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放浪のユダヤ人作家ロート。5篇の短篇の主人公たちも放浪する。故国を遠く離れて。ナポレオンはヨーロッパをかき混ぜ、第一次大戦はヨーロッパの枠組みをぶっ壊してしまった。民族自決という名の下にバラバラになったオーストリア帝国。行き過ぎた民族主義はユダヤ人に対する憎悪を引き起こす。ヒトラーを予見させる『蜘蛛の巣』と亡き帝国の挽歌である『皇帝の胸像』は鏡像のようだ。せつない愛の物語2篇もいい。表題作は作者そのものらしい。淡々とした筆致で書かれた物語たちは甘さのあとにくるほろ苦さのようなものを含んでいた。
『聖なる酔っ払いの伝説』でもアプサンの代用酒でペルノーを飲んでるけどヨーロッパではアプサンがそんなに飲まれてたのかな?アプサンはたしか毒物だったはず…。
Posted by ブクログ
『蜘蛛の巣』
1923年に書かれた本作は、既にナチの脅威を的確に予知しています。ロートは予言者であり、シャーマン。アル中ゆえでしょうか。もしくは時代を感じとる神経過敏さがアル中へと繋がったのでしょうか。またこれがウィーンで新聞連載だったというのが凄い。
ヨーゼフ・ロートの何が凄いかまとめると、
・10年後のヒトラー台頭の予言と、ナチというものの原理を的確に描写
・「ユダヤ人に向けられた憎しみの心性」をユダヤ人が的確に描写
・当時の陰惨な世界を渇いた目で描写。ワイマール後は想像以上に地獄だったようで。簡潔な文体で、今でもありありとよみがえらせるところ
・亡命してアル中で死ぬ点
ここには、貧困と格差による鬱屈した人々の感情が、はけ口を求めて秩序の崩壊と胡散臭い扇動家へのコミット。民主主義の危険性。煽動の中心には、政治思想が無く権力欲のみ。それこそが「ヨーロッパの申し子」である。
民主主義というものが永遠に内包しつづける問題が考えられて、現在の見方が少し変わる。戦後の民主主義という虚像への希求がなんともまあ、切実なものとわかる。
「聖なる酔っぱらいの伝説」はそれら全部を踏まえて読むと泣けてしまいそうです。