【感想・ネタバレ】逝きし世の面影のレビュー

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匿名

ネタバレ

20年以上に渡り、知る人ぞ知る、というのには異様な存在感を放ち続ける大著。これを完成させた作業量には感嘆するし、著者の考察も鋭くかつ温かみがあり、これを世に出してくれたことには感謝の念があるのは確かだが、江戸期を喪われた文明としてセンチメンタルに解釈するのは、結論に至れなかった人の、放棄とまではいかなくとも他者、後世への委託であるし、オチの無い尻切れ蜻蛉な読後感が強いのは否めない。
江戸期の日本人が持っていた、高い幸福感や自然への同化能力は、メカニズムとして科学する時代になってきており、もはや19世紀の西洋人の記録を含め史料という紙を突き合わせるだけの従来の歴史学は水掛論の温床になるだけである。
20世紀の知識人たちの一方的な支配を痛切に切り崩した功績は大だが、人類が真に次のステップに移るまでの間、この本の内容は保留のような扱いで冷凍されるだろうと思う。著者が言うポストモダン、踏破され尽くした近代というのは、まだ終了していないのだ。

#切ない #じれったい

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2024年05月10日

Posted by ブクログ

2005年、平凡社ライブラリー。
元は1995年から週刊エコノミストに連載されたもので著者は熊本在住、市井の研究者だという。

幕末明治の外国人による日本見聞記を邦訳、原著も含めて広く渉猟し、当時の日本人、とくに庶民の人と暮らしそして社会を描きだたもの。
良いことばかりではないことを意識しつつ、いかに平穏で美しく豊かな社会であったか。それは一つの文明であったとし、自身もその時代に生きたかったと。テーマに分け14章に描き出す。
章立ては次の通り。第1章ある文明の幻影、第2章陽気な人びと、第3章簡素とゆたかさ、第4章親和と礼節、第5章雑多と充溢、第6章労働と身体、第7章自由と身分、第8章裸体と性、第9章女の位相、第10章子どもの楽園、第11章風景とコスモス、第12章生類とコスモス、第13章信仰と祭、第14章心の垣根。
とても良い本だとおもうが、巻末の解説が、戦後の左翼インテリが云々と無関係に述べ、せっかくの清涼な読後感を台無しにしている。

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2023年12月26日

Posted by ブクログ

ネタバレ

      -2008.06.03記

著者渡辺京二は、幕末から明治にかけ来日した多くの外国人たちが書き残した記録や文書、邦訳されているものだけでも130にも及ぶ夥しい資料を踏査、彼ら異邦人たちなればこそ語り得た、この国の姿、庶民たちの生活実相を、12の章立てで本書を構成、近代日本の夜明け前の風景が一大絵巻の如く眼前にひろがる感がある。

1. ある文明の幻影
-まずは本章の最後に置かれた著者の言を引く。
私の意図するのは古きよき日本の愛惜でもなければ、それへの追慕でもない。私の意図はただ、ひとつの滅んだ文明の諸相を追体験することにある。外国人のあるいは感激や錯覚で歪んでいるかもしれぬ記録を通じてこそ、古い日本の文明の奇妙な特性がいきいきと浮かんでくるのだと私はいいたい。そしてさらに、われわれの近代の意味は、そのような文明の実態とその解体の実相をつかむことなしには、けっして解き明かせないだろうといいたい。
-また、本章半ばあたりに展開される論
文化人類学の青木保によれば、翻訳-interpretation-不可能性の自覚こそ、異文化の核心に近づくための前提である。
Singular-風変わりな-とかstrange-奇妙な-というのは、理解不能あるいは理解の必要のないものとして対象を突き放す-そういいたければ差別する-態度の表白でもありうるが、おのれの異質なものに接した驚きを起点として、おのれの文化的拘束を自覚し、他文化をその内面に即して理解しようとする真摯な努力に道を開くものでもありうるのだ。

