【感想・ネタバレ】迷いの谷 平井呈一怪談翻訳集成のレビュー

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Posted by ブクログ

『迷いの谷 平井呈一怪談翻訳集成』(創元推理文庫2023年5月初版)の感想。
平井呈一訳の怪奇小説を集めた一冊。『幽霊島』に続く第二集ということだが、間に『恐怖 アーサー・マッケン傑作選』を挟んで居り、今回マッケンの収録は無い。
収録作は、M.R.ジェイムズ2作、ブラックウッド6作、初期翻訳としてコッパード『シルヴァ・サアカス』、ホフマン『古城物語』、それと解説やエッセー等。
此の度読んで面白かったのは、ホフマン『古城物語』です。全体にゴシック小説的で、筋の運びはジェイムズ辺りと比べると巧みさに欠けるが、古風な舞台で展開する古風な物語にぴったりの古風な文体が実に好い。あんまり江戸っぽい言葉が出てこないのも好かった。こんなことを書くと平井呈一ファンに怒られそうだが、今回ジェイムズの『消えた心臓』を読んで居て、家令のパークスが「恐れ入谷の鬼子母神」とか口走りそうな口調なのでハラハラした。まあ、私がハラハラしなければならない理由はないのだけれども、いち平井ファンとしては、この様な訳文の癖の強い部分に難を付ける人に対してどう釈明すべきか考えてしまうたりする。
それから、コッパード『シルヴァ・サアカス』は、今回読んだのが何度目になるか分からないが、余韻が深く好いものだ。神韻縹渺というに相応しい品だと思う。
本について残念なことが一つ。創元推理文庫の天の部分がギザギザのアンカットだったのが、しばらく前からツルツルになった。この本もツルツルで少し寂しい。時代の流れで致し方ないのだろうけれども。

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2023年12月05日

Posted by ブクログ

タイトルにもなったブラックウッドの「迷いの谷」も良かったが、初期翻訳作品としてホフマンの「古城物語」が雰囲気バッチリで良かったですねぇ。そして解題にあらわれる佐藤春夫w

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2024年01月04日

Posted by ブクログ

 数多の西洋怪奇小説の紹介と翻訳で、本邦における怪奇翻訳の礎を築いた、翻訳業界そして編集業界の巨匠、平井呈一。彼の偉業である怪談翻訳集成第2弾、前半は平井をして「近世怪奇小説四天王」と言わしめた4人のうち、M.R.ジェイムズとA.ブラックウッドの傑作選、後半は平井の翻訳者の原点である初期翻訳作品2点の他、彼が翻訳したラフカディオ・ハーンの文学講義や平井氏の翻訳に対する姿勢が見えるエッセー等を収録。

 以下、なるべくネタバレなしの収録作品各話感想。
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★ジェイムズ「消えた心臓」(1904)
 半年前から孤児だったスティーヴァンは、年長の従兄弟であるアブニーに迎え入れられる。ある日、スティーヴァンは使用人から、過去に二人の孤児が屋敷に引き取られた後に失踪したことを聞かされる。そしてその夜、屋敷の古い浴室で怪しい人影を目撃する――。
(ジュブナイルの要素と魔術の要素をミックスした怪奇譚。)

★ジェイムズ「マグナス伯爵」(1904)
 スウェーデンに関する本の執筆を思い立ったラクソールは、向かった先で風変わりな教会を発見する。そこに眠っている、怪奇な伝承が伝わるマグナス伯爵という人物に興味を惹かれた彼はその霊廟の前で、自然と「お目にかかりたいものだ」と口にする。その時、カチャンという金属音が――。
(吸血鬼ものを下敷きにしつつ、全く異なる独創的な怪異を表現した傑作。)

