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初めての飛浩隆作品、短中編4作全部面白い。
SFを前提にミステリ、ホラー、ファンタジーなど様々なアプローチをしてるけどどれも違和感なくしっくり収まっている。
また、情景描写の上手さはもちろんのこと五感の描き方がとてつもなく上手い。文を通して“体験”しているような感覚すらあってただただすごいなと感じた。
個人的には「夜と泥の」の設定が好みでもうちょっと読みたかった。逆に表題の「象られた力」は最後が蛇足に感じてちょっと醒めてしまった。けどそれでも面白かった。
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いや〜まいったまいった。収録されている短編4作品いずれもよくできているのだが、共通するのは文字がイメージを想起させること。文字で世界がめくれ上がって裏返しになったり人が卵のように割れる感覚を味わわせる筆致の凄みがある。文字で音楽的な素晴らしさを想像させたり目の前の圧倒的な光景を想像させるような表現の妙は、自分もこんなふうに書けたらいいなと思わせられる。
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『知る人ぞ知る』とか、『伝説の』とかが頭につく作家。
どういう経緯で知ったんだったか……思い出せないけど、シリーズものがドはまりで、それを執筆するまでの作品が読みたくて借りた。
この収録作を最後に10年のブランクを経て、わたしが続きを熱望しているシリーズが発売された。
やはり、すごい。
文章で、これほど視覚的に訴えてくるSFははほかにない。
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初めて読んだ飛先生作品。
静かで不思議で美しいSF小説短編集。
例えると、広く暗い宇宙の片隅でいつかあった誰かの人生の一部を物語として切り取ってきたという短編が連なっている。なぜ?という質問には決して答えない。そこが逆に素晴らしい。あるがままの状況を切り取ってきて、物語として仕上げた、いわばフォークソングのような物語たち。
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三本の短編と一本の短めの中編からなる作品集。
この手の本を読んでいつも思うのは「これがSFか?」ということ。
別にSFに拘る必要もないし、読んで面白ければそれでいいのだけれど、例えば本書の冒頭の作品「デュオ」なんかは、SFのS……科学……というよりも、非科学的事象を題材にしている。
江戸川乱歩や夢野久作が書いてもおかしくない内容なのに、SFなのか……。
あるいはSFってもっと広義の意味合いが含まれているものなのか。
まぁ……いいけど(と書きつつも、どうもいつもひっかかってしまう)。
その「デュオ」なんかはブライアン・W.オールディス の「ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド」なんかを思い起こさせたりもした(あちらはロック・バンドだし、内容は全然違うんだけど)。
SF云々でケチをつけたような書き方をしたけれど、実はものすごく面白く読み進めることができた。
意表を突く題材に、きっちりとした伏線の張り方、その伏線の回収の仕方、読みやすい文章。
読者である僕ととても相性の良い作家のようだ。
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WishListは「当時読みたいと思った」本が大量に入っていて、自分でもどうしてこれが読みたくなったかわからないのが多々あるのだが、これもそう。後からWikipediaで見直して「ああ、ラギッド・ガールの人だったんだな」と思いだしてようやく入っていた理由がなんとなく推測できた(ラギッド・ガールはアンソロジーで読んだので、著者名を失念していたのであった)。
本編には表題作を含めて、4つの短編がおさめられている。個人的には幻想的な雰囲気が全体を通じて漂っていて、最後にストンとおとす「夜と泥の」がお気に入り。
