【感想・ネタバレ】ご遺体のレビュー

\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ

鬱蒼と茂った木々から燦々と零れる日の光。キラキラ輝く湖面には水鳥が遊び、湖畔には百合の花が咲き乱れ蜜蜂が飛び回る。湖の小島は幸せなカップルたちのデートスポット。でもじつは墓地。首吊りでも事故死でもまるで生きているかのように活力あふれた姿に再現する遺体処理師と化粧師。〈心安らぐ死を半ば愛して〉焼かれ、退色する束の間の芸術作品。文学に死はありふれたテーマのひとつだが、遺体や葬儀をテーマにした作品は珍しい。イギリス人らしいブラックユーモアだ。英詩人たちやポーの詩の引用もよかった。

0
2014年07月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

1948年発表。原題は「The Loved One」で、岩波文庫からも『愛されたもの』というタイトルで出版されている。ハリウッドにあるペットの葬儀屋で働くイギリス人のデニス、大手の葬儀社「囁きの園」を訪れたデニスは、そこで働くエイメに恋をする。しかし、エイメの上司で遺体処理師のジョイボーイも彼女に気がある様子。

遺体処理の工程や、霊園の区画分けや価格設定など、「囁きの園」は非常にシステマティックに運営されている。現在の日本ではあまり抵抗を感じないけれど、カトリックを信仰していたウォーにとっては不謹慎に思えたに違いない。(カトリックでは死後の復活を信じているので、埋葬方法も伝統的に土葬が中心だった)

「囁きの園」に送られてくる遺体は、ジョイボーイが整形、防腐処理をおこない、化粧師のエイメのところにまわってくる。彼女に送られてくる遺体はいつも満面の笑みを浮かべているけれど、エイメの心がデニスに傾いたとたん、悲しい表情を浮かべるようになる。ほかにも、「囁きの園」のオーナーである「ドリーマー」、新聞のコラムで悩み相談を連載する「導師バラモン」といった妙な人物が登場し、最後には後味の悪い結末が待っている。「死」をネタにした、究極ともいえるブラックユーモアには、ただただ苦笑いするしかない。

0
2022年04月14日

Posted by ブクログ

原題ザ・ラブド・ワンというのが「仏様」という意味があるそうだが、物語中では本来の意味も持つのである。男二人の間で何度も婚約解消を繰り返す女。思わせぶりな行動ではなくマジでやってるが、果たして(どっちが?)振り回される程の魅力があるんだか、よくわからない。新訳という企画で読みやすい。が作者の意図はなんだ?なぜだかペットの葬儀業界に勤めるのが恥みたいに書かれてるが、実際に自分の中でも偏見がなくなったのはごく最近かも。愛する人もペットもアメリカ人もイギリス人も死んだら皆墓に入るんだよ、と言う話なのかな。

0
2019年02月06日

Posted by ブクログ

ネタバレ

昔『黒いいたずら』や『ポール・ペニフェザーの冒険』を読んだ。(『ブライヅヘッドふたたび』も読んだが、これはちょっと毛色が違う。)イギリス人らしいブラックユーモア(それもかなり冷血)が好きだったのだが、ずっと翻訳されない状態で、ほとんど忘れていた。しかし、気がついたら最近たくさん翻訳が出ていたので、読んでみた。

しかし、『ブライヅヘッドふたたび』が『回想のブライズヘッド』になったのはまあいいとして(吉田健一訳だったから、格調高いのはいいけど、「ヅ」はさすがにもう古い、と思ってたので)『ポール・ペニフェザー‥‥』は『大転落』、これは『愛された人』と、同じ本とは思えないタイトルで出版されていて、知らないと間違って買ってしまう。
『愛された人』の方が原題The loved oneに近いが、こちらの『ご遺体』も、本文を読んでみると悪くない。主人公がペット葬儀屋に勤めていて死んだ動物も出てくるので、それも含めたら「人」が入っていない方が良いし、亡くなった人(や動物)に対する思いが物語に感じられないところも、このタイトルなら表現できる。

