【感想・ネタバレ】刑事群像のレビュー

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Posted by ブクログ

 最終頁を閉じると同時に思わずうーんと唸ってしまった。唸りにも二通りある。不満のうーんと、満足のうーんである。今回は後者の唸りで、うーんの後にすごいな、と付け加えた。繊細に積み上げた造形物のように、まるでマクロなスケールを持った定規で計算され描かれた設計図のように、思われるが、おそらくそうではあるまい。

 現在に起こった事件そのものが二年前の未解決事件と関連付けられてゆき、二年前の事件に関わった刑事たちと、現在の刑事たちが存在する。物語の奥行が、時間的にも距離的にも持つことになった二重構造のために、さらに合わせ鏡のように響き合い、時間の差が生じ、過去の死者と現在の死者が物言わぬ言葉を証拠や死に様によって語り始める。すごいな、と思う。

 物語は平易に、何の装飾もなく気負いもなく淡々と語られるのに、事件の持つ多重性が、時折混乱を呼び起こす。あまりに多くの人間が関わっている。捜査側の刑事たち。元刑事。殺人者。元殺人者の囚人。騙した者と騙された者。反社会的組織と詐欺師集団。被害者とその家族。加害者とその家族。目撃者とその家族。過去のいくつかの殺人と失踪が、現在のいくつかの殺人に響き合う。

 『贄の夜会』『無縁旅人』の大河内デカ長、『刹那の街角』の庄野デカ長の二班合同捜査。どれも過去の作品につながるわけではなく、本書は完全に独立した一つの作品である。それでいながら様々な要素がペアになって二重になっている世界である。

 本書で凄いなと思わせられたのは、多くの人物の行動を追跡捜査することにより、それぞれの人物がそれぞれの理由を持って行動していることである。捜査が解明されたかに見えた時にも、勘のはたらく刑事たちは、違和感を感じ、しっかり人物それぞれの行動が納得ゆくまで妥協せず確認行動を取ってゆく。際立って特別な才能をもって捜査するのではなくて、納得がゆくように理解する。彼らの理解とは推理することではなく、人に当たり確認してゆくこと、なのである。この地道さ。この丹念さ。そこに刑事小説としてのリアリズムがあるように思う。

 それぞれの人物が理由を持って行動していること。その行動のありさまに感動を覚える。最後の最後まで、なぜ彼はそう行動したのか? 彼女はなぜそう行動したのか? そんなことが捜査の最後の謎として残される。そしてすべてが明らかになってゆく結末。男は男として、女は女としてそう行動することになったのだった。一つの事件が他の事件を誘発する。そこには本当の悲劇があり、喪失がある。そうした真実に歯噛みするように辿り着く刑事たちの心情すらがわかる。

 とてもタイトな文体でありながら、ここまで人間群像をその悲しみや愛情を描き切れる筆力に驚かされた。ベテラン作家としてのある高度までの到達感がしっかりと感じられる力作である。

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2015年03月09日

Posted by ブクログ

 謎解きの重層性は、とても素晴らしい。
 ただ一つの疑問は、二つのシリーズが合体する必要性が、どれくらいあったのか?

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2015年10月14日

Posted by ブクログ

殺害され全裸で道路脇に放置された坂上実咲.捜査に当たる大河内,渡辺,庄野たち.奔放な実咲に関連する数名が捜査線上に上がるが,調べていくうちに3年前の事件との関連が出てきて捜査が展開する.元警官の沢崎も絡む.あまりにも多くの登場人物なので,メモを取りながら読み進めた.被害者の部屋に容疑者と息子を集めて,謎を解明する場面が秀逸.実咲が3年前に絡んだ殺人に関連して,意外な事実が明らかになる最後の場面も良い.しっかり楽しめた.

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2015年10月08日

Posted by ブクログ

警視庁捜査一課シリーズ、大河内率いる小林班と庄野率いる中本班のタッグ。

「贄の夜会」等で活躍する大河内チームと「刹那の街角」で活躍する庄野チームが一緒に読めるなんて、何て私得。と言っても、既出の作品を読む必要はなく、今作は単独で読むことが出来ます。二班の合同捜査になっても、子供の喧嘩のような変なバチバチ感は少なく(ないわけではない)、ストレスなく読めて良かった。そういうお約束みたいな足の引っ張り合いの展開ってよくあるだけに、大事なポイントだと思う。そして、個々の捜査員による地道な捜査。一人の変人刑事による卓越した推理とかではなくて(そういうのもアリだけど)、捜査の積み重ねで得た事実の一つ一つから何重にも絡まった事件の真相を解きほぐしていく展開はリアルがあって、これぞ香納作品における警察小説だと思った。

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2015年08月26日

Posted by ブクログ

二人の刑事、大河内・庄野が別の作品にそれぞれ出ているらしい。
香納作品の読者ではあるが、かなり昔に読んだので覚えていない。それを知らなくても作品は独立していて問題はない。
事件を細やかに丁寧に捜査、推理、検証していく内容は自分に合っていて、読んでいて面白い。
ただ、高級なマンションのセキュリティには説得力がやや欠けて残念だが、それを若い刑事が見つけて、それを褒めるべきか。

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2015年07月07日

Posted by ブクログ

1月-6。3.0点。
贄の夜会の大河内刑事シリーズ(シリーズだったのか)。
経営コンサルタントの女性が殺害される。殺害後、全裸で放置と酷い姿。
男女関係か、以前の詐欺事件の絡みなのか、捜査。
渋い感じの警察もの。群像は元刑事のことかな。
途中、中だるみ感があった。次作も期待。

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2016年01月19日

Posted by ブクログ

二年前のプライベートバンカー殺人と、路上で発見された全裸女性遺体と、階段から突き落とされた元刑事の事件等を、
捜査一課の二つの班が合同で追う。
二重、三重にもつれた糸がみごとに解決していく。
事件それぞれに、強い犯行動機があったようです。
全裸女性が住んでいたマンションは、コンシェルジュが常駐している高級マンションですが、残念ながらセキュリティーが脆弱でした。
セキュリティーが高いマンションだったら事件の展開は大きく変わったはず。

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2015年03月16日

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