本書はハードSFという感じの表現もあるが、基本的にはファンタジーとSFの間ぐらいに位置していると思う。特に作者の世界の描き方が、「とても幻想的なのに、かつ写実的」という感じで、騙し絵を見ているような気持ちにさせてくれる。特に表題にもなっている「象られた力」の後半は、映像的な描写が続いて映画好きにはたまらない展開が待っている(が、映画で表したら陳腐になってしまうだろうので、たぶんそういう無茶はしないほうがいいのだろう)
全作品ともに最後の数ページでストンとおとす・・という趣向がしかけられていて、ミステリーとしても楽しむことが出来るので「SFはちょっと・・・」という人にもお勧め。
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「デュオ」ミステリ要素たっぷり、音と匂いの描写が素晴らしい。ページを捲る手が止まらない。「呪界のほとり」コミカルなキャラとテンポの良い展開でページを捲る手が止まらない。続編希望。ジジイ最高!「夜と泥の」視覚的・聴覚的な描写が素晴らしい。全体を通しての緊張感にページを捲る手が止まらない。「象られた力」視覚的描写が美し過ぎてお腹いっぱいです!次のシーンが「見たくて」ページを捲る手が止まらない。アニメとかにならないだろうか。
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理想の文体かもしれない。
憧れは山尾悠子氏、それはこれからも変わらないが、自分が目指すとしたら。
肉体は五感を支配しているだろうか。
あるいは、五感が肉体を支配するのだろうか。
文字を読むということが、ここまでの体験をさせてくれるのだ。
そんな満足感をもたらしてくれた一冊。
しばらくは余韻を引きずりそうだ。
五感が、騒ぎすぎて。
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『THE FUTURE IS JAPANESE』で知った飛浩隆の初期作品短編集。
音やモノのかたちが持つ「力」がキーワード。SFらしい意匠はふんだんに出てくるが、感情表現や視覚的表現に割かれている言葉の「質量」が大変に豊富で、視覚・聴覚・味覚などの五官に訴えてくるイメージが強い。読後感はむしろ異世界ファンタジーという方がしっくりくる。
表題作の重厚な表現が炸裂する文章と、「呪界のほとり」のようなコミカルな語り口とが良いバランスでまとめられていて、緊張感とわくわく感が何ともいえない風味になっている。
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久しぶりにSFものを読んだ。 本作は短編集。 状況や情景を想像するのがSFの楽しさの一つだと思うのだが、どの編もイマジネーションを刺激する作品だった。 気に行ったのは『デュオ』と『象られた力』。 前者は若干ミステリーやホラーテイストもありぐいぐい引き込まれた。 ラストのコンサートシーンはぞくぞくした。 後者は、世界観がかなり好みであった。 図形(形)が力や能力を発揮する発想や、ロフトの構造であったり、食や性的描写がとても興味深かった。 もっと早く読めば良かった~。
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強大な思念の力。封印された記憶、のような実体のないものが何を伝えたいのか、装飾を丁寧に剥ぎ取って明らかにしていく。その”もの”の語る声を聴く。それが飛氏の作品に込められたテーマのように思う。 「象られた力」で惑星が秘める歴史を暴いていく過程は『零號琴』を彷彿とさせた。 『悪童日記』の双子を思い出させるような「デュオ」が最も好みだなと感じていたが、時間が経つほど表題作「象られた力」の印象が強くなって消えない。 読んだ者の心に深く印象を刻む物語、この本『象られた力』自体が、強い思念の力を持っている。
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80年代後半から92年までに書かれた中篇4篇を収めた作品集。
「デュオ」
