【感想・ネタバレ】宝の地図を見つけたらのレビュー

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Posted by ブクログ

あなたは『埋蔵金伝説』を信じていますか?

この国のどこかに、現在の価値に換算すると数千億、それ以上ともされる莫大なお宝が眠っているのではないかという『埋蔵金伝説』。『大政奉還のあと、江戸城は無血開城となったが、財宝の類はほとんど残されていなかった』。それは『明け渡す前にどこかに運び出したのだろう』と言われる『徳川幕府の埋蔵金』にまつわる『伝説』を筆頭にこの国にはたくさんの『埋蔵金伝説』が存在します。『埋蔵金』というキーワードでネット検索をするとおびただしい検索結果が表示され、実際にそんな『埋蔵金』を掘り当てるために人生を狂わせてもいく数多の人たちが存在するともいうその『伝説』。

それがただの『伝説』で終わるのであればそれまでです。しかし、『じっさいにみつかったという鹿嶋清兵衛の埋蔵金』など、『伝説』が現実のものとなる実例がある以上、あながち一笑に付すわけにもいきません。犯罪を犯すわけでもなく、一夜にして大金を手に入れる、しかもそれは歴史に残る有名武将に繋がるものもある、そんな話を聞くと、それはまさしくロマンの世界と言えなくもありません。

さて、ここにそんな『埋蔵金伝説』をテーマに描かれた作品があります。祖母がこっそり語る『秘密の隠れ里』という言葉を聞いてしまった幼なじみの二人がダブルキャストを務めるこの作品。『時の権力者によって作られ』、やがて『意図的に消し去られた』『未だかつて誰も行き着いたことがない』という『幻の隠れ里』を探し求める人たちの姿を見るこの作品。そしてそれは、そんな『伝説』を探し求める人々に『見果てぬ夢』というロマンを感じる物語です。

『郷土史研究会は三階の奥だ』というサークルの部室で『晶良くんの幼なじみだって』と、自分が来る前に来客があったことを伝えられたのは主人公の坂上晶良(さかがみ あきら)。そんな晶良は『絶対ちがう。来るはずがない』と思うも後を追い部室を出ます。そうすると『よう、晶良』と『藤棚の下』にいた男、幼なじみの桂木伯斗(かつらぎ はくと)に声をかけられました。『いつ帰ってきたんだ』、『ついさっき』…と会話が弾む二人は、『高校で進路が分かれた』ものの、かつては『互いの家を行き来した』関係でした。今は東京の大学に通う伯斗は、晶良が所属している『郷土史研究会』のことに話を向けます。『この大学のは埋蔵金調査に特化している』そうだが、『面白い』資料は見つかったかと問う伯斗に、『この話はしたくない。話題を変えたい』と思うも、『ネタが浮かばず、仕方なく『後座石とか湯之奥、黒川…』と、『地名を口にし』ます。そんな時、『六川村(むつかわむら)は?』と『不意に言われ』『目を瞬く』晶良。そして、『東京にも埋蔵金を探している人たちがいてさ。名前が出たんだよ…』と話す伯斗に『まさか。そんなわけない』と焦る晶良。そんな晶良に『なあ晶良、探しに行かないか。昔みたいにふたりで…今度こそ、幻の村を探し当てよう』と伯斗は語りかけるのでした。そんなことを突然言われた晶良は『祖母同士が、そもそもの幼友だちだった』というふたりのかつての日々を思い出します。祖母同士の繋がりもあって『気の合う友だち』となった二人は、『小学五年生になった年の春』、『祖母たちの会話を襖越しに聞』きました。『春美ちゃん、今頃どうしているかしら』と始まった話題は『秘密の隠れ里』という言葉が出たことで二人の耳を引き寄せます。『六川村』出身だった彼女が暮らしたというその村には『武田家の財宝が眠っている』という祖母たちの話。その村の人たちは『掟』によって『外と関わることを厳しく禁じ』られ、何百年も外界から孤立した暮らしを営んできた、それは『掟を強いてまで守らなくてはならない秘密があった』からというその話。そして、『地図』を書いてもらったという話になり、『奥の部屋の和箪笥から、薄い、本のようなものを取り出す』祖母たちは、『私たちはとうとう行けずじまいだったわね』と懐かしがるのでした。『六川村』、『埋蔵金って、ほんとう?』と『互いの目の奥』に『キラキラと輝くもの』を見る二人。後日、こっそりタンスから地図を探し出して『手書きで写し取』った二人。そして、大学生となり、久々に再会した二人。そんな中、伯斗は『あの村を見つけたい』と晶良に語ります。かつて子どもの頃、地図を頼りに一度は『六川村』を探そうとした二人も今や二十歳。『言い伝えられている「時価数億円」の意味』を理解もする二人は『大人になって探す埋蔵金は、冒険ごっこではすまないのかもしれない』とも思います。そんな二人が『秘密の隠れ里』とされる『六川村』を探し、山へと分け入っていく先に、読者が予想だにできないまさかの物語が展開していきます。

