【感想・ネタバレ】逃亡くそたわけのレビュー

二十一歳の夏は一度しか来ないのにどうしよう――入院する精神病棟から脱走した「花」と、気まぐれについてきてしまった弱気の「なごやん」。二人は汗まみれになりながら1台の車で九州中を逃げ回る。
「手に手を取って逃亡する男女」と聞けばつい、追手から逃れるうちに高まる愛情…などと想像しがち。しかし、絲山節のきいた本作はそんなベタなメロドラマとはほど遠い。罵り合ったり、置き去りにされたり、幻聴と闘ったり、思い出に苦しんだり…。結局どこまで逃げても自分からは逃げられないのだ。それでも、うんざりしながら南下を続けるうちに、頑固な二人の価値観がそれぞれ少しずつ変わり始める…。逃走願望の行方はいかに!?
ちなみに、方言女子萌えの方にもオススメ。「逃げないと。こげなとこおったら捕まるばい」などなど、花の話す博多弁は痛快でキュート。たまりません。

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感情タグBEST3

Posted by ブクログ 2023年04月30日

プリズンたる病棟からの明日なき逃避行。資本論の等価交換の呪文から逃れようともがく主人公と商品価値の象徴たる東京の呪縛に囚われるなごやん。行き着いた岬のラベンダーの香りが旅の終わりを納得させる。とても印象的な作品でした。

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Posted by ブクログ 2023年02月14日

牢獄に見紛う精神病棟から逃げる、という動機から九州を車で走り抜けるロードムービー的な小説。解説には経済的な側面とストーリーとの対比が根底にある書いており、ふむそんな含意もあるのだなと思った。自分が抱いた感じはもっと切実なところで、逃げきれない悪夢を現実で上塗りを繰り返すことの虚しさだった。物理的に逃...続きを読むげても遠のかない苦しみに戸惑いつつ生きようとする。病気の烙印を押されると忽ち社会の不安定さを心に受ける場面に現代の危うさがあり、色々と考えさせられる小説だった。

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Posted by ブクログ 2023年01月01日

都甲先生のエッセイにあったので。
超よかった!!勢いのある文体でどんどん読める。
九州のロード・ノベル。美しいところも少し不気味なところもすばらしい描写。
阿蘇行ってみたい。ほかの作品も読む!

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Posted by ブクログ 2022年11月14日

これも素晴らし。そんなに長くない小説が多いイメージなんだけど、内容の濃さは唯一無二。サラッと読み通せる物語だけど、色んな引っ掛かり(というか、作家のたくらみ?)はふんだんに盛り込まれてます。今回はロードノベルとしての楽しみも特筆もので、かの地へは数えるくらいしか行ったことないんだけど、一緒に旅してい...続きを読むる情景が目に浮かぶよう。

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Posted by ブクログ 2018年07月19日

すげえ面白かった。
精神病棟から抜け出した2人の話なので、危なっかしい場面が何度も続くが最後はとても感動した。

映画化もされているが、情景描写が秀逸で眼に浮かぶようだったし、実際の九州各地を舞台にしているのでぜひ一度見てみたい。

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Posted by ブクログ 2023年08月31日

ロードムービーみたいな小説。2人の逃避行。
劇的な「救い」は訪れないし、2人ともこれからどうするんだろう的空気が読み終わっても胸に残るのだが、不思議と好きだった。雰囲気が、としか言えない。ロマンチックもカタルシスもない。けれど読んでいるあいだ心が凪になれる。

虚しさと目的地のないどん詰まり感がある...続きを読む。カラッと、突き抜けた明るさもある。どっちをより強く感じるかは受け手によるのかも。私は前者かなあ。
花ちゃんとなごやんでずーっとダラダラ逃げ続けてほしいなあ、と思った。無理だと分かってるから余計そう思うんだろう。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2023年04月27日

精神病院=プリズンからの逃亡
博多生まれの花ちゃんと、名古屋生まれのなごやん。

書き出しの〜亜麻布二十エレは上衣一着に値する〜も、最高によくって‼︎

九州の北
博多から、耶馬溪、磨崖仏でヒル、別府、阿蘇いきなり団子、椎葉村で川になごやん流され(よく助けた花ちゃん)、宮崎でエアコンのガス漏れ直し、...続きを読む桜島、指宿知林ヶ島、開聞岳。

