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Posted by ブクログ
[時代の御方]戦争、復興、経済成長に代表される出来事が目まぐるしく展開していった昭和という時代。天皇という存在をその時勢に合わせてどのように日本の中に位置付けていくかを呻吟し、何よりも国民と国家の安寧を願い続けた昭和天皇の歩みを、その生い立ちから崩御まで丹念に描いた作品です。著者は、日本の昭和史研究の第一人者である保阪正康。
「何をした・何があった」という事実としての昭和天皇伝に留まっておらず、「何を思った」というところまで踏み込んでいるところに著者の意気込みを感じます。また、そのいわば心情の忖度において、安易な結論や推論を急がず、御製の詩や記者会見録などをつぶさに当たっているところに著者のバランス感覚が伺えました。昭和天皇に限らず、昭和という時代を改めて見返す上で有意義な作品ではないかと思います。
個人的に興味深かったのは、戦後という時代において、昭和天皇御自身が天皇制を民主主義とどのように相容れるものにしようと試みられていたかという点(これはただ天皇制を如何に存続させるかという意味ではありませんので念のため)。近代国家といういわば「外来」のものに対して天皇制という「在来」のものをどのように調和させていくかという問いは、今日においても引き続き成り立つと思いますので、その点でも多いに参考になるのではないかと思います。
〜昭和天皇はいかに君主としてこの国の主権者の像をつくるべきか呻吟したと思われる。その意味では東宮御学問所での帝王教育、そして皇太子時代のヨーロッパ訪問で学んだ立憲君主制をどう具現化するかに心を痛めたに違いなかった。そうした天皇の努力は、結果的にその一部しか形づくることができなかったということになるであろう。とくに大元帥としての軍事的な存在が、一方で国民には現人神として、もう一方で政治、軍事の総攬者として、その上位に位置するというところに天皇自身の困惑もあったように見受けられる。〜
昭和って本当に奥深い☆5つ
(注:本レビューは上下巻を通してのものです。)