【感想・ネタバレ】華岡青洲の妻のレビュー

\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ 2023年11月02日

恐らく中学時代…先輩が書いた読書感想文で本書を知った。
1804年(文化元年)世界初の全身麻酔による乳ガン手術に成功した華岡青洲。その成功の裏には自ら実験台になることを願い出て失明した妻 加恵の内助の功があった。感想文にあったそんなあらすじを読んで、すぐさま「自己犠牲がテーマか…」と気が進まなくなっ...続きを読むた。

理由は単純で、エゴ極まりない10代の頃は誰かのために尽くしたり何かを差し出したりすることに対して、激しい嫌悪感を抱いていたから。何がそのような行動を取らせるのか、まだ理解できていなかったのもある。
そうして自分のエゴを優先していくあまり、本書の存在は記憶に埋もれていったのだった。

そして1年ほど前、知人から本書をレコメンドされてようやく今辿り着いた。
加恵の行動は自己犠牲を表していることに変わりはないが、それ以上のテーマが中で逆巻いていたことに気づいてゆく。
いわゆる「嫁姑問題」。しかも「彼女ら」の場合はページを追うごとに特殊な域に達していき、しまいには「加恵の置かれていた立場を考えると、あの自己犠牲も当然の成り行きだったのかな」とまで思わせる結果となった。
これは感想文を書いた先輩にだって想像してもしきれるものではなかったはず…。

物語の主人公 加恵は元々紀州地侍 妹背家の出だった。
士の娘が何故医家の華岡家に嫁ぐことになったのか。それは必然的なもので、加恵を請いに華岡家当主の妻 於継(おつぎ)が妹背家を訪れた時から全ては動き出していた。
夫(華岡雲平、のちの青洲)が遊学中の際も寂しくならずに済んだのは、小姑たちと協力して家を切り盛りしていたこと、そして何より於継の存在が大きかった。憧れだった於継に迎え入れられたことが加恵の心の支えになっていたのだ。
それがある出来事を境に二人の関係性は暗転してしまう…。この時の加恵の心情を代弁するなら「可愛さ余って憎さ百倍」が妥当だろう。

ありがたいことに今の自分は嫁姑問題で悩むことは一切ないが、加恵が家の一員になろうと試行錯誤する様子は中学時代とは比べ物にならない程よくわかる。
青洲に自分や自分の子供を認識してもらおうと必死になるところだってそう。そのためには於継との腹の探り合いやある種の化かし合いにエネルギーをつぎ込まねばならないが、彼女はいくらでも厭わなかった。

人々の間で加恵と於継は青洲を支える良き妻と母として語り草になっている。冒頭の読書感想文の他に読んだ歴史漫画にも、加恵の献身は美談として描かれていた。でもそれが全てだろうか?

映画『タイタニック』の「女の心は海のように秘密がいっぱいなの」というセリフを思い出す。美談で輝く水面下で本当は何があったのか、それは二人にしか分からないこと。
でもラストのくだりを読んでみると、実は青洲には全てお見通しだったんじゃないか。分かった上で、地球のように海ごと包み込んでいたんじゃないか。そう思えて仕方がないのだ。

0

Posted by ブクログ 2023年01月15日

高校生のとき以来で読み直したら、とてつもなく面白かった!
世界初、全身麻酔による乳癌手術を成功させた医師とその家族の物語…ときくと何やら高尚で敷居が高そうだが、「バッチバチな嫁姑もの」という普遍的でエンタメ性高いエッセンスをまぶして描くセンスの凄さ!
有吉佐和子さんは「悪女について」も読み返したい!

0

Posted by ブクログ 2020年07月05日

女という生き物の肚の底にある黒いものを、鏡に映し出すように、ありのまま書き出している。華岡家という特殊な家庭が舞台でありながら、その中で展開される嫁姑関係は、女性なら誰でも共感できる普遍性を持っている。
男をめぐる嫉妬、決して自分から仕掛けていかない消極的な攻撃性、対外的な建前、本音全てをさらけ出せ...続きを読むないもどかしさとそこから生まれる誤解…女であれば、必ず経験したことのあるどろりとした感情が満載。
青洲の前で、加恵と於継が自分を実験台にしろと迫る場面は圧巻。
また、物語中盤まで沈黙を守ってきた青洲の妹が、鋭い指摘をするシーンは、自分もぎくりとしてしまう。
物語最後の一文は、華岡家においてこれだけの存在感を示していた加恵と於継ーすなわち「女」が、結局「家」という制度の影に埋もれてしまうという皮肉を表していると感じた。