イギリス人は知的で上品で格が上だという自意識を嗤いながら、アメリカ人の無教養、見た目さえ立派ならそれでいいというところも馬鹿にしていて、温かさは微塵もない。主人公のデニス・バーロウは元婚約者の(葬儀屋兼霊園に勤める死化粧係の)エイメが自殺しても、全く悲しまない。遺体を処理して切り抜けることしか考えていない。リアルに考えれば恋人が自殺して、自分との関係が原因だと思われれば、罪悪感を感じて当然なのだが、そんなお涙頂戴的なことを書こうとはウォーは全く思っていない。
登場人物それぞれの愚かさと、ドタバタ劇が笑えるかどうか。好き嫌いが分かれる作家だと思う。

私は、やはり割と好きだ。主人公が詩人を目指しながらペット葬儀屋の仕事に満足したり、ハリボテ感満載の霊園を大したものだと感心したりするところも可笑しいし、自殺したサー・フランシスの葬儀を手配する場面なんかすごく面白い。
恋人のエイメが有名な詩人の名詩をデニスが書いたと思って感動したり、結婚相手を選ぶ基準がめちゃくちゃだったりするところも良い。
恋敵のジョイボーイをもう少しはっきりしたキャラクターにすれば、もっと面白かったんじゃないかと思う。

0
2020年08月19日

Posted by ブクログ

いわゆる「ユーモア小説」で途中まで、ウヒヒって感じで心の中で笑いながら読んでいたけれど、あるところから「まぢか」と気持ちが一転。

ユーモアもここまで突き詰めるのかと、本気のユーモアを見た気持ち。
そこには妥協も優しさもなくて、書いている人が登場人物たちを突き放している!!!と感じた。

でもその「まぢか」から先にそれまでいろいろ散りばめられていた伏線がすっと回収されていって、実は一番おもしろい。そして切ない。

短くて読みやすい。
ちょっとスパイシーな息抜きしたいときにおすすめの本。

0
2019年06月30日

Posted by ブクログ

 皮肉が強烈にきいていてとても好みの作品。葬儀会社もビジネスだから商業化するのも分かるのだけど、そこをユーモアのある視点で徹底的に皮肉っていて、その不謹慎さが面白さに繋がっているブラック喜劇。

0
2015年12月21日

Posted by ブクログ

これは読んでないぞ!と買ったら新訳でタイトルが全く違うのでした。少しでも似ているタイトルだったら買ってなかった。The Loved Oneが原題で、確かに他の訳も少しわかりにくいのではあるが。なんか詐欺の出口にあった気分だけれども、ウォーはウォーで私は好きな作品なので、新たに手に取ってみるのも良い。

0
2014年01月07日

Posted by ブクログ

アメリカ西海岸を舞台に、ペット葬儀会社で勤める詩人を主人公に配した風刺的なエンタメ小説。

作者の何ともいじわるな目線が溢れた、ユーモラスな小説。
やけに大仰な葬儀産業を通してアメリカの資本主義を皮肉り、プライドばかり高いが実力社会のアメリカで体面を保とうと汲々とするイギリス出身者、自分の理想の愛のために右往左往し挙句に完全に己が悩みだけで自分を追い詰め命を絶つ女性、アメリカ人が誇って止まない「アメリカ的な生活」に対する皮肉・・・
と挙げればキリがないが、著者はアメリカ滞在の経験でよほどアメリカのことが滑稽に見えたのだろう。
そしてそれをバカにしつつも、そうは言っても必死に生きていかねばならない同国のイギリス人をも滑稽に描いている。

ストーリー自体は、どうにもエイメ自体が死を選ぶ理由についていけないし、面白いけど格別というほどでもない良質なエンタメというところ。
著者のシニカルさを楽しむ一作だろう。

0
2013年05月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ハリウッドのペット葬儀社で働く元詩人の主人公と、人間専門(?)の葬儀社に勤めるヒロイン、彼女の上司の奇妙な三角関係を描いた辛口ブラック恋愛コメディ。
主人公の恋敵であるエンバーマーが、ヒロインの気を引こうとする方法が斬新すぎ&怖すぎ!個人的にはこういう ブラックな結末は好きだけど、あまりにも強烈な毒の効かせ方を受けつけない人もいそう。
登場人物の名前もジョイボーイ(能天気と訳せばいいのか)とかエイメ・タナトジェノス(死の一族)とか、ポーの命名センスに近いものを感じる。
イギリス人気質やアメリカの商業主義、社会のあらゆるものに対する強烈な違和感と皮肉が切れ味鋭く表現されている。

0
2013年03月28日

「小説」ランキング