◇オズボーン-Sherard Osborne、1822~75-と、オリファント-Laurence Oliphant、1829~88-はともに、
1858-安政5-年、日英修好通商条約締結のため来日したエルギン卿使節団の一員。
Osborneに「A Cruisein Japanese Waters」、Oliphantに「エルギン卿遣日使節録」などの著書がある。
Os-
「この町でもっとも印象的なのは男も女も子どもも、みんな幸せで満足そうに見えるということだった」
「衣服の点では、家屋と同様、地味な色合いが一般的で、中国でありふれているけばけばしい色や安ぴかものが存在しない。ここでは、上流夫人の外出着も、茶屋の気の毒な少女たちや商人の妻のそれも、生地はどんなに上等であっても、色は落ち着いていた。役人の公式の装いにおいても、黒、ダークブルー、それに黒と白の柄がもっとも一般的だった。彼らの家屋や寺院は同様に、東洋のどこと較べてもけばけばしく塗られていないし、黄金で塗られているのはずっと少ない」
「あらゆる階級の普段着の色は黒かダークブルーで模様は多様だ。だが女は適当に大目に見られており、その特権を行使して、ずっと明るい色の衣服を着ている。それでも彼女らは趣味がよいので、けばけばしい色は一般に避けられる」
Ol-
「個人が共同体のために犠牲になる日本で、各人がまったく幸福で満足しているように見えることは、驚くべき事実である」
「われわれの最初の日本の印象を伝えようとするには、読者の心に極彩色の絵を示さなければ無理だと思われる。シナとの対照がきわめて著しく、文明が高度にある証拠が実に予想外だったし、われわれの訪問の情況がまったく新奇と興味に満ちていたので、彼らの引き起こした興奮と感激との前にわれわれはただ呆然としていた。この愉快きわまる国の思い出を曇らせる嫌な連想はまったくない。来る日来る日が、われわれがその中にいた国民の、友好的で寛容な性格の鮮やかな証拠を与えてくれた」

◇ブラック-John Reddie Black、1826~80-は、1860年代初めから15年を超える滞在。著書「ヤング.ジャパン」
「思うに、他の国々を訪問したあとで、日本に到着する旅行者たちが、一番気持ちのよい特徴の一つと思うに違いないことは、乞食がいないことだ」

◇いわゆるジャパニーズ.スマイルについて-フランス人画家レガメ-Felix Regamey、1844~1907-著書「日本素描紀行」
日本人のほほえみは、「すべての礼儀の基本」であって、「生活のあらゆる場で、それがどんなに耐え難く悲しい状況であっても、このほほえみはどうしても必要なのであった」。それは金で購われるのではなく、無償で与えられるのである。
このようなほほえみ、後年、不気味だとか無意味だとか欧米人から酷評される日本人の照れ笑いではなく、欧米人にさえ一目でわかったこの古いほほえみは、レガメが二度目の来日を果たした1899-M33-年には、
「日本の新しい階層の間では」すでに「曇り」を見せ始めていた。少なくともレガメの眼にはそう映った。

◇リュドヴィク.ボーヴォワル-Ludvic Beauvoir、1849~1929- 1867-慶応3-年来日、著書「ジャポン1867」
彼にとって、日本は妖精風のLilliput-小人国-であった。
「どの家も樅材で作られ、ひと刷毛の塗料も塗られていない。感じ入るばかりに趣があり、繊細で清潔且つ簡素で、本物の宝石、おもちゃ、小人国のスイス風牧人小屋である。‥日が暮れてすべてが閉ざされ、白一色の小店の中に、色さまざまな縞模様の提灯が柔らかな光を投げる時には、魔法のランプの前に立つ思いがする」
「漆塗りの小さな飾り物、手袋入れの箱、青銅のブローチ」など、「つまらぬものだが可愛い品々」、この「こまごまとした飾り物」こそ彼が発見した日本だった。彼はそういったものに「眼がまわらんばかりに酔わされた」、漆器にいたっては、彼の魅了されぶりは「まさに熱病そのものであった」

