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疫病に街がすっぽりと覆われてしまう前、店内を眺めた。専門店にあったはずの工芸品も本も服もみな雑貨になった。物と雑貨の壁は壊れ、自分が何を売っているのか、いよいよわからなくなっていく。これからどうしたら物の真贋の判断を手放さずに済むだろうか。広範な知識と経験を交えて雑貨化の過去と現在地を探る画期的な論考。
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Posted by ブクログ
『すべての雑貨』を読んだときは、お店を訪れたことはなかったと思う。どこにあるのかなと思っていて、行ってみたいなと。 今では何度かお店に行ったことがあるので、お店のことを思いながら読むと、一層おもしろかった。 うんうんと共感したり、そうなんだぁと思ったり。でもなぜか、読み終わると忘れていて、ページをぱ...続きを読むらぱらと繰り直して、そうだった、こんな話だったと思い出す。 それは、つまらなかったということではなく、私の中にすーっと入っていく感じで、私にとってはよい本。今後、何度も読み返したくなるだろうし、何度も楽しめる本。 『すべての雑貨』をまた読み直したいし、次の『波打ちぎわの物を探しに』も読みたい。この本が出てから数年経っていて、世の中的にも、いろいろな価値観が変わっている中で、三品さんが何を感じ何を考えたのか、気になる。
『すべての雑貨』の著者による2冊目のエッセイ集。 前作に比べて文章に隙がなくなった。『すべての雑貨』もすごく読ませる文章だったけど、店のレジカウンターからぐちぐち聞こえる独り言に耳を傾けているような親しみやすいどうしようもなさがあって、ベンヤミンやクンデラの名前がぽこぽこでてくると同時に、「雑貨...続きを読むスタイリストにはなりたくない」と何度も呪詛のように唱えたり、ホットポーの存在を思いださせてくれたりするのが楽しかった。本作は冒頭に置かれた「息を止めて」から完成度が高くて脇が固い。その変わりように少し寂しさを感じていたら、高校時代の担任教師を「担任の女」(男は「男性教師」なのに!)、ディズニーランドで映えを求める女性たちを「女豹」と呼ぶくだりがでてきて、「隙だ!」と喜んでしまった。私は三品さんをかなり好きになっているのかもしれない(笑)。 無印良品考、ミニマリズムとシェーカー教徒、個人経営の”ほっこり”したパン屋や和食屋の雰囲気をそのまま再現したサイレント・チェーン店など、ぼんやりしていると見逃してしまう消費の世界の事柄を著者の視点で拾っていく。”ほっこり”コンセプト料理屋のくだりででてくる「コンセプチュアルなパートのおばあさん」というキラーワードには笑ってしまった。ディズニーランドやアニメが世界の雑貨化に果たした役割も論じられている。名前が挙がってないけれど、ジブリが植え付けた”憧れの生活”観の影響もただならないものがあると思う。 一つ疑問だったのは、悪い意味での「なんでも雑貨にしてしまう感覚」を、「この島国特有の」とか「日本ならではの」と表現していたこと。その比較対象が常に欧米なことも不思議ではあるのだが、仮に欧米と比べたところで、それは現代日本特有の雑貨感覚とは呼べないんじゃないだろうか。というのも、本書と同時に藤井光のアメリカ文学ガイド『ターミナルから荒れ地へ』(2016)を読んでいたのだが、ここで語られているアメリカ文学の〈ターミナル化〉〈荒れ地化〉という概念が三品さんの言う〈雑貨化〉にとてもよく似ているのだ。本書で紹介されているムジ・ホテルの理念なんて、『ターミナル~』に引用されているトカルチュクの文章そっくりであり、むしろグローバル化が地球単位の雑貨感覚をつくりだしているのではないだろうか。 「息を止めて」をはじめ、個人的な記憶を書きとめたエッセイはどれもすばらしい。疎遠になった友人もの、というジャンルがあれば無双できるだろうというくらい上手いのだが、「釣りびとたち」はほとんど恋愛になる手前のようなできごとがあったあとで友人が姿をくらましてしまうという、ドキドキして寂しくなる話だった。お父さんの事業失敗が笑えるレベルじゃなかったとわかる「ホテルの滝」、そして最後に置かれた「水と空」。祖父の友人の奥さんという、ゆるいけれどかけがえのない繋がり。女ばかり生き残った高齢者だらけのマンションで映画鑑賞会をやっていたなんて理想の生活のようだけど、都市生活者特有の陰も差している。堀江敏幸みたいに仕上がっているな、と思ったら、堀江さんが本書の書評を書いていた。 ”ていねい”がブランディングされ、揶揄の対象にまでなって久しい今、自分が何を買おうとしているのかについてじっくりと考えてみてもいい。その結果、雑貨化した世界の無秩序なラベルに目がちらつき、ふたたび迷路に迷い込んでしまうとしても。
雑貨に関連した短編が13.著者のものは初めて読んだが、何か知らない街を歩いて、これまで興味がなかったものに取り付かれてしまったような不思議な感覚だ.登場人物が未知の人ばかりで驚いた.村上春樹、大橋歩くらいは知っていたが、雑貨に絡む人は知られていないのかもしれない.著者は目の付け所が特殊で、独特の嗅覚...続きを読むや眼力を持っている人のようだ.
