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Posted by ブクログ
1人の作家を読み続ける傾向のある私はいつも最後の作品になると寂しくなる。。
この作品が川上小説の最後になってしまった。。
実はもう一作、幻冬舎から『いとしい』って作品が出ているんだけど、これが取り寄せ不可で今のところこれが最後の作品になってしまったの。。
この物語は4編からなる短編集で『うそはなし』の中でもちょっとまた異質な感じだった。。
表題作の『物語が、始まる』は絶対にない話でありながら、この広い世界のどこかで、こんな経験をしている人がいなくもなさそうだし、『トカゲ』は読み始めの最初の印象が最後にはがらっと変わるジェットコースター風だったし、『婆』の不思議は体験してみたい不思議だった。。
特に『婆』はこんなおばあちゃんに手招きされたら私も『私』のようにフラフラとそれまで知らない婆の家にあがりこんでしまいそうだ。。
川上作品の魅力は不思議の共有だと思う。。
不思議の中に見え隠れするなさそうでありそうな事や、気がついても口に出来ないバカバカしい事を自分以外にも考えたり感じたりしてるのだな、と云う人に言えない不思議感の共有ではないかと思う。。
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目次
・物語が、始まる
・トカゲ
・婆
・墓を探す
どれもこれもそこはかとなく哀しいような恐ろしいような、ちょっとエロティックでもしかするとユーモラスな作品ばかり。
だけど一番好きなのは、やっぱり表題作だなあ。
男の雛型を拾い、同居していくうちに…っていう話なんだけど。
男の雛型ってのがまずよくわからない。
”大きさ1メートルほど、顔や手や足や性器などの器官はすべて揃っている。声も出す。本が読め、簡単な文章が書け、サッカーのルールは知らないがボールを蹴ることはできる、というくらいの運動能力がある。子供の背丈だが、顔つきは子供ではない。かといって、大人でもない。どちらともつかぬ、雛型らしい顔つきとしか言いようのない、中途半端な顔つきである。”
いや、やっぱりわからない。
素材は何?
主人公は彼を拾い、食事を与え、絵本の読み聞かせなどして育てるのだ。
主人公には恋人がいて、そのうち結婚をなどと考えているが、彼女の作品の多くの恋人たちのように、彼らの恋愛は極めて温度が低めである。
でも、彼は雛型に対して拒否感を隠さない。
主人公と雛型の仲が親密になるにつれ、そして雛型の体形がすっかり大人のそれとなった時、ふたりの間に恋が芽生える。
恋?
雛型にそもそも感情があるの?
行きつ戻りつする主人公の気持。
恋人という切り札もあるけれど、どうも読み進むにつれ、これは哀しい物語なのではないかという予感が押し寄せる。
もし私が拾うなら、男でも女でもいいので、1メートルより大きくならない雛型がよい。
毎日絵本を読んで、お散歩に行って、公園で遊ぼう。
どこに落ちているのかな。
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面白かったです。
とても奇妙なお話なのですが、ぐいぐい引き込まれました。
「婆」と「墓を探す」が好きです。川上さんの描く、強引なお年寄りは良いなぁと思います。
生と死は近いものなのだということを感じました。
登場人物たちは流されているようで、でも芯があるようで。
ぼんやりとたゆたう川上ワールドよりも、ちょっとだけ力強い世界でした。
穂村弘さんの解説も面白かったです。
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短編4作を収録しています。
「物語が、始まる」は、主人公の女性が公園の砂場で男の「雛型」を拾い、育てる話です。やがて「三郎」と名付けられた雛型と彼女との間で少し奇妙なラヴ・ストーリーが展開されていきます。
「トカゲ」は、マナベさんという近所の主婦から、幸運の「座敷トカゲ」を授かったカメガイさんの話です。トカゲはヒラノウチさんの家に預けられ、急速に成長していきます。
「婆」は、主人公の女性が一人の老婆に手招きされ、彼女の家で奇妙な時間を過ごす話です。最後の「墓を探す」は、寺田なな子が、父親の霊に促された姉のはる子に付き添って、先祖の墓を探す話です。
著者の作品には、どこか現実感の欠如した不思議な味わいの物語が多いのですが、本書に収められている作品は、とくにそうした印象が強いように感じます。といっても、ファンタジー作品のロジックに従って世界観が構築されているわけではなく、むしろ現実を支える骨組みが脱臼されてしまうような感覚に陥ってしまいます。
Posted by ブクログ
川上弘美さんの小説のなかなら「蛇を踏む」以来の奇妙な作品群。
はっきり言うとすごく変。笑
けど癖になるし、妙に惹かれてしまう。
雛型と人間の恋「物語が、始まる」、幸運の座敷とかげと主婦たちの日々「とかげ」、迷い込んだ奇妙な猫屋敷「婆」、姉妹が父親の本家の墓を探しておかしな世界に迷い込む「墓を探す」。
さらっと説明しただけでも奇妙さが溢れてしまう短編集。
