【感想・ネタバレ】社会的ジレンマ 「環境破壊」から「いじめ」までのレビュー

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Posted by ブクログ

利己的行動が集団全体に不利益をもたらす問題について、人間関係から国家レベルまで考察されている。

進化によって獲得した行動ゆえ、誰しも少なくとも無意識には理解していることだろうが、実験結果などによって構築された理論からは大いに学ぶところがあった。自分のやっていることが絶対的に正しいと考える人には関わりたくないと思う理由が、よく理解できた。最終章の「質量限界グラフ」が見事だが、モデルにすぎないのか、実験データなどの裏付けがあるのかがわからない。累積グラフでS字カーブを描くためには、分布が山なりになることが必要なのだが。

この本になぜ今まで気づかなかったのかと思うほど。

・協力的な人と非協力的な人の間では、他人がどのような行動をとるかの予想や期待が異なる。協力的な人々は、人は様々と考える傾向があり、相手によって自分の行動を変えることになり、応報戦略を採用する。非協力的な人々は、他人も非協力な行動を取りやすい利己主義者だと考える傾向がある。
・他人がとる協力行動の理由の解釈も異なる。協力的な人々は、良い人間か悪い人間かという点から判断する傾向がある。非協力的な人々は、相手が協力的な行動をとったのは自分の利益を最後まで追求する力にかけていると考える傾向があり、非協力的な行動を強める。
・ホッブスは、社会的ジレンマを解決するためには、人々の行動を強制させるための公権力に委ねることにより、安心の保証を得ることを提唱した(社会契約論)
・社会的ジレンマをアメとムチで解決する方法の問題点は、人々の行動を監視し統制するためのコストがかかること、そのコストを誰が負担するかという二次的ジレンマが生じること。
・また、アメ(報酬)を与えることによって、自発的協力の意欲が下がるという問題もある。政府などの組織の存在によって自発的協力の動機を減少させ、親族や地域などの共同体を破壊することが指摘されている。
・怒りや愛情などの感情は、コミットメント問題(しなければならないことを実行すること)や社会的ジレンマを解決するために必要な、行動の選択の自由を束縛するためのメカニズムとして働いている(R.H.フランク「オデッセウスの鎖」参照)
・互恵性原理(社会的交換ヒューリスティック)とは、お互いに協力行動または非協力行動を取り合うこと。
・協力的な行動を取らせるためには、そうすることが本人の利益になることを理解してもらうことが有効。
・人々の協力行動を高める働きをする要因(p.190)
・「質量限界グラフ」によると、協力者の割合は、最初にどれだけの人々が協力しているかによって全く異なってしまう。半分くらいのクラスではいじめの傍観者の数がほぼ全員であるのに対し、別の半数くらいのクラスではほとんどいない(「いじめを許す心理」正高信男)

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2018年10月31日

Posted by ブクログ

(1)一度きりのジレンマ状況においても応報戦略を用いる「賢い」利己主義者が、同じ様な「賢い」利己主義者の集団で最も利益を得る、と言う実験結果は大変興味深い.問題は母体集団において、短期的視野でしか動かない「愚かな」利己主義者の比率をいかに減らして、長期的視野でお互いに協力できる「賢い」利己主義者を増やせるかにかかっている.
ある程度のアメとムチ(規制)は必要なようだ。しかしアメとムチが行き過ぎると全体主義に陥るというリスクがある.
また、「みんながするなら(じぶんもそうする)原理」=「自分だけがバカを見るのでは無い」で協力行動を撮る人間が多数であれば、それにつられて「アメとムチ」が無かったとしても協力行動を取る人間は増えていく.

(2)「限界質量モデル」から考えると、同じような社会的ジレンマに直面した2つの集団において人々の協力率が大きく異なっているからといって、その2つの集団ないし社会に属する人々が異なった種類の人々であるということには必ずしもならないのである.(=分布の初期値が限界質量を上回っているか下回っているかで最終的な結果が大きく変わってしまう)
限界質量モデルは社会的ジレンマ解決の際に大きなポイントとなる.限界質量を超えた状態では、高い協力率を生み出し維持するのに人々が「みんながするなら自分もそうする」原理に従って行動するだけで十分だからである.言い換えると、いくら多数の「みんながするなら自分もそうする」主義者がいても、協力率の"初期値"が限界質量を下回っていれば、高い協力率は達成されない.
社会的ジレンマ解決にとって一番重要なのは、筋金入りの利己主義者による日協力行動を、限界質量を超えないように押さえつけられるかどうかだ、ということになる.

