【感想・ネタバレ】高倉健の背中 監督・降旗康男に遺した男の立ち姿のレビュー

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Posted by ブクログ

『『冬の華』『駅STATION』『居酒屋兆治』『夜叉』『あ・うん』『鉄道員』『ホタル』『あなたへ』…「敗残者=アウトロー」に魅入られた稀代の監督。その生き方を体現し、運命的邂逅を果たした俳優、高倉健。以後55年、20作に及ぶコンビを組んだふたりの、旅の記録。』
降旗康男のインタビューを中心に高倉健の作品の場面とリンクさせて裏話を語る。とても緻密なのは大下さんのインタビューの力なんでしょうね。おかげでとても面白かった。また映画を見たくなる。
印象的なところのメモ。
日帰りでニューヨークに《ディア・ハンター》を見に行こうと倉本聰を誘う。《ディア・ハンター》は好きで日本で公開前にニューヨークで三回見ている。倉本聰を誘っても英語が堪能でないと見られないと思うのだが。

池辺良曰
『健さんの花田秀次郎が切り込みに行く時、俺の方が健さんの華に負けてしまう。おけは、健さんよりずっと先輩なのに、どうやったら勝てるかと考えた。それでね、衣装の着方と帯の締め方をね、ものすごく勉強し、苦労した。いろいろ研究して、着物を女物の着物の幅でつくってもらった。それをピシッと着こなして、下帯を下に締めて、まるでタイトスカートのようにお尻の線をすごく出るようにした。だから、確かに歩いている後ろ姿を見ると、健さんは乱暴に歩くんだけど、おれの尻はキレイなんですよ。』

《駅 STATION》は倉本聰が高倉健への誕生日プレゼントとして出発した。降旗康男と木村大作がコンビを組むのはこれが最初。最初は相手役に倍賞美津子を考えていたが、「お姉ちゃんが出たいと言ってるから、お姉ちゃんにして」ということで、倍賞千恵子となった。
『高倉健は「演じている」つもりなのかもしれないが、しかし台本に書かれた役を「自分の人生に」引き寄せてしまう、芝居の上での役柄を「高倉健」にしてしまういうところがあった。』

高倉健は時々、仕事の間に抜けちゃうことがある。というのも意外だった。ここで紹介しているのは、高倉健のサイトにスタッフがお金をとっていることを知ってヘソを曲げたエピソード。3日も出てこなかった。気に入らないとすっぽかすというのはどんなものだか。

北海道ロケの時は、北海道の知り合いあちこちに電話して挨拶を欠かさない。電話代が数万円になり、その支払は会社がした。

東映の労組との対立が映画作りに影響してる舞台裏も面白い。伊藤俊也外スタッフに逮捕状が出そうになって、そのままでは逮捕されそうと《網走番外地》の撮影に50人を連れて行く。それままだとストライキされたら困ると普通のスタッフも50人連れていく。100人を超えるスタッフで現場はごった返す。

《神戸国際ギャング》で、高倉健がリハーサルを見てて危ないと思ってセットの強化を頼んだが、聞き入れず結局立ち回りシーンで下に落ちてしまった。それでまた20日ほど消えた。そしてこれが東映を離れる原因となった。

俊藤プロデューサー
『高倉健には子どもみたいなところがある。鶴田浩二の面倒は十のうち三くらいしか見てないのに、健ちゃんのほうは日夜一緒でなきゃ、彼はしょっちゅう不安がる。高倉との歩みはそんなふうにやってきた。だから鶴さんなんかは「なんでそこまで」という気持ちがあったかもしれん。』
『健が、海外に旅に出るとき、置き手紙をしていったのや。それによると、健と鶴田が二枚看板やが、このまま二枚看板を続けていくのは嫌や、いうんや。もし自分ひとりを選んでくださるなら、あなたに一生尽くします、というんや。頭抱えたわ』
これを蹴ったので高倉健は東映を出ていったという話だ。他の本では鶴田浩二も意外と嫉妬深い性格で、自分より人気が出ている高倉健を鬱陶しく思っていたとある。見方によって違う。

《居酒屋兆治》の時、最初は《無法松の一生》のはずだったが、高倉が演じるには高齢すぎるという女性ファンの声で高倉健がごねだした。高倉健は、自分が老けた役を演じることには抵抗があった。白髪の高倉健は高倉健ではないのだ。高倉健が老けることなど許されなかった。

高倉には実はキライな役者が二人いたという。その一人が田中プロデューサーによると、伊丹十三だったという。『わたし、伊丹さんを本気で殴りましたよ。わたしは嫌いですね』とのこと。

『俳優にとって健康の管理は重要です。体をこわしてスケジュールをくるわすと、相手の俳優さんにもスタッフにも悪い。俳優はどんなところへ行ってもいつもの自分で、しかも平常心でいなきゃいけない。それには気を使います。だから南極や北極へは水も食べ物もすべて用意していきました。』
撮影中にすぐいなくなるのと矛盾している気がするが。

《鉄道員》で、高倉は帽子を目深にかぶって表情がとれない。木村カメラマンは雪を掘り出して、キャメラの位置を下げる。坂上プロデューサーは、「帽子をあげてください」って言えばいいのにと思ったそうだが、木村カメラマンは『健さんが帽子をかぶって出てきたら、そのときは、鏡の前でミリ単位で合わせて、かぶってきているんだぞ。とりあえず、現場に来て、ただ帽子をかぶってるわけじゃないんだ』

高倉健の良さは十分に語られていて、そのとおりだが、反面、高倉健というキャラを守るためもあってかなり難しい、偏屈な人でもある側面が語られていて面白い。これで人間・高倉健が活写されている。

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2017年09月18日

Posted by ブクログ

「最初と最後に健さんの歌が付いていて、立ち回りがあれば途中はどうでもいい」東映幹部から「新網走番外地」についてそう聞いたとき、降旗はさすがに憤慨した。映画館で映画を見て幹部の言葉に納得した。なにしろ、映画が始まってギターがポローンと鳴り出したら拍手が起きる。その後、観客の何人かは居眠りを。ラストシーン、高倉が命を投げ出す頃には起きだしてきて、あちこちから「待ってました!」観客がスクリーンに向かって声をかけるほど支持された俳優なんてひとりもいない。大下英治 著「高倉健の背中 監督降旗康男に遺した男の立ち姿」

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2018年12月09日

Posted by ブクログ

 「冬の華」から「あなたへ」まで、高倉健さんと降旗監督の想いや制作秘話を、スタッフや共演者へのインタビューで綴った1冊。2段組みで300ページを超える大作だが、読み始めるとやめられない。憧れの健さんの周辺に漂う空気感がうれしい。
 読むたびにもう一度映画を観たくなってくるが、健さんも含め、彼ら巨匠たちの想いやこだわりが日本映画の停滞を招いた気がしてならない。観客不在で、映画界の”わかった”人たちだけで認め合い高めあった結果が日本映画の停滞だったのではないか。世代交代が進み、再び日本映画が盛り返してきているのが最近の状況だろうか。常ならぬ話・・・。

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2017年10月07日

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