たせないものたちは無価値なものなのだろうか.

本作においてこれら全てに共通して投げかけられるのは「存在」と「価値」の関係に関する問いである.

「ダメな飛行機コレクション」の飛行機は誰がどう考えたってジャンクである.実際,作中でも鉄屑以下と形容される.しかし,nimrodや田久保,中本からは「欲」され,「面白」がられ,そこには本来の文脈と違えど価値が生まれている.
これはBTCの価格が天井知らずに高騰していくメカニズムもこれに通ずる(中本がマイニングしなくても誰かがマイニングしてその価値を担保する).

これらを以てして私は
「凡ゆる事象において,価値は元々規定されたものではない(≒本人の意図とは関係なく何処かの誰かによって価値は付与され得る)」であるため,無価値なものは存在し得ないというポジティブなメッセージを受け取った気がする.

飛べない飛行機やBitcoinそれ自体には本来的な価値を果たせないが,無価値ではない.
中絶をする判断を行った女性も誰にも読まれない小説もまた然りだし,中本の感情を伴わない涙は人を癒す.

ただ,この文脈でバベルの塔やドロドロ人類を読み解くには未だ読みが足りない(or誤解している)ようにおもうので,日を改めて読み直したい.

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2024年01月29日

Posted by ブクログ

「私の恋人」「塔と重力」に比べるとだいぶ読みやすかったが、この人の小説は、人類とか世界とか地球とかをあたかもひとつの生命体のように捉えていて、読み終わってから深く考えさせられるし、一度読んだだけでは理解できない気がする。

登場人物は、ビットコインの「採掘」をする僕と恋人で証券会社に務める紀子、会社の先輩で小説を書くニムロッドこと荷室。

紀子も荷室も高い生産性が求められ、効率化をよしとする現代に適応しきれず苦しんでいるように見える。紀子は、障害があることがわかって胎児を産まない選択をした過去に苦しみ、荷室はうつ病で休職したあと名古屋に異動した。

荷室が送ってくる「駄目な飛行機シリーズ」は、飛行機が完成し実用化した現代には全く価値がないもの。でもその不完全さ、ダメさは人間らしさの象徴であり、紀子はそれに癒やされ、荷室の書く小説の中でのニムロッドは高額でそれを蒐集する。

飛行機を売りにくる商人が、人類の行く末(効率を追求した果てに個であることをやめ、どろどろに一体化するという)を説明するくだりが衝撃的だった。

ラストで二人(生死は不明)と連絡がとれなくなった僕が、感情の伴わない涙を流す。彼は二人とは逆に人間らしい感情をどんどん希薄にし、機械に近くなっていくことで、何とか生きている気がしてやるせない気持ちになった。

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2022年08月06日

Posted by ブクログ

仮想通貨のように実体のないものに価値があると信じるのが人間。ブランド、仕事、人生まで、意味や価値があると信じるからこそ意味や価値が生じる。そうした虚しさに思い悩む瞬間は誰しもあって、荷室・田久保と中本は対照的に書かれている。意味がないから生きないのか、深く考えずに生きていくのか。そういった永遠のテーマとも言える内容を、ニムロッドの小説内小説のSF要素と絡めて問いかける。読み終わって、なぜだか新しく勉強を始めようと思って本を購入した自分は、きっと現実逃避か悪あがきをしようとしているんだろう。

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2022年05月24日

Posted by ブクログ

サーバー機能を提供する企業でビットコインの採掘を任された主人公。
駄目な飛行機の説明と、自作の小説をメールで送り付けてくる友人、ニムロッド。
主人公は恋人の田久保紀子とニムロッドへの興味を共有してゆく。

サーバーの管理業務やビットコインの仕組み、駄目な飛行機についてほんのちょっぴり詳しくなれる。あっさり読める。内容は決して濃くはないけど、存在論や貨幣論のような考察も入ってきて面白かった。星3か4で迷う。

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2022年01月17日

Posted by ブクログ

ビットコインという概念と上田岳弘ワールドが見事に融合した小説。上田小説に何度も繰り返し登場する「モチーフ」に「キタ――(゚∀゚)――!!」とワクワクが止まらない。この人の文章は癖になる。好きだからもうしょうがない。

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2021年12月14日

Posted by ブクログ

虚しい。とにかく虚しい。

生きる意味とは?仮想通貨と絡めるところが面白い。

ディズニー映画のリメンバーミーを思い出した。自分の写真を死者の日に飾ってくれないと現世に遊びに行けない、自分を覚えていてくれる人が居なくなると、死者の世界からも消える「第2の死」を迎える。

なんとなく思いついたなぁ

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2021年12月01日

Posted by ブクログ

好きか嫌いか?再読したいか否か?
好きではないかな、再読も疲れそう。

でも、現実がこのまま進んでいく先に、あるかもしれない形だと、アリだとは思う。
自分はきっと、個をなくした人間として融合する前に、東方洋上に去る派かな、と、今は思うが、仮想通貨の概念もろくに理解していない古いヒトというだけかも。
書いているうちに、もう一度読みたくなってきた。ダメな飛行機を集めてしまうニムロッドの心情が気になるのか?