比較的穏やかなアメとムチの使用が手遅れになって、協力率が一度限界質量を下回ってしまうと穏やかなアメとムチを使うだけでは社会的ジレンマの解決が不可能となります.そうすると強いアメとムチを使ってすべての人々の協力傾向を変化させる必要が出てくる.

(3)合理的な利己主義者はコミットメント問題を解決できない.そのコミットメント問題に直面すると、合理的な利己主義者は、非合理的な人間、つまり感情に駆り立てられて行動する人間よりも損をしてしまう.コミットメント問題を解決するためには、将来の自分の「選択の自由」を自分で放棄する必要がある.
「かしこい非合理性」の源として「直感的理解」と「感情」がある.感情的な行動が時に合理的な行動を凌駕する(後先考えない行動が、他者に認識されると、覚悟を決めた人間として認識されその行動が今後も認められるというメリットがあるので)

(1)の話は(2)とかなり重なっている.
本書はジレンマについての視点をいくつも提供してくれており、実生活でジレンマに遭遇した時も基礎となる考え方として有用であろう.

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2012年12月13日

Posted by ブクログ

とりあえず最後まで読んだ、という現状。広いところに目を向けてそこから考えなくてはいけないのに、どうしても考え方を人の心を出発点として考えちゃう癖が抜けなくて、読みすすめるのに苦労しました。パチンと思考のスイッチが切り替わっちゃえばすっと頭に入ってくるはずなのに!というわけで、同筆者の別の本を読んでまた戻ってきて再読したいです。

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2012年04月10日

Posted by ブクログ

「わかっちゃいるけどやめられない」
社会的ジレンマについて基本的な考察を丁寧に教えてくれます。
「環境問題のことを考えれば、通勤には自家用車でなくて公共交通機関を使った方が良い」・・・・わかっちゃいるけど
「寒い日はバス停で待つのもつらいので、ドアtoドアの自家用車を使ってしまう」・・・・やめられな
こんな社会的ジレンマをちょっぴり科学的に考えてみるのに良い本だと思います。

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2012年02月19日

Posted by ブクログ

ネタバレ

様々な本を読んで思った事があります。それは、これからの学問は社会心理学と哲学(哲学史を含む)の時代だ、という事です。著者の本を読む度に、この『社会的ジレンマ』の課題解決に苦心する環境を打破できる処方箋があればな~と思います。フリーライダーの問題が解決できれば更に進歩した社会になる、しかしその根本的な解決法や処方箋は著者も持っていません。
テレビCMで、『江戸時代の日本人の生活にはリサイクルが根付いていました。未来を頼んだよ!』というフレーズのものがあります。それはつまり、換言すれば『江戸時代の日本人は物を大切にしていた。それが日本人の民族性だ。しかし現代人は物を大切にしないで、ちょっと使えなくなったら捨てて新しい物を買うようになった。実に嘆かわしい事だ』と暗に言っているように聞こえますが、それは決して問題の本質を突いたものではなく、『当時(江戸時代)は資源が限られていたためにリサイクルせざるを得なかった。そして現代は資源の枯渇に困る事が無いからリサイクルをしない。もとも日本人は物を大切に使うという民族性ではない』が本質です。畢境、各人なり国民なりが置かれた社会環境によって制約を受けているので、行動心理学的な、結果(行動)のみを見て心理的にアプローチするには限界があります。その点で言えば、社会心理学は行動心理学より包括した学問と言えます。

社会的ジレンマの一つ、いじめ問題の解決アプローチを書いていますが、巷にあるようなお説教的方法ではなく、『いじめを傍観者する人数によって解決できる』との論は一読の価値有りですし、社会(環境)づくりの肝要性を感じます。
ただ、先述したように、これといった社会的ジレンマの処方箋や特効薬を著者も持っていない、というのが残念です。一生懸命やった人間が馬鹿を見る、ダイエットに成功する、環境破壊問題、あらゆるところで社会的ジレンマは世界を覆っています。

