【感想・ネタバレ】戦場のアリスのレビュー

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Posted by ブクログ

大学生のシャーリーは母親に連れられて墮胎手術を受ける旅行を抜け出し、戦時中に行方不明となったいとこのローズを探すたびに出た。彼女の働き口の報告書にあったイヴリンという名前を手がかりに彼女の家へと訪ねる。彼女は最初はシャーリーを追い払おうとしたがローズの働き口のレストランの名前を聞くと一緒に旅に出ることにした。
終盤の抜粋を読むまで実際の人物をもとにしているとは知らずに読んでいた。物語はシャーリーと戦時中の若かりし頃のイヴリンを回顧を交互に進める。2時代をつなげるのがローズが働いていたレストランのオーナー、ルネだ。悪役だが魅力的な小物で最後のカタルシスをより強くしてくれる。そして何よりもアリスの存在だ。史実とは思えないほどフィクションじみている。タフでユーモラスだ。他の登場人物もみな魅力的で、彼らの旅の友情や恋愛も楽しめる読み応えのある一冊でした

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2024年04月15日

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熱く、強く、たくましく、ひたむきに生きた女性たち。平和な時代に生まれつき、自分のことさえ考えていれば生きていられることが、惨めにすら思える。生きる勇気が、強くなる勇気がわいてくる。素晴らしい作品。

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2022年05月06日

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第一次世界大戦1914〜1918、
死者1000万人以上
第二次世界大戦1939〜1945、
死者6000万人以上
この二つの戦争が二十世紀前半に、
嵐のように吹き荒れた。

自暴自棄となりながらも、戦時中に行方不明になった従姉妹のローズを探すシャーリー。
戦時中スパイだった、アル中の中年女性イヴ。
復員後犯罪者になり、その後定職につかずイヴの世話をするフィン。
三人は、ローズを探すと同時に、それぞれの心の底にある過去に向き合っていく。

ボソボソと車の後部座席から繰り出される、第一次大戦でのイヴのスパイ活動の様子は、息をするのも忘れるほどの緊迫感を持つ。

派手な戦闘シーンは無い。
アジトや検問所でのイヴとリリーのスリリングなやりとり
廃墟の村で生き残った中年女性の絞り出すように語るジェノサイド
収容所の開放直後に足元で力尽きたロマの少女の顔

そして最後に三人が行き着く場所は……。

エンディングが良い物語は、満足感いっぱいでした。

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2021年06月02日

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こちら「おすすめ文庫王国2020」の第1位。
それを見た時からずっと読もうと思っていたのだけれど、650余頁の厚さに躊躇したまま1年以上経ってしまった。
買った後も暫く積読していたが、この前に読んだ「革命前夜」に触発されて、引続きヨーロッパの話にしてみる。

1915年に始まるイブの話と1947年のシャーリーにイブとフィンが絡む話が交互に語られるが、かつてのイブと現在のシャーリーに共通した意志の強い女性像を見る一方、かつてのイブと現在のイブの繋がりと落差が鮮やかで、過去と現在が絡まり合うように進む物語は分厚い頁を飽きさせない。

前半は、スパイになってドイツ占領下のフランスに入るイブと、いとこのローズを追ってこれまたフランスに渡るシャーリーの、それぞれの顛末を描くが、一難去ってまた一難が冒険譚が楽しめる。
中盤は、この筋を追いながら、2つの大戦における苦難の歴史がしっかりと描かれて、リリーの最後の場面には深い悲しみが湧き起る。
終盤は、イブとシャーリーによる因縁の男の追跡劇。男を探す過程、思いがけず男と遭遇する場面、遂に決着をつける場面、いずれの描写も息詰まる。
苦難の末のエピローグの、あるべき普通の生活に、しみじみと浸った。

