おそらく名著と呼ばれるであろう類の作品。
なのだが、私にはだいぶしんどかった。ようやく読み終わった、というのが正直な感想。
1940年前後の、本当にあった史実から、反ユダヤ思想をもった(これも史実である)チャールズ・リンドバーグが大統領になるというIFを乗せて物語がスタートする。
アメリカは決して
...続きを読む戦争に与しない。そのためであれば、ナチスとでも仲良くするし、そのおかげで我が国は戦争にも巻き込まれず平和ではないか、という主張で妄信的な支持を得る。
その一方で、彼が発する様々なユダヤ人を圧迫する施策(これがタイトルの”Plot Against America”の由来となる)により、国内にユダヤ人差別がじわじわと、確実に広がっていく。
その恐怖をユダヤ人の少年(著者の分身であるフィリップ・ロス)の視点で描くという構図。
物語自体は決してつまらないわけではない。ただ、少年の語り口という設定を考慮に入れたとしても、若干メリハリを欠く冗長な記述が多い。
ここまで説明しなくてもいいだろうに、という部分が随所に見られ、テンポの悪さを感じてしまう。
そういう技巧的な部分はもとより、なにより辛かったのはこの「ユダヤ人差別」というテーマそれ自身。
人間の認知的な欠陥、そして欠陥ゆえ避けられないどうしようもない愚かさが少年という純粋な存在によって観察される。
しかもその少年自身ももちろん人間であり、その欠陥にくわえ、「幼さ」という欠陥(愚かさ)が見事に記述されている。
ここは、作者の筆致の粋、技巧的には素晴らしい部分だと思うが、この部分が技巧によって際立つにつれ、読む方としては辛くなる。
さらに私は声の大きい人間が大嫌いなので、この物語に出てくる数々のアジテーターと、それに扇動される民衆がきつくて仕方ない。
ただ、こういう物語は、今でこそ読まれるべきだとも感じている。
この物語で描かれている”IF”は、今、世界各地で現実になっている。
余裕がなくなった人間は、簡単に人を区分けして、自分の側ではない人間を排除することで安寧を得ようとするのだ。
だってそれが、一番認知的負荷がかからない楽な方法だから。
人間の脳は、負荷がかかるのを避けるように出来ている。
だから、見た目とか、ちょっとした考え方とか、目に見える単純なもので脳に楽なように区別する。
これ以上機能的に進化しないと、なくならないんだよ。Discriminationって。
こんな偉そうなこと言っている私だって、条件が揃ったら差別的思考に陥る。
避けられない。
そういう現実を改めて見せつけられるという意味でも、辛かった。
ただ、何百万年後にちゃんと進化するためには、この現実を今、考える必要があるんだと思う。