【感想・ネタバレ】肉体の悪魔のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

10代で書かれたものとは思えなかった。
傍からみるとどうかしていると思うくらい強烈な感情を抱いている主人公の様子が淡々と綴られている。コントロールできない強い感情が愛情とは矛盾した行動をとらせるが、それが「僕」の未熟さや利己的な執着心を感じさせた。
最後、ジャックと子どもの行く末に希望を見つけたように思うが、寂しさが漂っていて印象的な終わりだった。

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2023年09月02日

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ストーリーは非道徳的であることは間違い無い。愛情に狂わされていると言うより10代の自分の感情に自分自身が驚きながらも冷静に女性を弄ぶ主人公(作者の実体験でもあるところがエグい)に嫌悪感を抱く人もいるだろう。そんな小説がなぜ古典として読み継がれるのか。文章の切れ味。感情の描写の巧みさ。戦時下という特別な時間の普通ではない時だからこそ起きたことかもしれない出来事とその悪魔的な引力。全てが奇跡的に組み合わさって書かれた小説。

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2023年09月01日

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人妻に恋をした少年の倒錯的かつ不安定になるほどの情熱に身を焦がしていく心理が見事で、愛しさだったり憎らしかったり、人間味溢れた情動に加えて不倫という禁忌的な関係にスリルさ・破滅しか待っていないであろう未来への不安・2人だけの特別で確かに幸せを感じられた時間など心にダイレクトアタックしてくるのがたまらない。

また、エロくないようでエロさを感じさせる表現も素晴らしく、思春期の少年が経験するには早熟過ぎる肉欲やマルトが妊娠してしまってからの後戻りできない片道切符、夫の愛に背いた果ての結末に魂奪われました。

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2023年04月05日

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フランス文学。
第一次世界大戦の時期にも重なってくる約100年前にラディゲが著した。

結末にショックを受ける。
誰にとっても救われない淋しく切ない恋の物語。

戦争というのは直接的なだけでなく、間接的にこんな不幸の爪痕も残すのか。

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2018年11月25日

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少年の愛と性欲に翻弄され葛藤しながらもがく心理状態がすばらしく描写されている。そのなかに時に恐ろしい冷酷さも入ってきて、人間の底知れぬ怖いものも垣間見える。
コクトーといいラディゲといいこの時期のフランス文学いいですね。

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2016年01月10日

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お話の内容は単純でした。でも主人公の感情が痛いほど伝わってきて、その単純さをいい意味でぶち壊した。ラディゲが私と同じくらいの歳でこの小説を書いたなんてとても思えない…。深すぎます。

こんなにすごい小説久しぶりに読んだ気がします。次はもう少し大人になってからまたこの本を手に取りたいです。

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2012年10月27日

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青い麦と違い、あまりにも自堕落なストーリー。こちらは16歳の少年と19歳の人妻の物語だけど、なかなか16歳少年が狂っている。まさにフランス文学!あまりにも面白くいつもや読まない巻末の解説を読んでしまった。
少年だけではなく、周りの家族もおかしくそんな馬鹿な!って思ったが、この物語、ほぼほぼラディゲの体験談そのものと知り二度びっくり。
人妻との禁断の恋というのは何もフランス文学だけでなく、日本でも甘美な色物としてよくある話なんだけども、主人公のへその曲がった性格がこの物語の主軸となり関係するすべての人間関係を狂った方向へ導いてしまった。エンタメ要素は少ないながら結末をワクワクしながら読めた。やっぱりたまには海外純文学を読まないとだめだなぁと思う。

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2021年03月30日

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15歳と19歳の人妻の不倫の話。現代でもそんな話があったらセンセーショナルなのに、第一次世界大戦の時代にはさらにセンセーショナルだっただろう。しかもこの小説は作者が16歳の頃に書き始めたという。私が忘れつつある青春の感情がたくさん詰まった本だなと思ったが、実際に体験している「今」を描いているのなら納得だ。

作者は20歳で亡くなってしまったらしい。第一次世界大戦という普段とは違う状況が、夫の長期不在という状況を作り出し、そこに普段とは違う状況が生まれる。では戦後長生きしていたらどんな作品を生み出してくれたのだろうと推測してしまう。

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2021年01月13日

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本文に描かれる恋愛観が、私のものととても似ていた。
そのため、「僕」の持つ嫉妬心や残酷さが表出するたびに、私自身の本性を暴かれているような気分になった。
ラディゲは約100年前のフランス人だというのに、現代の日本にも通じる「人を捉える力」を持っていたのだろう。
男の内面に向き合える本。