それにしても、アメリカ映画で観たような2つの大戦でのヨーロッパ戦線における連合国軍の華々しい戦いのことは知ってはいても、そこで起こった悲惨な出来事については全くスルーだったな。
「オラドゥール=シュル=グラヌ」や「ベルゼン強制収容所」についても初めて知り、ヨーロッパの歴史の深さにはまだまだ知らないことばかりと思い知った。

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2021年03月03日

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主要登場人物の多くが実在していたと訳者あとがきで知った。第一次世界大戦中のアリス・ネットワークと第二次世界大戦直後の世界が描かれる。
シャーリー、イヴ、フィンの3人のキャラが堪らなくいい。安心して読めた。

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2021年01月03日

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好きなセリフ「飢えは思考を研ぎ澄ます」
スパイの心意気がカッコいい。
心を隠し演じて騙し、相手の表情の揺らぎを読む。スリル感はスパイ小説ならでは醍醐味。

第一次世界大戦下フランスへ、ドイツ軍の情報を得るためにスパイとして派遣されたイヴ。イヴは、ドイツに協力する暴利商人ルネ・ボルデロンの元でウェイトレス兼愛人として振る舞い、最高級の情報を引き出す優秀なスパイだった。戦後のイヴと出会った現役大学生シャーリーのいとこ探しは、イヴの過去が明らかになるにつれ真実に近づいていく。

イヴに降りかかる危機は、身の毛もよだつほど凄まじい気迫がありハラハラドキドキする。
謎解きミステリーのようなすべての駒がつながっていく要素もあり、一気読みできるおもしろさ。 

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2020年09月29日

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 女同士の真の友情は無いとも言われるが、この小説の中では第一次世界大戦でフランス軍のスパイとして活躍したリリー、イブの真の友情と第一次世界大戦で全てを失ったイブと第二次世界大戦で大切な人二人を失ったシャーリーの間の真の友情、硬い絆が確かめられる。
 リリーとイブは、女性に能力などないと信じられている社会という戦場の中で、そして本当の戦場の中で敵の目を何度もすり抜け味方のために命がけで情報を送っていた。失敗すれば射殺されるか牢獄で見殺しにされるか…戦後に勲章など送られても意味がない。
 なぜ真の友情が芽生えたのか。それはリリーやイブが、味方のために命をかけて戦い、仕事をやり通し、それ以外の幸せは全て捨ててきたからだろう。
今は、女性が活躍出来るよう社会が協力してくれている。「まだまだだ」と言われるがそれでも仕事で活躍する幸せ、恋愛をする幸せ、家庭を持つ幸せといくつもの夢を追うことは可能だ。
 しかし、リリーやイブは本当に全てを捨て、使命と仲間だけを守った。それなのに、終戦後、その親友までもイブは失ってしまった。
 失意のまま30年のうちに、第二次世界大戦が起き、再び多くの悲劇が起きる。第二次世界大戦で大切な兄を失い、自暴自棄の中、「亡くなった」と言われている大切な従兄妹だけでも探そう立ち上がる19歳のシャーリーがイブの前に現れる。お金持ちのアメリカのお嬢さんだが、失意の中で誰の子か分からない子を妊娠し、こっそり始末させようとする親を欺いて逃げてきた子だ。
 イブの目から見れば、青二才のお嬢ちゃんだったろうが、たった19歳の女の子が自分の将来もお腹の子の将来も見えないまま、異国でイブというガラの悪そうな過去のありそうな女性を頼りに従兄妹を探す旅を始めた。なんてたくましいのだろう。
 シャーリーとイブと「イブの何でも屋兼運転手」のフィンの車での旅は戦争でそれぞれ別の場所でズタズタに傷つけられた3人の旅だが、明るく、お互いを思いやり、口は悪いがこれもまた真の友情が芽生える。それまでに三人が送ってきた悲劇は経験したくないが、この三人の旅は羨ましく、その中に入りたくなる。
 救いのない展開ではなくて良かった。リリーも喜んでくれているだろう。
 