“手に汗握る「埋蔵金」ミステリー!”と内容紹介にうたわれるこの作品。

『戦国時代の武将が作らせた隠れ里だ。そこに甲斐の黄金が眠っている』。

まさかの『埋蔵金』探し、そして、そんな『埋蔵金』が眠る『隠れ里』とされる『六川村』を探し求める主人公たちの姿が描かれていきます。テレビ番組の企画でも取り上げられる『埋蔵金伝説』自体を知らない方はいないと思います。『もっとも有名なのは徳川幕府の埋蔵金だ』というそんな『伝説』は眉唾物という思いがよぎる一方で、どこかロマンを掻き立てるところがあるように思います。確かにこの『徳川幕府の埋蔵金』一つとっても『大政奉還のあと、江戸城は無血開城となったが、財宝の類はほとんど残されていなかった』ということ自体は事実のようです。これを、長い政権運営の中で財力も底をついていたからとしてしまうのが一般的な考え方なのだと思いますが、本当にそうなのでしょうか?『明け渡す前にどこかに運び出した』ということは絶対にないのでしょうか?と、考えること自体、可能性の中にロマンが生まれる余地はあるのだと思います。しかも『推定四百万両』、『今の価値に直すと数千億以上』というリアルな数字が登場すると冷静さを失う人も出てくるかもしれません。他にも『豊臣家の財宝』や『源頼朝の奥州攻め』に関連する結城家の財宝、そして、『金山銀山の奉行を務めた大久保長安』が着服した財宝のことなど、この国に存する各地の伝説を並べられると、それだけで胸が熱くなるのを感じます(笑)。

そんな『埋蔵金』の伝説の中でこの作品が光を当てるのが『弱肉強食の戦国時代』に活躍した武田信玄にまつわるものです。当時『最盛期を迎えていた』『黒川金山』が『軍用金として武田軍をがっちり支えた』という事実、そして『金の採掘量から見て信憑性は高いとされるが、場所は特定されていない』というその『埋蔵金伝説』。『言い伝えや古文書』、『民話、童唄、石碑の文字、地名など、ありとあらゆるものを手がかりに』探し求める人が後を絶たずも『誰も行き着いていない』という現実。この物語では、そんな武田家ゆかりの山梨に暮らす主人公・晶良の元に幼なじみの伯斗が訪ねてきたことから物語は動き始めます。”日常のミステリー”を得意とされる大崎梢さん。そんな大崎さんが描く『埋蔵金』を求め、山を彷徨う主人公たちの姿を描く物語が面白くないはずがありません。上記した『埋蔵金』伝説の数々を解説するなど、読者を煽るだけ煽って展開する物語は、スピード感、アドベンチャー感、そしてミステリー感の三つのバランスが見事に取られ、ページを捲る手が止まらない!という読書を見事に体験させてくれます。そして、そこには”お宝”を狙う”ヤバイ連中”が次々に現れます。ここには、えっ!そういう展開なの?という恐らく読者がこの作品を読み始める段では全く想像だにできないであろう展開が、物語をさらに演出していきます。これには、度肝を抜かれました。ネタバレになってしまうのでこれ以上触れるのはやめておきますが、この作品の内容紹介等から、この作品は『埋蔵金』を掘り進める場面が登場する、そんなイメージを抱かれて、そういうの興味ないです。馬鹿馬鹿しい。とおっしゃる方もいらっしゃるかもしれませんが、違います。ああ、ネタバレしても喋ってしまいたいと思うくらいに、あなたが今思い浮かべられている内容とは全く違う物語がここには描かれているのです。そう、読者をミステリーな物語世界に徹底的に酔わせてもくれるこの作品。この辺り、『埋蔵金』と聞いて興味を持つ人だけでなく、ミステリーが好きな人にも是非読んでいただきたい作品だと思いました。