交通事故で恋人を亡くし、自身で演奏する能力も失ってピアノの調律師となった緒方は、恩師からグラフェナウアー兄弟を紹介される。デネスとクラウスのシャム双生児であるグラフェナウアーは、一本ずつの腕をテレパスによって統合し完璧にピアノを奏でる天才だった。耳が聞こえず喋ることもできない兄弟の手話通訳を務めるジャクリーンと親しくなるうち、緒方は双子に“もう一人”が存在することを知る。
特にクラシックにもピアノにも詳しくない人間にも、聴力以外の感覚を喩えに使って双子が奏でる悪魔的な音楽を感じさせる表現力。「ふかふかの鍵」のくだりはピアニストの身体性を伝えていて面白かった。でもやっぱり先に「海の指」を読んじゃったからちょっと物足りなくもある。結末は絶対ジャクリーン本人が銃を握って殺すべきだったと思います。
「呪界のほとり」
追っ手から逃げるうち、呪界-地面を叩けばどこでも水が湧いてくる魔法の世界-から飛び出してしまった万丈と相棒の竜。辿り着いた辺境の星アグアス・フレスカスには、呪界に強い憧憬を抱く老人パワーズがひとりきりで暮らしていた。
ラノベというかゲームのノベライズっぽい。特殊な用語がポンポン出てくるけど、説明過多に感じさせずになんとなく察することができる情報コントロールが巧み。しおらしいのに全然言うこときかない竜のファフナーがかわいい。
「夜と泥の」
若い頃”リットン&ステインズビー協会“で共に働いた蔡に呼びだされ、とある星にやってきた「わたし」。「いいものを見せてやる」と言った蔡に案内されたのは、地球化[テラフォーミング]のために協会が使わした人工衛星たちが暴走し、夏至ごとに一人の”少女“を復活させるという沼だった。
これ好き!『タフの方舟』を思わせるような、地球人の思惑の裏をかく異星の意思が描かれ、それに取り憑かれた蔡の姿はホラー的でもある。ヒトの生みだしたものがヒトの手に負えなくなって野生化していく描写、いいよねー。
「象られた力」
〈シジック〉のイコノグラファー・クドウ圓は、“リットン&ステインズビー協会”の文化事業部に依頼され、つい先日跡形もなく消え去った隣接星〈百合洋〉の言語体系“エンブレム”の謎解明のため動きだす。エンブレムは図形によって情報を多層的に伝達できるため、同じ星系の〈シジック〉〈ムザヒーブ〉でも急速に普及しはじめていた。〈百合洋〉はなぜ滅んだのか、エンブレムに秘められた力とは。
面白かった〜!これも“文字禍”の話。エンブレムに侵食された人びとの陶然とした言葉遣いと、畳み掛けるオブセッションの艶やかさは『13』のころの古川日出男を思いださせる。〈百合洋〉出身の建築家ハバシュが生んだ現代アートの延長のような建物や、圓の恋人・錦がつくるエンブレム・タトゥーのオートマシン、あるいは極小のエンブレムがラメになったアイシャドウや、圓とシラカワが食す〈シジック〉のビーガンじみた菌類食などのディテールから星系の文化を窺いしれるのも楽しい。そんな〈シジック〉の物語をメタ化するオチは、万物から常に物語や意味を見いだそうとする人類のサガを優しく俯瞰で眺めている。この“リットン&ステインズビー協会”もの、シリーズ化してほしかったなぁ。
4作品に共通するのは、実体のないものが実体に干渉し、その精神を支配し、実体よりも実体たろうとする巨大なパワー。これは「フィクション」のメタファーでもあるだろうし、のちの『グラン・ヴァカンス』で結実したヴィジョンなのだろう。
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面白かった。読んでいる途中で書かれた年を知って少し驚いた。
デュオ>象られた力>夜と泥の>呪界のほとりで、の順に好き。『デュオ』がすごく読ませる。切なさと恐ろしさが同居した読み心地。設定的にはSFなのだが、偉大なピアニストを殺すべきなのかという葛藤、殺しても死なない「名無し」の行く末、誰が死に、誰が生きるのかという展開の妙が面白い。この文学的なSFこそ本邦のSFの持ち味だと個人的には思う。
『象られた力』はもっとSFへの振り幅が大きいが、破壊や破滅の正体がSF的設定を紐解く中で徐々に明らかにされていく、という仕掛け自体は『デュオ』に似たホラーな感触がある。図形が人間の持つ本来の能力のみならず、なぜ超能力的な力まで呼び覚ますことができたのか、そのあたりの解説が無く腑に落ちた感じがしないのが惜しい。
