【感想・ネタバレ】中上健次の生涯 エレクトラのレビュー

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Posted by ブクログ 2021年01月27日

中上健次は気になる作家の一人だが、なぜかこれまでその作品に触れたことがなかった。
苦手な純文学、芥川賞作家、難解な表現、更に作家から匂う暴力的な風貌が自分の中で危険信号となって増幅し、
触れてはいけないイメージと重なって、ずっと敬遠していたのかもしれない。
中上の生涯を描いた高山文彦『エレクトラ』は...続きを読む、このところの出張の友として鞄に入れていた。
作者は被差別部落で生まれ育った中上の少年時代から、作家として認められていく過程をあますことなく綴っていく。
46歳で逝く晩年では、中上が故郷・新宮の路地にこだわる心境を見事に分解、分析してみせる。
この手法は出世作となった『火花~北条民雄の生涯』で確立した、執拗なまでの取材が基盤となっている。
これまで中上作品を読んだことがない僕にも、すぐに手に取ってみたくなる魅力的な表現があふれているのだ。
あまたのノンフィクション作家がいるが、高山文彦は自分の中では格別の存在として位置づけたくなった。

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Posted by ブクログ 2016年07月14日

中上健次ほど、「いとおしさ」を背後に秘めた作家はいない。
出生の秘密、作家としての立身、路地の現在状況、などなどが渾然一体となって中上の豊穣な文学を作り出しているのだということがわかる。
そして新宿の生活、永山則夫への過剰とも見える共感。
すべてが彼の文学的資産になった。

そしてさらに、小...続きを読む説だけでなく、韓国文学の紹介者、義父七郎との対立ともなる部落解放運動など、
行動者としての側面もしっかり描かれている点は勉強になった。

作家がスターである時代は、三島の死によって終焉したが、
中上は間違いなくその資格をもっていた。
私小説がまだ有効であった時代の波を受けて、彼なりの翻案が生きる。
(車谷長吉の私小説はまがいものである……褒め言葉です)

読んでいて何度も涙腺を刺激された。
評伝の傑作。
中上のテキストを丁寧に読み込んでいるのが、またよい。

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Posted by ブクログ 2013年01月16日

中上健次という作家の魅力は幾つもある。土着的な世界を1つの神話として現代に構築したその想像力、独特の文体、魅力的な人物造形・・・。しかし、その中でも最も僕を惹き付けるのは、やはり彼が自らの「血」の問題を徹底的に考え抜いて、小説の世界に昇華させた点である。

全ての芸術は完成した途端に作家の手を否応無...続きを読むしに離れていくことを考えれば、その作者の生涯と作品自体には何の関係もないと言える。にも関わらず中上健次の半生を追い、なぜ作家となったのかという点を描いた本書は、単なる伝記批評の枠に留まっていない。それは中上健次という作家の作品が、「路地」と呼ばれる被差別部落出身であり、「路地」を1つの可能性の中心として見ていたこと、そして、本書の著者である高山文彦がその「路地」の緻密な取材に基づき、中上健次という作家の核を描くことに成功したことにある。


これを読んで、親友の柄谷行人による彼の追悼文を読み返した。本書でも何度か泣いてしまったが、この追悼文でまた泣きたくなった。中上健次とは僕にとってそういう作家である。

「そもそも中上健次以上に「文学」を信じている奴はいなかった。私は、中上がいるから「文学」とつながっていたのだ。その逆ではない。ニューヨーク・タイムズで彼の死を知ったポール・アンドラが今日、中上はほとんど重力の無い環境に重力をもたらした、という手紙をファックスで送ってきた。その通りだ。私は今、重力の喪失を感じる。」
(柄谷行人 『坂口安吾と中上健次』pp196より引用)

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Posted by ブクログ 2010年11月03日

家族とは、人間とは、生きるとは何か考えさせられました。
何という壮絶な人生。中上作品をぜひ読んでみたいと思います。

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