【感想・ネタバレ】愛じゃないならこれは何のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

いちばん好きな小説たちに食い込んでくる短編集
「二人」の表現できない人間関係がたまらなく好きなひとにはぶっ刺さる斜線堂さんの世界観!!
特に好きな最初の短編2つをざっくりネタバレありで↓

◯ミニカーだって一生推してろ
売れない地下アイドルの「赤羽瑠璃(ばねるり)」は初めてエゴサで自分に言及していたグループのファンねるすけを見つける。(このときはまだ「ばねるり」の愛称じゃなくて「赤羽瑠璃は黒の衣装の方が似合う」とただのいちグループのファンでいるところもエモい)
ねるすけのSNS上での反応をバネに、「たった一人に無限の重みを載せて、瑠璃は荒野を行く」とトップアイドルへの道を上り詰めていく、ばねるりサイドでの歪んだ愛情のお話。
ばねるりは、ねるすけのおうちにストーカーするくらい推しているのに、ねるすけはそれに気づかずどこまでも清く正しく「推し」ているこのギャップ
ばねるりは、めるすけの一番になりたいけれど、めるすけはみんなにとってばねるりが一番になってほしい。

小さい頃に集めたミニカーはいつのまにか手元から消えていくけれど。ミニカーだって一生推してろ、と握手会の最中に笑顔の裏で思っているばねるりちゃんが愛おしい。

◯君の長靴でいいです
天才デザイナー灰羽妃楽姫(きらき)と、カメラマン妻川との関係。きらきのためにガラスの靴を用意し、似合う花を見つけ、パリへ一緒に行き…いつか結ばれると思っていた相手が結婚するという。(相手が「松永良子」といういたって平凡な名前なのもまたいい)
シンデレラは舞踏会なんかにいかずに町内会で夫を見つけてもよかったのに、という発想が斜線堂さんらしくて大好き

1話目のばねるりは夢から醒めないことを選んだけれど、2話目のきらきは、「ガラスの靴じゃなくて、長靴でいいから私のことを選んでほしかった」と最後に幕引きを選びます
きらきを選ばなかった妻川をガラスの靴でぶん殴って颯爽と都会の街に消えていくきらきがかっこいい。舞踏会は終わらない。

2021年の小説に遅ればせながら2024年にハマったわけですが、
TwitterはXになり、福井へは新幹線で行けるようになり、1400円でハードカバーが買えていた頃が信じられず…。

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2024年05月04日

Posted by ブクログ

最近、YouTubeで「ほんタメ」という動画にハマっているのですが、MCのあかりんが「恋愛と地獄は近ければ近いほどいい」と言っておりました。
これはまさに、そんな胸ギュン小説です。

決してキュンではないしハッピーでもないけれど、確かに「これが愛じゃなければ何なのだ!」としか言い様のないどうしようもなさ。
恋をするとキラキラ綺麗な自分でいたいし、そういう自分だけ見せたい。相手との時間も自分の時間も大切にできる理想の女性になりたい⋯⋯でも、現実の自分の感情はそうはいかないのだという、それがそれぞれの主人公達の行動に現れているような気がして、とても好きです。

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2024年03月22日

Posted by ブクログ

この小説で「ほんタメ文学賞」を受賞された斜線堂さんが、インタビューで、
「恋愛はQOLを下げる」とおっしゃっていました。
なんか分かる気がします…笑
そんな、恋に落ちたばかりにQOLがガタガタに下がったり、思いもよらない行動をとったりする人たちの短編集です。
ファンに恋したアイドルや、カリスマデザイナーのキャラを崩せない女性の恋模様は、立場に縛られるがゆえに拗れて行ってる感じが凄まじく、息苦しさが伝わるようでした。
一番グサっときたのは、好きになった相手と話を合わせるために趣味を寄せていく会社員の話です。
インドアな女性がサッカー観戦趣味の男性に全力で合わせているところは、まぁまだあってもおかしくないと思うのですが、登山趣味に合わせだすともう大変です。
両思いになる要素は趣味の一致だけではないと分かりつつも、好きになったらいくらでも相手のいる世界に浸りたくなる、可能性を高めたくなる、という心理は理解できます。
いい具合でとめられたら、相手に影響されても視野を広げる機会になって理想的ですが、理性で自分のQOLを保つ塩梅が分からなくなるのが、この小説に出てくる恋愛なんだと思いました。