福岡の運転マナーを名古屋走りのなごやんがたしなめるのも面白く(花ちゃんの父は木刀積んで運転していると)更に笑った。

がんばったルーチェ。エアコン壊れたけど、ね。

方言も心地よく、ルーチェから流れるTHEピーズの曲♪

終わりが気になって仕方なかったけど…
畑泥棒、当て逃げ、無免許、万引き…どうなる二人⁉︎

海でのラベンダーの香り、突然の九州地図、ココがラストもよかったぁ。

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Posted by ブクログ 2023年03月22日

あなたは、『ね、一緒に逃げよう』と言われたらどうするでしょうか?

いや、どうするも何もそれはその時のシチュエーションによるでしょう。何らかの命の危険が迫っているというような状況であったなら、躊躇などする余地なく誰もが逃げるべきでしょう。

しかし、『逃げる』という場面はそういった緊迫した場面ばかり...続きを読むとは必ずしも言えません。日常生活の中で、何かしらの苦境から『逃げ出し』たいと思ったことは誰しもあるのではないでしょうか?私には未だに自分の中にハッキリと残っている記憶があります。幼稚園児だった私、原因までは思い出せないのですが、どうしても家に帰りたい、という思いに満ち溢れたことがありました。そして、行動に移した私は幼稚園からの『逃亡』をはかりました。園庭を抜け、外に出た私は走って、走って、必死で家を目指しました。しかし、そういう時に限って間が悪く知っている人に出会うものです。隣のおばさんにバッタリ出会ってしまった私は、呆気なく幼稚園に連れ戻されてしまいました。五歳の逃亡劇は数分にして幕を下ろしましたが、あれから○十年経ってもあの時のドキドキハラハラした記憶は未だハッキリと記憶に残っています。そして、おばさんの顔を見ると未だにバツが悪くなる私、なんだかなあという今となっては苦い思い出の一つです。

さて、ここに『あたしはその日の朝、逃げようと思いついたのだった』という21歳の女性が主人公となる物語があります。『チェックがあるから何も持ち出せない』という中に『ね、一緒に逃げよう』と一人の男性を誘ってその場を後にした、そんな二人の逃避行が描かれるこの作品。『ねえ花ちゃん、帰った方がいいよ、大変なことになるよ』と弱気を見せる男性の一方で、『どうやら唐揚げは中津の名物らしかった』と逃亡先で観光を楽しむ女性の姿が描かれるこの作品。そしてそれは、『脱走自体は難しいことではなかった』という二人が『福岡タワーに近い百道(ももち)病院という精神病院』から『逃亡』した先の旅の様子を描く物語です。

『幻聴だと判っていても』『亜麻布(あまぬの)二十エレは上衣(じょうい)一着に値する』という言葉が『自分では止めることが出来ない』と思うのは主人公の花田。『意味はわからない。だけどこれが聞こえるとあたしは調子が悪くなるのだ』という花田は、『もう二度と病院には戻らない』と思いつつ福岡の街を走ります。『もー、休もうよう』、『俺、体力ないんだって』と言う『なごやん』に『逃げないと。こげなとこおったら捕まるばい』と返す花田は『脱走自体は難しいことではなかった』と今までの道のりを振り返ります。『福岡タワーに近い百道病院という精神病院』の『男女共同の開放病棟に入院していた』花田は、『外泊の許可も出』ず『二十一歳の夏は一度しか来ないのにどうしよう』と『いてもたってもいられない』思いの中にいました。そんなある日の朝、『逃げようと思いついた』花田は『中庭の隅でなごやんが悲しそうな顔をしてしゃがんで野良猫をかまってい』るのを見て『ね、一緒に逃げよう』、『出ようよ、ここから』と誘います。『本気にしていなかった。けれど、ひょこひょこついてきた』という『なごやん』。『外来を通り抜け、裏にまわって駐車場から病院の外に出』ると、『住宅地に入』り走り出した花田を『なごやん』は追いかけます。『蓬田司という小難しい名前』が本名の『なごやん』は、『二十四歳の、茶髪のサラリーマン』でした。『まわりがこてこての博多弁』の中、一人だけ『標準語』で『どこから来たと、と聞かれると』、『東京です!と言いきっ』ていた蓬田ですが、『一度だけお父さんとお母さんがお見舞いに来たとき、二人が大きな声でこてこての名古屋弁を喋ったの』でした。『正真正銘の名古屋生まれの名古屋育ちだと白状した』蓬田が、会話の中で『でも、「なごやん」はおいしいんだよ!』、『お饅頭。知らないの?』と『目をむいて』言ったことから『医者と看護婦さん以外の全員が蓬田司さんのことを「なごやん」と呼ぶようにな』りました。そんな『なごやん』と病院から逃げた花田、そんな二人は『なごやん』の家へと赴き『なごやん』の車に乗り込みます。『古くて四角いオヤジ車』という『名古屋ナンバー』の『ルーチェ』に乗った二人は『国道386』へと入ります。『どこに行くつもりもなかったけれど、それが分岐点だった』という二人。そんな二人の九州を南下するあてのない旅が始まりました。

