【感想・ネタバレ】赤く微笑む春のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

エールランド島4部作もいよいよ3作目。長い冬を終え、春に突入…とはいえ、あったかポカポカ気持ち良い弛緩といかないところが、ヨハン・テオリンの作品。

本作の主人公は2人、元ポルノ映画製作者、現在認知症を患う父と重篤なガン患者の娘を持つ、若干冴えない男ペール。
もう一人は、元エールランド島の住人で、強圧的な夫に振りまわされて心が疲れている婦人ヴェンデラ。

二人がエールランド島、シリーズ通しての主人公イェルロフ(83歳になり死に場所を求めて老人ホームを自発的に退所する)の近所に越してきたところから物語がギシギシと動き出す。氷河が溶けだして河口へ向かうように、ジワジワとでも確実に。

今回も全2作と同様、過去の描写と北欧らしい伝説が並走する。トロールやエルフが出てきたり、1950年代のスウェーデン情勢が記されていたり、そういった寄り道に見える事が、後半に収束していく様は見事…といっても、伏線回収だけじゃない、謎解きとは違う、物語のふくらみとか奥行という部分を構築しているのが、寄り道なのである。読んでる最中はつかめてなくても、最後まで読むとその奥行とか深みがジーンと伝わってくる。
これが楽しいシリーズなのである。

残すところあと1作。イェルロフじいさん…まさかとは思うが…次回作でも元気に謎解きしてほしいなぁ。ボトルシップ製作シーンも次作では再開してほしいぞ。

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2020年03月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

エーランド島4部作の3作目。

高齢者施設で過ごす元船長でシリーズ主人公のイェルロフが、友人の死をきっかけに自身の死期も遠くないことを正面から受け止め、施設を退所し、かつての自分のコテージで余生を過ごす決意をするところに始まる。
コテージの周辺は、いまや春、夏の暖かい季節だけ都会から人が訪れる別荘村の様相となっており、定住する者はほとんどいない。

数少ない定住者の一人がかつての仕事仲間ヨン・ハーグマン。
そこに加わる、新たな都会からの隣人達。
ペールは、イェルロフのかつての友人で石工のエルンストの甥にあたり、石切り場の縁に立つコテージを相続し、この春は別れた妻との間の双子の息子、娘達と余暇を楽しむつもりだったが、娘の方が重病にかかり手術を待つ状態と、思っていたようには行っていない。
ヴェンデラは夫で目立ちたがり屋の元精神科医マックスを影で支える(ゴーストライターしたり)マックスの元患者。
ヴェンデラもかつてこの地域に暮らしていたが、その日々は過酷なものだった。
唯一の拠り所はこの地方に伝わるエルフの伝承物語。
エルフに会いたいが一心でこの地に戻ってきた。

物語は主にこの隣人達の物語で展開される。
主となる事件は、ペールの父、ジェリーが巻き込まれた放火事件。
サイドストーリー的にヴェンデラの過去とエルフの物語。
なかなか込み入った展開で、どこに物語の中心があるのかがなかなか、判然としない。

シリーズの主人公であるイェルロフはというと、特に大立ち回りするわけでもなく終始アンカーのように登場する。
もう他の作品はほとんど憶えていないのだけれど、なんとなく毎回こんな感じの出演だったような気もして、これがエーランド島四部作の味なのかなとも思った。

話の筋としてはシリーズの中では一番とっちらかっていたように思う。
それはやはり、超自然的なエルフの伝承物語とそれに取り憑かれたヴァンデラ、ヴァンデラの周囲で起きた偶然とは思えない奇跡という足場の弱いエピソードに、何の実体(現実的な解)も与えられないまま物語が進んでいくため、何となくふわふわした感じが収まらないからであろう。

次第に輪郭がはっきりとしてくるジェリーの事件の進展の中、各々の人生が皮肉にも交錯するところは読みどころであったが、真相に辿り着くまでの壁があまりなく、意外とあっさりだったかなという印象。

本筋への感想とは異なるが、本作を象徴するスポットの一つでもあり、海外作品では時折出てくるワード、石切場。
あまり馴染みがないが、なんとなくのイメージで読み進めていたが、読後に何となくググってみたら意外とそこそこの近場にもちらほら。
しかも凄く興味深い風景が広がっている。
夏休みに行ってみようかなと思ったり。

4作目は既読なので、これで4部作完読なのだが、読む順番間違えてなんか消化不良。
ヨハン・テオリンはこのあとはアンソロジーに出てくるくらいで長編は出ていないので残念。

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2023年07月22日

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