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2023年08月05日

Posted by ブクログ

アイドルやデザイナー、ごく普通のOLたちの恋。と言うと可愛いのに、一人一人をクローズアップすると、そんな単純でささやかな話では済まないし、この展開から大団円のハッピーエンドに行き着くのは難しいんじゃないか?と考えてしまうと、確かにこの本は『地獄』だった。タイトルに応えるなら『これはこれで愛』と思うものの、作品のどれもが一方通行で、しかも過剰で必死過ぎる感情なので、読めば読むほどしんどくなってくる。ここからどうにか上手くいって欲しいという気持ちと、いやもう諦めて離れた方がいいという気持ちの両方を感じた。
トップアイドルの苦悩やアイドルにのめり込むファンの姿なんかをよく見かけるので、その真逆の『ミニカーだって一生推してろ』が一番面白かった。『めるすけはばねるりにとっての神様だった』と認識を改め、適度なところで離れた方がアイドル人生としては正しいんだろうけど、ここからより一層こじらせた方が物語としては面白いんだろうなとも思う。

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2023年03月27日

Posted by ブクログ

読みやすい文章ですんごい恋愛の地獄を味わえる。
最高のモヤモヤぐるぐる感。天才だ…と感じた。すごく良い読書体験だった。

それぞれが抱えるもの、確かに愛と呼べるような呼べないような、言語化の難しい関係性と感情と、執着のような何か。そして帯通り「この恋は地獄に続いている」。愛の覚悟と狂気。良くないけど、良かった。人は変わっていくものだけど、私の好きな人がこの覚悟を持ちませんように、とは感じた。

全ての短編が、それぞれ環境も感情も異なっているのに「愛じゃないならこれは何」というタイトルに終着していくのも凄いと思った。

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2023年02月03日

Posted by ブクログ

愛じゃないなら人はそれを執着と呼ぶ。

こういうの読みたかった!を提供してくれる作家。
適度な情報量で一行一行無駄なくテンポのいい文章の推進力よ。

『ミニカーだって一生推してろ』
ミステリー作家の恋愛小説はスリリング。自分がストーカーになったように錯覚する臨場感があった()

『きみの長靴でいいです』
エモい関係つーかキm…
用意された舞台だけど完璧に演じ切る妃楽姫は美しかっただろう。願望は儚く崩れ去るが、ガラスの靴を脱ぎ捨てた裸足のダンスは力強い。

『愛について語るときに我々の騙ること』
嫌すぎる三角関係に心が荒むぞ。
こんな泥沼地獄でも文脈的にはハッピーエンドな気がする。3人で居られたらそれで良い、のに…
続編は園生視点。彼が新太を好きな理由がわかって良かった。

『健康的で文化的な最低限度の恋愛』
笑っちゃった。好きな人に合わせてサッカーを勉強したり山も登る主人公は凄いしその努力に尊敬の念すら覚える。
むしろ彼がストーカーだった、ってオチかと思ってたらそんなことはなかったぜ

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2022年08月31日

Posted by ブクログ

「感情をめちゃくちゃにされた」という帯に偽りなくめちゃくちゃにされた。読みやすく理解しやすいのに読み手を直接殴ってるようなそんな感覚に襲われた。内容が好きかもしれないと思って買ったけど当たり前に好きだった。特に「きみの長靴でいいです」はページをめくるたびにドキドキしたし、最後で叫びたくなった。妻川よぉ…………個人的には男女3人を描いた「愛について語るときに我々の騙ること」が好き。

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2022年05月11日

Posted by ブクログ

あなたは、”恋愛小説”にどのような内容を思い浮かべるでしょうか?

この世に溢れる数多の小説の中でも”恋愛小説”は定番です。”男女間もしくは同性間での恋愛を主題とした小説”を指すという”恋愛小説”。この四年ほどで780冊あまりの小説ばかりを読んできた私の本棚にもたくさんの”恋愛小説”が並んでいます。私の場合、女性作家さんの小説をすべて読み切ることを目標としており、”恋愛小説”をわざわざ選んでいるわけではありません。そうです。ランダムに選んでも自然と一定数を占めるほどにこの世には”恋愛小説”が存在するのです。

一方で、”恋愛小説”と言ってもその内容は千差万別です。青春の甘酸っぱさの中に存在するものもあれば、しっとりとした大人の恋愛もあります。そして、なるほど、これも恋愛の一つのかたちだね!と少し変わった”恋愛”を見るものもあります。そうです。この世に数多ある”恋愛小説”のかたちはその小説の数だけあるとも言えるのです。

さてここに、斜線堂有紀さんがはじめてチャレンジした”恋愛小説”があります。ミステリ作家として見せる顔とは異なる斜線堂さんを見るこの作品。なるほど、これも恋愛の一つのかたちだね!という作品群を見るこの作品。そしてそれは、”恋愛小説”の多様性をそこに感じる物語です。