“軽い気持ちの自殺未遂がばれ、入院させられた「あたし」は、退屈な精神病院からの脱走を決意。名古屋出身の「なごやん」を誘い出し、彼のぼろぼろの車での逃亡が始まった”と内容紹介にうたわれるこの作品。『福岡タワーに近い百道病院という精神病院』に入院していた21歳の主人公・花田と24歳で『なごやん』というあだなで呼ばれる蓬田の二人が車で九州を旅する様子が描かれていきます。そんな二人の旅の様子が描かれた部分を二箇所抜き出してみましょう。

・『あたしの知るかぎり一番いい寺だから』という花田の案内で『方向感覚はまるできかなかったけれど、観光看板の通りに走って富貴寺(ふきじ)に行った』二人という場面。
→ 『有名なのに全然俗っぽくなくて、山の中に昔ながらにひっそり建っている』という『野の花の似合う寺』富貴寺。『お堂は上から見たら多分正方形で、角が反りあがった品のいい屋根に特徴がある』という富貴寺を『お堂の中は暗くて、お香のにおいも上品で、すごく落ち着く』という花田。そして、お堂を出て茶屋に入った二人。『何食う?』、『団子汁。こっち来たらいつもそうたい』、『団子汁ってなんだよ』、『味噌味のおつゆに野菜と団子の入っとうと』と会話する二人。『団子汁の田舎っぽい、懐かしい味が大好き』という花田と初めての『なごやん』の観光を楽しむ会話が続きます。

・『大観峰行こうよ』という花田の提案に『どこ?』と訊く『なごやん』、それに『外輪山で阿蘇が一番すごく見えるとこ。絶対見らんと損するけん』と返す花田という場面。
→ 『うおおお、これ全部阿蘇か』と声を上げる『なごやん』。『外輪山から突き出した岬のような展望台』に立つ二人の前には『下方に広がる平野と正面にそびえる阿蘇五岳、そして全体を囲む外輪山が三百六十度見渡せる。とにかくでっかいのだ』という阿蘇の絶景が広がります。『向こうのうすーく見える山、あるやろ。あそこまで外輪山。全部が山やったのが噴火して吹き飛んでカルデラの出来たったい』と説明する花田に『外輪山ってほんとに全方向にあるんだ』『どんだけでっかかったんだ』と興奮を抑えられない『なごやん』という二人が阿蘇観光を楽しみます。

二つを抜き出してみましたが、お寺を巡って名物を食べ、また阿蘇山という知らぬ者のない超有名観光地へと足をのばしていく様はもう完全に旅行記です。小説に旅行記を織り交ぜるように書かれた作品は多々あります。例えば”ふるさと”をテーマに東北新幹線で旅する彩瀬まるさん「桜の下で待っている」、主人公が旅に何かのきっかけを得る井上荒野さん「夜を着る」、”どんな遠くまでも、さいはてまでも”と旅に何かを感じる主人公が描かれる原田マハさん「さいはての彼女」など、旅情を存分に感じさせてくれる作品は私も大好きです。そういう意味ではこの作品もそういった旅小説の一つと言えると思います。しかし、しかしです。この作品がそう単純に説明しきれないのがその舞台設定です。それこそが、『ね、一緒に逃げよう』と主人公の花田が蓬田を誘っての逃避行という前提です。そして、その彼らがいた場所が強烈です。『福岡タワーに近い百道病院という精神病院』からの逃亡という大胆極まりない設定には、正直なところその設定をどう捉えて良いか少し躊躇しました。『精神病院』と言っても描き方によってはその逃げ元を意識しなくても良い書き方もあるように思いますがこの作品はそうではありません。それこそが、花田がつぶやく薬の名前の数々です。