◇エミール.ギメ-Emile Guimei、1836~1918-世界有数の東洋博物館として知られるギメ博物館の創設者。1876-M9-年来日、滞在3ヶ月。著書「1876ボンジュールかながわ」
「東京日光散策」日本の第一印象は「すべてが魅力にみちている」、古代ギリシャのような日本人の風貌や、井戸に集う「白い、バラ色の美しい娘たち」や、ひと目で中を見通せる住居の、すべてが絵になるような、繊細で簡素なよい趣味や、輝くばかりの田園風景について、惜しみない讃嘆の声をあげる。サンパンの漕ぎ手たちが発する「調子のとれた叫び声」、重い荷車を引く車力が一引きごとに繰り返す「ソコダカ.ホイ」という歌に似た叫びや、漁師たちの櫓のひとかきごとに出す「鋭い断続的な叫び」、ホテルの窓の下を通る「幅の広い帯を締め、複雑な髪を結った」女たちの笑い声や陽気で騒々しい会話や、宿屋で見送りの女中たちが叫ぶ「サイナラ」という裏声にいたるさまざまな音に心奪われ、ギメにとって日本はなによりもまず、このような肉感的な物音のひしめく世界として現れた。
彼は、鎌倉の八幡宮や大仏を見たあと、片瀬の宿屋に泊まった。床について灯りを消すが、耳慣れぬ物音が続いて眠れぬ夜を過ごした。
まずは波の音-海が震えている、その規則正しい音に混じって、ジ.ジというリズミカルな「一種の鳴き声が家の周りを走る」。そして「木から木へ飛び移る恐ろしい呻き声」、その正体は、風が聖なる杉林を揺り動かし、山が震え唸っているのだ。「星がきらめく夜空の下で、山が海に応え、陸と海とが」二重唱を歌っているのだった。日本の夜にはさまざまの霊や精が呼吸していて、人々はその息吹に包まれて眠るのだと感じて、感銘を覚えずにおれなかったのだ。

◇チェンバレン-BasilHall Chamberlain-1873-M6-来日、1911-M44-年までの長きを滞在。-著書「日本事物誌」「明治旅行案内」
「古い日本は妖精の住む小さくて可愛いらしい不思議の国であった」。しかし「教育ある日本人は彼らの過去を捨ててしまっている。彼らは過去の日本人とは別の人間、別のものになろうとしている」

◇ポルスブルック-Dirkde Graeffvan Polsbroek、1833~1916-オランダ商館員。-著書「ポルスブルック日本報告1857-1870」
「私の思うところヨーロッパのどの国より高い教養を持っているこの平和な国民に、我々の教養や宗教が押しつけられねばならないのだ。私は痛恨の念を持って、我々の侵略がこの国と国民にもたらす結果を思わずにいられない。時がたてば、分かるだろう」

◇エドウィン.アーノルド-Edwin Arnold、1832~1904-1889- M22--年来日。原書「Japonica」
「地上でParadise-天国-あるいはLotusland-極楽-にもっとも近づいている国だ」と賞讃し、「その景色は妖精のように優美で、その美術は絶妙であり、その神のように優しい性質はさらに美しく、その魅力的な態度、その礼儀正しさは、謙虚ではあるが卑屈に堕することなく、精巧であるが飾ることもない。これこそ日本を、人生を生き甲斐あらしめるほとんどすべてのことにおいて、あらゆる他国より一段と高い地位に置くものである」
「あなた方の文明は隔離されたアジア的生活の落ち着いた雰囲気の中で育ってきた文明なのです。その文明は、競い合う諸国家の衝突と騒動の只中に住むわれわれに対して、命を甦らせるようなやすらぎと満足を授けてくれる美しい特質を育んできたのです」
「寺院や妖精じみた庭園の睡蓮の花咲く池の数々のほとりで、鎌倉や日光の美しい田園風景の只中で、長く続く荘重な杉並木のもとで、神秘で夢みるような神社の中で、茶屋の真っ白な畳の上で、生き生きとした縁日の中で、さらにまたあなたの国のまどろむ湖のほとりや堂々たる山々のもとで、私はこれまでにないほど、わがヨーロッパの生活の騒々しさと粗野から救われた気がしているのです」などと、歓迎晩餐会でスピーチをしたが、
翌朝の主要各紙の論説は、彼が日本の産業、政治、軍備における進歩にいささかも触れなかったことに、日本の軽視であり侮蔑であると憤激した。