『人気アイドルが、一般人へのストーカー行為で逮捕されたら、どんな結末が待っているだろう』と、『他人の家のベランダに座り込みながら考える』のは主人公の赤羽瑠璃(あかばね るり)。『男の部屋に忍び込んで捕まるなんてあってはいけない』、その一方で『彼は自分の部屋に忍び込んだ咎で推しが引退することになったと知ったらどう思うだろうか』とも考える瑠璃。そんな『瑠璃は意を決して、二階のベランダから跳』び降りながら、『今から四年前。瑠璃が二十四歳の頃』のことを思い出します。
『アイドルを辞めようとしていた』『二十四歳の赤羽瑠璃』は、『言ってしまえば、ただの地下アイドルで』しかない『東京グレーテル』の『ステージ最後列、ワンフレーズだけのソロが唯一の晴れ舞台』という状況に埋もれていました。『今の赤羽瑠璃を知っている人間なら、そんな時代を信じないかもしれない』という日々の中に『早く辞めなければいけない』と思う瑠璃。そんな中、『めるすけ「赤羽瑠璃は赤じゃなくて黒の方が似合うな」』というツィートを目にした瑠璃は、『運命かもしれない』、『衣装に文句を付けられはしたけれど、めるすけは自分のことを認めてくれている』と思います。そして、『自費で購入したいものがある』とマネージャーに訴え、『黒』の衣装を着ることになります。『衣装替えました!カラーも一新でニューばねるりで』とツィートすると、『めるすけ「ばねるり、衣装替えて正解だな。すごく綺麗だ」』と反応がありました。『たった一人のそんな一言が、死ぬほど愛おしい』と思う瑠璃がライブの後に、『ツイッターのホームを確認』すると、『どの曲も、瑠璃を中心に書いてある』ことに気づきます。そんな中でも『めるすけ』のツィートを意識する瑠璃は、『これほどまでに赤羽瑠璃を見てくれている人間はいなかった。だが、それと同じくらい瑠璃もめるすけのことを見ていた』という思いに満たされていきます。そんな半年後、『東京グレーテルの握手会』が開かれます。『他のメンバーには全く及ばないものの、瑠璃の列にも数人のファンが並んでくれた』のを見てホッとする瑠璃は『その列の先頭に「めるすけ」がい』るのに気づきます。ツィートの公言で彼が来ることを知っていた瑠璃は、事前の服装の情報も合わせて彼を特定します。『いつも応援してます。ライブ楽しみです』、『ありがとう。すごく嬉しい』と会話する二人。『私、頑張るから。ずっと見ててね。一生推してて』と言う瑠璃に、『うん。見てる。応援してる』と返す『めるすけ』。そして、会の終了後『めるすけ「ばねるり握手会終わった。最高だった」、「ばねるり一生推す」』というツィートを見て『一生推してて、と瑠璃は復誦』します。そんな中、『握手会の直後に、転機が訪れ』ます。『東京グレーテルの第一期生が全員卒業することになった』というその転機に際して『同期である第二期生の中でも卒業を表明する人間が出てき』ます。このままでは『東京グレーテルは解散になってもおかしくな』いという状況の中、『二十五歳の赤羽瑠璃は東京グレーテルに残ることを決め』ます。そんな発表に、『めるすけ「東グレ解散はマジで無理だわ。ばねるりは勿論だけど、俺は東グレが好きだったから」、「でもばねるり、アイドルやめないで…」』と反応するツィートに『この世でたった一人でも、ずっと自分のことを愛してくれている人がいる。見つめてくれている人がいる』と思う瑠璃。そんな瑠璃が転機を生かして『東京グレーテルのリーダーに抜擢』されたその先の物語が描かれていきます…という最初の短編〈ミニカーだって一生推してろ〉。まさかのアイドル視点で展開する彼女の苦悩を描く好編でした。

“斜線堂有紀のはじめての恋愛小説集”と高らかにうたわれるこの作品。斜線堂さんというとやはりミステリ作品という印象が先立つ中に、”恋愛小説”という言葉がとても新鮮に感じられます。五つの短編から構成されたこの作品は、「JUMP j BOOKS編集部公式note」公開の作品に、一編を書き下ろし、一冊の作品として刊行されたという経緯を辿るようです。

