【感想・ネタバレ】ビショップ氏殺人事件 曽野綾子ミステリ傑作選のレビュー

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Posted by ブクログ

曽野綾子の思想的原点はどこにあるのだろう
いくつかの初期作品に触れた感触だけで想像するに
太宰治の影響が強いのではないか
勝手にそう思っている

「ビショップ氏殺人事件」
昭和30年代のはじめだから、朝鮮戦争の少しあと
優しいアメリカ人の見せる父性に対して
若き日本人の抱える甘えと屈託が
殺人事件を引き起こす

「華やかな手」
女子生徒に人気のある大学教授
彼は赤ん坊のとき、事故で片方の手首を失っている
不具の意識から結婚を避けている様子だが
しかし人生に絶望してはいない
明確ではないけれどもキリスト教への傾倒が垣間見える

「消えない航跡」
生きてるときは嫌なやつと思っていても
死んだあとでは良いやつだったように印象が変わることもある
それがセンチメンタリズムだ
大人の世界にはあまりないことだが
しかし、真実の裏付けがあるとなれば話は別だ
たとえそれが下世話な興味で暴かれた真実であろうとも

「競売」
物質主義によって迷信を退け
勝利の美酒に酔いしれる
しかしその直後
戦後失われつつある人の心への感傷をくすぐられ
あっさり騙されてしまう

「人生の定年」
会社の上役が交通事故で死んだ
しかし本当は保険金狙いの自殺だったんじゃないか
そんな噂の真相を探るうちに
殺人事件の可能性まで浮かび上がってくる
最後のほうに「日本浪曼派の詩人」が出てくるあたり
ミステリというよりは
戦後日本人の孤独を書いた文芸作品と言うべきだろう

「佳人薄命」
曽野綾子のミステリ作品は
真相を探る探偵にこそ
心の闇を見出そうとするところがあって
それが独特の味になっている
センチメンタリズムを否定したくない気持ちは
あったかもしれない
この作品では「読者への挑戦」に相当する台詞が用意されており
一見、正統派の本格ミステリと思わせるのだが
その後にさらなる展開がある

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2022年08月06日

Posted by ブクログ

純文学の作家と考えられることの多い曽野綾子氏のミステリ系の作品を集めた短編集。乱歩が賞賛したという「ビショップ氏殺人事件」は証言のわずかな矛盾から犯人を特定する、本格的なパズラー。ただこの系統はこれ一作で、他はやはり文学よりというか、推理よりも犯罪が暴き出す人間の心理や人生の断面に重点が置かれている印象が強い。そんな中ではライトなクライム・コメディといったような「競売」や、探偵趣味の持つ一種の疎ましさを描いたような「人生の定年」が印象的。

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2022年01月09日

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