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2022年10月17日

Posted by ブクログ

幕末から明治末年までの間に日本を訪れた外国人による日本人への眼差し。ディスカバージャパンならぬディスカバージャパニーズ。彼らの見た「幸福な日本人」は我々と同じ民族なのか?違う民族なのか?著者は言います。「文化は滅びないし、ある民族の特性も滅びはしない。それはただ変容するだけだ。滅びるのは文明である。」同じ時期に海を渡った浮世絵やパリ万国博覧会に出品された超絶技巧の伝統工芸品はタイムカプセルのように150年の時を超え里帰り出来るモノとしての文化だけど、本書に記録されているのは二度と戻らないココロとしての文明なのでしょうか?ピサロに滅ぼされたインカ帝国は、実はスペイン人が持ち込んだ感染症によっての滅亡したのである、と言われていますが、資本主義という成長至上主義はここに描かれる「幸福な日本人」にとっての感染症だったのでは?インディオがなぎ倒されるように「幸福な日本人」も絶滅したのでは?それとも今を生きる日本人の心の奥底には、「幸福な日本人」のDNAは生きているのか?今年のノーベル医学賞のスバンテ・ペーボが証明したホモ・サピエンスにネアンデルタール人が繋がっているように。本書を読みながら思い出していたのは、実は『人新世の「資本論」』です。資本主義を超えた幸せの体現が150年前の日本人の姿にあるのでは?機嫌よく、陽気で、人見知りしないで、深く考えない暮らし。たぶん、違うと思いますが…。ちょうどこの本を読んでいる時に朝日新聞の土曜日版「be」での原武史の連載「歴史のダイヤグラム」に編集者としての著者と作家としての石牟礼道子の2ショットの写真が出ていたのですが、我々の暮らしの底流には、この時代の心が生きている、という想いがこのコンビを成立させているのではないか?と思いました。

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2022年10月05日

Posted by ブクログ

薄々感じではいたが、明治維新を経て日本は別物になった。日本近代は江戸という文明の滅亡の上に打ち立てられたのである。渡辺はその文明の諸相を追体験するために当時日本を訪れた異邦人の記録に頼った。それを読むと我々現代人も当時の異邦人と同じ視線で当時の日本を見ていることに気づく。
 江戸後期の日本は私にとっても憧れの時代である。何より羨ましいのは「この国民は確かに満足しており幸福であるという印象」と言うことだ。西洋思想と産業革命が入って来る前の日本が、どれだけ完成された文明を持っていたか。そこには欧米列強の開国要求や西洋文化、近代思想の流入という避けられないものがあって、なるべくしてなったものである。だからこそ儚くも愛おしい。今だからこそ知り、推測し想像しておきたい。我々が直接知らない昔の文明のこと。

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2022年03月24日

Posted by ブクログ

明治維新はクーデターだったのか!
江戸時代の牧歌的風景、人情が著者ではなく第三者によって描かれている処に客観性を感じさせられる、名著だと思った。

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2021年09月22日

Posted by ブクログ

幕末や明治の日本の民衆の快活で自由な、そして精神的に豊かな暮らしぶりを、その当時の来日欧米人の瑞々しい記録から明らかにする

この文化が自分たちのたった150年前のものであるということも、そしてそれが失われていることも、読んでいる私たち日本人の胸に迫ってくる。

明治以降西洋近代化を追求して今にいたるわけだが、本書を読むと、あのとき西洋化の選択をしない道もあったのかもなと思ってしまう。歴史にifはないけど、読み手にそう考えさせる良書。

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2021年09月20日

Posted by ブクログ

江戸末期・明治初期の日本を訪れた西洋人が感じた「驚き」が、これでもかと紹介されている。日本人であるはずの自分だが、これを読むと、彼らと同じ目線で一緒に驚くことになってしまった。

「昔の日本ってこんな感じだよね」と漠然と考えているイメージ(たぶん、時代劇とかで作られたやつ)が吹き飛ぶ。当時の日本はこんなに不思議な国だったのだ。

逆にいうと、先祖代々続いていると思っていた「文明」が一度滅んでいたということ(少なくともそう言っていいほど「西洋化」してしまったこと)。そして、ほとんどの人が、そのことに気がついてさえいないこと。なによりも、それに驚く。

日本人ならこれは読むべき。

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2021年01月12日

Posted by ブクログ

著書は慎重に、しかし「独自の視点を持つ観察者がいて必ず観察され、その視点から言及することを逃れる術はない」というその言及に当たる事実を忘れることはない。
その目線がいかに親日的、優しいと言われようと、そう言われる土壌が、反応する培地があるはずとしてすくい上げた中に、日本人の持っていた心性と、結びついた生活感覚や生活器具、またそれらを取り巻く価値観とコスモス(エコシステム)があったと見る。

他者からの目を(この場合幕末、明治期に来日し記載を残した、外国人の記録物)、徹底的に事実(言及された本文)として取り上げ、それを多く並べ、培地を探る。その培地から上記のような日本人の心性〜コスモスまでを浮かび上がらせる手法をとっている。非常に慎重。