★ブラックウッド「人形」(1946)
 インド駐在歴のある英軍人マスターズ大佐。彼の家の呼び鈴が鳴らされ、料理女が対応に出ると、そこには黒い肌の男がいて、大佐に渡してほしいと、彼女に小さな紙包みを押し付けて消えてしまう。
 主人からそれを捨てるよう命じられた料理女が紙包みを開けると、現れたのは蝋細工の人形だった――。
(呪いの人形をテーマにした、オーソドックスな怪奇小説。事の真相は最後まで明かされないが、当時のインドは英国の植民地で、独立運動が盛んな時期でもあったので、読者はそこから推し量ることもできるだろう。)

★ブラックウッド「部屋の主」(1917)
 急に思い立ってフランスのアルプスを訪れたミンタンだったが、それが災いして宿を取れない状況にあった。近くの民家に一泊を請おうとした矢先に、ホテルのボーイから「『予約済み』だが泊まれる部屋」があると伝えられ、詳細を聞いた上でその部屋に泊まることにする。だが、その部屋はどうにも厭な感じが――。
(いわゆる「旅行怪談」もの。はたして彼を嫌な気分にしていたものは、前の宿泊客の残念か、それとも部屋そのものか。)

★ブラックウッド「猫町」(1908)
 心霊事件を追求してはそれを解明することに心血を注ぐ医師ジョン・サイレンス。そんな彼の元を訪れたアーサー・ヴェジンが語った旅先のフランスで自身を襲った体験とは――。
(原題である『いにしえの魔術』という邦題の方が有名な、"輪廻"を主軸にしたダーク・ファンタジー。ジョン・サイレンスものの代表作だが独立した作品として読んでも面白い。)

★ブラックウッド「片袖」(1921)
 ヴァイオリン収集を趣味とするギルマー兄弟。彼らのもとには、鑑定家で演奏家でもあるハイマンが度々訪れては名器を演奏させてもらっているが、ヴァイオリンに対する認識の違いから、双方は密かに相手を嫌悪していた。
 ある霧の晩、兄が帰宅すると、在宅中の弟は、つい先程までいたというハイマンとの間で起きた不気味な出来事を語り始めた――。
(「妄執」をテーマに黒魔術的な要素を絡めた短編。)

★ブラックウッド「約束」(1906)
 深夜まで勉強に励んでいたマリオットを訪ねたのは、かつての学友であるフィールドだった。ささやかな食事で歓迎するマリオットに対し、沈黙を続けるフィールド。やがて眠そうな様子を見せた彼に、マリオットは快く寝床を提供するのだったが――。
(ジュブナイルな怪談話。ブラックウッドは小泉八雲の作品を読んでいるようなので、彼の『守られた約束』がモチーフになっているかもしれない。)

★ブラックウッド「迷いの谷」(1910)
 容貌ばかりか趣味や思想も同じくする双生児マークとスティーヴァン。彼らはある年の夏に旅行に出かけるが、訪れた山中のホテルでスティーヴァンは美しい女性に恋をする。異性への好みも同じくすることから、スティーヴァンはこのことをマークから隠そうとするのだが、事態は思わぬ方向へ――。
(文中で語られる、死にきれない霊が集まるという「迷いの谷」の伝説が、その結末に彩りを添える、傑作の一つ。)

★コッパード「シルヴァ・サアカス」(1928)
 女房とその間男になった友人に逃げられたハンズ。意気消沈している彼のもとを、サアカス団の団長が見世物の主役にスカウトするために訪れる。法外な値段で雇われ舞台に立ったハンズの前に現れたのは――。
(様々な意味で"人間"を描いた短編。その結末に抱く感想は、読者によって多く異なるだろう。)

★ホフマン「古城物語」(1917)
 男爵一家の補佐を担う大伯父とわたしは、仕事で男爵の世襲領がある地に向かう。しかしいつも使っている城の部屋が折悪しく使えなくなっていたため、急遽別の部屋に泊まることになる。その晩、私はその部屋で不気味な現象に襲われる――。
(男爵一家の因縁物語を綴ったゴシックホラー。下に恐ろしきは人の妄執か。)

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2024年05月25日

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