【感想・ネタバレ】ウォール街の物理学者のレビュー

\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ 2018年10月20日

物理学者、数学者、統計学者達が金融業界に足を踏み入れた。彼らは数理モデルを作り金融の動きを追いかける。かならずしも究極理論ではない。現時点でのモデル化である。しかし、適用範囲を注意深く監視し、モデルの修正を絶え間なくやっていったもの達は成功した。デリバティブを開発したのも物理学者であるが、その使い方...続きを読むを間違えると金融恐慌になってしまう。数理モデルで金融の仕組みを完全に解き明かすことは将来ともできないだろうが、その適用範囲を注意深く見極めるものには有効な武器となる。

0
ネタバレ

Posted by ブクログ 2015年10月12日

”ウォール街”に代表されるファイナンスの世界で物理学者(というか数学者も含めた理系研究者)とその理論がいかに活躍しているのかを描いた本。

一般には金融工学の行き過ぎがリーマンショックにつながったと理解されているところがある。本書はそのような評価に対して、金融危機が生じたのは金融工学の数理理論の適用...続きを読むにあたってその限界を越えて誤って使っていたからであり、常に進化を続けている理論を正しく使っていれば、金融危機を当の理論のおかげで防げたかもしれないと主張する。実際に統計的理論によって金融ショックからは無傷であったプレイヤも少なからず存在していたことを挙げている (その例として、経済や金融出身者を雇わず、物理学や数学の分野を学んできた人間だけで固める、ジェームス・シモンズ率いるルネサンス・テクノロジーが挙げられている)。

本書は、統計理論を金融市場に適用してきた歴史をその理論を発明した具体的な登場人物を挙げてひもといたものだ。数理理論の経済への適用の歴史として、本書はルイ・バシュリエという20世紀初めのフランスの経済学者から始める。バシュリエの理論によると、株式市場における株価は、予測可能なできごとをすべて織り込んでおり、そこから上がるか下がるかはランダム(=正規分布に従う)だと仮定する。そこから一定の期間後の株価の分布を統計的に予測する「ランダムウォーク仮説」が導かれ、オプション価格が決定される。その理論に対して、オズボーンは株価が正規分布するのではなく、株価収益率が正規分布するという、より現実を正しく補正した仮説を提唱する。更にフラクタル幾何学の研究で有名なマンデルブロにより、大数の法則に従わないコーシー分布の適用が提唱されたり、更に一般化されたレヴィ安定分布により分布のランダムさという概念が取り入れられたりといった理論の発展・精緻化が行われる。このようにして、数理モデルはその限界を広げていったというのが筆者の見立てである。

そして、アメリカにおけるオプション取引市場の開放とブラック・ショールズモデルの登場とを契機としたデリバティブ取引の拡大やヘッジファンドの隆盛が描かれる。金融市場が直面したボラティリティやファットテイルリスクからマンデルブロの理論が見直されたり、カオス理論のバタフライエフェクトが注目されたりといったように市場の危機においても理論数理学と経済学との関係性が見出される。

『ブラックスワン』などで指摘される数理理論の限界性に対しても、ディディエ・ソネットによる統計解析によるバブルの検出と崩壊予測が理論により可能であることを紹介している。ソネットは市場バブルを”ドラゴン・キング”と呼び、実際にリーマンショックの金融危機の到来とその時期をもほぼ正確に予言していた。さらにソネットは日本の1999年のアンチバブルも同様の手法により予測して、その1年での株価上昇を言い当てている。ここで著者は、ブラックスワンのように見えるできごとのなかには、ドラゴンのように足音を立てながら近づいてくるものがたくさんある、といい、例外事象を予測して対策を立てることも不可能ではないとしている。

どんなことでもそうだが、科学を現実に導入するためには、その限界条件を正しく認識した上で適切に導入することの重要だ。先の金融危機は住宅市場の独立性という誤った前提をもとにリスク管理をしたことによるもので、理論自体が主な問題であったわけではないというのが著者の主張だ。しかもその異常状態は、統計的にも予測可能であったことも付言しているわけである。

本書の最終的なメッセージはどうやら次のようなもののだろう。理論は、正しく使われなくてはいけないし、正確に知られるべきであるということだ。つまり、「投資に物理学を使うつもりなら、その理論の限界を正確に知っておかなくてはいけない ... 物理学のやり方を忘れて物理学を使おうとするときに、危険はやってくるのだ」

ちなみに原題は、”The Physics of Wall Street - A Brief History of Predicting the Unpredictable” - 『ウォール街の物理学』と『ウォール街の物理学者』とでは印象が違う。『ウォール街の物理学』の方が妥当だと思うんだけど、本のタイトルとしては今の方が若干の誤解はあっても座りがいいのかもしれない。最後には、ゲージ理論やひも理論まで出てきたので、タイトルも正当化されたかもしれない。

こういう解説本は、日本人著者だと新書なんかで同じような内容は書けるのかもしれないけど、登場人物の描き込みやストーリーの作り込みなどの点で、このような海外ものの方が一枚も二枚も上だ。話の中盤にネタ的に入れられる数理理論学者の統計的発想によるブラックジャックやルーレットでの必勝モデルの構築とその実践は、読み物としても面白さを加えているし、結局のところ株式がギャンブルとの相同性を持つとともに、統計的考え方が非常に重要であるというメッセージを示すことに成功している。

ということで、結構面白かったのでおすすめ。

0

Posted by ブクログ 2015年06月05日

2008 年の世界金融危機の震源地「ウォール街」。リーマン・ブラザーズなど銀行や証券会社が相次いで破たんしていく中で、悠々と利益を上げているヘッジファンド があった。この会社には、金融の専門家は一人もいない。代表を含め、ここで働いている人間は理系の人間ばかりだ。金融界にとって異分子である彼らはどう ...続きを読むやって成功を手にしたか。理系の人間でなくてもじゅうぶん楽しめる本だ。
(W)

0

Posted by ブクログ 2014年01月26日

「ウォール街の物理学者」(原題: The Physiscs of Wall Street -A brief history of predicting the unpredictable-)
を読みました.タイトルの印象と違って,営みとして科学を描いた素晴らしい本でした.