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2021年01月08日

Posted by ブクログ

まず、大著であり読破するのは相当困難であると覚悟してください。あとがき、解説までで594ページ、活字のポイントも小さめで、相当に時間を要します。私はちょうど1週間かかりました。ですが、それだけの時間をかけて読む価値のある書籍であることは間違いないです。特に第一章がやや難解なので、なかなか読み進めないな、と思う方は第二章から読み始めてもよいと思います。具体的でわかりやすいです。

著者は『古き良き日本』を振り返る懐古の書として書かれたのかもしれませんが、これを読んで共感はしても、今さら便利な生活を捨てて江戸や幕末の生活にもどりたいと思う人はいないでしょう。それよりも私が印象的だったのは、ところどころに語られている日本人固有のマインドセットについてです。そこに注目する方が、この書籍を読む価値が上がると思います。『衣食足りて礼節を知る』と言いますが、足りてなくても礼節をわきまえていたのが、昔の日本人であったと知ることができましたし、それは少なからず今の我々の中にも宿っていると私は思います(やや薄れてきているのは否めませんが)。

ぜひ、一読をおすすめいたします。

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2020年09月06日

Posted by ブクログ

冒頭の章で、本書の資料として外交人の手記を用いることを通して、いわゆる左翼的知識人を批判しつつ、文化人類学の神髄とポストオリエンタリズムを説くあたり冴えている。

いわゆる「厚い」記述が続く。

第7章 自由と身分が面白い。抑圧されていた庶民のイメージが変わる。
第9章 女性の位相も考察が良い。この時代の女性の人間関係のダイナミズムを浮かび上がらせつつ、現代が短期的な地位の平板さに落ち込んでしまっていることに思いがいたった。
第10章 子どもの楽園は驚かされた。男が赤ん坊を抱いていた!とは。 
第14章 心の垣根での本書のまとめ方は見事。

著者は時代は変わるということを前提としている。
しかし、私にとってはこの本で披露されている文明がたとえ滅び、昔噺に過ぎなくなってしまったとしても、現実にあったことなのだ、という事実は希望に感じる。あるべき社会をイメージすることほど、難しいことはないからだ。

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2020年03月08日

Posted by ブクログ

かなり分厚いので果たして無事に読み終えるのかと不安だったけど
なんだかんだで最後まできっちり読めた。
古き良き日本と言ってもいいのか悪いのか
今の生活とは考えられない幕末~明治初期あたりまでの
外国人が実際に日本に来て、その目で見た日本の姿が鮮明に描かれている。
これをまとめるのはさぞかし大変だったろうと心から感服すると共に
今の殺伐とした平成最後の世とはあまりにもかけ離れているような
あぁでもこんな時代もあったのだなと沁みる。
もちろんいい面も今では考えられないようなこともあったにせよ
そこ百何十年前まではこの姿が、ごく当たり前だったのかと思い知らされる。
色んな歴史の本を読んだけど
教科書には決して載っていない、ありのままの暮らしや文化・環境が
ものすごく新鮮だったし勉強になったなぁ

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2019年02月14日

Posted by ブクログ

江戸時代後期から明治時代にかけての日本を訪れた西洋人の日本に関しての著作をもとに、当時の日本がどういう国であったのかを解き明かそうという意図の本。
まず、この本を書くのはほとんど信じられないくらいの労力が必要だったであろうことが分かる。当時の西洋人の日本に関する著作を読み解き、それをカテゴリー別に分類し(本書は14の章だてとなっている。1つは全体のまとめなので、13のカテゴリーに分けて書かれていると読める)、そこから当時の日本の様子を浮かび上がらせる、という構成の本になっている。書けば簡単に思えるかもしれないけれども、とんでもない力業だと思う。
書名が秀逸だ。当時の日本というのは「1回かぎりの有機的な個性としての文明」を持った国であり、その文明は「明治末期にその滅亡がほぼ確認されていたことは確実」なものである。同じ日本であるが、現代の日本とは全く違う文明を持った国であったわけで、その姿を「逝きし世の面影」という詩的な書名に集約させている。読み終わってから、なんと秀逸な書名なのだろう、と感づく。
久しぶりに面白い本を読んだ、という感想。

