【感想・ネタバレ】多極化世界の日本外交戦略のレビュー

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Posted by ブクログ

文字通り、世界が多極化に進む中で、日本の外交方針を打ち出した一冊。

外交には1対1と3ヶ国以上があり、日本は特に3ヶ国以上のマルチ外交が苦手だと分析、そしてマルチ外交での心得などは非常に勉強になった。

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2016年06月29日

Posted by ブクログ

2010年の本書は、日本外交の持つ弱点を指摘していますが、10年経った現在でも問題は改善されていないようです。
外交の主戦場となる国連では、比較的日本が得意な2国間交渉ではなくマルチ(多国間)外交が要求され、誠実さや約束を守るという道徳的価値観が必ずしも通用しない世界であり、意図的に他国が仕掛けてくる陥穽に落ちないよう時には調略を巡らせ、最大利益の達成を実現しなければ意味がありません。むしろ、正直すぎるのは未熟とみなされ軽んじられてしまう傾向すらあるのが外交の世界です。その点、日本人は個人や組織の建前にこだわり過ぎるきらいがあり、他国では当たり前な国益を死守する気概に欠けています。それは、日本が国連中心主義といい、国連に多額の分担金を提供しながらもあまり口を出さない、現常任理事国のように自国のために国連を利用するしたたかさに欠けている点からもわかります。国益を考えるなら、国連での優等生ぶりは求められていません。
では、国益とは何か?筆者は自国の平和と繁栄の実現だと定義し、外交に求められる要素として、国益を実現する、国際協調を達成する、国家と国民の尊厳を確保することだと考えています。(P68)
そのためには、国連での発言権や存在感を高める必要がありますが、例えば加入経験の浅い韓国ですら総会議長と事務総長という2つの最重要ポストに就任していますが、敵国条項さえ撤廃出来ない日本は未だ・・
もちろん、国連の問題点も多くあります、1つは、国連総会における形式的な主権平等主義は、負担と権利の実質的不均衡をもたらしているし、常任理事国の一方的な拒否権の行使なども、戦勝国としての既得権益の温存と言われても仕方ありません。
また、外交交渉に必要な技術として、英語力はもちろん、駆け引き術(手続き規則の活用:上手なのはロシア、エジプト、パキスタンらしいが、日本はこうした人材をリクルートすればいいのに)、専門用語の駆使(PRST、ノーアクション・モーション、ポイントオブオーダー、24時間ルール、ストローボールなどP167に解説されています)、フルチの選挙必勝10か条(P174)など勉強になります。
以下のマルチ外交の手法も参考になります。(P180)
曰く、自国の個別利益を前面に出さず普遍的な価値の中にこれを紛れ込ませるか、自国の少しの持ち出しでいかに大きな共感と支持を獲得できるか、一人勝ちでない勝ち方を目指す、多数派の形成、アジェンダ設定能力など。
さらに、湾岸戦争で130億ドルもの資金提供を行ったのに安保理に入っていなかったため感謝されなかった反省を踏まえ、2005年に安保理改革を提案(常任理事国を6か国追加し11か国へ、非常任理事国も4か国加えて14か国へ)するも、中国のみならず米国からも反対されてあえなく挫折。(P208)
日本が生き残っていくためには、したたかな戦略とそれを実行する人と組織が必要(P222)とされながら、10年経っても何も変わっていません。まず、学校教育にレトリックやディベートを学ぶ機会を取り入れるべきだという筆者の提言は、ポツダム宣言を黙殺して、不要な原爆投下やソ連侵攻を招いたように、切羽詰まった時に玉砕か無視かという思考停止状態を脱却するためにも文科省は考慮すべきです。
最近の武漢ウィルスでWHOのテドロス局長は中国寄りを批判され、一方の病原菌を発生させまき散らした中国が謝罪せず上から目線で情報発信する様をみせられると、常任理事国としての無責任さと国連機関の限界を感じさせるに十分な事例です。
また、本書で名前が出てくるWHO事務局長選挙で出馬した尾身茂氏は現在日本のウィルス拡散防止で活躍されているのも不思議なめぐりあわせです。(結局、この時の事務局長にはマーガレット・チャンが就任)
最後にもう1点、既に公共財となっているネット社会でのIPアドレスやドメインを割り振っているのは、米国の民間組織(ICANN)だという事実も初めて知りました。(P253)
10年前の本ですが、内容は色あせておらず(現状が変わっていないため)、日本の外交の目指すべき指針が過不足なく解説されている良書です。

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2020年05月19日

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