【感想・ネタバレ】署名はカリガリ―大正時代の映画と前衛主義―のレビュー

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Posted by ブクログ

 『カリガリ博士』が日本で公開されたのは1921年5月。当時映画製作者として活動していた谷崎潤一郎は、かつて『人面疽』という映画と狂気を扱った自らの短編小説の映画化を計ったが挫折していた。『カリガリ博士』に共鳴した谷崎は絶賛と注文の混じった熱い批評を書く。1923年、溝口健二は、大泉黒石の原作をもとに『血と霊』を制作する。『カリガリ博士』に影響を受けたストーリーや衣装ではあったが、物語としてはメロドラマから脱却できなかった。1926年、嘉仁天皇が、世間の噂の中衰弱していく年に、衣笠貞之助は川端康成らと『狂った一頁』を作り上げる。その中では、精神病院の患者と医療者が、抑圧する/される関係性であることを越えていく。その後1935年に夢野久作が発表した『ドグラ・マグラ』は、1926年の精神病院を舞台としており、物語の中ではあらゆる二項対立が解体していく。『カリガリ博士』の影響は昭和に入り、アジアへの侵略が行われた時期にも及んでいたのである。
 映画史としても、著者が、大正を生きた人々をどのように追っていったかについてのエッセイとしても面白い。

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2023年06月13日

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