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2023年03月27日

Posted by ブクログ

膨大な外国人から見た幕末から明治の変革期の日本人のありようの資料から、現代の日本人が失った子供のような無邪気な好奇心、他者との垣根の低さ、情熱、身体の逞しさなどが伝わり、文明とは時代と共に移り変わる部分もあることが生き生きと伝わってきた。個を大事にする文化が明治以降に入ってきて、良い面もたくさんある反面、失われた生命力とでもいうか、素朴な生きる力があったのだと気付かされ、現代を振り返って見ると若者の自死の増加など複雑な想いが湧く。

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2023年08月28日

Posted by ブクログ

江戸時代の日本の文明について書かれた本。前近代が近代に移行する直前の爛熟した文明について、当時の外国人の記述など資料を紐解きつつ解説している。現代の我々とは地続きでありつつも異質であり、当時の異邦人のように江戸文化を楽しめる本である。現代人の忘れてしまった人間らしい生き方を教えてくれるところもあり、示唆に富んだ本である。

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2023年05月03日

Posted by ブクログ

日本の原風景が日本に滞在していた外国人の記録を通して明らかにしている貴重な本。
現代日本の姿と対比すると有意義。特に仕事に誇りを持って個別に役割分担が細分化されていた個人事業の集積のような経済社会であった事が推測できるのが興味深い。

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2023年03月13日

Posted by ブクログ

読みごたえあり。
全部で600ページ近くあるし、理解するため砕きながら読むには少し難しい。
ただそういう吟味とは別に、江戸時代中後期から明治始めにかけて、日本人の生活や風俗,習俗はどうだったのか、またそれを当時日本に来ていた外国人にはどのように映っていたのかを知るところに焦点を当てれば、理解しやすいし、またとても面白い。
もちろん彼らにとって、長短どちらの面もあるようだが、概して非常に賛美していると感じた。
ただ、どちらかと言えば精神的にナイーブで、西洋人には少し劣った民族と映っていたように感じた。逆にそれが彼らにはとても新鮮で、忘れられた精神上の桃源郷のように思えたのかも知れない。

しかし昭和時代、田舎ではまだそのような風習が残っていた気がする。
もちろんITとテクノロジーが進歩した現在では、見る影もないが。

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2023年03月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

江戸時代後期に日本を訪れた外国人による、日本の庶民生活の見聞録。
長くて読みにくいけれど、拾い読みだけでも十分に楽しめた。 

決して豊かとは言えないけど、最低限の衣食住に満ち足りた表情をしていた庶民。勤勉さ礼節は浸透しているが、仕事はほどほどに子どもから老人まで楽しんで生活をしている。またよく手入れされた自然と共存している生活の景色は美しい。

この本の中での証言を繋ぎ合わせると、この上ないユートピアに感じる。タイムスリップできるならこの時代に行って見てみたい。

確かに日本の庶民にも格差はあり、決してこのように満ち足りた生活を送れている集落だけではなかったと思う。それに、比較対象としての海外が、近代化に移行中という労働者階級にとって厳しい状況にあったということも当時の日本の生活をいいものとして捉えられた理由の一つだとも思う。

それでも、混乱のイメージがあった幕末にこのような庶民の生活が存在していたことに新鮮な驚きがあるし、「逝」っていまったとは言え、そのような性質をもった民族が祖先だと思うと少し嬉しくもある。

マニアックな本だけど、おすすめしたくなる。

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2022年02月24日

Posted by ブクログ

文庫本なのに600ページぐらいあります。買うとき背表紙の説明文とかもはや見てません。表紙に風情があったのと、この分厚くてごつい本を読んだという事実が欲しいがために手に取りました。


内容はふつうに良かったです。現代において「幸せとは何か?」を考えるときの参考になる気がします。

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2022年02月17日

Posted by ブクログ

あるレビューが頭から離れずにいた。
「長い上に読みにくい。訪日外国人の手記を集めて粉々に砕いて部分部分に埋め込んでしまっている」
それでも何とか読み切れたのは他でもない、外国人によるきめ細やかな記録のおかげだ。

彼らの観察眼はとにかく鋭い。着物の色から庶民が発した言葉まで、日本各地を旅した彼らの成果をまとめたら一冊見事なガイドブックが出来上がるのではないか。
当時の物・事を詳しく知りたいのなら第三者の記録をあたるのがやっぱり一番。お辞儀の仕方ですら、時代劇で見るのとは違うことが分かる。