0

Posted by ブクログ 2018年11月24日

物語そのものよりも、史実からこの物語を描き出す有吉佐和子の洞察力と、その本質である「家」と女ってとこに踏み込む明晰さにビビる
頭良すぎるのに圧倒される作品だけど、作品としては、一の糸のほうが良い

0

Posted by ブクログ 2018年10月31日

華岡青洲(はなおか・せいしゅう)を語るには、まず麻酔の歴史を語らねばならない。欧米ではじめて全身麻酔がおこなわれたのは1840年代。アメリカの歯科医モートンがエーテル麻酔による公開手術を成功させ、それまでは泣きさけぶ患者を押さえつけておこなわれていた外科手術に大きな革命をもたらした。以降、麻酔法は欧...続きを読む米を中心に急速な発展を遂げてきた。

しかしそれに先んじること数十年、独自の手法で全身麻酔を成功させていた日本人外科医がいた。それが華岡青洲である。彼は生薬由来の麻酔薬「通仙散(つうせんさん)」を独力で開発し、全身麻酔下で乳がんの手術を行なった。1804年のことである。あまり知られていない事実だが、記録に残るものとしては、これが世界初の全身麻酔による手術であった。

薬の開発には、人体実験が不可欠である。青洲が通仙散を完成させるにあたって、自ら望んで被験者となった者たちがいた。青洲の母・於継(おつぎ)と妻・加恵である。彼女らの命がけの協力のおかげで、青洲は通仙散を完成することができた。ことに、薬の副作用で失明してまでも青洲に尽くした加恵の献身ぶりは、医者の妻の鑑(かがみ)として後世に語り継がれるほどであった。

…史実はここまでである。しかし有吉佐和子は、この感動的な逸話を、まったく異なる視点から再構築してみせた。なんと、於継と加恵が進んで麻酔の実験台になったのは嫁姑のいがみあいの結果であり、いわば封建的な家制度の犠牲になったというのだ。

青洲をめぐって対立する於継と加恵。水面下で繰り広げられる熾烈なバトルの行きついた先は「青洲のために、どちらがより多くの自己犠牲を払えるか」だ。女の意地の張り合いが麻酔薬の飲み比べに発展してゆくさまは、狂気以外の何ものでもない。その対立を結果的には利用して、青洲は妻に薬を飲ませ、自分の目的を達成する。

女性の奉仕を当たり前のように搾取して成り立つ「男」という存在、「家」という制度。女たちの苦悩も悲哀も結局は、それらに呑みこまれて忘れられてしまう、この不条理。実母と兄嫁のいさかいを間近に見てきた小姑が、死のまぎわに言いのこす言葉が重い。

〈私はそういう世の中に二度と女には生れ変わりとう思いませんのよし。私の一生では嫁に行かなんだのが何に代えがたい仕合せやったのやしてよし。嫁にも姑にもならいですんだのやもの〉

フィクションのはずだが、つくり話と笑いとばすことのできないリアリティがこの作品にはある。この国で女性として生きるということ――。作者の告発は今もなお、私の心をとらえて離さない。

0

Posted by ブクログ 2017年09月24日

物凄い一冊。どの時代においても先駆者と呼ばれる人は苦労と努力を繰り返してきたんだなぁ。結婚に対しても考えさせられた。もっと評価され、取り上げられるべき一冊だと思う。

0

Posted by ブクログ 2017年08月25日

日本の小説では一番好きな作品かも。

旦那を立てるという、本来控えめな妻の立場なのに、全然違う。主人公のあの芯と意志の強さに、つくづく感嘆。

女って、大変だよなぁ…。

0

Posted by ブクログ 2016年09月21日

切れ味、迫力あり。芝居にもなり有名な作品であるからこそ、だいたいのストーリーもわかっていて読んだ気になっていたが、それはもったいないことだ。きちんとこの文章を読むべきだ。これぞ小説だ。

0

Posted by ブクログ 2016年07月09日

「生まれてくるのが華岡の家の者というなら、産もうとしている加恵は華岡家ではまだ他人なのか。加恵の歯も舌も胃袋も、華岡家の代継ぎを養うための杵と臼のような道具でしかないというのか。」

