「一人負け」の日本経済の原因は、日本の”未熟な資本主義”にあるとする筆者の、提言の書。
競争的な市場環境を整備し、企業は高付加価値を創造せよ。
そして、労働市場の徹底的な流動化を進めれば、経済全体の生産性が向上する、といったのが論旨だろうか。
日本はこの30年、物価も上がらなかったが、賃金も上がら
...続きを読むず、日本円の実力は30年前のレベルに戻った。
こんなことが、データをもとに解説されていく。
例えば、賃金についての章では、「賃金版フィリップス曲線の推定」という手法で、賃金に影響を与えるとされる四つのファクターの影響の強さを分析している。
この分野に知識がない自分には幾分つらいところだが、労働市場の需給状況と労働市場の構造(非正規職がどれくらいあるか)が賃金の成長に影響を与えるとのことだった。
そこで経営者側には、労働生産性を挙げるためには、非正規雇用の賃金を上げ、人材育成に投資すること、日本的雇用慣行を改めることが提言される。
本書はこんな感じだったのだが…
終身雇用に代表される日本的雇用慣行が、もはや現在の経済環境では機能しない、というのは頷かれる。
特に子育てや介護での離職、新卒時の不況などでキャリアトラックから外れてしまった人が再チャレンジできないことは問題だと思う。
労働市場の流動化が、こうした人たちにも参入の機会を広げていくのなら、いいのだが。
素人の、しかもネガティブなバイアスに充ちた偏見であることを自覚しながら言うが、そんなうまくはいかないような気がする。
むしろ、今非正規職で苦しい人たちの境遇はそのままで、安定している人まで不安定化するという方に進むのでは、とさえ思う。
筆者が指摘しているように、日本の労組は会社ごとに組織され、しかも最近は弱体化している。
アメリカのように職種ごとの労組を急ごしらえで作るなどしても、「労組=過激な人」とする日本の風潮ではなかなか機能しないだろう。
常にキャリアアップをして、労働市場で有利な条件を保ち続けられる一握りの人以外は、苦しい立場になるだろう。
今安定雇用されている層すら不安定化して、より多くの労働者が不利な立場に置かれることにつながるのではないか、と強い不安にかられたりもしてしまう。