【感想・ネタバレ】鴎外の恋 舞姫エリスの真実のレビュー

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Posted by ブクログ

研究は足でするものだ!と強く感じさせてくれる。
そして、いくつもの偶然の重なり合いに、読んでいてドキドキさせられた。研究って、ある意味、サスペンスなんだな。そりゃそうか、消えた人の足跡を追いかけるんだから、探偵と変わらない。
エリスの写真なるものがあるのだけれど、あれも六草さんの発見らしい。すごすぎる、六草さん。

筆者の六草さんは鷗外の研究者ではない。だからこそ先入観なく一次資料を追いかけられたのではないかと思った。鷗外の周辺人物とはいえ、彼らの視線にはさまざまなバイアスがかかる。なまじそれらに詳しくなれば、いらない予断もきっと入ってしまうんじゃないだろうか。

『舞姫』にも鷗外にも良い印象が無かったのだけれど、この本を読んで、ちょっと好きになれそうな気がしてきた。

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2021年06月12日

Posted by ブクログ

単行本で既読なのだけど、文庫化にあたり大幅に書き直されていると知り、これは読まなければと手に取った。やはりおもしろい!前に読んだ時は、これで「エリス」は誰なのかという近代文学史最大の魅力的な謎(と私は思う)にとうとう答えが出たという感慨が圧倒的だったが、今回はまた違った感動があった。

何と言っても、著者の粘り強く徹底的に調べていく姿勢に頭が下がる。ここまで一次資料にきちんとあたっていくことは、研究者でも容易ではないだろう。先行する研究に敬意を払いつつ、少しの疑問もゆるがせにせず、根拠となる資料を探していく。その熱意があったからこそ、偶然としかいえないいくつもの巡り会いが、エリス=エリーゼ・ヴィーゲルトが確かに存在したという証に著者を導いていったのだ。

著者は、ここまでの調査へと自分を突き動かしたものは、エリスへの「百二十年越しの女の友情」だと述べている。無知で下賤な女であるとか、果ては娼婦であったとか、さしたる根拠もなく言われてきたエリスの真の姿を突き止めること、言わば汚名を晴らすことが目的になっていったと。その熱さが全篇を貫いている。

そして、今回一番心に残ったのは、鴎外の苦悩であった。「舞姫」はあくまで文学作品であり、かなり事実に沿っていると思われるところもあるにしろ、豊太郎は鴎外その人ではない。それでも、鴎外自身の苦しみが投影されているとしか思えない心に迫る場面がある。それを最も強く感じるのは、 豊太郎が天方伯に帰国を承諾し、エリスになんと言ったものか懊悩しながら、雪の真夜中二人の住まいまで帰り着き屋根裏部屋の灯りを見上げるくだりだ。「エリスはまだ寝ねずとおぼしく、炯然たる一星の火、暗き空にすかせば、明らかに見ゆるが、降りしきる鷺のごとき雪片に、たちまちおほわれ、たちまちまた顕れて、風にもてあそばるるに似たり。」降りつのる雪の間にちらちらと見える灯り、そこではエリスがこの真夜中まで自分の帰りを待っている。そのエリスに自分はこれから何という残酷なことを告げねばならないのか。「我は許すべからぬ罪人なり。」豊太郎の身勝手さを嫌う人も多いけれど、この苦悩には真実があると読むたびに思う。

ずっとそういう思いで「舞姫」を読んできた私は、本書終盤に書かれた著者の推測に胸を打たれた。エリーゼが鴎外を追って来日し、親族に説得されて(おそらく手切れ金を渡されて)ドイツに帰っていったことはよく知られている。著者は残された資料から、このエリーゼの来日は鴎外が招いたものであり、鴎外は日本でエリーゼと暮らすつもりであったと考えている。家族や友人知人の猛反対にあい、やむなくエリーゼを帰らせるものの、その後自分も後を追い日本を捨ててドイツに行く約束をエリーゼとしたのであろうと推測する。だから彼女は帰国する際に、まったく涙も見せず手を振って去って行ったのだと。

実際には鴎外はそうしなかった(できなかった)わけだが、この推測は、この前後の様々な資料が伝える鴎外の姿や、周囲の動きともぴったり符合している。エリーゼの帰国後、妻を迎えたもののみるみる体調を崩し、弱っていったという鴎外。その妻との離縁後(鴎外に縁組みを強く勧めた母が決めたという)、二人目の妻を迎えたのは十二年後だった。

もちろん、最も傷ついたのがエリーゼであるのは間違いない。船で五十日かかったという遙か東洋の島国へ、単身やって来た若い女性の姿をしみじみと思う。その上で、一家一族の期待を一身に受けて、その重みから逃れることのできなかった鴎外の苦悩もまた、決して軽く扱えるものではないと思うのだ。

単行本刊行から十年たっての文庫化。この機会に広く長く読まれることを期待したい。

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2021年02月22日

Posted by ブクログ

しばらく文学関係遠ざかっていたら、エリスの同定についてこれほどの調査が行われ、非常に説得力のある結論が出されていたことを、遅ればせながら知ることができた。読み応え十分。

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2020年05月19日

Posted by ブクログ

「舞姫」授業準備のために読む。
エリスの正体に迫るもので、ベルリン在住の筆者が地の利を活かしてドイツの公文書や教会簿などをしらみつぶしに探す過程に圧倒される。
それも、本業ではなく好奇心から始めたものだから、「もうやめよう、これで終わりにしよう」と思いながら、諦めきれなかったり、偶然の出会いなどがあったりしてふんばる様子が生々しく、ハラハラする。まるでミステリーを読んでいるよう。

鷗外が「舞姫」で「なに」を書いたか、だけでなく、「なぜ」書いたのかを知って欲しい、という筆者の言葉に、限られた時間の授業では「なに」が書かれているかを考えることに注力したけれど、次に授業をする機会があったら、外部資料に基づいて鷗外が「なぜ」この作品を書いたのか、に迫っても面白そうだと感じた。
あまり得意ではなかった鷗外に少し関心を持つことができた一冊。

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2023年07月01日

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