再び有吉佐和子。読むとそうそう、有吉佐和子といえばこれこれと頷くような女の妬みや情念の世界に引き込まれる。

社会に...続きを読む役立ったり誰かを助けることができるなら、自分の命は惜しくないと思わないこともないが、やはり人間自分が結局一番可愛かったりして自身を売ることなどできない。

医者の妻、医者の親であれ、自分の命を懸けてまで麻酔の実験台になると思うであろうか。

加恵の気持ちは想像できる。売られた喧嘩は買わねば。女に嫉妬されたら必死で守らなければ。それが義母であろうと。でも、まだ於継の心情はわからぬ。いつか愛しい息子などを産み育て、お嫁さんをもらう日がきたらわかるのだろうか。

華岡青洲は、世界で初めて全身麻酔手術に成功した医者(江戸時代)。

0

Posted by ブクログ 2024年04月06日

とても日本らしい嫁姑関係が主題の作品。
話の舞台は江戸時代後期、でもこの小説が書かれたのは1960年代くらいだから、2世代・3世代くらい前まではどの家庭でも似たような感じだったんだろうか(今もか)。
日本が近代化して150年くらい経つけど、家庭レベルではまだまだ日本は封建的だってことだ。

0

Posted by ブクログ 2023年12月29日

今更ながらの同書ですが読む気になったきっかけは、ここ数年ずっと冬場に霜焼けが酷くて皮膚科に行ってもさして好転せずにこの冬たまたま出会った漢方軟膏が存外に効き目あり♪

しかもこれは遥か昔の江戸時代にかの華岡青洲が創案した軟膏であると!

この著書の名前は聞いたことがあるし大昔にずいぶん愛読され且つ映...続きを読む画もドラマも大ヒットした記憶があるんだけど、こんなきっかけで初めて読む気になったのであります笑

いやあ青洲の妻と姑との長くて物凄い葛藤の物語だったのですね!
医家の嫁に相応しいと早くから見込まれ請われて嫁いだ加恵と、非の打ち所がないと近辺で評判の姑 於継の二人だったけれど、世間で言うところの嫁姑の関係どころではない静かだが激しい憎悪があらゆる部面で影に日に展開する様が凄いこと!そして間に立つ青洲のいずれにも付かず離れずの絶妙な態度と立ち位置、依って見習うべし⁈

江戸時代に世界で初めて全身麻酔のもと乳癌手術を施し成功した青洲もさることながら、競って自身を捧げて彼に協力し支えたとされる二人の女性の意地と意思の張り合いがなんとも凄まじい。

同時に華岡青洲という人物の断片も知ることが出来て、遅きに失したとは言え遅ればせながらも読めてほんとに良かった‼︎

0

Posted by ブクログ 2022年12月30日

大家の作品だけあり、安心と重厚感がひしひし伝わる読みごたえのある作品であった。
麻酔薬開発の裏に嫁 姑 小姑の関係あり
一気に読み終えた。

0

Posted by ブクログ 2022年09月01日

八月三十日 有吉忌 
有吉佐和子さんの作品はほとんど読んでいませんが、華岡青洲の妻は、とても引き込まれた作品でした。
華岡青洲は、世界で初めて全身麻酔による乳癌手術に成功した外科医。庶民大衆への治療に従事しながら、麻酔剤を精力的に研究していた。
主人公は、この医師の妻となった加恵と、この医師の母であ...続きを読むる於継。母は、大成を期待する息子の為に、自ら嫁として加恵を選ぶ。選ばれた嫁は、美しい姑に畏敬の念さえ持ち、喜び嫁ぐ。
しかし、嫁姑は、一人の男性、青洲を巡り、優位性を保つ為、静かに激しく対立していく。
そして、麻酔剤の人体実験をも競い合うように申し出る。青洲は、母には軽度の麻酔剤を試し、妻には完成を目指す麻酔剤を投与する。
以前(すっごく以前ですが)読んだ時、実は、全部史実だと思っていた。それほど、この女性たちの冷戦状態が生々しい。この母嫁の存在は事実らしいけど、創作であり小説。
華岡青洲を医師として成功させる為、家族が献身的に支える。それに応えていく青洲に家族は幸福を得る。とはいえ、姑は息子を我が物とし医師の母として生き抜き、妻は寄り添うことを切望しながら医師の妻として生き抜く。
世間からは美談とされた献身の影の恩讐。たぶん、それに気がついていたけれど、研究に没頭する青洲。青洲の功績を、当時の封建社会下の家庭にふみ込んで、親子、夫婦、兄弟姉妹、それぞれの心理戦を加え名作だと思います。