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2020年10月07日

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引用。

僕はマルトにキスをした自分の大胆さに呆然としていたが、本当は、僕が彼女に顔を寄せたとき、僕の頭を抱いて唇にひき寄せたのはマルトのほうだった。彼女の両手が僕の首に絡みついていた。遭難者の手だってこれほど激しく絡みつくことはないだろう。彼女は僕に救助してもらいたいのか、それとも一緒に溺れてほしいのか、僕には分からなかった。

平静に死を直視できるのは、ひとりで死と向かいあったときだけだ。二人で死ぬことはもはや死ではない。疑り深い人だってそう思うだろう。悲しいのは、命に別れを告げることではない。命に意味をあたえてくれるものと別れることだ。愛こそが命なら、一緒に生きることと一緒に死ぬことのあいだに、どんな違いがあるというのだろう?

精神的な類似は身体にまで及ぶことがある。目つきに、歩き方。しばしば知らない人がマルトと僕を姉弟だと思いこんだ。僕たちのなかにあった類似の芽を愛が育んだのだ。

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2020年08月12日

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フランス文学は読みにくくわかりにくい、という偏見がありました。
コクトーとか、ちょっと苦手で。
でも、この本はすごく読みやすく、共感もでき、面白かった。
若いな、と。
向こう見ずで、刹那的で、疑い方も愛し方もまっすぐで。
おなかに子供ができたと知って、男は逃げ出すのかと思った。
そうでないところに真剣さを感じた。
時をおいて、もう一度よみかえしてみたい。

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2019年01月02日

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ネタバレ

話の展開はそんなにないものの、独特で美しい比喩表現があちこちにあって言葉選びに感心してしまった。
第一次世界大戦中で、夫不在の家が多かったとはいえ、不倫に対して双方の家族の対応が甘すぎる気もしたけれど、当時このようなことはよくあったのか。
早熟だけど未熟な15歳の心理表現がすごい巧みだった。

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2018年04月01日

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【本の内容】
第一次大戦下のフランス。

パリの学校に通う15歳の「僕」は、ある日、19歳の美しい人妻マルトと出会う。

二人は年齢の差を超えて愛し合い、マルトの新居でともに過ごすようになる。

やがてマルトの妊娠が判明したことから、二人の愛は破滅に向かって進んでいく…。

[ 目次 ]


[ POP ]
作家が若いときでないと書けない物語があるように、読者もまた若いときでないと感じ得ない衝撃があると僕は思う。

そういった意味で、『肉体の悪魔』は10代の頃に読んでいたらもっとぶっ飛んでいただろうなと悔やまれる一冊だ。

これでもかというほど一人称で書かれていて、景色はあまり意味をなさない。

傷つけたのが自分なら、傷を癒すのも自分でなければならない。

すべては愛するがゆえ。

もっと上手い方法があるのに、そうすることができない。

若さというのは後悔でさえ勘定の内なのだ。

粗削りとさえ感じるが、それこそがこの小説の魅力であり、心に突き刺さる。

[ おすすめ度 ]

☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

[ 関連図書 ]


[ 参考となる書評 ]

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2014年10月03日

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悪魔の姿を忠実に描いている。愛し合っているはずなのに、男性になぜ裏切られたのかわからない人はスウェーデン人の娘のエピソードを読めば腑に落ちるだろう。
ふと冷静になればマルタについてもまた悪魔を飼って命を投げ出したようなものかもしれない。
人は無心で悪魔と共に生きる。

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2014年08月29日

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ネタバレ

三島が憧れていたと知り、手にとった。
単純な筋ながら、引き込まれた。
最後の一節が特に印象深い。

ただ、新訳だからか、少し言葉が軽い感じがした。

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2013年06月23日

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ラディゲって10代でこの小説を書き上げたんですよね。
恐るべし…

ストーリーライン自体は、ありふれたものなのですが。
作者の深い洞察にかかると、とんでもない傑作に昇華してしまうんですね。

「悲しいのは、命に別れを告げることではない。命に意味をあたえてくれるものと別れることだ。愛こそが命なら、一緒に生きることと一緒に死ぬことのあいだに、どんな違いがあるというのだろう?」
ちょっと胸を動かされました。