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2021年09月02日

Posted by ブクログ

友だちから薦められたBLACK COFFEEの「Subconsciously」が良すぎて、妻と娘が寝静まったあと、これを聴き、ウイスキーを舐めながら、読書をするのが最近のマイブーム。
この小説もそんなふうに読んだ。

第160回芥川賞受賞作。

ストーリーは何だかよくわからないが、妙に物悲しい結末がいい。
しかし、ビットコインと採掘(マイニング)の仕組みがよくわかる。
ダメな飛行機の話もなかなかいい。

というか、この小説、もしかしたらすごく面白いのかもしれない…とあとからじんわりとこみ上げてくる。
不思議な読後感。

上田さんはIT企業役員と作家を兼業されている、とのこと。
そのためか、なかなか硬質な筆致で、ビジネスパーソン向け小説だと思った。
新たな価値創造を目指すなら、そこらへんの自己啓発書よりこの小説を読むことをおすすめする…かな?

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2021年02月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

初上田。芥川賞受賞作。僕、中本、田久保女史、そして"ニムロッド"こと荷室仁。道中繰り返し紹介される「ダメな飛行機コレクション」がすごく好きだ。きっと何かの暗喩なんだろう…。不完全な人間か、それとも紹介しているニムロッド自身を指すのか——。三者三様の結果だが、中本の未来(新たな仮想通貨の作成)のみ、希望に満ちている気がする…。

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2024年05月13日

Posted by ブクログ

人類の営みに乗れなくなる、しかし逃れきれない。
自分の人生を生きる、または置き換え可能。
失敗できる。

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2024年03月16日

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バベルの塔、ビットコイン、失敗した飛行機…それぞれのモチーフの組み合わせは選び取られてるなと思うけどストーリーとして腑に落ちるとか面白かったかと言うとそこまでではなかった。

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2024年02月11日

Posted by ブクログ

読みにくさでいうと少しだけ苦手な部類ではあるけれど、思っていたよりも読めた
駄目な飛行機がなかったら〜からのくだりをすきだなと思う自分はどこまでも普通だなと思った

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2024年01月23日

Posted by ブクログ

ふっつーーに面白かった。
自分がエンジニア系なのですらすらっと内容が入ってきたのが、逆に目新しさがなかったのかも。。。

ビットコインと小説、なんだか正反対だけど、無から有を生み出すところは同じことなんだよなぁ。

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2023年12月25日

Posted by ブクログ

仮想通貨・ビットコインのマイニング(採掘)や実用化に失敗した「駄目な飛行機」たち、そして高くそびえる塔といったモチーフを反射板みたいにつかいながら語られる物語。

デジタルの圧倒的な大波をざぶんと浴びせられ、そののちデジタルの破片をたくさん身体に受けたままアナログの立場で書いた小説、といった感覚でした。なんていうか、乾いていてシンプルで、それでいて割り切れないような生々しい複雑さの結び目のようなものがある。

主人公の中本哲史はIT企業の社員で、新設された採掘課の課長。運営するサーバーコンピュータの空きを使ってのビットコインの採掘を命じられる。主人公の名前はビットコインの創設者とされるナカモト・サトシと同じ名前です。このリンクがまた、この小説の乾燥した読み味に一役買っているような気がします。

恋人の田久保紀子は大手外資企業で、人には話せない企業秘密を抱えながらシンガポールへ飛んだりしながら大きな仕事をしている。

友人であり同じ企業の名古屋支社に勤務するニムロッドこと荷室仁は、小説家志望で新人賞の最終選考で3度落ちたことで鬱病をわずらい、そこからいくらか回復した状態で物語に登場する。

この中本哲史を中心としたこの三人だけの物語です。遺伝子のコードやプログラムのソースのように、小説がそれを読む人の心になにかを記載する作用を期待して小説を書いているのではないか、という仮説があります。それは夢想なのだろうけれど、この空っぽの世界を支えているのはそういった行為かもしれない、と。この部分に、僕はかなり同意しましたね。