0

Posted by ブクログ 2022年03月03日

どこの家庭でも問題はあるんだなぁと思う。それを乗り越えてどっしりと構えられるのだと思うと自分はいかに甘ちゃんだと実感。

0
ネタバレ

Posted by ブクログ 2021年05月29日


世界初の全身麻酔手術が日本で行われていたことなんて全然知らなかったので、そこでまずビックリ。(無知で申し訳ない)

そして青洲が自分の母親と奥さんを実験台にしていたのもどうやら史実。どこまでがフィクションなんだろう?ってすごく興味がわいた。日本史とか勉強してた時代に知りたかった〜〜

全身麻酔をは...続きを読むじめて打った人とトマトを初めて食べた人は全人類にとって功績者だと思ってるので、心の底からすごいと思いました。

表向きは綺麗なフリをした嫁姑ドロドロバトルものとしても面白かった!笑

0

Posted by ブクログ 2021年04月14日

名医である華岡青洲の元に自ら実験台(?)になる人は,当時は大勢いたことだろう。通仙散の開発にも多大な手間をかけたことだろう。

著者である有吉佐和子は,その内でも華岡青洲に嫁ぎ妻となる「加恵」に焦点を当てて,自ら実験台として身を捧げることを切り取ることで,女の壮絶な人生を描写したのである。これはかな...続きを読むりの力技で,多少の曲解おそれず,史実以上に優先したいことがあってのことだろう。

とはいえ,表向きは「華岡青洲の世界初の乳がん手術の成功,それを支えた麻酔薬の通仙散」を讃えることに成功している。

これが何か超現象かなにかによるものなのであれば一種のホラー作品にとどまる。しかし,当時の閉ざされた社会と曼荼羅華のもたらす毒気は,現代にも通じる不気味さである。

0

Posted by ブクログ 2021年02月11日

こっわ。
和歌山のことばだからまだマシな感じが…。
日本で初めて、いや世界で初めて全身麻酔での外科手術を行った医師の話、という知識しかなかった。が、嫁と姑の美しく壮絶な物語であった。

0
ネタバレ

Posted by ブクログ 2020年11月18日

嫁姑の確執が、派手に言い合う訳でなく、お互い出方を伺うようなやり方が、ドロっとしてて怖い。
そして、息子・夫を挟んでのやり合いがなんとも虚しい。
結局、名医となり成功したのは青洲。
この嫁姑のバトルを見てみぬふりしていたのは、何ともしたたかな。

0

Posted by ブクログ 2020年08月01日

どろどろした嫁姑関係、無関心を装う夫。もやもやいらいらしながら読み進める。
実験に身を投じる女性達の動機が、お互いの因縁と青州への執着に終始しているのが滑稽に思えてならない。
女達の見えている世界が狭いのは仕方のないこと。けれども哀れだなと思う。
ラスト近く、小陸が死ぬ間際の言葉に、カタルシスを感じ...続きを読むた。
賢い彼女に、女に生まれ変わりたくない、といわせた時代。現代は当時と比べずいぶん女性が生きやすくなったけれど、それでもやっぱりまだまだぬぐいけれていないものが多いな、と感じた。

0

Posted by ブクログ 2020年01月24日

於継を加恵の「推し」として読むと最高にオタクでグロテスクな前半なので好き。

序盤はもやもやから始まった。冒頭から地の文においても於継の美しさを煩いほどに強調する。そんなに美しい美しいってそう美しい人が出てこないと物語始まらないの?確かに美しい人って人の噂話を膨らませるには重要なツールかもしれないど...続きを読む…この作品も歴史ものだし、語り継がれてきた噂話あるいは史実っぽさを出すにはそういう感性なんですかね?って…

だがアイドルオタクであるわたしは途中でハッとした。

ちがうちがうこれは「推し」だ!

と。

作品前半では加恵にとって於継は至高の存在。決して自分と交わることのない世界線にいる崇め奉る偶像だ。推しは尊び崇拝するもの。だって加恵は幼い頃に一度見ただけなのに、想像力で補いながらその於継に憧憬を抱き続けるのだから。

それを確信したのは加恵の祖父の通夜の場面だ。加恵は弔問に訪れ焼香をする於継を菩薩来迎の図になぞらえ心で賛美する。於継の髪の先から爪の形までうっとりと魅入るのだ。

憧れ?そんな生温いものではない。この喰入り方。「推し」以外にあり得るだろうか。私はドキドキさせる人を見たときのオタクの異常な語彙力を思った。そして有吉佐和子は100オタクだろうと。そういえば彼女、歌舞伎界に出入りしていたとかってどこかで読んだような。よし今度調べます!