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2020年09月14日

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1947年、戦争中に行方不明になったいとこを探すシャーリー。手がかりは一人の女性・イヴ。尋ねてみると、イブは酔いどれ、しかも指は潰れたいた。イヴは元スパイだった。第一次大戦中、ドイツ占領下のフランス北部へ潜入。凄腕のスパイ“アリス”が無数の情報源を統括していた。イヴの過去、いとこの運命は? 傑作長編
アリスは実在したスパイらしいです。そのアリスやオラドゥール=シュル=グラヌの悲劇とか初めて知ることが多く、歴史的なものでも私は圧倒されました、知識を得ながら興味深く読めました。タイトルはアリスなんだけれど、シャーリーとイブ(イブの活躍した過去のこと)の二人のお話で進んでいきます。絡み合って、それでそれでとページが進みました。最後の方の二つの物語があったところは、もう息をつくのが大変。女性たちの力強さ、生き残ったものたちの心情、そして、明るい兆し、読み応え十分。登場人物は皆魅力的で(悪役ルネは悪い度合いがうまく出てて)そういった面でも楽しめました。

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2020年06月01日

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偶然にも似たような小説に連続して出会うことが時々あるのだが、今回もそう。
こないだ「コードネーム・ヴァリティ」を読み終わった後すぐに本作である。

女性主人公2人目線、主人公は女スパイ、舞台はヨーロッパ戦線。WW1とWW2の違いがあるとはいえ、敵役はドイツ(とそれに加担する組織や個人)

読んでいけば、味わいの違いはすぐに分かるのだが、なんという偶然か?それとも翻訳小説界ではこの辺のテーマがブームなんだろうか?どちらも傑作だというのがまた偶然。

読み始めは、なんだか貴族系上流階級女子のとっつきにくい話だなぁ、今更亜流の「風と共に去りぬ」でもあるまいし…と正直ちょっとペースも遅れ気味だったんだが

二人の主人公の動きが徐々に関連づいてくるにつれて、ぐいぐい話に引き込まれていく。しかも史実に基づいた部分が非常に多く、ノンフィクションを史実に編みつけていくテクニックの上手さは読みどころ核心!

物語の終焉も綺麗に整っていて、余韻が少々苦い「コードネーム・ヴェリティ」よりこっちのほうが俺は好みかな。

それにしても、2つの戦争の結果、ドイツって国はとんでもなく大きな負債を背負ってしまったものだ。現代において、EUであれだけ大きな貢献をしていても、いまだ悪役まっしぐら。きっと日本だって欧米から見ればそういう国なんだろうなぁ。ほんま戦争はあかん。

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2020年05月18日

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オススメ文庫王国から。2019年度第一位。同誌のチョイスはやっぱり間違いないよな、と思わされるに十分な高品質作品。実際の史実が絡むと、重要人物は登場させておかないと的意図が生じがちなのか、やたら出てくる人が多くなりがちな気がするけど、本作はギュッと絞られていて、非常に好感が持てる。更にはそのおかげで、アリスその人の存在感が大きく立ち上がっていて、そういう意味でも成功と思える。