・『これ以上テトロピン飲み続けたら廃人になるけん、嫌』

・『あたしは今は躁が強いから抗鬱剤は要らないけれどリーマスが要る。どこかでメレリルも手に入れたい』

・『薬が心配やね』『ロヒプノールがあと三錠しかないんだ』『メレリルも欲しか』

これらは実は架空の名前の薬ではありますが、旅行記だ…と読んでいる読者にとって、これらのなんだか深刻さを感じる薬の名前は強烈な違和感が襲うと思います。そして、この作品にはさらに読者を困惑させる言葉が登場します。それこそが、この作品の冒頭に登場する意味不明な次の言葉です。

『亜麻布(あまぬの)二十エレは上衣(じょうい)一着に値する』

全くもって意味不明な言葉です。冒頭に語られる通りこの言葉は主人公・花田の『幻聴』であり『意味はわからない』と説明されます。まさしく『幻聴』のごとく、この言葉は全編に渡ってさまざまな場面に登場します。あまりに数が多いことから、こういう場合、数を数えないといられなくなる私としては数を数えてみました。

『亜麻布二十エレ…』の登場回数: 51回

この作品は文庫本190ページしかありません。このページ数でこの数は異常に多い数です。しかも全くもって意味不明な言葉で、かつ花田の『幻聴』なので、本文に脈略なく登場する分、読書の中に非常に引っかかりを感じさせます。主人公が精神病を患っている、そんな主人公が入院先の病院から逃げた…という前提でこの作品が描かれている分、やはり単純な旅小説にはなり得ないのだと思います。

そんなこの作品ですが、登場人物は主人公の花田と『なごやん』と呼ばれる蓬田の実質二人のみです。ともに精神病院の入院患者の二人ですが、一方でそんな病気を意識させる部分を除けばそこにあるのは見事な珍道中です。『だけんねえ、遠くでお金下ろしたら今どこにおるかばれるったい。そげなこともわからんと?』というように博多弁バリバリの花田に対して、『正真正銘の名古屋生まれの名古屋育ち』にも関わらず『いずれ俺は東京に帰ります』とやたら『東京』を意識する蓮田というコンビは、会話多めの文章の中に絶妙なやり取りを繰り広げます。二人のそれぞれの性格がそんな会話の中に、行動の中に浮かび上がってもくる物語はどこかほのぼのとした雰囲気感に満ち溢れてもいます。そんな二人が九州を旅して回る物語は、『精神病院』を抜け出した二人という引っかかりを読者の意識からどんどん消し去っていきます。2007年に映画化もされているこの作品。それはこの二人の絶妙な掛け合いからきたのかとも思いますが、なんとも不思議な感覚を纏った作品だと改めて思います。絲山さんの作品はこの作品で三作目ですが、とても個性的な物語を創作される方であり、この作品でもその上手さをとても感じました。

『目的地なんかない。あたし達は二人とも、糸の切れた凧なのだ』。

『精神病院』を抜け出した男女二人が九州各地を逃避行する様が描かれたこの作品。そこには、単純に旅小説とも言い切れない複雑な読み味の物語が描かれていました。生き生きとした花田の博多弁の魅力を堪能できるこの作品。九州各地の観光地を巡る旅小説としての魅力も味わえるこの作品。