肉欲に溺れていく男女であるが、100%の純度の肉欲は逆に美しく見えてしまうのはなぜでしょうか。それにしても、一方では愛を求めながらも、その一方で小狡い企みをする主人公の僕が痛い。
でも余の男性だって思い当たる節がたくさんあるでしょう。

あの頃の恋愛が懐かしい……(遠い目で)

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2013年03月15日

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ありきたりな内容のはずなのに、結局引きこまれて最期まで読んでしまった。

それが古典というものが持つ力なのかな、と思わされた。

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2012年07月15日

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ネタバレ

主人公が人妻と道ならぬ恋に堕ちる、というあらすじそのものはありふれたものだけれど、この作品の背景には絶えず「戦争」という非日常が影を落としている。破滅の先を見てみたいという取り憑かれたような衝動、破壊を目にする時の高揚感、「子ども」というレッテルと自身の内側の感情とのギャップ。エロスとタナトスの甘美さを味わうのは、優れた小説の中だけでいい。強いて言うなら、マルトの最期のエピソードにもう少し余韻が欲しかった。新潮文庫版も読んでみようと思う。

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2011年09月21日

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人を愛することの喜びと哀れさ。2人の関係はどうなるのかとドキドキしながら読む。タイトルはこうだけど、性描写は一切なし。

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2010年12月03日

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自分が心の中で取り留めなく思っていたことが、はっきりと文章として描写されていて、共感できる箇所が度々あった。感情描写が緻密な作品だと思う。文体が硬質なので大人びた印象の主人公だが、彼もマルトも精神が幼い(と言うか年相応?)のように思う。

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2013年09月16日

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■学び(見たもの・感じたもの/テーマ)
(1)恋愛とは、各々のエゴイズムがぶつかり合うこと。ぶつかり合うことによるこの衝撃は何にも勝り、魅惑的な甘味をもって人間の心身を支配する。

(2)フランス文学には、恋愛における人間心理を精細に分析する伝統(心理小説)がある。「精神の純潔」をテーマにしたもの、また「悪魔的な官能」がテーマになる。(解説より 中条省平)

(3)ラディゲの文体は硬質で冷たさがある。人間の心理と感情を、機械のように動く純粋なメカニズムとして分析する。(解説より 中条省平)


■感想
「文学と呼ばれる名作」がなぜ私に合わないのか、この疑問が解けるキッカケとなった作品でした。個人のエゴイズムを正当化しながらの葛藤を見せつけられるのが生理的に合わなかったのだと思います。特に恋愛小説ものというのは、自分勝手なエゴの暴走、それによって生じる良心の呵責、また葛藤の繰り返しですからね。うんざりしてしまうんです。
でもこの作品は面白かったです。ストーリーはありふれていますが、解説にもある「硬質な分析」が好みでした。特に残虐性をも認めて隠していないところです。残虐性は特殊なものではなく、これが自然な人間というものではないでしょうか。世界大戦を体験した者が目の当たりにした今までの道徳観や倫理観というものの正体や、人間の本能にメスを入れた鋭い洞察、正当化せずに全てを認める潔さが好みでした。

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2010年02月20日

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三年半ほど前、
高校生のときに古書店で古い文庫を買って積んだまま
読まずに〈引っ越し処分〉していたことを思い出し、
反省しつつ光文社古典新訳文庫を購入。
早熟・夭折の天才と言われる
レーモン・ラディゲの(短めの)長編小説。

作者の分身と思しい語り手〈僕〉の思い出。
分けても15歳からの激動の日々について。

第一次世界大戦下のフランス。
〈僕〉は四つ年上の画学生マルト・グランジエと出会い、
興味を募らせていったが、
彼女には婚約者ジャック・ラコンブがいた。
しかし、彼女が予定通り結婚した後も
互いに秋波を送り続け、
ジャックが戦線に送られた不在のうちに、
当然のように一線を超えてしまった――。