この本のテーマは物理学・...続きを読む数学と経済・金融の融合領域の現代史なのですが,(アカデミア・企業に関わらず)基礎研究の大切さを強く擁護する本になると思います.経済の動きを説明・予測する数理モデルを研究した人達の物語を通じて,「仮説を立てて,検証して,改善する」という科学のプロセスとその重要性,モデルの前提を忘れてモデルを過信する誤謬の危険性が描かれていました.

また,科学者同士の出会い,アカデミアの制度,戦争・核開発・化学繊維の発明・宇宙開発・大恐慌といったイベントが,個々の物理学者や分野の方向性にどう影響したのかも興味深かったです.「物理学者や数学者が経済・金融を研究する」ということがなぜ当然と考えられるようになったか,そもそも物理学者や数学者が「応用」に進出することがなぜ一般的になったのか.こういったことは,自分の研究分野の今後を考える上でもヒントになりそうです.

この本は「ブラック・スワン」に対抗して(?)書かれたようで,エピローグの「理数系の頭脳は苦境の原因ではなく,解決策なのだ」はとても強いメッセージだと思います.

0

Posted by ブクログ 2024年04月10日

金融の世界を物理学(金融工学?)を元に立ち向かったクオンツ達の歴史をドキュメンタリーテイストで描かれている。
具体的な計算方法等は無いが、紐解く為のワードは多く記述されているため金融工学の知識を得るには良い書籍とおもった

0

Posted by ブクログ 2018年11月23日

物理学者達と金融の関わり。経済・金融への物理の手法の応用の歴史について。
また現状の金融の問題を解決するための物理的思考の有用性について。
ルイ・バシュリエとランダムウォーク、正規分布
モーリー・オズボーンと対数正規分布
ブノワ・マンデルブローとフラクタル、ファットテール分布
エドワード・ソープとデ...続きを読むルタヘッジ
フィッシャー・ブラックとオプション価格
ジェームズ・ドイン・ファーマー/ノーマン・パッカードとカオス、非線形予測、遺伝的アルゴリズム
ディディエ・ソネットと対数周期的破壊現象
エリック・ワインシュタイン/ピア・マラニー/リー・スモーリンとゲージ理論的経済指数

0

Posted by ブクログ 2018年10月31日

物理学が経済・投資の分野に利用されてきた歴史を追う。ランダムウォーク、対数正規分布、ファットテール、CAPM、ブラック・ショールズといった理論の誕生の経緯が語られている。また、これらの理論を生んだ、ある意味はぐれ者たちの生い立ちも描かれていて、読み物としてとても面白かった。

ルイ・パシュリエは、ア...続きを読むインシュタインがブラウン運動を数学的に説明する5年前に、株価の動きがランダムウォークで動くことを発見した。モーリー・オズボーンは、株価が正規分布になるのではなく、収益率(変動率)が正規分布になることに気づいた。無限に長い壁に向かってランダムな方向に発射された弾の位置は、正規分布よりファットテールなコーシー分布となる。ポール・ピエール・レヴィは正規分布とコーシー分布の中間にレヴィ安定分布を発見し、その教え子だったブノワ・マンデルブロは、商品価格がレヴィ安定分布になっていることに気づいた。

エドワード・ソープは、ワラントの空売りとその元になっている株を買うデルタヘッジのやり方を使って年平均20%の利益を出すことに成功し、それを45年間続けている。ジェイ・リーガンはソープとともにヘッジファンドを立ち上げ、その成功をきっかけにして多数のクオンツ系ヘッジファンドが生まれた。

ジャック・トレイナーは、リスクと期待リターンを組み合わせたモデル(CAPM)を完成させた。トレイナーのポジションを引き継いだフィッシャー・ブラックは、株とオプションを配合したポートフォリオをCAPMを使ってリスクフリーとすることに取り組み、マイロン・ショールズとともにブラック・ショールズ方程式を作成した。しかし、ソープとブラックのモデルは、どちらも収益率が正規分布になることをベースにしていた。

0
ネタバレ

Posted by ブクログ 2014年12月15日

ウォール街の物理学者については、高度な数式を駆使して新たな金融の仕組みを作り出す一方で、リーマンショックを引き起こす原因となった人達という程度の認識だった。本書では数々の研究者の紹介を通じてどのような変遷を通じて現在に至ったかということと、あくまで物理学はツールであり、リスクを理解した上で正しく使う...続きを読むことの重要性が繰り返し語られており、今までの自分の見方があくまである一面からのみだったことに気付いた。

0

Posted by ブクログ 2013年11月13日

クオンツについて、経済系のジャーナリストや学者で書かれたものはいくらかあるが、これは珍しく物理学者の手によって書かれたもの
とはいえ、著者からの経済へのアプローチは表面的なものに留まっているし、経済から物理へのアプローチもまるで満足できる内容ではない
異なる分野を横断しようとした蛮勇は評価できると思...続きを読むうが、あまり読んでいてためになるものでもなかった

0

「ノンフィクション」ランキング