そんなこの作品の興味深い構成の一つが一編目〈ミニカーだって一生推してろ〉に用いられているツィートの多用でしょうか?この短編では、主人公でアイドルの瑠璃が、彼女の『推し』である『めるすけ』のツィートを意識する中に物語が進んでいきます。そんな彼女の転機となったのが『東京グレーテル』のメンバーとなるも『照明すら薄らぼんやりとしか当たらない舞台』で『アイドルを辞めようと』考えていた瑠璃がたまたま目にしたツィートでした。

 『めるすけ「赤羽瑠璃は赤じゃなくて黒の方が似合うな」』

この『めるすけ』のツィートを起点に瑠璃が衣装を変えたことで風向きに変化が生じていきます。また、そんな起点をくれた『めるすけ』への想いが募ってもいきます。その一方で瑠璃のことを『ばねるり』と書く『めるすけ』のツィートは続きます。

 ・『めるすけ「ばねるりの目が、まるでメテオライトみたいだった。ばねるりは黒が似合う。あの大きな目にも星がある」』

 ・『めるすけ「というか、ばねるりの握手列結構えげつなかったな。みんながばねるりの良さに気づいてくれたみたいで嬉しい」』

 ・『めるすけ「ばねるりがみんなの一番になってほしい」』

 ・『めるすけ「ばねるり一生推す」』

さらには、

 ・『めるすけ「まさかゴールデンタイムに東グレを見れるとは思わなかった。推し続けてよかった…。残業続きの身体にめちゃくちゃ沁みる」』

 ・『めるすけ「テレビに映ったばねるりのこと、多分一生忘れないと思う」』

瑠璃を追う『めるすけ』のツィートが作品に織り挟まれるように本文は構成されています。”恋愛小説”にも関わらず、主人公の想いは、自らのことを記すツィートであるという点がこの短編の大きな特徴です。しかもそれは、瑠璃本人宛ではなく、あくまで『めるすけ』が書き記したツィートに過ぎません。そんな物語は、あくまでツィートにこだわった結末を迎えていきます。”恋愛小説”という枠組みの多様性を見るなかなかに興味深い構成の短編だと思いました。

さて、〈ミニカーだって一生推してろ〉の構成を取り上げる中で、”恋愛小説”の多様性について触れてみましたが、この作品では他の短編でも構成こそ違え、”恋愛小説”ということを意識すればするほど、これって”恋愛小説”なの?という構成の作品が続きます。では、そんな視点も意識しながら各短編をもう少し見てみましょう。本の帯に記載された各短編の”イメージ”も最後に付記します。

 ・〈ミニカーだって一生推してろ〉: 『アイドルを辞めよう』と考えるのは『地下アイドル』『東京グレーテル』の『ステージ最後列、ワンフレーズだけのソロが唯一の晴れ舞台』という主人公の赤羽瑠璃。偶然に見つけた『めるすけ』という人物の『赤じゃなくて黒の方が似合うな』というツィートに転機を見出します。それ以降も『めるすけ』のツィートを意識する瑠璃は『めるすけ』の存在を強く意識し、好きになっていきます…。
  → “ファンをストーカーする地下アイドル”

 ・〈きみの長靴でいいです〉: 『二十八歳の誕生日に贈られたプレゼントはガラスの靴だった』というのは灰羽妃楽姫(はいばね きらき)。『この世界で一番妃楽姫に似合う靴だと思ってる』と『ガラスの靴を差し出』す妻川から靴を受け取る妃楽姫に『お誕生日おめでとう…君に出会えたことは、僕の人生にとって最高の幸福だった』と語る妻川を『愛おしい、と心底思』う妃楽姫ですが、直後、『そんな男の婚約報告を聞』くことに…。
  → “舞踏会 中毒の女”

 ・〈愛について語るときに我々の騙ること〉: 『高校時代に廃部寸前の放送部で出会った私達は、それからずっと仲がよかった』と、春日井園生と泰堂新太のことを語るのは鹿衣鳴花(かごろも めいか)。そんな鳴花は『僕さ、ずっと前から新太のことが好きだったんだ。だから、付き合ってくれない?』という園生の告白を受けるも『私の欲しいものは、三人でいるこの現在だ。私は自分なりに二人ともを愛している』という鳴花は…。
  → “男 × 男 × 女”

 ・〈健康で文化的な最低限度の恋愛〉: 『津籠実郷です。よろしくお願いします!』と手を伸ばされ『美空木絆菜です。よろしくお願いします』と握手を交わしたのは主人公の絆菜(きずな)。『中途採用された新人』の実郷(みさと)の指導を担当することになった絆菜ですが、実郷が絆菜の担当した記事を褒めてくれたことをきっかけに彼のことが気になり、どんどん好きになっていきます。そして、彼の趣味について調べ始める絆菜は…。
  → “男に合わせて山で死にかける女”