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2020年01月20日

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「リリー」イヴは衝動的に尋ねていた。「怖いと思ったことはないんですか?」
 リリーが振り返る。傘の縁から滴る雨粒が、彼女とイヴのあいだに銀色の幕を張る。
「あるわよ。誰だってそうでしょ。でも怖いと思うのは、危険が去ったあとーーー危険が迫っているときに怖いと思うのは、自分を甘やかすこと」彼女がイヴの肘に手を絡ませた。
「アリス・ネットワークにようこそ」(P.117)
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 第一次世界大戦の最中。ドイツ占領下のフランスで、連合軍のためにスパイ活動をする女性たちの組織、「アリス・ネットワーク」。超敏腕スパイ、コードネーム=アリス・デュボア(本名=ルイーズ・ド・ベティニ)が作り上げた組織だ。ルイーズ・ド・ベティニを筆頭に、登場人物の多くは実在の人物で、この作品は、著者の脚色はあるものの、基本的には史実に則った歴史小説である。
 物語は、二つの時代と視点から描かれる。一つは、第一次世界大戦中、アリスの後輩スパイだったイヴリン・ガードナー。アリスや同僚のヴィオレットと共に、スパイ活動に心身を捧げた時代が描かれる。アリスは「リリー」という愛称で呼ばれ、数数のエピソードでその敏腕さが伝えられる。
 もう一つは、第二次世界大戦終戦直後のイギリス。戦時中に失踪した従姉妹を探していた女子大生のシャーロットは、ヒントを求めて訪れたロンドンの古い住宅でイヴリンと出会う。二人の物語は時代を超えていつしか交錯し、クライマックスに向かって加速する。

 歴史小説とは知らずに、完全なフィクションとして読んでしまった。あとがきを読んでアリスが実在の人物だったと知ったときの、衝撃たるや!なんだかもう、表紙を見るだけで震えが来る。アリスは一体どんな気持ちで日々を送っていたんだろう。いつも危険と隣り合わせで、生き延びるためにできることはなんでもして、常にマニュアルのない臨機応変な行動が求められて・・・いま私が最も愛している「リラックスして心置きなく眠る」から最も離れたところにある日々。誰かに心を許すことも、ネットワークのメンバーにさえ本名を明かすこともできない、たった一人で戦い続ける毎日。怖い。その孤独を想像するだけでゾッとする。

 海外小説は読み慣れない。というか、今までハリー・ポッターシリーズくらいしか読んだことがない。日本純文学特有のあの、世界に一つに表現を求めてあらゆる単語や文章をこねくり回すまどろっこしさと美しさに酔いしれるスタイルとは真逆の、スピーディにどんどん進んでいくストーリー展開を楽しむことに重点を置くスタイル貫く海外小説には、あまり魅力を感じてこなかった。が、「2019年度 本の雑誌が選ぶ文庫ベストテン」第1位獲得という文言につい惹かれ、アンソニー・ホロヴィッツ「カササギ殺人事件」と一緒に読んでみようという気になった。

 凄まじい読み応え!読み応えが「ある」とかじゃなくてもうこの本自体が「読み応え」そのものだと思う!(私は何を言っているんだ?)
 こんなに分厚い本を読み切れる気がしなかった。でも読んでいたら、特に中盤以降、それまでのストーリーに散りばめられていたいろんなピースが徐々にハマっていって、その心地よさに踊らされているうち、あっという間に時間がすぎていった。
 同じ長編小説でも、村上春樹や江國香織を読み終わったときの達成感(あるいは疲労感)とは全く違った、物語のスケールのあまりの大きさとその圧倒的な重厚感からくる達成感(あるいは疲労感)を得た。読んでよかった。これは文句なしに100%人に勧める。

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2020年01月18日

Posted by ブクログ

1947年、アメリカからシャーリーは戦時中に行方不明になったいとこのローズを探しにフランスにやって来た。手がかりを辿り、出会ったのは英国の元スパイのイヴだった。第一次世界大戦のとき、ドイツ占領下のフランスでスパイとして過ごしたイヴの壮絶な過去と、第二次世界大戦中の話が交互に描かれる。

これは凄まじく面白かった。

イヴはフランスにおけるスパイのリーダーアリスのもとで働くのだが、このアリスネットワークは実在したものなのだそうだ!(わお) また、第二次大戦中のドイツによる信じられないような虐殺事件も実際にあったそうだ。他にも何人もの登場人物が実在したと著者あとがきに書いてある。

