【感想・ネタバレ】泡坂妻夫引退公演 手妻篇のレビュー

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Posted by ブクログ 2022年08月19日

2012年に発売された単行本の文庫化で、新たに、「酔象秘曲」が書籍初収録された作品集ですが、推理ものとして凄いというよりは、泡坂さんの作品を好きな方が読んで楽しむタイプかと思われます。

本書の一番の目玉であろう、酔象秘曲は未発表作品で、辻褄の合わない部分があるものの、ちゃんとミステリーとして完結し...続きを読むている点が素晴らしく、「酔象将棋」というのが、泡坂さんの創作かと思いきや、実在しているもので、酔象の駒の存在ひとつで、全く違う遊戯を見ているような面白さを、文章から感じられました。

また、他の「幕間」の作品は、泡坂さん独自の視点が面白く、「聖なる河」のラストが印象的だったことと、「流行」は、貫井徳郎さんが見落とした作品があると指摘してくれなかったら、収録されなかったかもしれない、貴重な作品。これもショートショートながら、印象に残る。

そして、「奇術」は、マジシャンでもある泡坂さんの、マジックについて、個性的な登場人物たちが語り尽くす展開ながら、つい読み耽ってしまい、どこまでが真実で、どこまでが創作なのか分からない、不思議な感覚が面白い。

ちなみに、TAMCの創立者の一人、「緒方知三郎」の「緒方奇術文庫」は、調べたら実在しており、先程の酔象将棋同様、こうしたミステリアスで知らなかったものを知る喜びを、本書では、度々実感いたしました。

また、戯曲の「交霊会の夜」は1983年の作品で、実際に演劇を観ているような感覚で、ミステリーを楽しめて、泡坂さん特有の、個性的で怪しい人物達のユーモア溢れる遣り取りもあって、面白く、1987年には、推理劇専門劇団「宝石座」の第三回作品として、上演されたとのこと。観たかったなあ。

そして、泡坂さんの作品で、個性的かつ怪しく、更に胡散臭い(でも、ジェントルマン)といえば、「ヨギガンジー」シリーズであり、本書にも三篇収録されており、これが読みたくて私は購入しました。

おそらく、短篇がある程度まとまれば、「生者と死者」に次ぐ、作品集を発表したものと思われる、その充実の内容は、まず「カルダモンの匂い」において、ガンジーのグルメ通の一面を覗かせながら、不動丸を守る姿勢に、カッコいいと思っていたら、終盤に、胡散臭い大阪弁を久しぶりに聞けて、やはりガンジーはガンジーだったし、それぞれの良さを発揮した、不動丸と本多美保子の役割分担もお見事。

続く、「未確認歩行原人」でも、ガンジーの発言は胡散臭いながら、その裏で冷静に物事を考えている姿には、やはり探偵という称号が、彼には相応しく感じられ、口では「私のばか弟子たち二人」と言いながら、二人のことを心配している内面も覗えて、いつも通り、事件も殺人も起こらないけれど、その反面、関係者たちへの優しい眼差しが、とても印象に残る。

そして、「ヨギ ガンジー、最後の妖術」は、泡坂さんが付けたタイトルではなく、まさに執筆途中での無念の未完となり、僅か数頁ながら、ガンジーも登場するし、暦の吉凶や芭蕉祭など、興味深い言葉もいくつか見られ、どんな話なのか想像するのもいいかもしれないが、さすがにガンジーの胡散臭さを代わりに執筆できる人はいないと思われ、私としては、未完であることが真に残念でならない。

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