最後に…本書で時々、性に関しての記述があったのは面白かったです。著者は執筆の際に性的欲求不満があったのでしょうか(笑)
知的好奇心をくすぐられる一冊、僕の評価はA-です。

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2011年09月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

[ 内容 ]
違法駐車、いじめ、環境破壊等々、「自分一人ぐらいは」という心理が集団全体にとっての不利益を引き起こす社会的ジレンマ問題。
数々の実験から、人間は常に「利己的」で「かしこい」行動をとるわけではなく、多くの場合、「みんながするなら」という原理で動くことが分かってきた。
この「みんなが」原理こそ、人間が社会環境に適応するために進化させた「本当のかしこさ」ではないかと著者は考える。
これからの社会や教育を考える上で重要なヒントを与えてくれるユニークな論考。

[ 目次 ]
第1章 イソップのねずみと環境破壊
第2章 社会的ジレンマの発生メカニズム
第3章 不信のジレンマと安心の保証
第4章 ジレンマを生きる
第5章 「かしこさ」の呪縛を超えて
第6章 社会的ジレンマの「解決」を求めて

[ POP ]


[ おすすめ度 ]

☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

[ 関連図書 ]


[ 参考となる書評 ]

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2011年04月20日

Posted by ブクログ

社会心理学の観点から、囚人のジレンマを様々な社会問題に適用し説明している本。
北海道大学の山岸先生は、この社会的ジレンマの研究で著名である。
心理学を現実世界へ応用しようとする試みは、あらゆる心理学者が見習わなければならないだろう。
欲を言えば、現象の予測や対策法をもう少し具体的に論じていれば、さらに良かったと感じる。

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2009年10月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

この本によると、「社会的ジレンマ」の定義とは「こうすればよいと分かっている行動を取ると、その行動を取った本人にとっては、その行動を取らなかった時よりも好ましくない結果が生まれてしまう状態。ただし、全員がこうすればよいと分かっている行動を取れば、最終的には全員にとって最もよい結果を引き出すことができる」ということ。
端的な例として、みんなが公共交通を使えば環境問題や交通渋滞は解消するが、自分ひとりだけ車通勤から電車通勤に切り替えてもたいして状況は改善しない。そのため、相変わらず車通勤を続けてしまう、というものが挙げられている。

この社会的ジレンマと、誰でも一度は聞いたことがあるはずの「囚人のジレンマ」を主軸に据え、人間が社会環境に適用し、社会を発展させてきた原理を丁寧に検討している。結構しっかりした本なので、頑張って読まないと主張の軸を理解できなくなるけど、説そのものは面白い。欲を言えば、本の大半が社会的ジレンマの分析に割いているので、もう少し実例を交えて、自分の身近なところにも適用できる話なんだ、という実感が持てるようにしてほしかった。

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2012年06月02日

Posted by ブクログ

皆が協力行動をとれば、皆の利益が最大となるが、非協力者がいる限り個々の利益は非協力行動の方が大きくなる。こうした集団の「囚人のジレンマ」を「社会的ジレンマ」とし、協力行動をとるための方策等を検討するが、解決策は見えない。かしこさ(経済学で想定される合理性)よりもむしろ、生来人間に備わった感情にこそ社会的ジレンマを解決に導く可能性があるとするが、書かれた例え話は現実味を欠いているような気がする。でも、「社会的ジレンマ」は至るところにあるので、何とかしないと破たんが待っている。

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2011年11月03日

Posted by ブクログ

社会的ジレンマについて分かりやすく解説。全体と個人との間で、望ましい行動に齟齬が生じている状態を社会的ジレンマといいう。分かりやすい例では、環境問題など。筆者が解決のために出している提案なんかは、面白いとは思うがなにかしっくりこなかった。

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2010年06月18日

Posted by ブクログ

みんなにあわせるってのが実は一番いい方法って話・・・多分。
日常的な現象から世界的な現象まで、様々なところに社会的ジレンマは関係しておりまする。

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2009年10月04日

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