 ・〈ささやかだけど、役に立つけど〉: 『初めて放送部の部室で鹿衣鳴花と出会った時に、自分はいつか彼女と付き合うんじゃないかと思った』というのは主人公の春日井園生(かすがい そのお)。泰堂新太を加えて『男二人に女一人の形』で付き合いを続けていく中、『居心地のいい空気の中で、友情を育んでい』た『ツケ』として、『恋愛感情が生まれ』た先の戸惑いを感じています。そして、鳴花と『恋人』になった園生は…。
  → “男 × 男 × 女”

五つの短編のうち、この作品のために書き下ろされた〈ささやかだけど、役に立つけど〉は、〈愛について語るときに我々の騙ること〉の視点を変えた物語です。園生、新太、そして鳴花という“男 × 男 × 女”の関係性を描く物語は、この最後の書き下ろしによってもう一人の人物から見た三人の視点が加わることで、世界観が大きく広がります。男と女の間に友情が成立するのか?というテーマは、千早茜さん「男ともだち」で作品全体にわたって語られていますが、この作品では、ある意味さらにその先に踏み込みんだ物語が描かれていきます。

 『男女の友情がなかなか難しいこの世界において、私達はどこに出しても恥ずかしくない親友をやっていた』。

そう、一対一ではなく“男 × 男 × 女”という組み合わせによってその関係性を考える物語がここに展開するのです。この作品を刊行するにあたって、書き下ろしまでされた斜線堂さんが描くその世界。”恋愛小説集”という位置付けのこの作品において一つ大きな読みどころになる作品でもあると思いました。

また、その他の三編についてもなかなかに興味深い視点を提供してくれます。〈ミニカーだって一生推してろ〉については上記で記したとおりですが、他の二編もそれぞれの読み味があります。〈きみの長靴でいいです〉では、『ガラスの靴』というものを物語中に実際に登場させるのが斬新です。シンデレラの物語であくまでお伽話の中にある『ガラスの靴』。そんなまさかの靴を履くことになる主人公の複雑な胸中を見る物語。それは、シンデレラの物語を背景に思い浮かべれば思い浮かべるほどに奥行きが深くもなっていきます。そして、この作品である今一番の読みどころを提供してくれるのが、〈健康で文化的な最低限度の恋愛〉です。”恋愛小説集”というこの作品の位置付けで最もそれに近いもの、しかし、一方で歪さを見るもの、それがこの短編です。

 『自分というものが全部抜き取られて、恋に埋められてしまった』。

『中途採用された新人』の指導を担当することになった主人公の絆菜がまさかの思いが止められなくなっていく展開。そんな絆菜の物語は、『親友の遠崎茜が逮捕』されたという事実を背景に見せながら展開するところが絶妙です。

 “恋愛には楽しい部分ももちろんあるけれど、先へ進むと八割方…九割五分、地獄が待っている。でも、感情が大きく動くということは、プラスであろうとマイナスであろうと、人生にとって必要なことだと私は思うんです”

そんな風におっしゃる斜線堂さんが描く”恋愛小説”の一つのあり方を見るこの作品。そこには、”恋愛”というものの懐の深さを見る物語が描かれていました。

 『愛されたかった。いや、愛されたいのだ。今もすごく』。

五つの短編が収録されたこの作品。そこには、はじめての”恋愛小説”にチャレンジされた斜線堂さんが見るさまざまな『恋愛』のかたちが描かれていました。なるほど、こういう視点から切り込むのね!と感心するこの作品。『恋愛』現在進行形の人間の思いの強さに圧倒されるこの作品。

“今後も恋愛小説を書き続けたい、自身の主戦場であるミステリというジャンルとのかつてない融合も試みてみたい”と語る斜線堂さんの”野望”がとても楽しみにもなる、そんな作品でした。

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2024年01月29日

Posted by ブクログ

ほんタメあかりんのおすすめで読んだ。
まさにタイトル通りだと感じた。

自分が知ってる「愛」ではないけど、「愛」という言葉でしか表せないような感情に振り回されていく人たちの話。

登場人物一人一人の抱くひとつひとつの感情は共感できるところがありつつ、それに由来する行動はすべからく地獄へ向かっている。ありえないと思いつつ、わからなくもないと思ってしまう怖さもあり。