そんな異様な高まり方をする序盤の天井をつき破るのがその後の展開だ。
なにせその「推し」がいきなり玄関を叩いてあちらからやってくるのだから。堪らない。さらに於継は加恵を(長男の)嫁に欲しいと言い出すのだから震える。

その壁をぶち破るのかぁーーー!ってな。

ここまでの美しさとか憧れに対する自分の距離がぶち壊されて行く感じがたまらなかった。超えてはならないレベルに崇めきってからの、この距離の詰め方は違法である。私は興奮を抑えられなかった。

そんな「推し」との距離を破壊し、自ら乗り越えて行く加恵の描写でもっともグロテスクなのは、内腿のつねり合いなどではない。風呂だ。

嫁入り当初加恵は於継の使い古しの糠袋でごしごしと自分の肌を磨いていた。於継の使ったものを使うことで、その瞬間だけ自らの肌が白く滑らかになるような気がしたからだ。だが、夫が京都から帰り嫁姑として冷たいものが流れ始めるとその糠袋がとたんに汚らしいものに感じるようになる。どうしてこんなもので自分の体なんて洗えたのだ、と。

最高だった。

ただその後の嫁姑の体を張ったバトル的な展開は、昔のワイドショー的な感覚というか、男はぼんやりしていて女と女にしか分からない確執があるみたいな描き方は凡庸な気がして残念だった。あと最後に史実的な記述と墓碑とかにフォーカス当てたりするのも中途半端と思ってしまった。

でも文章は本当に最高。作品に対して批判的に感じてしまった部分もあったけど、時代的な背景と価値観もあるだろうし、有吉佐和子が目指していた作家像みたいなものが分かれば納得する部分もあるのかもしれない。

0

Posted by ブクログ 2018年09月04日

江戸時代紀州の外科医で全身麻酔を世界で初めて扱い外科手術をした、華岡青洲の妻、加恵を主人公にした歴史小説である。たくさんの犬猫による実験の後、青洲の母親と嫁が人体実験に名乗り出た。
嫁姑問題というのは、古今東西本当によくあることなのだと改めて思った。青洲への愛情を嫁姑で競うあまり、どちらがより犠牲に...続きを読むなれるかという争いに発展する。姑は人々の噂になるほど若々しく美しいため、嫁となった加恵は劣等感からやきもきし、家の中で表立っては和やかな、でもチクリチクリとしたやり取りが行われる。
青洲の医者としての志は素晴らしいが、人体実験を申し出たために、妻の加恵は視力を失った。富裕な武士の家の出身で貧しい医者の家に嫁いだのは、どんな気分だったろうか。また、なかなか跡継ぎの男の子が生まれず、忸怩たる思いをした加恵の心情は想像に難くない。
紀州の不思議な方言が優しげで和む。

0

Posted by ブクログ 2018年07月08日

紀州出身の有吉佐和子による、世界で初めての全身麻酔による乳ガン摘出手術という偉業を成し遂げた華岡青洲と母・妻の愛と確執を描いた一代記。
医師となる息子を支えてもらうため、自ら乞うて嫁に来てもらった母である於継(おつぎ)と幼き頃からその姿にあこがれを抱き、喜びとともに家に入った妻である加恵(かえ)。し...続きを読むかし青洲への愛(息子と夫という次元の違う愛であるが)をめぐって姑と妻の確執は募り、ついには共に麻酔薬への実験台を自ら申し出た。
ベストセラー作家であった著者は生前自分のことを「才女」と呼ばれることを何よりも嫌っていた。しかし本作品や『紀の川』『恍惚の人』に代表される一連の作品を読めば、誰もがそう呼びたくなるはずだ。

0

Posted by ブクログ 2018年05月29日

世界で初めて麻酔を用いた手術(乳癌手術)を成功させた人。

華佗などは伝説であり、実証された最古の人物が日本人であったとは知らなかった。

本居宣長などが西洋医学を研究している中、麻沸散の開発に至ったその功績や、最新医学の開発には人体実験の影がある。といった『白い巨塔』や『ブラックジャック』的な...続きを読むメッセージ性のある医療小説と思って読んでみたが・・・