レビューさんの仰る通り、確かに外国人の手記を集めただけのように見えて読みづらい。
ただ彼らの声を追うごとに時代小説を読んでいる時よりも現代の日本とは別世界に思えてきたし、純粋に自分もその世界を旅してみたくなった。
基本的に錠が備え付けられていないという江戸期の家屋に、明け方彼らが堂々と入場してみたら家の者が快く迎えてくれた…というどちらがまともなのかが分からなくなる記述もあったりと、コミカルな一面もあったりする。

「人びとを隔てる心の垣根は低かった」

彼らの記録した日本人はよく笑い、伸び伸びとしていて好奇心も旺盛。当時の感覚では「他藩=外国・海外=別の惑星」だったとどこかで読んだ気がするが幕末に明治維新とピリついた時代だったにも拘らず、みんな心に余裕があって臆さずに(異星人に等しい)外国人をもてなしていた。攘夷だの佐幕だのと騒いでいたのは実質志士達だけだったのでは?とさえ思えてくる。

「エルフ・ランド(妖精の国)」「みんな幸せで満足そうに見える」「この国では、暇なときはみんな子供のように遊んで楽しむのだという」「ここには詩がある」
思わぬ日本人像で実際戸惑った。あの底抜けの優しさにはこちらも心地良くなったが、この頃の人間にはどうしても戻れない。片や現世での生き様も考えものだ。
どんな人間でありたいか。逝きし150年前の人達は考えもしなかっただろうな。

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2022年02月09日

Posted by ブクログ

既に失われた明治以前の日本人の暮らし向きや価値観を、当時の日本を訪れた外国人の手記・著書から紐解く。
今となってはいかに西洋由来の価値観が日本の日常に浸透しているかを自覚できる。ナショナリストが唱える「日本人らしさ」が空虚に響くほど、本書が紹介する失われた時代の営みは日本人の自分にも驚きを与えてくれる。

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2020年06月05日

Posted by ブクログ

半七捕物帳の時代の副読本として読む。
本書は江戸後期から明治初期に日本を訪れた外国人による日本訪問の記録を集めて、近代化以前の日本の面影を描写してみようという試みである。
この手の「日本」をテーマにし、良き点を書いた本は、どうしても左翼知識人からはオリエンタリズムに過ぎないと批判され、自国の文化を誇らしいと思いたい右翼に賞賛される。しかし、あくまで近代化によって消滅した文明を描くことで現代の参照にしたいという興味であって、それらの議論には興味がないという宣言をしている。第一章はこの立場表明に費やされている。
この第一章が難関で、今まで何度か断念していた。
あとは読みやすく、興味ある項目から拾い読みしても面白いと思う。幸福そうでみんなが満足しているという、日本はどんなところだったか。

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2020年05月19日

Posted by ブクログ

幕末から明治期に訪日した外国人たちの日本に関する記述から当時の日本・日本人を考察する一冊。

私自身は留学経験があり、個人旅行や出張で海外に滞在することも多く、意外とどこでも楽しく過ごせるんだけれど、それって個人の素質・向き不向きがあるんだと思う。どちらが良いとか悪いとかではなくて。慣れている場所以外では楽しめないっていう友達もいるし。
あと、その滞在国に合う合わないもある。ある国の国民全体で似た性質を分け合うなんてあるわけないと昔は思っていたけれど、これまでフランス、ベルギー、オランダ系の企業で働いてきて「国民性」ってあるんだなと実感している。私はラテン系の国のほうがなんとなく肌に合う。
昔日本を訪れた外国人達ももちろん、個々に違う素質を持っていたわけで、ある人には日本は素晴らしく、ある人には最悪に映ったのは当然だと思う。また、自分が他の人と違う特別な経験をした場合、その経験を大げさに「盛る」人も多いから、彼らの言うことを100%信じていいのかという思いもやっぱりある。