まさしくユーモラスに描かれる物語の中に、主人公たちの心の中に潜む、もの悲しい感情がふっと浮かび上がるのを感じたなんとも言えない読み味を残す作品でした。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2022年11月12日



p53
道端にブドウ畑があった。あたしは思わずブレーキを踏んで、後ろの車にクラクションを鳴らされた。なごやんとあたしは目と目を見合わせて次の瞬間車から出て畑に忍び込んだ。マスカットのつぶつぶを片っ端からちぎり取って口に放り込むと水分と甘味が盗みの喜びをかきたてた。そうなるともう、止まらなかった。...続きを読む次がトマト畑で、それからキュウリだった。茎は意外に強くて手でちぎるのは大変だった。
「バーベキューセットがあれば、茄子でもトウモロコシでも行けるのになあ」
 キュウリをぽりぽり噛みながら、善悪のみさかいのつかなくなったなごやんが言った。 


p112
「ねえなごやん、悲しかね、頭のおかしかちうことは」


p142
「知らん。いっちょんわからん」
 もう、なごやんの小理屈にもうんざりだ。山を越えても越えても、この九州にはどこにもラベンダー畑なんかなかった。探しても無駄だった。あたしは黙ってラムを飲み続けた。それで気持ち悪くなって、トイレも何もないパーキングに車を停めてと言って、端の草むらでハンバーグとラムを吐いた。ふらふらしながら車に戻ると、運転席にいたなごやんが運転席の窓から空になったラムの瓶を道路の方へ叩きつけた。パン! とガラスが砕ける音がして、残骸がキラキラと飛散していた。
「俺もああやって粉々になればいいんだ」
 なごやんは言った。小さくはあったが、吐き捨てるような調子だった。それっきりあたし達は口をきかなかった。

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Posted by ブクログ 2022年08月06日

双極性障害と九州とロードムービー。対極するはずの疾走感と閉塞感が矛盾なく収まっている。作者本人に告発の意図はないのかもしれないが、日本の精神疾患治療の暗部をざっくりと生々しく晒している。

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Posted by ブクログ 2022年07月30日

普通でない二人の逃避行なんだけど、本当の所 おかしいのは周りな気もする。
逃避行しているうちに、少しずつ気持ちも身体も 二人の関係性もほぐれてきているようで、九州の自然と街と言葉に 追体験した気になりました。
この後の二人が再出発出来ます様に。

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Posted by ブクログ 2022年07月26日

久々の絲山秋子さん!
花ちゃんの博多弁丸出しの会話に伴う疾走感がたまらない。引きずられアッという間に読み終えた。
主人公・花田こと花ちゃんは「亜麻色二十エレは上衣一着に値する」が幻聴で聴こえ出すと自分ではどうすることもできなくなってくる。『資本論』の一節だそうだが、時折り何度も出てくるこのフレーズは...続きを読む不可解だがテンポ感があり効果的に使われていた。
「どうしようどうしよう夏が終わってしまう」軽い気持ちの自殺未遂がばれ、入院させられた花ちゃんは、退屈な精神病院からの脱走を決意する。名古屋出身の「なごやん」を誘い出し、彼のぼろぼろの車での逃亡劇。なごやんと衝突しながらも、車は福岡から、阿蘇、さらに南へとの九州縦断ロードムービーさながらだ。(映画化もされているらしい)
こんなに一緒にいるんだから一回ぐらいセックスしてもいいよ、と言った花ちゃんになごやんが答える。「いかんがあ」「恋人じゃない人としたらいかんて。俺じゃなくても、誰とでもそうだからね」。いいなぁ、なごやん! ここでそんな関係になったら本作の魅力は半減しただろう。
今春出版された、続編『まっとうな人生』を早く読みたい!

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Posted by ブクログ 2022年02月08日

暗いはずなのに暗くない、精神病の教科書より精神病が伝わるような一冊でした。彼らは何から逃げたかったんだろう。

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Posted by ブクログ 2020年08月18日

きつい躁の女とゆったり鬱の男の逃避行。
多分メンヘラは皆分かる、逃げたいという絶対的な衝動。それに反してどこかあっけらかんとした二人の旅は、病への諦めに似た気持ちの果てにある。二人は価値観も育ちも全然違う人間なんだけど、精神病によって世間から隔離される存在だというところでゆるやかにつながっている仲間...続きを読むだ。
どこからも逃げられないじゃないかよってなごやんが叫んだとき、逃げることはできても逃げ切るなんてしきらんよって返す花ちゃんの言葉がすべてなのだと思う。でもそれは逃げて逃げて、行き詰まってみないとちゃんとは分からないことだ。ああもう駄目だ、どこにも行けないと分かってなぜか少しだけ安らぐ。花ちゃんの言うボラのように痛みを感じながら、このために逃げたのだとやっと分かる。
砂州の道が消えて、もう逃げる道がないという時に、二人の追い求めた安らぎのラベンダーの香りが少しだけするのって、この気持ちなんだろう、とすっと頭に入った。

