【感想・ネタバレ】謎の平安前期―桓武天皇から『源氏物語』誕生までの200年のレビュー

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Posted by ブクログ

一般的になよっとしたイメージを持たれがちな平安時代であるが、有名な紫式部や藤原道長などが活躍したのは平安時代の後半であり、平安遷都からの約200年間=「平安前期」は、時代の転換期で面白く変化に富んだ時代だったという問題意識から、桓武天皇の事績とその後の皇位継承、貴族と文人の関係、宮廷女官、斎宮・斎院、紀貫之を通して見る平安文学など、平安前期の様々なエピソードを解説。
確かに著者がいうように、平安時代としてイメージするのは平安時代の後半期のことが多く、平安前期については、高校の日本史で習った通り一遍のことは知っていても、その具体的なイメージはあまり持っていなかったので、本書の内容はとても興味深かった。「平安前期200年は、奈良時代に作られた律令国家を基盤として、律令国家という外枠を残しながら、古代から中世に向けてのいろいろな試行錯誤が行われた時代」だということがよくわかった。
特に、平安前期には地方出身のインテリが文人として出世する道があったが後期には閉ざされていったこと、また、平安前期までは宮廷女官も政治の中心にいたが、その後女性が宮中で活躍できる場が少なくなり、女房のサロンに能力のある女性が集約されたことで、女性による王朝文学が華開いたということ、あるいは、和歌の名手は出世とは無縁の人が多かったことなどは、目から鱗だった。
また、天皇・皇室に関心が強い自分としては、平安前期の天皇や皇室についての知識を深めることができたのも有意義であった。
著者は、斎宮歴史博物館の学芸員として長年斎宮の研究や普及に取り組んでおり、本書もその研究成果がふんだんに盛り込まれている(斎宮についての記述が異様に充実している)。また、一般向けの展示解説などの経験が豊富なこともあって、ポケモンやコミケなどの卑近なたとえ話が多いなど、文章もとてもわかりやすかった。

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2024年03月19日

Posted by ブクログ

イメージが湧きにくい平安時代の前期200年を天皇、文人官僚、貴族、宮廷女性など多様な視角から描き出そうとする試み。人名などに馴染みがないので読み進めるのが難儀な箇所も多いが、時折平たく噛み砕いて説明してあるので、何とか読み通すことが出来た。

最後の第10章に全体のまとめがあり、これはわかりやすい。序章の年表もわかりやすい。ただ中身はそう簡単に理解できない。とくに第5章、第6章は読み返さないとついていけない気がした。

やや強引にまとめると、中国の律令制を模倣しようとして完コピに失敗した日本があらためて国家目標としたのは、「天皇を中心とした官僚制度」の確立であり、それは桓武天皇から始まりようやく醍醐天皇の時代に完成する。しかし、醍醐天皇の親政時代は同時に藤原支配体制の始まりでもあった。菅原道真排除に成功した時平・忠平以降の「護送船団方式」内の権力争いに最終的に勝利したのが、花山天皇の退位事件であり、新たな摂関政治が始まる。以後の200年近くが平安後期ということになる。

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2024年02月12日

Posted by ブクログ

斎宮歴史博物館の榎村寛之氏による平安前期の概説。「謎」とあるのは、一般にわかりにくい、誤ったイメージを持ちがちな平安前期の認知状況を表現したものだ。他の通史と比べて、女官や斎宮の記述が多く、目を引く。また、現代で言えば〜といった例えが軽妙、ユニークで、読んでいてわかりやすく飽きさせない。下級官人である歌人をポケモンに例え、憐んでいたのは思わず笑ってしまった。9〜10世紀への興味がますますわいてきた。

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2024年01月28日

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<目次>
はじめに  平安時代は一つの時代なのか?
序章    平安時代前期200年に何が起こったのか
第1章   すべては桓武天皇の行き当たりばったりから始まった
第2章   貴族と文人はライバルだった
第3章   宮廷女性は政治の中心にいた
第4章   男性天皇の継承の始まりと「護送船団」の誕生
第5章   内親王が結婚できなくなった
第6章   斎宮・斎院・斎女は政治と切り離せない
第7章   文徳天皇という「時代」を考えた
第8章   紀貫之という男から平安文学が面白い理由を考えた
第9章   『源氏物語』の時代がやってきた
第10章   平安前期200年の行きついたところ

<内容>
平安時代。今年の大河ドラマがこの時代だ。そしてそのテーマは『源氏物語』。我々もイメージするのは貴族たちの恋多き時代。しかしこれは11世紀以降のいわゆる「摂関政治」の時代で、平安時代の後半200年の始まりの頃の話だ。784年から1185年まで400年続く平安時代全体が、そうではあるまい。この本はそうしたことを教えてくれる。著者がわかりやすい表現、たとえをしてくれるのでわかりやすいこともあり、日本史教員として少し教えにくいこの時代を楽しく学ぶことができた。これを授業にどう取り入れるかだ…。  

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2024年01月18日

Posted by ブクログ

書店で目次を開き面白そうと思い購入。以下にまず目次を記します。

はじめにー平安時代は一つの時代なのか?/序章 平安時代前期二〇〇年に何が起こったのか/第1章 すべては桓武天皇の行き当たりばっかりから始まった/第2章 貴族と文人はライバルだった/第3章 宮廷女性は政治の中心にいた/第4章 男性天皇の継承の始まりと「護送船団」の誕生/第5章 内親王が結婚できなくなった/第6章 斎宮・斎院・斎女は政治と切り離せない/第7章 文徳天皇という「時代」を考えた/第8章 紀貫之という男から平安文学が面白い理由を考えた/第9章 『源氏物語』の時代がやってきた/第10章 平安前期二〇〇年の行きついたところ

平安時代というと、煌びやかな王朝文化が花開いた割合安定した時代というイメージがあるが、なんとも漠然としており自分な中ではっきりとしたイメージが持てない。平安時代ってほぼ400年続いているわけですが、それすらあまり意識しておらずこの時代を描いた歴史小説をあまり読んでないのもあって、なんとなく安定したいい時代くらいの認識しかなかった。

で、本書だが、目次を紹介させていただいたが、中々面白げな章題が並んでいる。いざ読むと歯応えがあり、夥しい人名の渦の中で理解が進まず途中からは斜め読みになってしまった。それでも、第10章に辿り着き、ここに著者の言いたい事はコンパクトに集約されていた。

一番の驚きは、女性の地位が奈良時代に比べて、大きく低下していると著者が認めていること。宮中(政治)の中で能力のある女性の活躍する場が減ったことが、サロン化された後宮の中で花開き、女流文学の隆盛に寄与しているという見立て。現実に紫式部も和泉式部、清少納言も本名すら伝わってないと言う。日本の女性問題には長い長い歴史があるんですね。

参考文献も沢山紹介されているのも親切だが、果たして自分の理解出来る本がどれくらいあるだろうか。

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2024年03月24日

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