イヴがスパイとなり、潜入していく様、情報をとるため危険な目にあう様、読んでいてヒリヒリする。

650頁もあるので、余程の好き者でないと手に取らないかと思うが、好きな人には堪らないご馳走だった。

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2019年08月07日

Posted by ブクログ

興奮さめません。ドキドキの連鎖反応。
第二次世界大戦が終わって数年後が現時点でアメリカ人のシャーリー・セントクレアが主人公、第一次世界大戦のときはイギリス人のイヴ・ガードナーが主人公。二人の追いかける悪魔のような男がひとつに重なって行くところはほんまにドキドキする。第一次世界大戦のことはあまり知らなかったから、読んでよかった。北フランスがドイツに侵攻されて酷い目にあっていたこととかは、第二次世界大戦のときのことしか考えたことなかった。ナチスが台頭するまでそんなに酷いことがあるなんて考えたこともなかった。実在したアリス・ネットワークの女スパイたち。戦争は本当にろくなことがない。大切な誰かの大切な人の命を奪うだけだ。フィン・ギルゴアが収容所を開放したときに酷い有り様を見てから悪夢を見るようになったこととか、シャーリーのお兄さんがトラウマから死を選んでしまったこととか、たくさん辛くてでも最後がめちゃくちゃ気持ちよいのでぜひ一気読みを!!

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2019年05月20日

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 最初に手ごわそうな予感。一見して、気難しい貴婦人のように見えるこの物語は、大抵の魅力的な女性がそうであるように、時間とともにようやく心からの笑顔を浮かべ始める。最初の100ページは、とりすましたよそ行きの表情を浮かべるばかりか、興が乗らないでいると、今にも、構えたルガーの引き金を引きそうな、緊張感に満ちた険悪な悪女との出会いといったところだ。しかし、とっつきくい女ほど、後になって味が出てくる。そして情が濃い。本書はそんな、ファム・ファタルみたいな、いい女を思わせる、とても魅力的で奥深い作品なのだった。

 第一次大戦時、ドイツ占領下のフランスで、深く静かに潜航しつつ情報を収拾する、女スパイのネットワークが存在した。実在の人物を交えつつ、1915年のリールのレストランで、スパイ活動に携わるイヴの物語が語られる。

 さらに第二次大戦後、空爆の爪痕の残るロンドンに渡った、19歳で妊娠中のヤンキー娘シャーリーが、戦時中フランスで行方不明になった親友ローズの行方を捜すロード・ノヴェルが、もう一つ併行して語られる。彼女の随行者は、30年後の変わり果てたイヴと、その雇われ運転手フィン。用意された車はポンコツのラゴンダ・コンバーチブル。ちなみに1940年代のラゴンダは、なかなか趣のあるクラシックカーとして、今もインスタ映えのする画像をネットで散見することができる。

 暗い時代の息詰まるスパイ活動の描写と、戦後の明るいティーンエイジャーの妊婦率いる、ポンコツ車での三人旅が、交互に語られ、回想と旅とは徐々にひとつの物語に束ねられてゆく。フランスの風光明媚な土地巡りの途上で、戦争に巻き込まれたローズの足取りを追うにつれ、イヴの回想に現れる雇用主ルネの悪党ぶりも際立ってゆく。スパイ活動でイヴが味わわされる臍を噛む想いを、シャーリーの明るさで中和しつつ、ポンコツのラゴンダで運ばれる物語は、次第にギアを上げてゆく。

 さて、フィリップ・ノワレに泣かされたというフランス映画ファンは少なくないだろう。ロミー・シュナイダーに泣かされた方も。二人とも、重要な反戦映画にいくつも出ている名優である。二人の共演作である『追想』を観てから半世紀近くが経とうとしている。だが今も、そのときのショックは忘れ難い。ナチによる無差別虐殺で絶滅した村が、オラドゥール=シュール=グラヌである。あの映画を観た方は、この小説で、あの現実にあった物語とその現場に、否応なく再会することになる。詳しくは村名で検索をかけてみるとあまり伝えられてい藍歴史的事実が改めてわかる。