自分は、「愛」という言葉を、無意識に綺麗なものだと思いすぎていたのかもしれない。

・自己の欲望の頂点のような、抗えない醜い感情。
・相手のことを自分のことよりも思いやる美しい感情。

相反するように見える2つの感情でも、同じ「愛」という言葉で表わされる。愛という言葉のもと、その得体の知れない沼に溺れていく彼女らを体現したような言葉。

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2023年12月05日

Posted by ブクログ

この作家さんの作品を初めて読んだ
短編集
どの話も気になってどんどん読み進む
疲れた日でも電車で読む気になる

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2023年06月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ちょっと歪んだ愛の形。好きが行き過ぎてしまうと、その先はどうなってしまうのか。
それぞれタイプの違う偏愛が5編。
自分を推してくれるファンを好きになってしまうアイドル。好きになった人に趣味を合わせすぎて疲れ切ってしまうOL,などなど。先が気になるお話しばかり。

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2023年05月20日

Posted by ブクログ

確かにそれは愛なんだけど…。愛しているはずなのに、いつの間にか生まれた歪みに苦しめられている人たちの偏愛短編集。愛って綺麗なものだけじゃ終われない、そんな核心を突くようなお話も多かった。『ミニカーだって一生推してろ』が一番好き。

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2023年04月14日

Posted by ブクログ

「ミニカーだって一生推してろ」「きみの長靴でいいです」「愛について語るときに我々の騙ること」
「健康で文化的な最低限度の恋愛」「ささやかだけど、役に立つけど」
5話収録の恋愛短編集。

恋は盲目とはよく言ったもので恋する女性の一途さや純粋さがガンガン伝わって来る。

自分を推してくれるファンの男に執着する地下アイドルを描いた『ミニカーだって一生推してろ』は現実に有りえそう。
感謝が恋愛感情に変わりストーカーへと変化する様は狂気を感じつつどこか共感出来る。

どの恋愛もエモくてエグい。

形は其々違うけどそこには確かな愛がある。

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2023年02月18日

Posted by ブクログ

昔、彼氏が好きだから、いつもミニスカートはいて髪型もストレートロングで、趣味も予定も合わせてた子が居たのを思い出した。
無理して合わせるなんて私には全く理解出来なかったけどその子は、好きなんだから当たり前じゃない?って言ってた。
恋は盲目と言うけど、恋愛の形は人それぞれだなぁ。
共感出来るお話はなかったけど面白く読めた。

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2022年11月16日

Posted by ブクログ

「きみの長靴でいいです」という短編でこの作者さんの物語を初めて読みました。尖ってる感性で面白いな、と感じてほかのミステリ作品を読んでみて、そうしてあらためて今回の作品集を今回読みとおしました。

あらためてやっぱり思ったのは、台詞や展開の描きかたが尖ってて新鮮で、なのに書いてあることをひとつひとつあげれば実は「とても普遍的な恋愛で起こる衝動や行動」ばかり。だから、ざっと読めばぜんぜん恋愛小説らしくない話ばかりなのに、カテゴライズするなら間違いなく恋愛小説という絶妙なバランスになっていて、好きだなあ、と思います。

初めて読んだ時の印象が強いので、「きみの長靴でいいです」がやっぱり好きだなと思うし、彼女が裸足になったときの描写が特に良かったです。

あとは「ミニカーだって一生推してろ」に潜む主人公の傲慢さと気弱さが入れ替わり立ち替わりぐちゃぐちゃになる心理描写が秀逸で好き。「健康で文化的な…」はこれこそ恋愛の地獄そのもの、をまるでポジティブに描き切っていて、病んでいるのにそれを感じさせないすべてを恋愛に振り切った強さが、いっそすがすがしく感じられるほどでした。

切ない恋愛小説はとても苦手な分野なのですが、このポジティブに愛や恋や好き!が疾走したこの短編集はすごく好きになりました。

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2022年08月21日

Posted by ブクログ

怖いなーっていう恋愛のオムニバス。
自分を見失ったらもう自分ではなかなか止められないかもしれないね。止めてくれる人が近くにいたとして、その人の声はきっと敵意になってしまう。
あとあとその恋が叶わなくても、自分のための努力であれば、それで十分報われるのに、無理するから。相手に合わせて虚像を育ててしまうから、相手に報いを求めてしまう。こんなに頑張ってるのだから、もっと見て欲しい。好きになって欲しい。そんなふうに。

そんな感じのお話と、あとは…男2人と女1人のお話…これも良かった。着地点の正解がもう、わからなかったけど。昔の漫画を思い出した。秋里和国の。
あれは結局…ううん、これもネタバレに繋がっちゃうのかな。書かないでおこう…。