『夜と泥の』は彼のテラフォーミングを題材にした世界観を彩る掌編と言うところか。描写の美しさに舌を巻く。『呪界のほとりで』は安易な役割語(『象られた力』でも見られるが)で話す老人に入れ込みにくく、全体的に読みづらかった。
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日本SFの本を探していれば必ず目に入る題名なので。
思ったよりも昔(1980〜1990年代)に書かれたもの。
最初は目新しい単語と色彩で置き換えただけのSF短編集か、と思っていましたが、後半は全くそんなことなく。社会の仕組みや人間の根本を改変するSFではなく、宇宙の見方、人の感じ方と空気を変える着想と描写に力強さを感じました。
「夜と泥の」「象られた力」が素晴らしい。
宇宙に咀嚼され消化される人類、人工生物によって永遠に引き起こされる神話。視覚言語と、形に詰まったエネルギー、崩壊の文様。図形と形に満ち溢れている世界はなんて力に満ちているのだろう。満ち溢れている力に気づき感じとり、圧倒された。圧倒的な力の存在に気づいた。
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「デュオ」
二転三転する圧巻の展開。ゾクゾクした。名無しは今どこにいるのだろう。サスペンスホラー風味で怖かった。
「呪界のほとり」
栗本薫みたい。ファンタジーっぽいSF。他の3つと比べると微妙。
「夜と泥の」
沼の戦いの描写が引き込まれる。美しい物語。これは好きだなあ。
「象られた力」
オチは不要な気がした。これはホラ話ですよ、ってわざわざ言われなくても分かっているわけで。発現のエンブレムのアイディアが秀逸で、図形が溢れ出すイメージに圧倒された。
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(デュオは未読)
どうも俺には難しい。
表題作「象られた力」はのちの作品『廃園の天使』に繋がるような頽廃的・破滅的・官能的な展開を見せるが、しばしば視点の転換が行われるため話の筋を理解するのにいくらか難儀した。 時間のある時に一気読みした方が楽しめそう。
通勤通学のおともには向かないかと。
「呪界のほとり」
展開が突飛すぎてわけがわからないが登場人物が織りなすコメディのような雰囲気が印象的な一作だった。
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よくよく考えてみると、SFって実はあんまり読んだことないなー。ついていけるかなー、大丈夫かなー。と思っていたのですが、なにやらエレクトロニクス的な難しい単語が飛び交ったりだとかそんなことはなく、どちらからというとファンタジー要素の強い作品だったので読みやすく、そしてなんだか懐かしい気持ちになりました。
小学生の頃、土曜日の昼下がり、ドラクエ3で友達の名前のキャラクターを作って世界を冒険していた時のことを思い出してしまうような、そんな感じ。ちょっと違うかもしれないけどまあ、大体そう。いつだって僕らは何かを懐かしんでいる。というか主にドラクエを懐かしんでいる。
「デュオ」という、結合双生児が天才ピアニストという話と、「呪界のほとり」という、ドラゴンと一緒に宇宙を旅する男の話が面白かったです。でも、「呪界のほとり」は、「俺たちの旅はこれからだ!」的な終わり方になってしまうのが残念でした。
シリーズ物にしたかったけど、結局できなかったとのこと。そんなー。私財を投げ打ってでも続編を買う覚悟は出来ていたのに。
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表題作がとにかく好みの設定すぎた。
突如、忽然と消えてしまった星の遺産である図形言語。人の感情の動きを呼び覚ますエンブレム。その文様が数千個多重らせんに収められた高さ30センチの円柱形ダイヤモンド製の“エンブレム・ブック”。それを読み解くことで何が起こるのか…
ああ、なんてときめく設定!