最後の「くそたわけ」って、たぶん名古屋弁だと思うけど、逃避の末になごやんもやっと自分の一部を形作っている名古屋を受け入れることができたのだ。花ちゃんの脳内の声も消える。花ちゃんも花ちゃんで、「気が触れても彼女と歩いてた」で、自分の中のみんなとずっとずっと歩いて、ちょっと諦めがついたのだろう。二人はやけっぱちでずっと「彼女と歩いて」いかなくてはならなくて、にじんでいるのは悲しさよりも優しさだ。だってもう逃げられないんだから一緒に歩いていく他ない。逃げ疲れてやっとそれを選び取れる。
優しい話だったと思う。

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Posted by ブクログ 2019年01月10日

舞台が九州で行ったことある場所が出てきて想像が膨らんだ。201812の天神ぷち読書会の課題本。福岡タワーに近い百道病院という精神病院の入院患者が2人で脱走。24歳慶応大学出身のなごやんと、幻聴の聴こえる福岡大学生のはなちゃん。赤十字病院や高宮や西新などてでくる。車で福岡から阿蘇、さらに南へと奔走する...続きを読むのだが、旅行記をみているようで傍目にはたのしげ。なんか元気をもらえる。

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Posted by ブクログ 2017年07月19日

好きー(^-^)
精神病院からの逃亡って暗くて重い話なのかな、と思っていたら、予想外に爽快だった。なごやんと花ちゃん、どっちも突き抜けてて気持ちよか。
九州縦断、旅したくなった。
なごやんがところどころキュートで癒された。

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Posted by ブクログ 2016年08月18日

語り手花ちゃんと、たまたまの道連れなごやんの、博多弁と標準語の遣り取りが軽妙で面白い。
花ちゃんが感覚的であればあるほど、なごやんの理屈っぽさが滑稽に見えてくる。それがユーモラスでいとおしい。それも人を傷つけない、優しいユーモアだ。
極度の躁病および幻覚と、軽い鬱病。
ロードムービーならぬロードノベ...続きを読むル。
私が仕事を通じて触れた九州の一部を、ことごとく外す形で九州を南下していく。
旅を通じて、快癒、治癒、自己の回復、故郷との和解、などなど、先の見えない旅にも係らずどこかしらが癒えていく。
その最終局面が、たわけ=たぁけ=名古屋弁、という、回帰。ほんのりと感動。
これは恋愛でも友情でもない、人と人ふたりの関係がなんとかかんとか描かれたからこそ得られる抒情。
人と人に恋愛と友情以外の関係性をかぶせるのは、難しいことだ。

・亜麻布二十一エレは上衣一着に値する。(これがカッコにくくられず地の文に紛れ込む。)
・「でも、『なごやん』はおいしいんだよ!」
・患者はみんなあの薬で「固められる」と言っている。
・自殺未遂に理由なんかなくて、だから躁の自殺は恐い。
・黒板を消すように毅との思い出を拭き消していかなければならない。
・「『人間の精神は言語によって規定される』って、知らない? 俺は自分の精神を名古屋に規定されたくないんだ」
・「ツツガムシかもしれない!」(と叫んで車で逃げるなごやん。)
・阿蘇を見るとなんで「うおお」と言うのだろう。
・「いきなり団子たい!」
・「ラベンダー……」「ふたりで、探そうよ」
・「でも、してもよかよ」「いかんがあ」
・「宇宙に逃げようとしてから、ぴょーんち飛び跳ねても、重力で戻ってくるやろ。でもそんなことする奴はキチガイやろ。でもあたしはそのキチガイで、なごやんも同類よ」
・「これさあ、ライブじゃ『気が触れても彼女と歩いてた』って歌ってるんだ」
・「ああ、ほんとの行き止まりだ、ここは」
・一瞬だったけれど、確かに香った。強く香った。
・自分のふるさとをこんなにも複雑なカタチで愛している人もいるなんて、なごやんと会わなければわからなかった。

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Posted by ブクログ 2015年08月08日

精神病院から脱走した二人組が九州を逃げ回る、まるでロードムービーのような小説。
九州を知る人だったら、彼らが行く道の風景が浮かんだりして、より楽しめるんじゃないかと思います。
タイトルの名古屋弁が表すように、登場人物の一人「なごやん」と言う名前。なごやんを知る者にとっては親しみがわくネーミングです!...続きを読む
映画化した作品をぜひ観てみたいと思いました!!