150ページほどの中編ですが、その文体による読み心地が僕には好ましかった。帯に、「心地よい倦怠と虚無」とありますが、その倦怠や虚無は、この世界をそれまでよりも少しだけわかってしまったからこそ宿る種類のものなのではないか、と思いました。

著者の、他の作品もそのうち、読んでみたいです。

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2023年08月19日

Posted by ブクログ

ニムロッド 上田岳弘

中本はサーバー運用会社に勤める。
ある日社長からビットコインの採掘する課の課長を任される。
そんな彼にはニムロッドという同じ会社の名古屋拠点で働く同僚がいる。彼は小説を書いている。そしてニムロッドは中本に駄目な飛行機コレクションのメールを日々送ってくる。執筆している小説も送ってくる。
中本には田久保という彼女がいる。彼女は離婚歴あり。子供をおろした経験もある。
3人を繋ぐのは中本が左目から流す涙の症状。


中本とニムロッド、中本と田久保。交互にやり取りが描かれている。その交互の移り変わりにある交差点が文章で表現されている

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2023年02月15日

Posted by ブクログ

終始、無機質でドライでモノクロ、虚無の漂う、そして残酷なリアルさがある物語だった。

読み進めるうちに、実態としての人間が薄らいでいき、何か巨大なものに取り込まれていく危うさを覚えた。

「人間とは何か」 「すべてを手に入れたとき、人間は幸せになれるのか。人間はなぜ人間として生きていられるのか」
クッと読み終えたけれど、後から、じわじわと迫ってくる。

私たちが生きている世界も、もしかしたらもう既に何か得体のしれない大きなものに飲み込まれつつあるのかもしれない。

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2022年11月09日

Posted by ブクログ

ネタバレ

昔読んでも心には残らなかった気がする。
「小難しい言葉を使っていて、よく分からない小説だな。」で終わっていた気がする。

この歳になったからかは分からないが、
読んだ直後は久しぶりに自分の考えを頭の中で整理してた。瞑想してた。自分と久しぶりに会話したというか。

主題が読み手によって変わる本な気がする。
比喩的で曖昧で物語もフワッと終わる。
そこが、考えさせられて、面白い。

私が感じた主題は、「日常の空虚さ」「特別でありたいともがく姿」「実は何もない自分自身」こんな感じ。
上の言葉はネガティブなイメージはなくて、ただ事実として作者が捉えてる事を描いてる感じ。
だから、読み手によって受け取り方が変わるんだと思う。


登場人物はサーバー保守をやっている「僕」、その先輩で友人の荷室=ニムロッド、「僕」の恋人の田久保紀子。
「僕」は社長命令で仮想通貨の採掘を業務指示される。
仮想通貨は普通の通過と違い、信頼性という概念はない。日本という国が保証してるから成り立つ円だが、それと違い仮想通貨はただ存在しているだけ。ただ求める人がいるから価値が発生する。

ニムロッドは「僕」の1つ上の歳で会社の先輩。仕事と並行して小説を描いている。並行してと書いてはいるが、本人にとっては小説執筆がメイン。
新人賞に3度応募し、3度とも最終選考まで残ったが全て選ばれず、恐らくそれが原因で鬱になる。そして、「僕」と同じ東京支社から名古屋支社へ異動する。
田久保紀子は39歳、有名な外資企業に勤務。数ヶ月に1回は出張で海外へ行くようなキャリアウーマン。離婚歴があり、元旦那とは子供ができたがおろす決断を1人で下す事になったせいで亀裂が入り、今でもその傷が心に残っている。

話は3人の登場人物の会話や日常に、ニムロッドの書いている小説の内容を挟む形で構成されている。

空虚さやから回るイメージは、仮想通貨・ニムロッド・田久保紀子・ニムロッドの小説に出てくるダメな飛行機コレクションで感じるんだと思う。

ダメな飛行機コレクションというのは、今までの歴史上、今ある飛行機が出来るまでに造られた飛行機のこと。原子炉を積んでいたり、縦に飛んだり、そもそも飛べなかったり。様々な飛行機が登場する。「失敗があるからこそ今があるんだから、ダメな飛行機コレクションは愛らしい。」と書いてあった気がする。
荷室が書いている小説の中の人類の王ニムロッドはダメな飛行機を集めている。

小説の中での人類は寿命がなくなっている。寿命を無くすか、死を選ぶか人間は2択を迫られ、寿命を無くした人間のみが小説では生きている。
小説のニムロッドも寿命はない状態。
ニムロッドは自分の作った仮想通貨のおかげで資産は有り余り、昔から作りたかった世界一高い雲の上に突き出るくらい塔を建て、その中にダメな飛行機をコレクションしてる。
寿命の無くなった人類は次第に自分の欲望を満たし尽くして、より効率的に生きるためにひとつになり、人間であることを辞める。仮想通貨を運営する"あのファンド"という何かと一体化するらしい。