それこそ(綴り違いだけれど)万華鏡のようにきらめく文様に翻弄されるようだった。
「デュオ」はSF的でもあるが、ミステリやホラーっぽくもあり、張りつめられた緊張感を楽しんだ。
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表題作を含む四編の中篇集はどれも良質でした。緻密で芸術的な表現は読んでいるとある種の酩酊感すら喚起されてきます。音楽や図形といった文字で表現する事の難しい事象を綿密に形容する本書は独特の風味を醸し出していました。
表題作である「象られた力」そのもののように、まるで文字が意思を持って力となって読者を圧倒してきます。それが先を読みたいという思いになって、読む手を進めさせられるような感じ。そして読み終わった後には、独特な、爽快感とも言うべき印象を与えてくれる一冊でした。
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誌のような文章が美しく巧みで、あたかも幻想小説のようなSF中短編集。文章に想像が追いつかず、画をイメージするのがなかなか難しいのですが、独特の世界感に引き込まれます。
個人的に一番のお気に入りは「呪界のほとり」。冒険小説のようなわくわく感と、個性的で魅力あるキャラクターたちの軽妙なやりとり、想像を掻き立てられる情景描写。映画、それも実写やセル画アニメではなく、CGアニメで観てみたいなぁと不思議と思いました。
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飛さんの作品の手触りの生々しさは、SFのやや遠目な世界観を手元に引き寄せてくる。
自分が感想をうまくつかめないとき、批評というのは偉大だなと思う。
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シャム双生児として生まれた天才的ピアニストを題材にした「デュオ」や、絵や文字ではなく形・デザインが持つ力の可能性を説いた表題作など惹きつけられる設定の短編が収められた作品。だけど、オチがどれもピンと来ないものが多かったかな…。個人的にはそこまではまれなかった。
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SF。中短編集。
「デュオ」
ミステリ、ファンタジー、ホラー、どれにも分類できそうな音楽SF。個人的には怖さを感じたので、ホラーの印象が強い。
「呪界のほとり」
異世界ファンタジー風。いまいち。
「夜と泥の」
テラフォーミング。情景描写が圧巻。
「象られた力」
わからない。読みにくい。
表題作が一番苦手…。「デュオ」と「夜と泥の」が好きでした。
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イマジネーションの奔流、理性ではなく肌で理解する物語。
鴨が飛浩隆氏の作品を初めて読んだのは、2年前に読んだ「日本SF短編50 V」に収録されていた「自生の夢」。正直言って、まったく訳が判りませんでした。でも不思議と気になって、海外での評価が高いというハロー効果もあってか、この短編集を手に取ってみました。
で、読んでみた感想ですが、正直なところ、やはりよく判らない、と思います。例えばSFを読み慣れていない友人にこの作品を判りやすく紹介せよ、と言われたら、鴨にはできないと思います。ポイントを押さえて巧いこと言語化して要約することが難しい作品だと思います。
元々言語で記述されている小説なのだから、「言語化が困難」というのは言い訳に過ぎないということはよく理解してるつもりなんですが、本当にこの世界観、言語だけでは押さえきれないんですよ。「絵になるSF」の極北、音や視覚や嗅覚といった五感を駆使して読み解くワン・アンド・オンリーな世界観です。表題作の視覚的なカタストロフィは特筆モノですね。この作品を母語で読めるということは、日本人SF者としての至福のひとときかもしれませんね。
こうした「認識のパラダイム・シフト」を前提としたSFは、実は日本SFの得意とするところなのではないか、と鴨は感じています。SFという文学フォーマットでこそ挑戦可能な分野だと思いますし、今後もより先鋭的な作品を期待しています。
Posted by ブクログ
おしゃれで品位ある文体で書かれていて、SFファンタジーが
盛り上がっていた頃の元気ある雰囲気を強く感じる短編作品集です。
しかし、古臭いかというとそうでもなく、
特に、表題の「象られた力」が短編ながら、面白いアイデアの作品です。
もっと状況設定を入り組ませて、長編でじっくり読んでみたいと
物足りなく思いました。
とにかく、作品のアイデアにデザインが持つ力や音がもつ力など、
身近にあるものに対して、もしかしたらある特異な力があるのではないか…
という空想科学領域の漠然とした妄想思考の種を
誰もが抱えていて、それをうまくキャッチして作品
にしているなあ、と感じました。
ある一定の共感力で読者を近づけて、楽しませるという、
アイデアの新奇性だけ惹きつけるのではない、
描写力のあるSFファンタジーです。
砕けた口語調小説が好みの方には嫌煙されがちの語り口ですが、
露悪的な自伝風小説に食傷ぎみなら、
この空想科学のもつさわやかな風で
脳みそがかなり涼やかになるはずです。
脳みそミント効果ありの作品。
Posted by ブクログ
SF中短編集。「デュオ」では感応をめぐる幻想を、「呪界のほとり」ではメタフィクション的な諧謔を、「夜と泥の」では記憶に馳せる思いを、「象られた力」ではかたちに対する欲望を、ひしひしと訴えかけていた。
作者の提示する世界観や情景はあまりにも豊潤すぎて、私の想像力では到底追いついていけないほど。
この美しく力に満ちたモノに、どうにかして触れたい――まさしく、そのような欲求に駆られる作品だった。
単純に完成度で見たら、少し荒削りにも感じられる。