微化石,特に珪藻化石が専門の著者による,海底掘削調査の紹介。海底調査の概要から船上生活の実際まで,なかなか詳しいわりに肩肘張らずに読める。地層は地球環境のタイムカプセル。
日本の「ちきゅう」やアメリカの「ジョイデス・レゾリューション」といった科学掘削船で,海底を何千メートルも掘り,コアを採取して
...続きを読む堆積物を分析すると,地球の歴史の様々なことがわかる。過去に北極と南極が反転していたことも,この種の調査で確証された。地磁気反転説は日本人(松山基範)の業績。
掘削用のドリルピットの仕組みや,「ちきゅう」が世界で初めて導入したライザー掘削システムについても図や写真を交えた説明。コアを収容するための筒,コアバレルの「最先端」にはコア脱落を防ぐ弁「コアキャッチャー」がついてるそうだ。それでもときには回収率は二割を下回る。厳しいんだな。
専門の微化石研究についても熱く語る。珪藻,有孔虫,放散虫,渦鞭毛藻などの小さな海生生物は,「進化速度が速く、世界中に広がりやすく、繁栄しやすいと同時に絶滅しやすい」(p.107)ため,地層の年代を詳細に決められる。示準化石の優等生。おまけにコアから採る試料の量も少なくて済む。
掘削船の生活にも興味津々。飲酒は禁止だけど何かにつけてパーティ。二交代のシフト制で,一番の楽しみは食事とか。研究者だけでなく,屈強な体格のドリラー,運搬や半割などコアの取扱をしてくれるテクニカルスタッフ,コックさん,清掃スタッフ,カメラマンなど裏方の紹介も忘れない。
他の分野の研究にも一通り触れてくれる。堆積学,古地磁気研究,地球化学と微生物学。物性物理では,回収が不完全なコアだけでなく,掘削孔に直接センサを入れる調査もするそう。乗り組む人々の国籍も様々で,活気があって楽しそうだなぁ。喧嘩など多少のトラブルはあるようだけど。
一つ間違った記述を発見。K-Ar法の説明で,「岩石中に含まれるK40とAr40の量が等量であれば、岩石が固まってから『12億5000万年経った』ということがわかりますし、K40の量がAr40の量の2倍あれば『6億2500万年経った』とわかります」(p.109)。
半減期の半分の間に元の量の1/3が崩壊していることになるってわけないよね。半減期の半分では,1/√2が崩壊しているはずだから,「K40の量がAr40の量の2.414倍あれば」でないと。あるいは,log2/log3≒0.631だから,「K40の量がAr40の量の2倍あれば『6億2500万年経った』とわかります」じゃなくて,「K40の量がAr40の量の2倍あれば『7億8900万年経った』とわかります」じゃないと。