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Posted by ブクログ 2024年02月19日

ある男女、恋愛関係でも、友達関係でもない、の二人の逃避行物語。絲山氏お得意のど直球な言い回しが小気味よい。この逃避行に楽しさ要素は全くないのだが、主人公たちがたどった道のりをドライブしたいと思った。

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Posted by ブクログ 2023年10月10日

オフビートなロードムービーっぽい小説。
特に大きなイベントはなく、淡々と主人国の二人が来るまで博多から鹿児島へと南下する。
退屈と言えば退屈な話なのだが、ジャームッシュ映画のような「面白い退屈」と言えば良いだろうか。ストーリーの起伏ではなく、主人公二人の会話を楽しむ小説だ。

「幻覚の方が実感なのだ...続きを読む
精神病院に入院している主人公が幻覚を表現した時のセリフだ。健康な人間でも不安に苛まれている時は、自分の想像が現実以上に実感を伴う。
「あたし」と「なごやん」の会話が普通なだけに、病人と健常者の境界があいまいなものだと感じる。


「幻覚の方が実感なのだ」

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Posted by ブクログ 2022年12月28日

精神病棟から抜け出した2人のロード小説。

凄い劇的な事件が起きる事もなくダラダラ旅してるだけなんだけど、それが良い。

ただ、ロードムービーやロード小説の醍醐味は個人的には別れのシーンと思ってるけど、そこがこの作品では消化不良だったかな。

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Posted by ブクログ 2022年08月22日

亜麻布二十エレは上衣一着に値する。
『資本論』の一説らしい。

ホンタメで続編が紹介されていて、気になったので先に前作のこちらを。
変わった小説でした。あてのない旅ってしたことないなぁ。逃亡ってなんかいいなぁ〜。九州は呑み温泉旅しかしたことないな。九州縦断旅が無性にしたくなりました。阿蘇でいきなり団...続きを読む子食べて花ちゃんを感じよう!と思って調べたら近所の和菓子屋さんに置いてるみたい。今度買ってみよっと。

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Posted by ブクログ 2022年05月28日

めっちゃ良かった。面白い。
精神病棟から逃げ出して、九州を逃亡する約1週間ほどを描くロードムービー、いや
ロードノベル?
亜麻布二十エレは上衣1着に値するという
意味不明な言葉が主人公の頭に幻聴として
響く。最初意味不明だなと思ってたけど
調べてみて、更に作品に深みが出ました。
方言も素晴らしい。そ...続きを読むして、驚く程、自然で嘘っぱちでない。そいぎんたはいいですね。また好きな作家が増えたな〜。

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Posted by ブクログ 2021年05月02日

精神病院を脱走し年代物のボロ車で目的の無い旅をする二人の最後は、、、

 躁病の主人公と鬱病の”なごやん”は突然にある日精神病院を抜け出し”なごやん”の広島のメルセデスこと名古屋ナンバーのマツダルーチェで目的のない逃走を図る。

 九州の福岡を出発し別府温泉、阿蘇山、宮崎市、鹿児島と車中泊を重ねなが...続きを読むら南進して行く道中では何故か大量のヒルが降ってきたり、無免許運転、食い逃げ、畑荒らし等社会で生活していれば絶対に取り得ない行動を繰り返す二人。

 小説のところどころで町田康ばりの意味不明な面白さに出会うのもこの作家さんの特徴で”なごやん”憧れのポルシェに無免許の主人公がルーチェでぶつけて当て逃げするシーンや国東半島で突然ヒルが振ってくるシーンには思わず笑ってしまいます。
 
 鬱だけど東京の大学を卒業し大手企業に勤めている知性的で常識派の”なごやん”と大学目前で躁で入院してしまった博多っ子の主人公が博多弁・東京弁(標準語)・名古屋弁で当ての無い道中に繰り広げる会話は暖かくユーモア溢れ終着の指宿迄に二人は精神的に新たなステップに辿り着く。