20世紀不倫小説の古典、但し、
当事者が十代なので相当に青臭い。
結末は2パターンのいずれかであろうと
予想しつつ読み進めた。

 1.ジャックが戦死し、
   マルトは晴れて〈僕〉と再婚。
 2.マルトと〈僕〉は
   白い目で見られる不倫に倦んで関係を清算。

が、どちらでもなく、
しかも、1・2よりもっとひどいエンディングだった。

そもそも〈僕〉は周囲を見下す鼻持ちならないヤツで、
マルトが彼のどこに惹かれたのか、よくわからない。
ジャックに問題があったとすれば、
マルトが絵を嗜むのを快く思っていないらしい点ぐらいだし。
彼女も若かったので、スリルを求めていたということか。
もう一つ考えられるのは、下品な穿鑿で恐縮だが、
マルトにとって性的な相性が
ジャックより〈僕〉の方がよかったから、かも……とかね。
とはいえ、独白の中でしばしば愛を口にする〈僕〉は
女を嫌いではないし、
その気になればセックスも充分に出来ます、というだけで、
本当に女性を――マルトを――愛しているとは受け取れず、
これはホモソーシャル小説の変形ではないのか?
と疑ってしまった。
女性との性的接触を汚らわしいが避けて通れない道と考える
高慢な男子が、一人の女の人生を踏み躙ってしまう、
といった筋書きの。

タイトル"Le Diable au corps"(カラダの悪魔) とは
《胎児》ではないのかな。
それが宿ったがためにマルトと〈僕〉は破局を迎えた、
という。
いや、不倫なんだから避妊しなさいよって話で。

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2022年12月15日

A

購入済み

難しい

難しいですね。
若いうちに読んでたらなにか思うところもあったかもしれないけれど、
今の私にはなんと言ったら良いのかわかりません。
私の感受性の問題だろうか。
ともかく一つ言えるのは、若いうちに読んだほうが良いと思います、そのときは理解できないとしても。
初めて読むのが歳を取ってからだと、

理解はできてもどう評価したら良いのかわからない感じになってしまいます。

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2022年03月16日

Posted by ブクログ

訳者中条省平さんの解説から引くと、筋書きは、

早熟な少年が、人妻に恋をし、その夫が戦争に行っているのをいいことに肉体関係を続け、彼女の生活をめちゃめちゃにしてしまう、

というもの。
作者の実体験に基づいて、16〜18歳のときに執筆されている、というのが、まず驚き。
ヒロインであるマルトの人格がよく分からないというか共感し難いのだけど、古典新訳の対象として選ばれたのは何となく理解できるような。
『カフェ古典新訳文庫』で思い入れのあるひとの文章を先に読んだからかもしれないが。
少なくとも100年前の小説には思えなかった。

三島由紀夫が惚れ込んだ作者と作品らしい。

赤ちゃんの父親が誰か、という点で、終盤くるんと一回転して、元に戻る辺りは、してやられた感がある。

お昼のメロドラマ的な安っぽい作品とも言えるし、夭逝した天才作家の傑作とも言えるし、出版社の腕の見せ所のある作品か。

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2022年02月12日

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ネタバレ

意図的に入りこまないで読んでしまったのは反省。態度の問題。

心身がどうにもならない恋愛をしているとき、またその記憶が新しいときに読んだらすごいのだろうなと思った。そういう意味では時期も悪かった。この主人公の当事者感というのは当事者として感じれたらほんとうによかったのに。そういう意味ではサガンは読みやすいな。あと出てくる人物が身体的というよりは、精神の動きだけが全面に押し出されていたのも、この主人公なり人妻を誰かとしてイメージできるとつよいが、普通に読もうとするとどうしても文章が流れる。でもやっぱり態度の問題。反省。

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2021年12月06日

Posted by ブクログ

ラディゲと言われても良く知らない。コクトーと言われると「オルフェ」を思い出す。その程度の知識で読んでみた。
物語自体は刹那的で破滅的なひたすら身勝手な若者の恋愛悲劇で、正直、だから何?的なものではある。だがしかし、一人称の語りが一貫して第三者的であり、なおかつ詩的で、この小説を単なる恋愛悲劇と呼ばせない文学的な厚みを持たせている。実際、その表現力は実に的確で、詩的だ。
「猫だって一生軽いコルクに悩まされるより、ひと月だけ重い鍋を引きずるほうがましだと思うにちがいない。」
「この残忍な愚弄は、愛が情熱に成長するときの声変わりだった。」
「妻を亡くし、これほど誇り高く絶望を克服する男を見て、いつかは世の中の秩序が自然に回復していくことを悟った。」
肉体の悪魔というタイトルだが、悪魔は出てこない。ここにあるのは、永遠に刹那的には生きられない人間の運命と、実態としての肉体をもって続いていく人間の血縁と、その檻に囚われて叫び声をあげる人間の精神なのだと思った。

