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Posted by ブクログ
まさか藤枝氏の作品が新刊で書店に並ぶとは思っていなかった。
発売したというだけで、ただただ嬉しい。
内容は主に回顧録となっていて少年期から本多、平野両氏との出会い、そして小説家として(なんとか)確立するまでが描かれている。
この回顧録は掲載された文芸誌や時期が様々なので重複している箇所も所々ある。
しかし藤枝氏の経歴をこの様に俯瞰して見たことがなかったので大変面白かった。
後半になると趣味の骨董や韓国旅行記が描かれている。
このあたりから過去の思い出話ではなく現在の藤枝氏が現在感じるものをありのままに書く私小説になっていく。
特に骨董話は読んでいて退屈した。
品物の描写が仔細にわたるものの、本文中は(写真略す)と書かれていてなんだか老人の戯言を聞かされているような気がした。
これが一番始めに掲載された時からこの様に略されていたのか、出版社の判断でそうなったのかはわからない。
せめて想像と答えあわせでもするように、巻末に写真が載っていたらよかった。
最後の一編は妻の死を描いた「妻の遺骨」
これは本書、藤枝静男随筆集としても、氏自身を総括するという点においても最後に持ってくるに相応しい。
藤枝氏の情けなさが沁み出てくるような一編になっている。
悲しいだけに留まらず憤りさえおぼえてしまうあたりは、氏にはまだ生があるということで喜劇とも悲劇ともとれる。