英文版のタイトルが、『The Doctor Wife』となっているとおり、嫁姑戦争がこの物語の中核。

不意打ちでした。

でも、女性同士の行き違いや、嫁姑戦争の成り行きの勉強になった(笑)

影は薄くなってしまったが、華岡青洲の医師としての姿や、方言、当時の家制度、医療事情もおもしろかった。

0

Posted by ブクログ 2018年01月27日

一八四二年、世界で最も早く全身麻酔による癌摘出手術を行なった江戸時代の名医 華岡青洲の物語……ではなく、その母と妻、つまり嫁姑の関係を描いた有吉佐和子の代表作の一つ。

於継にあこがれて嫁入りした加恵の姿が印象的なだけに、その後の疑心暗鬼が積み重なる嫁姑の関係が心に刺さる。一生を嫁がずに過ごした小陸...続きを読むの晩年も印象的で、女の一生とは何なのかという問いを様々な視点から投げかけつづける。久しぶりに面白い小説を読んだ。

0

Posted by ブクログ 2017年02月18日

嫁姑って今でもこんな心境なんだろうな。

周りを見ても、母、息子、嫁を取り巻く思いはこんな昔から変わらないものだと思った。
最後まで二人の確執が続いていたのも現実味があった。

遠く離れて暮らす、夫の母もこんな思いなのかしら。


私には加恵さんほどの愛はありませんが(笑)

ドラマ化されてたの知ら...続きを読むなかったので、見たかったな

0

Posted by ブクログ 2016年05月19日

多分学生時代以来の再読、やっぱ有吉佐和子は書ける作家ですな。この間読んだ本はなんやったのか?
さておき女の情念でしょうか?怖いなぁ、嫁姑の怨念に満ちた争いもそうだが、姉の透徹さも。それを見て無ぬ振りというか、多分本質的に分かってないんだろうな、男は。(男)社会・歴史上での評価との落差含めて上手く描か...続きを読むれていて、ほんとすらすらと読める(褒め言葉としての)王道娯楽小説です。
ところで本作、史実を歪曲してるとか何とかいった論争があったやに聞いておるのですが、小説に何故そんなことを言う?よく分からん、まさに言い掛かりと思うのだが、時代が時代だったということなのかな?すいません、よく承知していないのに詰まらん戯言を最後に記しまして。

0

Posted by ブクログ 2013年10月03日

すばらしき 文章の巧み。

単に 嫁と姑の葛藤を描くだけではあきたらず、
嫁と姑の葛藤を 兄妹、夫の立場からみていることに
興味を惹く。

0

Posted by ブクログ 2023年09月20日

いくら創作と言っても、実存した家庭の内部をこんな風に書いてしまっていいのか?と、余計な心配をしてしまいました。それくらい、嫁姑の完璧な確執がドラマチックです。
文体は古風だが、読みやすい。
難しい単語に注釈が付いている本を久しぶりに読みました。スマホが出現してから辞書を開くことがなくなってしまったか...続きを読むら、この注釈を読むのも面白かったです。

0

Posted by ブクログ 2022年01月09日

嫁姑が競って当主の人体実験のために自らを差し出すシーンは迫力満天。天明の飢饉の頃の紀州藩の様子、庄屋と医家の社会的ステータス、江戸時代の医療事情…知らなかった「江戸時代」が描かれていて新鮮だった。
世界初の全身麻酔とそのための人体実験に参加した母と嫁、という史実を出発点に当時の世相と嫁姑の愛憎劇を描...続きを読むき出したのはさすが。

ただ読後は不完全燃焼な感じが残った。嫁の姑に対する敵対心が描かれているだけという感じが否めなかった。於継が何を感じていたかは結局加恵の憶測の域を出ず、何より嫁姑バトルを関知していない当主青洲の視点はもとより、そんな当主に対する加恵の不満や疑念すら描かれていない。「加恵の思い過ごしでは?」という思いがずっと拭い切れずに最後まで至ってしまった。

0

Posted by ブクログ 2019年03月21日

華岡青洲を支えた実母・妻の献身の裏には壮絶な嫁姑関係があった、、というお話。

嫁姑の間の嫉妬、恨み、虚栄心が、自らを人体実験に差し出すまで行き着く様がとても緻密に描かれている。

0

「小説」ランキング