最初2つのお話は読み物としても面白く、「物語が、始まる」は切なさもあり、「とかげ」は妙にエロティック。
だけど後半2つのお話は、ぼんやり読んでいると物語に置いてきぼりを食らう感じが。何がどうなってこうなっているのか…考えてもどうしようもない類なのだけど、集中して読まないと置いていかれる。
「蛇を踏む」を読んだときもなんじゃこりゃ!と思ったけど、今回も似たような感想を持った。こういう発想って、一体どこから生まれるのだろう、という感嘆。
心地好い気持ち悪さ、というのが私のなかではしっくり来る表現。
同じ著者の作品を読んでいてもたまにこういう出逢いがあるから読書はおもしろい。
Posted by ブクログ
川上弘美さんを知ったのは芥川賞受賞作の「蛇を踏む」がきっかけやけど
あの独特の世界観が濃密。。不思議で混乱するのに好き。
著者近影を見たら癒し系の美人さんだし。どんな顔してこれ書いてるのか。ますます謎。
Posted by ブクログ
●物語が、始まる
雛型とゆき子とその恋人本庄さんの奇妙な恋物語
雛型はどんどん人間らしく男らしくなりゆき子とセックスがしたいのに出来ない
雛型はどんどん成長しやがて元の雛型に
最後は切ない
●とかげ
幸運を運ぶ座敷とかげ
どんどん大きくなり幸運が欲しいという欲望からどんどん大きくさせる
奇妙で気持ち悪いがこれも面白い。川上弘美さんならではの作風
●婆
自ら婆と呼ばれることを望む高橋さん
高橋さんと呼べば怒る
すみませんではなくごめんなさいじゃないと怒る婆
婆とまり子、その恋人との不思議な関係
●墓を探す
姉のはる子、妹のなな子に宛てた手紙
―このたび墓を探すことにいたしました
何とも言えない感じふわふわとした現実的なのか非現実的なのか
物語が、始まるととかげが好きです
Posted by ブクログ
筆者らしい、少し奇妙な感じがする短編集。
具体的に内容についての言及は避けますが、万人受けはしないかもしれないけど筆者ならではの世界観を楽しみたい方にはとてもおすすめ。
Posted by ブクログ
ぼんやりするなかにドキッとする刃がひらりと出てきては何事もなかったようにおさまって・・・気がつくと話が終わっているという何ともいえない読後感です。不思議だな〜
Posted by ブクログ
短編が4つ入っています。
最初は「物語が、始まる」で、男の雛形(人形ではないらしい)を手に入れて女性と、その人間のようになっていく雛形の、奇妙な恋愛物語。
2つめは「トカゲ」で、幸福のトカゲを飼う事になったマンションの奥さんたちの話から、最後は一種狂気じみたオカルトのような世界になります。
3つめは「婆」。何となく立ち寄ることになってしまった、婆の家。不思議な穴が奇妙な世界観を醸し出しています。
最後は、「墓を探す」。あまり親密でない姉妹が、先祖の墓を探すことになります。ご先祖様がとりついているような姉と、不思議な世界を経験しながら墓を探す。物語は、墓にたどり着く前で終わっていますが、墓にたどり着いたときにはどうなるのだろう、と考えると、一種ブラックな感じもします。
いずれも、何気ない日常に始まって、不思議な世界へと読者を導きます。
川上弘美さん独特の感性、表現(特に擬態音的なもの)も健在です。
Posted by ブクログ
素晴らしい物語を読むと「ごめんなさい」と思ってしまう。
「素晴らしい物語を提供してくれてありがとう」ではなく、
「こんな私がこの物語を読んでごめんなさい」と。
性格が捩れているのは今に始まったことじゃないけど、
素晴らしいものをきちんと賞賛できない性格は少し難儀です。
そんなふうに、久しぶりに「ごめんなさい」と思った作品でした。
Posted by ブクログ
相変わらずの”うそばなし”です。
川上さんの作品を読むたびに「これは何だ?」とか「何故読むのか?」という疑問が浮かび上がってしまうのです。身に付いて役に立つわけでも無し(まあ、大抵の小説はそうですけど)、生きる勇気を与えてくれる訳でもなく。
で、考えた末に出した結論が「旅みたいなもんだ」と。
日常から離れて、川上さんの作る不思議な世界を旅する。遊ぶ。それが楽しければ良いじゃないかと。多くの旅なんてそんなものだし、何故旅するかなんて考えることなく、普通に行ってるし。
ただ、この世界は、論理も通じない不可思議な世界なのに、なぜか異様な実存感がある。それが川上さんの凄い所だと思います。
Posted by ブクログ
現実と非現実の境界線があまりにも曖昧で、どっちが本当の世界かわからなくなる。読み手を異世界へ誘うのが非常に巧い作家。ひとつひとつの言葉や単語にとてもそそられる。表題作に出てくる雛形こそ、天性の小悪魔だと思う。雄だけど。そうして彼に出会った人たちの物語は、延々と始まりをむかえるのだ。
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表題作は今ひとつながらも、「墓に入る」がとても秀逸です。ああ、文学! と思いました。思想があるなぁと。
女の人には珍しい感じの文学だと思います。前述の三人の文学はとてもやわらかくて身近な物語だけれど、川上弘美が「墓に入る」で書いていたのは世界の構造みたいなもので、それがとても意外でした。女の人でそういう文学を書く人はとても少ない気がします。