どのお話も、主人公のことは嫌いではない。と言うか、そんなに特殊な人じゃない。いつかの私かもしれない。そう思えるような、少しずつ歪んでしまった人たち。

しかし斜線堂有紀さんは、登場人物の名前の読みが難しい。一回で覚えられないことが多い。
この方の本は2作目だけど、文章運びも少し独特。
でも読みやすいです。他の作品も読みたいと思います。

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2022年06月07日

Posted by ブクログ

愛情の鈍器で殴られた様な読後感!
どこか自己中心的な主人公が愛が欲しいが故に突っ走っていく…。
作者さんから「これが愛だろっ!!!」とこの本を机にバンッと叩きつけられられたのではないだろうかと妄想してしまった笑
愛とは自己中で相手を繋ぎ止めようとする行為ではないかと考えさせられた。
『人を好きになるっていうのは、他の人間を一つ下に置くことなのだ』
この言葉がやけに刺さった。

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2022年06月06日

Posted by ブクログ

それぞれの話の終わり方に
えぇ…ほんまに?と言ってしまいそうな混沌というか
ぐちゃあとした主人公の想いを感じ
タイトルの通りこれは愛なのか……?と悩んでしまうそんな物語でした

個人的には「愛」と一言で決めてしまえるようなものではなく、登場人物たちのこれまでの経験や思い出が結果「愛」にまとわりついてるのでは…と思います
(愛だと一言で片付けてしまうにはかわいそう

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2022年06月03日

Posted by ブクログ

ひねくれた愛情と憂わしげな情感描写がお見事! クセ鬼強な恋愛ストーリー短編集 #愛じゃないならこれは何

ミステリーに読み疲れたので、ちょっと恋愛小説を手に取りました。とはいえ新進気鋭のミステリー作家、斜線堂先生の作品なので、期待はとまりません。

5つの短編集ですが、確かにどれも「愛」ですね。どれも偏屈ながらも、登場人物たちの何とも言えない情が伝わってきて、魂が揺さぶられました。

本作一番素晴らしいと思ったのは、文章の構成や会話のやりとりが滅茶苦茶うまい。これはマジでびびった。会話の中で見え隠れする、情愛、不安、駆け引き、狂気、そして愛する人とのすれ違いが、バッチシ描写されています。

元々、恋愛をテーマにしたミステリー多く書かれている作者ですが、本気の恋愛小説も高品質だと思いました。

■ミニカーだって一生推してろ ★3
どんだけ素直にならねーんだよw
愛だとは思うけど、そこを乗り越えないと、愛を育めませんよと言いたい。

■きみの長靴でいいです ★4
切ないながらも、いわゆる女性の悪いところと言われがちな、業が強烈に出ている作品。いいですね、モデルや芸能人はこうでなきゃ。

■愛について語るときに我々の騙ること ★5
■ささやかだけど、役に立つけど ★5
同じ登場人物、関係性で綴られる2作品。超大好きですね、ぜひ続きを書いてほしい。
男女の友情、愛情、三角関係は、いつの時代も美しくも苦しいですね。よくもこのありがちな設定で、ここまで深く書ききりました。素晴らしい。

■健康で文化的な最低限度の恋愛 ★3
主人公が前向きでイイ!読者を応援してくれるような作品。ただこの後の二人がどうなるかは、なんとなく想像できる。

本格的な恋愛小説を読むのは久しぶりでしたが、素晴らしかったです。続編も期待しています!

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2022年05月11日

Posted by ブクログ

尊い、エモい、共感、といったプラスとばかり思い込んでいた感情たちを突き詰めることで定義が揺さぶられるいい本であった〜
朝井リョウさんの観点をよりポップにより斜めから見つめてる感じ

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2022年04月19日

Posted by ブクログ

ほんタメから。
地獄と帯にあるが、短編5篇の恋愛地獄をたっぷり楽しめました。

「ミニカーだって一生推してろ」
いちばん好き。一生推せには思わずにやけてしまいました。わかる(笑)

「愛について語るときに我々の騙ること」
男性2人が女々しくて苦笑いでした。今どきなのでしょうか?愛ではないかな?

健康で文化的な最低限度の恋愛」
貫き通せれば嘘も本当に変わるかも?並々ならぬ努力。この愛がいちばん好みかな。自分はここまでできないけど、好きな相手がしてくれたら嬉しいもの。


「生活を侵食するこれは何だ?嘘だろ、とわざわざ口に出して言ってみる。これが恋だというのなら、今までの全てが茶番になってしまう。」
恋なんて何かが狂えば、一歩先は地獄なのだ。

でも恋の天国と地獄時期なんてあったほうが後に振り返った時人生の醍醐味を味わった気になれますよね(*゚∀゚)b
真っ最中の本人たちは、これは正しい愛じゃないと思っても、じゃあ愛じゃなければこれは何?!と叫んでいる。おもしろかったです!