 軽快で温かくユーモア溢れ青春のひと時が生き生きと伝わる作品です。

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Posted by ブクログ 2020年09月03日

『資本論』の一節が頭のなかに響くことに悩まされる花ちゃんが、なごやんという青年とともに精神病院を脱出し、彼の運転する車で福岡から南へと九州を駆け抜ける物語です。

精神病院からの逃走劇ということで、もっとぶっ壊れた内容を想像していたのですが、方言が飛び交う二人の会話と、行き当たりばったりな旅の雰囲気...続きを読むのおかげで、全編にわたって明るさを感じる内容でした。

『資本論』と「逃走」というテーマは、80年代の島田雅彦の作品を連想させますが、東京かぶれの名古屋出身者という設定のなごやんが前時代的な地方コンプレックスを丸出しにしていることが、こうした図式に収まることを拒んでおり、力の抜けた作品世界をつくり出しています。いわゆる80年代的な消費社会論以後の状況をここに読み込むことも可能なのかもしれませんが、ともあれ二人の無謀さに元気をもらえる作品です。

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Posted by ブクログ 2020年10月12日

風変りなロードノベルです。精神病院を脱走した2人組という点ではありそうなのですが、逃亡的なドキドキが無いのは珍しい。
正直絲山さんは淡い感触の中で引っかかりを作るのが上手いイメージなのですが、これは正直凡作でしょうか。いい作品多いので最初に読むなら他をお勧めしたいかも。
でもこれ有名だし目を引くから...続きを読む思わず手に取ってしまいそうではある。
悪い作品では全然ないですけど。

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Posted by ブクログ 2018年09月17日

精神病院に入院する躁鬱病の「あたし」が同じ患者仲間で
慶応大学出の東京オタクの「なごやん」を巻き込み
九州を逃亡する話。
何がきっかけで、何をもって執着地点を決めたのか
ここで終わりと決める。
なんでそこだったんだろう・・・
最後に逃亡ルートの図があるんだけど、その短さが 寂しかった。 ...続きを読む
短いけれど、滑稽で、ちょっと切なくて ハラハラしながら読めました(p^_^q)

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Posted by ブクログ 2015年10月27日

まるでロードムービー、BGMはTheピーズ。ルーチェのカセットからピーズが流れた途端にご機嫌だった。逃亡のはずなのになぜか南のどんずまりを目指してしまう、目的もなく。夏という季節と暑い九州がそうさせるのかな。行ってみたくなる。恋人同士でもない二人がキスもセックスもなく、一緒に逃亡するなんてちょっと信...続きを読むじがたいけど。でも、そこが新鮮だったのかな。互いに病気を抱えていて、具合が悪くなるとぶつけ合ったりして、子どもみたいで。なごやん、いいやつだと思う。二人は逃げ切れたのかな。

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Posted by ブクログ 2015年06月07日

精神病院に入院中の花ちゃんと、同じく入院患者で、花ちゃんに半ば強引に付き合わされたなごやんが精神病院を脱走。九州の北から南へと逃亡するお話。その道のりは、幻聴・うつ・不眠との戦い、時にはケンカし、時には協力しあい、また命の危機アリ・・・とフィクションなのに、二人が心配でハラハラさせられました!ボンヤ...続きを読むリした終わり方のように思えましたが、ラストのなごやんの叫びでちょっとスカッとさせてくれた読後感でした。

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Posted by ブクログ 2016年08月16日

面白いのですがね、最後が締まらないと言うか。。
沢山の薬の名前が出たり、病状など随分下調べをしてるのだなぁと思いながら読んでたのですが、絲山さん自身が躁うつ病で長期休職した経験があるのですね(というか、本人のHPによれば今も通院中)。女・北杜夫?(笑)
過程は面白い。まるで脱走した重罪人が追い回され...続きを読むるような思い込みで逃げ回りつつ引き起こす騒ぎはなかなかです。なごやんと私の掛け合いも良いですし。でも、この最後はなんなんでしょうね。なんか無理やりプツンと切られたような気がします。そのせいで、どうもまとまった印象がつかめ無くなりました。

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