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2017年11月14日

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★3.5。
こんな若者が人間の内面、つまり行きつくところの自己中心主義をメロドラマに乗せて抉り出すとは。
あくまで主人公の内面にのみ焦点を当てることで、読者にマルトはじめとした他の登場人物の内面を考えさせる構図もこの作品では成功しているのでは。
マルトは当然ながら父親が凄く気になる、彼は息子を通して何を見ていたのだろう?
共犯者なのか、無関心なのか、愉快犯なのか、考えれば考えるほど色んな妄想が膨らみますな。

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2014年04月24日

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P189「御者は三度のキスを見たと思っただろうが、最初のキスが続いていたのだ。」

残酷な愛。
この未熟な精神と行動を、冷酷に分析し直して書いている姿を思い浮かべると不気味な感じがする、、、それともあえて客観的なのかしら。


さすが光文社文庫は翻訳がうまいと思う。

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2013年11月28日

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二十歳で夭折した20世紀フランスの小説家レイモン・ラディゲ(1903-1923)による、自伝的要素を含んだ処女小説、1923年。

本作品の舞台が戦時下であると語るところから、物語は始まる。

「僕はさまざまな非難を受けることになるだろう。でも、どうすればいい? 戦争の始まる何か月か前に十二歳だったことが、僕の落ち度だとでもいうのだろうか?」

第一次大戦という、深甚な虚無に否応もなく曝された少年。時代が少年にも強いる精神の屈折。無邪気で在ることを許さない、屈折。

それでもこの少年は、子どもじみた万能感から、自分が子どもであることを否定して成熟した大人であろうと、心理に於いても行動に於いても演じていくのか、演じさせられていくのか。そして、女を愛し所有しようとするその振舞それ自体がどうしようもなく幼稚でしかない少年、その幼稚さの残酷さが戦争と云う時代の雰囲気の中で詩情の顔をして剥き出しになった物語。

「これまでは、欲しいものはすべて、子供だからといって諦めなければならなかった。そのうえ、人がくれた玩具は、お礼をいわなければならないという義務感で楽しさが損なわれた。そんな子供にとって、自分から進んでやって来る玩具は、どれほど貴重なものに見えたことだろう! 僕は情熱に酔っていた。マルトは僕のものだ。僕がそういったのではない。マルトがそういったのだ。・・・。『いいわ、噛んでちょうだい。わたしにしるしをつけて。みんなに知らせたいの』」

若さ、というよりも、幼さと云っていいエゴイズム、臆病なエゴイズム。そこに発する愛情と支配欲、嫉妬と憎悪、desperate な情熱、野蛮な激情、それら感情の極端な振幅。そして複雑に錯綜する自省。そこには、虚無に浸された頽廃した諦念とともにある暗く透明な影、「無」へ、消えてしまえばいい。「社会」も「道徳」も「政治」も「宗教」も、この少年の内に入り込む余地は無い。

「僕の心はまだ未来のことなんか考えない年齢だった。そうだ、僕がマルトのために望んでいたのはすべてを消してくれる無だ。いつの日かまた一緒になれるもうひとつの世界なんかじゃない」

この科白は虚無の中に在る「愛」の言葉の極北だろう。



「もし愚かな青春があるとすれば、怠惰だったことのない青春だろう。・・・。はたから見れば空っぽに見えるこの長い日々ほど、僕が多くを学んだことはかつてなかった。・・・、僕はこの長い日々、自分の未完成の心をじっと見つめていたのだ」

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2013年08月28日

Posted by ブクログ

超クールな15歳の少年が19歳の人妻マルタと不倫愛に陥る話。
少年が肉体に溺れることもなく覚めた目で観察してるのが怖いところです。妻を信じてるジャックが不憫。

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2011年08月31日

Posted by ブクログ

恐ろしい小説でした。

あらすじは、15歳だか16歳だかの若造が、19歳の人妻に、
旦那が第1次大戦に出征しているのをいいことに不倫する、といった内容。

主人公の「僕」が1人称で淡々と語るという手法を採っているが、
恐ろしいのはその起伏。大きそうでありながら、微動だにしないという印象。

時にサディスティックに人妻を激しく罵り、傷つけ、欺き、
時にマザコンのように甘く、しどけなく、年齢後退のように甘える。
人間の心理が非常に巧みに描かれているが、どこか異質。

それぞれが突飛でありながら、一貫性をもって成立しているのは、
語り手である「僕」自身が、そのまま「僕」を観察対象としており、
文章に、一切の呵責や躊躇いを感じない点に秘密があるのでは、と感じた。

この作品を著した著者は、20歳で急逝したという。
自伝的要素も強いという本作。不気味な質感の小説でした。

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2010年10月20日

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