 シャーリーたちが辿り着く重要な地点の一つとして描かれるその村。そして南仏リビエラ地方の香水の都グラースに旅は終わる。物語も、もちろんここで。陰惨な戦争という大きな絵巻物語で語られたのは、とりわけ女スパイとして送り込まれた者たちの勇気と代償。また、何よりも彼女たちの生き方である。そして戦争の犠牲者たちへの悼みと、生き残った者たちの、再生の物語である。女流歴史小説家による重厚なテーマの大作ではあるが、読後感は、優しさと光に満ちている。

 実在の人物が多く起用された、ほぼ9割方歴史的事実に基づく魂の滅びと救済の物語を、一人でも多くの、特に女性にお読み頂きたいと、そう願ってやまない。

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2019年04月26日

Posted by ブクログ

史実から着想しているので内容がリアルに感じた。
死や拷問のリスクを抱えながら任務を遂行して行く末様は胸が熱くなります。
リリーがすてき。

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2024年02月05日

Posted by ブクログ

飛び出すのだ。周囲から、今の自分から。
1947年のシャーリーも、1915年のイヴも。
ローズはどこ。イヴには何があった。
大戦中に活躍したスパイたちの苛酷な生きざまを、エンターテイメント性をもった展開で、グイグイ引き込んでゆく。
楽しめた。
特にイヴ、魅力的が光る。

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2022年06月08日

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第一次世界大戦で女性をリーダーとしたスパイチームが実際にあったということに驚いた。戦場を含め、女性は看護婦など後方支援っぽい仕事しかしてないだろうとなんとなく思っていたから。

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2022年01月06日

Posted by ブクログ

第一次大戦中のドイツ占領下のフランスにおける女性スパイ網を描いた、史実に基づくフィクション。

主人公は想像上の人物だが、そこここに史実に基づくエピソードが挿入されているという。

第二次大戦後のフランスで、行方不明の従姉の足跡を追う米国女性の主人公が追体験する第一次大戦中の女性スパイの体験と、主人公自身の体験が徐々にシンクロしていきクライマックスに突入する。

サスペンスとしても良く書けている。

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2020年06月10日

Posted by ブクログ

第一次世界大戦のスパイ小説?とナメた姿勢で読むと本作はヤバい!
「第一次大戦時のスパイ活動」と「行方不明の従姉妹を探す旅」の2つの物語が同時進行するスパイ歴史小説。
「妊娠中の女子大生」「アルコール依存症の女の元スパイ」「キレやすい元兵士」3人のロードムービーの中に、大戦中の事実・理不尽が明らかになっていく過程が面白い!

緊迫の情報収集、吐き気を催す拷問、そして、戦争犯罪を糾弾されずに巧妙に逃げ回った悪党、読むほどに謎が結びつき、読者を腹落ちさせるのが堪らない。

フェミニズムの目覚めも教える。
登場人物は、解説によると日本では無名だが実在の人物らしい。本作は考えさせる歴史小説なのだ。

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2020年04月01日

Posted by ブクログ

1947年、戦中に行方不明になったいとこを探すためにロンドンへ渡ったシャーリーとそこで出会ったイヴという女性。1915年第一次大戦のなかにいるイヴ。この2つの時代の物語。戦中、戦後の時代は違うけれど厳しい日々を生きている2人。シャーリーとイヴの目的。1915年からイヴに何があったのか。そして1947年に行動を共にする2人。戦争の恐怖、スパイとしての日々、死がすぐ近くにあること。イヴの過ごしてきた戦中の悲惨さが描かれている。スパイ活動の緊張感、シャーリーとイヴの間に芽生えてくる友情のようなもの。復讐を果たすことで救いはあるのか。色々なことを問いかけてくる。600ページを超える物語だけれど長さが気にならないくらい面白い。

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2019年04月21日

Posted by ブクログ

第二次世界大戦中に行方知れずになったいとこを探す、19歳のアメリカ人大学生、シャーリー。
彼女が情報を求めて出会ったのは、ロンドンに住む、第一次世界大戦中に活躍した女スパイのイヴだった。
 