ここがすごく怖い。欲望を満たした人間は死ぬか個を無くすかしかないらしい。

ニムロッドと田久保紀子は、己の無力さに虚さを覚え、それが満たされない人生を過ごしているという自覚を持って生活してる。何のために自分が小説を描いているのか、働いているのかよく分からなくなっている。代わりはたくさんいると。
「僕」は自分を唯一無二と信じ、自分の周りを大切に思いながら過ごしているように感じる。
(→どちらかと言うと鈍感に生きているからそこまで深く考えてないと言えるかも。)
「僕」については詳しく小説内で触れてないが、ニムロッドと田久保紀子をより深く描写する事で対比させ、そう感じさせてるのかもしれない。

小説の中の人類の王ニムロッドは、帰還設計が考えられていないダメな飛行機で太陽に向かって飛んでいく最後で終わる。人間を辞めることはしない。

すごく小さな距離かもしれないけど、太陽に向かって飛び続けること、人間で居続ける事を辞めることは出来ない。
それがニムロッド(反逆者)が決めた事らしい。

空虚さなんて誰もが味わったことがある気持ちだと思う。自分が何者かも分からない。情報がありふれる現代で自分の気持ちも分からない。
色んなものに振り回されて、ある意味檻の中に自ら入っている感じ。
そんなイメージを小説で伝えたかったんじゃないかと思う。

あとこの小説で印象的だったのが、最後の方。
「僕」と付き合っている田久保紀子がニムロッドの小説を読んで気に入り、タイミングがあった際に3人で通話した後の部分。

「僕」は田久保紀子と連絡がつかなくなる。
そして、ニムロッドも田久保紀子もそれぞれ東方洋上にさるという描写がされている。
東方洋上にさるというのは歴史上の人物が自殺する前に残した最後の言葉らしい。結局生きて戻り、長生きするらしいが。
この3人の関係性が変わったのか、2人は東方洋上にどう去ったのかすごく気になる。一緒に去ったのか、それぞれ個別に去ったのか。

人間、そんなに大したことは出来ないんじゃないかな。歴史上に残る事が偉大ではなくて、些細な事をいかに自分事として感じ、自分の人生を過ごすかって事が私は大事だと思う。
自分の気持ちって見えづらくて、色んなものに隠されやすいから、
敏感に生きていきたいなとこの小説を読んで改めて感じた。

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2022年05月31日

Posted by ブクログ

『まさか、自分が取り替え不可能だと思ってるの?』
という問いが印象的
個として存在する私たちは視点を変えれば大勢の中の一つでしかない。

この本に出てくる仮想通貨は人間の揶揄であり、
みんなが価値をつけるからこそ存在できる。裏を返せばそのもの自体には価値はない。
人間の存在としての空虚さをとてもうまく書いてるなと思った。

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2022年03月09日

Posted by ブクログ

切ないというか虚しいというかそんな感じだった。自分が取り替え可能な存在。信じたくはないけどそうなのだろうなと思う。
どんなに技術や才能があろうが、周りから評価されたり認められてはじめて価値が出るものなんだなぁ〜
世間の価値観ばかりに合わせて生きていくと息苦しくなるだろうな。

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2022年01月03日

Posted by ブクログ

感想が難しい。現実の中でSFを構想するフィクションだった。どこか虚しくて、虚しさに気付いていたとしても、そこに一瞬でも別の何かがあれば積み上げてしまう人間の話だったような気がする。
もしこれが完全なSFだったのなら、苦しみの密度や、痛みの切実さが広がっていくのかもしれないけれど、本書が残したのは、如何ともしがたい青空だった。

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2021年09月14日

Posted by ブクログ

読書開始日:2021年7月30日
読書終了日:2021年7月31日
所感
閉塞感、暗い雰囲気をまとった作品。
読みやすくはあったが、各々の心情が難しい。
ニムロッド、田久保は現代の完璧を追求し、尖りを叩く閉塞感にどうしても嫌気がさしていたのか。多分そうだ。
ニムロッドは誰かの心に文字を通してなにかを記載したかったが、叶わなかった。記載ができなかった。
だからこそ自分と似通った駄目な飛行機を愛す。だが周りがどんどん効率化、合一化することによって愛すべき駄目なものが無くなる。ついに駄目な飛行機も世から尽きる日が怖くなり太陽に向かった。
田久保も、あの日の判断で自分にレッテルを貼ってしまったことで、ニムロッドと同様の状況に陥っていた。仕事柄、合併を推奨し個をつぶしていく作業は、悲しくも完璧、効率化を追い求め、レッテルを貼ってしまった自分だけが取り残された感覚になる。それ故の東方洋上に去る。
2人は泣く資格が無いと思い込んでいるため、なんの感情もなく涙を流す中本サトシに自分の流せない涙を重ねていた。
どこか愛すべき中本サトシの個を、2人は愛していた。
このまま世界が進むと同時に個は少なくなり、効率化していき、閉塞感が増すのは目に見えるが、そこさえも超えると、なにも考えない生き物になる。
誰もが根元に、自分の考えを誰かの心に残したいと思っている。
世界の未来と、人間の根源的な欲望のジレンマの作品か。
難しい…