西荻の店舗、現在の店より、立地の悪かった前の店の方が、ごった煮感があり、好きだった。 良い意味で、安っぽいもの、洗練されていないモノのパーセンテージが高かったと思う。 稀にしか行かない客で、大きな買い物はしない、常連ではない。マナーは悪くないと自負しているが、上客にはなりえない。 そんな客にも丁寧...続きを読むに応対してくれる店主さんの本、ということで読んでみた。 文章は好ましいが、エッセイの題材によって、いいなと思える章と、あまり好きじゃないな〜と感じる章があった。 最初と最後に置かれている、祖父の思い出が綴られている章が一番好ましい。 雑貨とは何か、をぐるぐる考えて書かれたものは、面倒くさい印象。 おそらく、私が、雑貨界?の変化やお店の位置付け、何をもって雑貨とするのか、ということに興味がないからだと思う。 これから自分のお店を持ちたい、流れを知っておきたい、人には学びになりそう。 そんな中で、無印良品について書かれた章は興味深かった。これは、自分が無印好きだから。
「専門店にあったはずの工芸品も本も服も古道具も植物もみな、雑貨になった」ほぼ完全に雑貨化された世界を見つめる、雑貨屋の店主のエッセイ。前作も面白かったけど、より諦観の念が強く、乾いた視線で家族や出会った同業者、お客さんの話をする。雑貨屋店主が雑貨化に打ちのめされているなんて、武器商人が戦争を憂うみた...続きを読むいな話だけど、そのことに一番自覚的なのは著者本人であって、のんきに無自覚にものの本質を抜き去って「雑貨化」する同業者を白い目で見ながらも話を合わせて、苦言を呈すなんてことはしないのだ。「同業者」だからなのだろう。不勉強なもので、文中するすると出てくる文化やら思想やら音楽やら、そしてその歴史のエピソードに毎回へーっ、となる。 雑貨の巨人無印良品の話と、社会の虚構性を引き受けて隠さんとするディズニーランドの話、信仰という魂を抜かれたシェーカーズスタイルの話が好き。 資本主義に実存を食い荒らされているのは人間も雑貨たちも同じではあるが、その悲哀がこうして新たな語りを得ることが、値札のついた雑貨となったものたちにも再び顔が与えられる経緯となればよいな、と思ったりする。やっぱり雑貨が好きなので(お前も武器商人だと言われれば全くその通りだ。雑貨屋巡りなんて、ものの数秒でたくさんの雑貨を値踏みして消費し続ける営みだ)。結局のところ、誰かの手に取られ、居場所と関係性を与えられた先にしか値札の外れた価値というものはない。西荻のあの店でなくても他の店でもどこでも、似たような雑貨を見ている時に私や誰かの頭にぼんやりとでも読んだことが舞い降りてきたら、いつもよりちょっと多く関係性の糸が渡される気がする。たったそれだけだけど…。
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