“わたし”であるデイナはまだ無名の黒人女性作家。夫のケヴィンは同じ作家で白人。二人は1976年のロサンゼルスに住む若い夫婦。
しかし、突然デイナは目眩を感じ崩れ堕ちる。そして気がつくと見知らぬところにいた。
そこは19世紀のメリーランド州。南北戦争前、黒人奴隷を多く抱えたトム・ウェイリンが経営するあ
...続きを読む農園ウェイリン・プランテーションだった。しかも、彼女がタイムスリップする理由は、その農園主の息子ルーファスと関係があるらしい
しかし現代とは違いこの時代のメリーランド州において、黒人は奴隷、すなわち売買する財産、“物”でしかない。しかもトムは黒人奴隷に厳しくあたり、突然現れたデイナにも敵意を抱いているように思われる、、、デイナはこの時代を生き延びることができるのか?
面白い!そして新鮮。
とても70年代に書かれた小説だなんて思えないほど古さを感じさせない。
タイムスリップがテーマのSF小説(作者はもともとSF作家だったそうだ。但し、あとがきによると作者自身はこの作品をSFだはなく、ファンタジーと呼んだらしい)だが、ここには人種差別、奴隷制度の残酷さが描かれている。
そして、それに抵抗する黒人と、抵抗することによって与えられる罰(鞭打ちや、自分自身、もしくは愛する家族が奴隷商人に売られて離散してしまう)を畏れて屈する黒人が描かれる。
瀕死にまで至る鞭打ちを前にして、それに立ち向かうことなどできる人間はいない。
しかし、それを畏れていては本当の自由、自分らしさは得られない。
しかし、反抗する意思を持つ人間がいたらその黒人は生きていられない。
そんな黒人奴隷のアンビヴァレントな状況を描いている。
とにかくグイグイ物語に引き込まれる。