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孤独な内奥の世界を追究。読売文学賞受賞の名篇――「チチキトク」の電報を受け取った時、女は父の幻影を見た。父の死後に結婚した夫とは、諍が絶えず、しばしば現われる父の霊に励まされながら、陰惨な殺人を重ねる。意識の底からつき上る、不気味な想念。愛憎渦巻く夫婦生活を背景に、現実と非現実の交錯する、妖しく孤独な内奥の世界を苛烈に描く衝撃作。読売文学賞受賞作品。
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Posted by ブクログ
徹底的に描きこまれた日常描写と、主人公への執拗な内面の接近が、本作を際立った傑作へと導いている。読者は強く張られた一本の糸の上を渡るよう強いられるような感覚を、文章から感じざるをえないだろう。 日常と狂気のグロテスクで単純な融和。父の声に勇気づけられて殺人を繰り返す主人公の異常な心理を見張ってい...続きを読むると、もはや読後も安易な日常的思考に立ち帰れる自信が失われる。迷路は多くの分岐と行き止まりを含んだ隘路を指すだけではない。広い幅を含み、見上げるほど高い壁に囲まれた一本の道もまた、一種の迷路と呼べるのではないのか。 この小説は、そういった類の迷路に近い。両手を広げても、2つの手が同時に左右の壁に触れることがなく、また、道の中央を歩いてもどこか孤独な感じがする。仕方なく片方の壁に寄った歩いても、それはなんとなく冷たくて硬い。歩き続ければ目的地へ到着するのは分かっている。しかし、「一本道」という特性ゆえに前進か後退のどちらかしか許されない状況で、果たして人間は平生の理性を保っていられるのだろうか。 主人公の吁希子は3つの殺人を犯す。それは彼女の亡き父が現れ、励ましてくれたからだ。亡き父とは誰か。それは生前の彼女の父とは違う。慈愛深く、落ち着き、寡黙な悠然たる父だ。孤立した彼女は次第に父へと接近し、一種の親しみを得る。夫から虐げられた恨みがついに堰を切ったころ、父の亡霊は囁く。 「やってみるがいい。大丈夫だとも、三人までは…」 それ以上のことを父は語らない。だが彼女を殺人へと突き動かすには十分すぎるほどの言葉だった。 吁希子と、吁希子に内在した父親。父の死と、彼女の子供の産めぬ体質は家庭の終焉を告知する。しかし彼女は同時に、夫の妻でもある。終焉したはずの家庭での居心地とは如何なるものか。不可能なこと以外不可能となってしまったとき、人は何をなすのか。そして、それすらも不可能であるとするのなら…。 日常を駆ける狂気は呪詛の呟きとなる。本作の長く長く、途切れることのない呪詛はまさに、一本道の迷路そのものだ。読む人には選択肢が2つしかない。進むか戻るか。 だが、本当はもうひとつだけある。それは、その場で立ち止まり、動かないことだ。もちろん、これは勧められないし、不可能だと思えるが。
子を産めない女の中に芽生えたある種の自我が 日本の家族幻想を破壊する しかし彼女の前に現れて彼女の選択を肯定してくれるのは キリストではなく彼女自身の亡き父親だった
昔の本の匂いがする古い本で読んだ。 どうにも難しくなかなか読み進められなかった。 結局、彼女は何がしたかったのか なぜ幼い子供も殺さねばならなかったのか 終盤、亡父の存在感がなくなっていて混乱してしまった 最後に手にかけたのは夫なのか? 疑問の残る物語だった
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河野多恵子
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