ストーリーは1947年のシャーリーと、1915年のイヴの物語が交互に語られます。
本の帯に「実話に基づく傑作歴史ミステリー」とあります。
傑作かどうかは個人の判断によると思いますが、かなりの部分が実話に基づいているのは確かなようです。
著者あとがきを読むところによると、イヴのスパイの物語は、実話を使いすぎるくらい使っています。
でも、それと本のおもしろさは別物。
冒険譚であり、ラブストーリーであり、戦争でいろいろと壊れてしまった人たちの傷を癒す物語でもありますが、なぜか読後感はハリウッド映画でした。

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2021年08月23日

Posted by ブクログ

第一次世界大戦中、ドイツ占領下のフランスで連合国のためにスパイ活動をしていた女性たち<アリス・ネットワーク>に迫る物語。
スパイ物ということで、ものすごくシリアスで陰鬱とした、それでいてハードな物語を想像して読み始めたのだが、読み終えてみれば意外な読後感と結末だった。

<アリス・ネットワーク>の一員として活動していた若き日のイヴの物語と、第二次世界大戦中に行方不明になった従姉をイヴと共に探すシャーリーの旅が並行して描かれる。

1917年の、青い情熱を燃やし厳しい任務に没頭するイヴが、1947年には変わり果てた姿になっているのを見ると、1917年の物語の結末が過酷なものであることが想像出来て、読み進めるのに勇気が要った。

一方で1947年の擦れ切れたイヴが、お嬢様育ちだがコンプレックスと自暴自棄の末に望まぬ妊娠をしでかし、救えなかった兄の代わりに行方不明の従姉を探し出すことで救われたいと願うシャーリーと徐々に友情のような絆が出来ていくと同時に生気を取り戻していくところは興味深いところだった。
もう一人の旅の同行者・フィンも興味深い人物だ。手が不自由なイヴの世話役兼運転手、スコットランド出身で前科者という以外なにも分からない。
だがシャーリー、イヴ、フィンという三人の関係はなかなか上手く行っている。

実際にあった<アリス・ネットワーク>の女性たちの物語に作家さん流の肉付けをして出来たのが本書だが、個人的には先に書いたような方向性を期待していたので、ハリウッド的な展開と結末にはガッカリした。
こういう明日をも知れない状況下だからこそ生まれるロマンスには理解出来るものの、感情に走ってしまえば『だから女は使えない』と言われてしまっても仕方ないのではないのか。
どうせならリーダーであるリリーや、女性ではないけれどアントワーヌを主役に持ってきて徹底的に硬質に描いてくれた方が個人的には好みだったかなと思う。

それから尻切れトンボ的になってしまったシャーリーの従姉ローズの人生ももっと掘り下げてほしかった。
ダスライヒの残虐行為を描くためだけに持ち出されたようでちょっと残念。

ひとつネタバレしてしまうと、ルネはマルグリットを愛していたんだろうなと思う。その形は決して美しいものではなかったけれど、愛していたからずっとマルグリットを待ち続けていたのだろう。
もう一つ、女性たちが命がけで掴んだ情報を信用しないで終戦の機会を二度も逃すって、報われない…。

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2019年10月02日

Posted by ブクログ

ネタバレ

第一次大戦中の女性スパイもので、傑作らしいと聞いて読んでみた。
作者あとがきに詳しくあるが、史実に基づく部分も多く、また資料のかけらからの創造も良くできていて、魅力的な人物も多く、ふたつの時代を行き来する展開も、今ここにいる人物の過去の謎に迫るので緊迫感があり読ませてくれるのだが…

いかんせん私にはロマンス色が強すぎて苦手な感が。題材がとても面白いので、ロマンス抜いたら半分くらいの頁数かな、とか思ってはいけないのでしょうね。

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2019年06月19日

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