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2022年04月15日

Posted by ブクログ

5篇の短編集。

まさにどれも、
「愛じゃないならこれは何?」
と、言いたくなりますね。

最近の若者の恋愛って、こんな感じなのかな?怖いなぁ…と思いつつ…つい読み切ってしまいました。


愛について語るときに我々の騙ること
の、主人公が変わったのが…
ささやかだけど、役に立つけど

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2024年03月20日

Posted by ブクログ

愛って人それぞれ
大きすぎると相手のキャパにちゃんと合致する人と出会わんとやっていけれん人生って本当に難易度高すぎる。

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2024年01月19日

Posted by ブクログ

恋愛小説集。とは言っても単純に胸きゅんするものではなく、歪んでいるものから何処かおかしいものまで様々である。人は恋愛という泥沼に入るとその事しか考えられなくなるのだ。その結末は当人たちにしか分からない。一筋縄ではいかない作品。

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2023年03月28日

Posted by ブクログ

この作家さんの書く恋愛小説は全部コンセプトが好きです。
読みながら、そっちにいったら危険だよってヒヤヒヤするような瞬間が沢山あってどのシーンも楽しめます。

私が一番好きな作品は「愛について語るときに我々の騙ること」です。
「一緒にいたい」って言葉の中に色んな意味があって
誰か一人が独占しようとしただけで色んな意味が込められてるこの言葉の全部が崩れるのかなって考えただけでもう地獄だなって思います

どれも読み始めたら最初から面白くなりそうって思える作品ばっかなので是非読んでみてほしいです

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2022年10月05日

Posted by ブクログ

ファンに惚れてしまうアイドル、3人で親友として過ごしていたのにそこに恋が入って「嫌だ!3人でいたいのに!」と思う若い女性などなど・・・
短編集ですが確かに「愛っぽいけど愛とは呼んでもらえないもの」をうまく取り上げています。
確かにこれに名前ってついてないよなぁ。。。
というか愛ってなんなんだろうねぇ・・・

読みやすい言葉で書かれているのでラノベ感覚で読めます。

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2022年09月28日

Posted by ブクログ

自分を唯一推してくれるファンを愛してしまったアイドル、カリスマデザイナーと献身的に尽くしてくれるパートナー、誰かの愛情によって崩れようとする3人組、好きになってしまった人のために自分を見失っていく女。脱げない鎧と、鎧を脱がなくては手に入れられない愛にじたばたする人々の短編集。

基本的にずっと愛の地獄なんだけど、ただ愚痴愚痴ぐずぐずしているのではなくて鎧自体にきちんと誇りがあるところが好き。リアルな関係性としては苦手な関係(同性愛を含む3人組とか自分を偽ったままのカップルとか献身的すぎるパートナーとか)が多いのだけど、軽やかで鋭い文体のおかげでさらっと読める。まあそういうこともあるよな、ぐらいに思える歳だから揺れないけど、高校生ぐらいに読んでたら情緒に影響したかもしれない。初読み作家さんだけど楽しかった。『好きな人がウィキペディアに載っていないのが悲しかった。』という一文がとても好き。

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2022年07月29日

Posted by ブクログ

JUMPjBOOKS公式note掲載の4短編、書き下ろし1編。ミニカーだって一生推してろ、きみの長靴でいいです、愛について語るとき我々の騙ること、健康で文化的な最低限度の恋愛、ささやかだけど約にたつけど。スマホ世代の恋愛の周辺。

愛じゃない、というからもっとかけ離れているかと思ったら、結構近い、それも男女のいわゆる恋愛に、と思いました。

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2022年07月24日

Posted by ブクログ

だいぶ重い恋愛小説だった。というか、読みながら「これは何というジャンルなんだろう…?」と考えてしまった。帯のとおり、すべて地獄に続いてる。でも現実にありそう〜と妙にリアルなところも怖い。

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2022年04月11日

Posted by ブクログ

ネタバレ

「ミニカーだって一生推してろ」★★★
「きみの長靴でいいです」★★
「愛について語るときに我々の騙ること」★★★
「健康で文化的な最低限度の恋愛」★★★
「ささやかだけど、役に立つけど」★★

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2022年03月01日

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