でもそれにしても、当時の訪日外国人の目に映った日本人のなんとチャーミングなことか!陽気でユーモアがあって、好奇心旺盛で人懐っこくてものすごくオープンで、優しくておおらかで、でも礼儀正しい。最高か。
「日本には、礼節によって生活をたのしいものにするという、普遍的な社会契約が存在する(182ページ)」…つまりみんながお互いに気を使いあうことでお互い気分よく楽しく生活しようとする意識を社会で共有していたのだ。でもそれは、お互いが監視しあい縛りあい、委縮しながら生きているような現代社会とは違う段階でなされているように見える。
「あたえられた生を無欲に楽しむ気楽さと諦念(568ページ)」を持ち、「自然環境と日月の運行を年中行事として生活化する仕組み(568ページ)」を持っていて、世界で最も遊び好きと評された当時の日本人と今の私たちとでは、血筋も何も完全に断絶して刷新されたように思えるけれど、外出制限中にも「密じゃなければいいだろう」とばかりに海や公園に行っている日本人を見ると、意外とまだ往時の遺伝子が残ってるのかもと思えて、可笑しい。(笑ってる場合じゃないけれど。)
どんな時もどんな場でも笑えることを見つけ、自分たちの失敗も可笑しがるという性質も続いているなと思う。
単純だけれど、こういうチャーミングな人たちの系譜に自分もつながっているのかと思うと、なんだかうれしくなった。

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2020年04月23日

Posted by ブクログ

今の常識が過去の常識ではない。ここ数十年の話に過ぎないことも昔からのことに思っていることが多い。
そういうことを痛感させられる。

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2020年01月24日

Posted by ブクログ

江戸時代の日本を訪日した外国人の視点で文化、文明を紐解いていく。
失われたものは何であったのか?そして残されたものは何であるのか?
あらためて考えさせる一冊。

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2019年11月23日

Posted by ブクログ

文化は滅びないが、文明は滅びる。失われた徳川時代の社会の姿を外国人たちの手記から探る作品。今では完全に失われてしまった過去の日本の姿に惹きつけられました。

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2019年11月22日

Posted by ブクログ

秀作。
150年前に日本の一つの文明が存在し、消滅しようとしていた。
まだ自分が子供だった、50年ほど前にも僅かに残っていたと思う。
お金にとらわれない、時間にとらわれない、笑って生きる。
礼節はわきまえ、助け合う。
自然が豊か。

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2019年01月19日

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ヤマザキマリの望遠ニッポン見聞録の参考文献だったのんで読む。◆MMの登録ユーザー数が200越で吃驚。

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2020年07月27日

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開国後に訪日した外国人の書き記した文献や絵画から当時の日本を眺めることができます。

現代の日本人はストレス過多で、人の目を気にして自分の気持ちを押し殺しながら日々の糧のために生きていると感じているのですが、
この本に書かれた日本人は愛嬌があり寛容で働きながらも祭りや季節の行事を楽しんでいて、何やら違う民族の話を聞いてるような感覚になります。
けれども、本来そう言った気質があったということは、現代日本人にも素質はあるのではないか?と希望を見出せるのではないでしょうか。
困難なことでもその中から独特な発想で解決を導き出したり、遊びが好きな気質などがそれに当たるかと。
昔に戻ることはできませんが、目指すことはできます。過去称賛ではなく、良いものに目を向けそれを伸ばしていく。本書からはそんなきっかけが得られるかもしれません。

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2024年04月05日

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ネタバレ

江戸から明治期に日本を訪れた外国人が日本に関して著した書物を、テーマごとに紹介する。
もっとも、単に外国人の日本評を紹介するだけではなく、日本の知識人にありがちな文明開化以前の日本に関する否定的な評価に対する批判や、オリエンタリズム批判に対する批判を目的としている。

知識人の文章にありがちな、冗長で過剰な表現や比喩がやや鼻につく。

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2023年05月07日

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古き良き日本と言ったりする。江戸時代の庶民の暮らしや「三丁目の夕日」。みんなが夢を持っていた的な。でも本当にそうだろうかと思い購読。江戸末期から戦後までの日本を訪れた外国人の記録を中心に、その頃の日本と日本人がどう見られていたかを膨大な文献から分析・まとめたもの。この時期に日本を訪れる外国人は観光客などではなく研究者や軍人、政府関係者であり日本に対する知識水準は高かったと思われる。礼儀や従順さ、幸せな笑顔、清貧など、「三丁目」的な評価の一方で、男女問わず人前で行水することを全く恥じない様子や武士による切り捨て御免、乞食や娼婦の多さ、出稼ぎ労働者に対する劣悪な労働環境など、東京オリンピック間近でも影の部分は少なくない。こういう面もあったのかと忘れずにいたい。

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2020年01月08日

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