一方で、大崎梢さんという作家さんから想像する印象とは随分と異なる色彩を見せてくれるのもこの作品の特徴の一つです。それは、『力任せに何度も殴られ蹴られたにちがいない。すでにもとの形を留めていないむごたらしい顔があった』といったような随分と血生臭い表現が登場するからです。ある意味で普段の大崎さんらしくない、それでいてやはり大崎さんを感じさせる不思議な魅力を放つ作品でもあるように思いました。

そんなこの作品は、幼なじみの二人の大学生がダブルキャストを務める、二人の友情を見る物語でもあります。『伯斗とおれのばあちゃんは幼なじみなんだよ』という共通点のもと、幼なじみとして育った伯斗と晶良。そして、『ばあちゃんたちの小学生の同級生が、その村の出身』で、『仲良くなった』ことをきっかけにもらったという『秘密の地図』の存在を知ったことで二人は『六川村』に心囚われていきます。『高校で進路が分かれ』て疎遠になった二人。再び再会することはなかったかもしれないそんな二人の間には過去に起因する何かがあることが匂わされていきます。『できることならば会いたくない。今の自分では関係を持ちたくない』と晶良のことを思いながらも再会の選択をした伯斗が、この物語が動き出す起点を作っていきます。そんな起点から続く二人の再会。そこには一見、『何事もなかったかのように昔話を』する、見た目にはなんのことはない幼なじみの二人の姿がありました。しかし、『気持ちに蓋をしている。わだかまりは依然として横たわっている』という複雑な思いがそこに存在することが匂わされます。『少なくとも自分は水に流していない。流せない』と晶良は伯斗のことを思います。そんな二人が『秘密の隠れ里』という『六川村』をそれぞれの理由で探し求める様が描かれるこの作品。そして、そんな二人は離れていてもお互いのことを深く思いあっていく様が描かれていくこの作品。そこには、この作品のもう一つの魅力、伯斗と晶良の友情を描く物語が存在しました。どうしても『埋蔵金伝説』の話題が先行してしまいがちなこの作品ですが、これからこの作品を読まれる方には、そんな二人の友情の行方、そして他にも登場する人物たちとの心と心の繋がりを描いていく側面、そんな部分にも是非注目いただきたいと思います。

『結局自分は忘れられない。武田家の財宝が眠る場所に、この足でたどり着きたいという思い。あともう少し、もう少し、この次はこの次は、という焦がれるような感情』。

人の焦燥感を駆り立てもする『埋蔵金伝説』に光を当てるこの作品。そこには、大崎梢さんならではの緻密なミステリーが大胆に展開していく、『埋蔵金伝説』という冒頭の話題からは全く予想だに出来ないあっと驚くような物語が描かれていました。『数百年を経て消し去られた里。黄金が眠っているという伝説の真偽』。ロマン溢れる秘密の扉が開く瞬間に『自分も立ち会うことができるだろうか』、主人公と共に読者もいつしかそんな思いに囚われていくのを感じる中に、ページを捲る手が止まらなくなるこの作品。大崎さんにしては珍しい血生臭い表現が登場する一方で、大崎さんならではの心の機微を感じさせる幼なじみの主人公二人の心が通う様を見ることのできるこの作品。

『埋蔵金伝説』という、どこか胸が熱くなる瞬間を感じる物語の中に、なかなかに楽しい時間を過ごさせていただいた、絶品のエンタメ・ミステリー小説でした。

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2022年07月18日

Posted by ブクログ

途中まではファンタジー色のある埋蔵金物語だと思っていたのに、後半は大崎さんにしては珍しい本格的なクライムノベルでした。
悪者たちの最後があまりに呆気ないものでしたが、それ以外は舞台設定もスリル感も良かったと思います。

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2021年04月14日

Posted by ブクログ

ネタバレ

著者による作品では珍しくガッチリと犯罪と向かい合ってましたね。
埋蔵金がミスリードとは思いませんでした。
新しい作風は嬉しいので、次作も楽しみです。

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2019年04月17日

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