【感想・ネタバレ】第3版 実証的教育研究の技法のレビュー

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Posted by ブクログ

著者によると、院生の最もつまずくのは「研究の取っかかり(漠然とした研究テーマを具体的な計画を伴った研究にするまでの部分)」、「データの定義(教師が普通に使っている言葉を測定可能にするため、それらを厳密に定義する段階)」、「具体的な論文の記述(論文特有の言い回し、書き方等)」の3つだそうです。1999年初版の第3版(2023年)とのことで、内容にカセットテープや手書き論文などが出てきて、隔世の感もありましたが、研究や論文としての核となるところには、今も昔も変わらないものがあると思います。現代に置き換えて、参考にしていきたいと思いました。
【第一部 計画】
第1章 研究のテーマ
・テーマの発見:実証的研究とは、自分が語りたいことを、一定の手法に従って語ること。実証的研究の手法とは、自分が直感的に感じるものを、他の人に感じさせるための手法。教えている教師自身が何気なく見過ごしている「へー」こそが、本当に優れた研究テーマとなる。
・先行研究を見ることの必要性:大学の研究論文には、参考文献、引用文献、文献の一覧等がある。その論文を書いた著者と無関係な人の先行研究が紹介されている。
・先行研究の見つけ方:対象、内容、方法に着目したキーワードをネットに打ち込んで検索する。ピッタリした先行研究が存在するなら、その研究を熟読する。もし、その結果によって問題が解決するなら、新たに研究を行う必要はない。その論文を読めば済む。キーワードを少なくとも1つ含むものは、広義の意味ですべて先行研究であるが、全キーワードを含む研究がないなら、その研究にオリジナリティがあることを意味する。全文献を調べることは不可能であるが、良識の範囲内で調査する。研究とは、問題を一気に解決するのではなく、従前のものよりも一歩前に進む営みである。(大学に赴いたり、返信用切手を入れて手紙を出したりすることもあるらしいが、今ではどうだろう?)研究を進める上で心がけたいのは、①全く別な分野の本(研究書ではなく、啓蒙書)を読むこと、②どれだけ先行研究の検索に労力を費やせるか、ということ。
・先行研究の穴とその穴ができた原因:教育研究においては、否定は素人でもできるが、実行可能な代案を出しうるもののみが専門家である。
第2章 調査内容・方法
・方法の選択:「好き/嫌い」「知っているか/知らないか」を直接問う。比較判断の時間によって、比較する対象の差を計画する(象徴的距離効果)。瞳孔面積によって興味・関心を測定したり、脳波や皮膚抵抗などもできる。測りたいものを測る方法を選ばなければならない。
・質問紙法:まず、先行研究においてどのような調査項目を定めていたかを洗い出し、整理する。できるだけ複数選択ではなく単数選択にし、選択肢の数は最大9個までにする。そして予備調査をし、出題者の言葉と被験者の理解のズレ、調査時間の設定、調査実施者への注意などを確認する。
・行動分析:ビデオ記録をデータ化するためには、記録時間の数倍かかる。3カ月以上、一日中ビデオにかじりつくことになる。(今はtomolinksなどもある。AIに力を借りられるのでは?)
・誤った調査項目を作らないように確認する。
第3章 調査対象
・教育における調査は、科学実験や動物実験とは異なり、完全な条件統制は不可能である。しかし、できるだけ正確な調査を行うよう努力するべきである。教育研究において否定することは素人にもできるが、代案を出せるのは専門家(玄人)だけである。
・精密に調査を行うためには、むやみに調査対象を増やすことには問題がある。5%程度の差を吟味する程度が実際的であり、被験者は200~300人程度が目安である。
第4章 計画の注意
実証的研究とは、自分が語りたいことを、一定の手法に従って語ることである。教育的研究のおもしろさは、その仮説が教師・生徒としての二事情経験から作られる部分が大きいことであるが、逆に言うと、自分自身が何を語りたいかが無ければどうしようもない。また、実証的研究においては、計画の段階で、その分析を予期し、その結果も予期していなければならないため、調査が終了した段階で全研究の70~90%は終えられていると言える。
【第2部 分析】
第1章統計分析における注意
1.本当によい研究に統計分析は必要がない。高度な統計分析を行わなくてもできる教育上重要な研究は数多く残されている。
2.自分自身の直感を超える分析は避ける。
3.統計分析は見たいものを見せることができるにすぎない。
第2章尺度
同じ数字であっても、その数字が持つ情報の質は多様であり、この質のことを尺度という。名義尺度、順序尺度、間隔尺度、比例尺度の4種類。
第3章カテゴリー化
図表をどのようにまとめるかは、筆者の主張、資料性、またそのようなまとめ方に妥当性があるか等によって総合的に決められる必要がある。読者に筆者の主張が伝わりやすくすることが重要。
