写真とは確かにそこに実在した時間を、瞬間的に切り取ったものだ。
写真家とは、その一瞬の輝きを逃さずに切り取れる脳力を持っている人のことだ。
この本は写真家でありエッセイストでもあるハービー・山口の自伝。
彼が大学卒業後単身ロンドンへ渡り、プロのカメラマンとなるべく修行していた時代から今日までの、心の
...続きを読む成長とその時々で影響を受けた大切な人たちとの交流について描かれた作品だ。
あとがきでハービー・山口はあるカメラマンの写真を見てこう悟る。
「写真とは、その写真家の全人格のあらわれであり、作品はその写真家にとって、良心と心の叫びの結晶である」ということを知った、と。
人は誰でも他人に褒められると嬉しいものだ。
芸術家を目指す人や、職人と呼ばれる人は、その言葉が力になり、最高の成長材料になる。
すべては心の表現なのだ。
当たり前だが、今第一線で活躍している人たちにも希望と不安を抱えてやってきた下積み時代がある。
夢に向かって、そして将来活躍する自分を信じてがむしゃらに努力していた時代がある。
これを読むとハービー・山口の人としての優しさ、謙虚さ、一途さがよく現れている。
写真家・アラーキーはハービー・山口のことをこう語る。
「ハービー・山口はね、人間の幸せの一瞬をちゃんと撮っている唯一の日本人の写真家だな。柔らかい光を取り込んで、写真が優しいんだな。昔のロンドンの個展を見たけど、写真が若々しくてね、ごく自然に自分の周りの同世代の人間にカメラを向けてるんだな、ってのがよくわかったよ……」不思議と心が和み、元気をくれるそんな素敵な作品だった。