まどろむ
採掘完了2140年
夫は判断を完全に委ねるべきではなかった。
夜のこんな時間に、深く考えた会話なんて期待していない。
彼女の目元に涙の跡を探してみるが
人口を支えるだけの技術革新が、そのまま高くそびえる塔を支えるのだ。
一つの小説が世の中に存在するためだけに行われる、シンプルな行為。
ビットコインの採掘状況はまるで天気の話題みたいに、挨拶じみてきている。
どうせもうほとんどの人はこの世界がどうやって運営されていているのかなんて、知らないし興味ないんだから
肌理は細かい
言いたいことを言えばいいじゃん。恋人といるなんて、半分くらいはそのためなんだし
サトシ・ナカモトのジレンマ
僕たちは確かに会話しているが、僕たちの会話暗号化されたデータそのものだ。
一緒にいるときは意識もしない彼女の姿をなぜ僕は無機質な文字をみながら思い浮かべているのだろう。
その代わりみたいに僕の左目から涙が流れ続ける。
誰もが心の奥底に抱えている根源的衝動=誰かの心に文字を通してなにかを記載すること

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2021年07月31日

Posted by ブクログ

整って綺麗な小説だと思う。この世代の寄る辺ない感覚が、理性的に描かれているという印象を受けた。"ビットコイン"という小道具にはあまり興味は惹かれない。

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2021年04月24日

Posted by ブクログ

ひが彼我の差を感じて悦にいる? 荘厳な塔 ビットコイン採掘に充てるサーバー補充の要請をしたが 634関東平野を意味する「武蔵野」という言葉が担ぎ出されたのだ ブルジュ・ハリファの828 ダイバーシティ(多様性)は大事だからと優しく認めてもらえる 寡作のまま死んだ伝説の作家らしい 彼女の中2病的な心情吐露を僕は好ましく思っていた 最適な形状に収斂しつつある最新型スマートフォン発表のネットニュース 創設者としてのアイコンを担いきれていない 鳥の形を模したものだった 操縦桿を握る手を濡らした 蕩尽的に もた凭れる さと聡い よもやま四方山話 荷室仁 バベルの塔 駄目な飛行機コレクション 彼からのメールはあの鼎談ていだん以来途絶えたままだ 桜花が進む距離なんか 誰もが心の奥底に抱えている根源的な衝動に違いない 未熟なロックスターが二十七歳で自殺するように 山っ気 ゆうよう悠揚迫らざる冷静な筆致で進行し こつぜん忽然と締め括られる 快く途惑わせ続けている 何処か超越的な「他処」に位置している それを除けば謎めいた重層化も錯雑化もなく 超越的なトポス(場所)を起点として湧出した言葉の運動がまずあり 聳える窮極の「山」を目指して困苦の旅に出るといった試練は せんしょう僭称 こうとう高塔 上田岳弘の小説家としての欲望の核心の在り処を端的に物語っている こうむ蒙っている 喫緊の課題

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2021年04月15日

Posted by ブクログ

スマホを傍らに<ビットコイン+採掘>のキーワードをYahoo!で検索しながら読み進めた結果、仮想通貨の広告が頻繁に表示されるようになった。情報化社会による利便性の恩恵に預かりながらも、時折薄ら寒さを感じてしまう。結果以外は価値を失うシステマチックな合理化の先に行き着く『すべては取り替え可能であった』社会は今や決して絵空事ではない。0か100かの世界において、何者かであろうと躍起になればなるほど【個としての寿命】は擦り減っていくのだろうか。黙々と【在り続ける】彼だけが健在の世界はそれを物語っている気もする。

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2021年02月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

なんとなくすっきりしない感じ。
なんだろうなぁ。

とりあえず、主人公は触媒役なのかな。
ニムロッドと紀子さんが曖昧すぎて気にはなるが(そもそもニムロッドは同僚なら多少はどうなったかはわかりそうなもんだが)

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2021年02月07日

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