第4章危険率・有意水準
危険率を算定する方法には両側検定と片側検定の2種類があり、両側検定がお薦め。
第5章検定
二つの集団に違いがあるか、ないかを統計的に言うための方法。X2検定、カイ二乗検定などがある。
第6章相関
間隔尺度・比較尺度の場合はピアソンの相関係数、名義尺度の場合はφ係数が用いられる。
第7章対応のあるデータ、ないデータ
対応のあるデータ分析をする場合は、対となるデータが必ず必要で、より検値力が高い。
第8章文献の紹介
大村平(2005、2006)、石村貞夫(1993、1994、2010)、田中敏(1992、2006)、岩原信九郎(1955)等
第9章質的研究に関して
数値データをまったく扱わない分野であり、結果として説得力に乏しいのが現状。まずは量的研究から教育研究に入ることがお薦め。
第10章それでも質的研究をやりたい人のために
単なる経験談と研究の違いは、元になるデータがしっかりしたものであるか否かにかかっている。実証的研究とは、自分が語りたいことを、一定の手法に従って語ること。実証的研究においては調査が終了した段階で全研究の70~90%は終えている。できるだけ多くのビデオやテープで記録すべきだが、何よりも優れた分析機器は、その場にいる自分自身である。少なくとも、授業後に心に残ったことを、ノートに「なぐり書き」でいいから記録する。最終的な結論を書く際、これを言えるだけの「一般性はあるか?」「客観性はあるか?」を自問することが必要。質的研究と量的研究は対立するものではなく、補完するものである。
【第3部 論文の記述】
第1章目的
論文の中で最後に書く部分であり、その研究の重要性とオリジナリティを主張する部部である。論文の構成は「目的」「方法」「結果」「結論」であるが、実際に各順序は「方法」「結果」「結論」「目的」である。目的の最後に全体の構成を示すことは有効。
第2章方法
比較的多くの記述が必要になるが、ページ数としては、目的>方法>結果>結論、でなければならない。行ったことを正確に記述するものである。
第3章結果
個々の数値の記述は、図表にその数値が書いてあれば十分で、わざわざ本文の中で改めて書く必要はない。いい論文は、本文を読まなくても、図表を見ただけでわかるもの。図のタイトルは図の下に、表のタイトルは表の上に書く。研究に無駄は付きものであり、苦労して得た結果であっても、必ずしも最終的な結論に結び付かない結果も多い。
第4章結論
結論で述べるべき「一言」は論文の最初に決定されるべきもの。結論は「である」と言い切らねばならない。
第5章レファレンス
研究とは多くの人々が少しずつ知識を積み上げる営みであり、ルールとしては、第一にその記述で確実に該当分権を探すことができること、第二に記述方法が統一されていること、である。Vol.やPP.のピリオドは省略できない。「引用」は該当する部分を原文のまま自身の論文に利用する場合のことで一般に『』で区別する。「参考」はその論文全体を参考にした場合で「〇○は●●を明らかにした」のように自身の表現で短くまとめる必要がある。
第6章口頭発表に関して
・余裕を持った原稿を元に、聴衆の反応に即して、話す速度や間を調節する。(×声が小さい・言葉が明瞭でない・話が難しい、〇腹から大声を出し語尾をはっきりさせる・平常の会話より幾分遅く話す(1分間に200~250語)・段落の間には間を置く)
・発表に使用するスライド、OHPはできるだけ早く用意する。
・そのスライド・OHPにおける図表は、伝えたいものを欲張らず、確実に伝えられる表現を工夫する。
・実際に用いられるスライド・OHPを利用しながら、発表の予行練習は十分に行う。(一人で何度も行い、ある程度練り上がった段階で同級生・同僚に聞いてもらう・時間を守ることは最低限のルール)
第7章全体的な記述上の注意
自分も他の研究者も、呼び捨てにする。「である」超に改める。命令調に変更する。短く言い切る。「。」と「。」の間の「、」は最大3~4程度。できれば2つまでが望ましい。1か月後に読み直す。「である」と言い切る努力が必要。文章は上から下に読むもの、先を読んで初めて分かるような文章は良くない。
(補遺1)指導教官とのつきあい方
(補遺2)大学院で教育研究を行いたい人のためのメモ

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2024年02月14日

Posted by ブクログ

第3版とあり、かなり薄くなったので、どこかを大胆にけずり、内容を大きく変えたと思っていたが、そうではないらしい。前書きにもあとがきにも3版で変えたところへ言及していない。
 前の新版を中古で購入するのが賢いやり方かもしれない。

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2020年09月11日

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