Posted by ブクログ
幻想譚を集めた短編集。というか、この人の書く話はそのほとんどが幻想譚。その中でも、「物語が、始まる」(表題作)には胸が締め付けられた。主人公の女性がある日から、男の雛型を拾って育て始める。やがて成長して立派な男になる雛型。女性は雛型を愛するようになるが。が。ここからが痛い。つらい。悲しい。今はちょっと読めない。状況が自分に重なるんだなぁ。(2006,1,21現在のわたし)
Posted by ブクログ
雛型との恋物語、幸運のトカゲ、婆の家の台所にある大きな穴、姉と共に先祖の墓を探しに行く過程。短編集。
無駄なこと、つまらないことだと自分をなだめながらも次第にその行為に没頭していってしまうことが恐く感じた。
でもその後で、他人から見れば理解不能な行為でも、本人が満足していれば、楽しんでいれば、それでいいのかなと思えてきた。
ただ、望んでいないのに他人に引きずられて没頭し、しかもその行為に満足できない不快感を患うことはなんて気味が悪い、徹底的に無駄な行為なのだろうと思う。
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川上弘美の小説を読んだ後は、いつも現実とそうでないものとの境界が曖昧になったような心地がする。
それも、最初の話ではそうならず、読み進めて行くほどに何が何だか分からなくなる。
ストーリーは理解できるのに、何か確かだったものが不確かになって行く。
そんな感覚を味わいたくて、彼女の小説を読んでいる気もする。
Posted by ブクログ
雛形を拾うことで、物語が、始まる。
生きながらえることとはまた違う、物語の始まり。
ーーーーー
ときどき、私と本城さんの会話は、こうなってしまう。たぶん、何か大切な一語一文を、私たちは抜かしてしまっているのだ。
ところどころに大きな平たい穴が開いたようなものーー
歩いていると、私だけが穴に沈み、話しかける本城さんの膝くらいの位置に頭があるようになる、しばらく私は本城さんの膝に向かってあれこれ話しかける、膝は笑ったりのほほんとしたりして、存外普通に会話をかわしてくれる。
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難解、というのともまた少し違う。
とてもわかりやすい言葉で綴られているのではあるが、ぶっ飛んでいる。
こういうのも才能の一つだろうな、と思った。
個人的には最後の「墓を探す」が好き。
姉に親戚や父親がどんどん憑依することを、するりと受容している妹が、小気味よく面白い。
Posted by ブクログ
初期。
初期よりも、最近の方がすきだなぁ。
古臭くて、かっちりした、濃い緑の、晴れ間の現れない、日常。
そんなかんじ。
気になるけれど、引き込まれるけれど、最近の柔らかいことばたちがあまりにすきなもので。
Posted by ブクログ
川上弘美さんの短編。
物語が、始まる/トカゲ/婆/墓を探す
不思議な展開もの。
表題作が切ない。現実と非現実の狭間の話し。
でも、私は不思議なストーリーものより、リアルに切ない川上作品の方が好きかも。
Posted by ブクログ
いつも、このちょっと怖い夢みたいな感覚を味わいたくて、この著者の小説を読む。期待は、裏切られない。ちょっと怖いのだけど、それがいやらしくなく自然に書けている川上さんはすごいとおもう。本当に向こうの世界の住人なのかもしれない。
Posted by ブクログ
短編4話。
男の雛形を拾った女性の話である「物語が、始まる」は母子愛から始まり恋愛につながる源氏物語のような話。そこに川上さん独特の性描写がなされている。それでいてプラトニック。
「とかげ」は団地のような舞台に3世帯の主婦が織り成す物語。語り手がそれぞれの子どもを「〜家次男」などというのが面白い。最後は一種宗教的な場面で終わる。体内に入れて排出するというのはイオマンテなどを連想させた。
「婆」はある婆の家にある謎の穴の物語。異空間の表現はまさに非現実的。だけどその前後にある食事などの飲み食いの場面、猫などの動物が妙に現実染みている。そのせいか、異空間の場面もあまり異様ではない。
「墓を探す」は中年の姉妹が先祖の墓を探す物語。姉が霊媒体質になり、複数の先祖に憑かれる。その姉を山の中で獣にも見えるという表現が同作者の『神様』の熊を思い出した。アイヌ信仰を感じた。
Posted by ブクログ
いつもの暮らしのそこここに、ひっそり開いた異世界への扉―公園の砂場で拾った「雛型」
との不思議なラブ・ストーリーを描く表題作ほか、奇妙で、ユーモラスで、どこか哀しい、
四つの幻想譚。
Posted by ブクログ
「物語が、始まる」は最後、とても切ない。
川上弘美のいろんな作品を読んでて思うのは、登場する男性にすごくひきつけられる、ということ。この三郎もしかり。
魅力的な男性に思えてしまう。
「トカゲ」はエロくって「墓を探す」は少し怖い。ぜんぜん作品の雰囲気が違う。
川上弘美は本当にいろんな作風で文章が書けるんだなぁ、と実感した1冊。