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過酷な境遇を逃れ、自由が待つ北部をめざす奴隷少女コーラ。しかしそのあとを悪名高い奴隷狩り人が追っていた。傑作ついに文庫化 解説/円城塔
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Posted by ブクログ
綿花農園に数多く囲われている黒人奴隷たち。その農園主からの過酷な体罰から逃れるため、たびたび奴隷たちが逃亡を図るも、一人の女性を除き逃げ落ちた者はいない。そんな逃亡者を母にもつ奴隷少女が一緒なら、逃亡できる運にも恵まれるのではと、奴隷の青年に一緒に逃亡をすることを、少女は持ちかけられます。 見つか...続きを読むれば見せしめとして体罰の末に命を奪われ、その協力者にも残酷な仕打ちが待っています。 逃亡手段は、地下に張り巡らされた秘密の地下鉄道。はたして、それに乗り継いで、南部から脱出することができるのか、というお話し。 過酷な労働、残虐な農園主、自警団、そして執拗に追い詰める奴隷狩りを生業とする白人など、どこにも安寧など存在しない閉ざされた世界。まるで農園単位にディストピアが存在していたかのよう。話し自体はフィクションでも、そのような人を人と思わない風潮が、ほんの約150年前の南北戦争当時まで普通であり、現代でも人種差別について、ニュースで報道されるのを見聞きします。それにしても、『アンクル・トムの小屋』を超える描写に、人間の残忍さを垣間見た思いです。 黒人奴隷が、いつから、どのように、どれだけの人数が、どのようにして、どれほどの期間にわたって大西洋を渡り、どのような扱いを受けてきたか…そのような過酷な歴史に対して、もう少し知っておくべきなんだなと、改めて気付かされました。 なお、地下鉄道とは、実際にあった奴隷制廃止論者の組織のコードネームです。当時、まだ地下鉄は走っていませんでしたが、この小説ではあたかも実際に地下鉄が存在しているように書かれていて、ストーリーに幅を持たせることに成功しています。 ピュリッツァー賞、全米図書賞、アーサー・C・クラーク賞を受賞
黒人奴隷の少女が様々な犠牲を払いつつ逃亡し続ける物語。奴隷逃亡を支援する目的で地下に張り巡らされた鉄道を使って。 これは最高の良書。なぜなら全く眠くならない。アメリカの奴隷制度の歴史というノンフィクションの上に、冒険活劇風のフィクションが乗っている。自分自身、初めて知ったことも沢山。無駄な例えや修飾...続きを読むがないのにリアリティがある。実時間とは無関係にスピード感もあって飽きない。突然小話風に現れる、人物にフォーカスした章など、メリハリもある。 物語と面白いのはもちろん、アメリカの奴隷制度を知る上でも勉強になる。奴隷は人間とは別の生物扱いなのか?でも、性の対象にしてるんだから、やっぱり人間だと思ってるんだよな…、など。 日本にも士・農工商・穢多非人みたいな無茶苦茶な制度があったんだから、これを読んで頭ごなしにアメリカの歴史を批判するのも間違い。中学生ぐらいの必読書にしてもいいんじゃないかと思ったりする。
2016年、アメリカに起きて圧倒的な読者を引き寄せた小説。 著者は、ハーバード大を出た気鋭。 南北戦争勃発から100年を経て生まれた新たなライターだ。 物語は、祖母、母と続くアフリカ出身の奴隷の家系の3代目コーラをヒロインとして始まる。 州境を越え、北へ逃げと推せれば【自由】 その下支えの組織を「...続きを読む地下鉄道」と呼ぶ。「積荷」「車掌」「小屋」という暗号を用い、摘発の目を逃れるべく、暗号と比喩を用いてきた歴史が内容の凄絶さを物語る。 黒人奴隷が自由を求める100年余の歴史を現代の旗手が謳い上げる素晴らしい作品だ。中身の生臭さ、惨さをウェットな感覚でなく、筆者が得意としてきたアメコミ調すら感じさせる手法も駆使して描き切っている。 コーラが現実に目の当たりにした情景―逃亡の始まりは、ビッグ・アンソニーの肉が焦げる臭いの中/色目を使ったと言うだけで首を吊るされ燃やされた/沼地に沈んでいくメイベルetc 章ごとの名称は州や奴隷の名前を用い、暗号であるはずの地下鉄道は蒸気機関車が走る姿をイメージさせる形をとって行く・・それだけに州ごとの「奴隷社会」は何れも残虐、辛いなかに種々の臭い・色を見せている。 例えば「テネシー州:この州に人格があるとすればそれはこの世界の昏い部分を引き継いでいると言えるから」 かなり暗黒だったこの州の奴隷社会・・奴隷はアフリカから連れてこられたのち、奴隷船❔綿花畑❓ヨーロッパ痘のいずれかで死ぬもんだ」と言わしめている。そして「文明の進歩に関わる関税をヒトの命で払っている」と。 少女のコーラには当然のごとく、レイプ・妊娠・中絶の運命が待ち構えている。弱い、女が辿る当然?の宿業には眼を背けたくなってしまった。 インディアナで舞台となるヴァレンタイン農園~ランダー氏の人格はかつてあがめられたキング牧師を思い出してしまった。そしてその最期はマルコムXのようだ。 ノース・カロライナの駅長マーティンとその妻エセルとのエピソードは複雑。 人間性をどこまで極めて行くか・・地下鉄道を「いわば闇として継続させるためには」白人の眼から反らすことにより黒人を守り抜く心と技が重大・・その時のエセルの心情。。 最後の方で「アメリカとは闇の中の幽霊だ」と述べる言葉が有る。キング牧師が、マルコムxが、数多くの黒人たちの犠牲者の血があがなわれることなく、未だに続くkら―という差別。オバマの後のトランプによるいわば後退した施策、そしてバイデンの下 黒人女性副大統領の登場。幽霊はいまだに姿を見せぬまま蠢いている。
奴隷として暮らすコーラ。 仲間と地獄のような農場から脱走を図る。 奴隷狩人の追跡に怯え、息を詰め、理解者との束の間の安息にささやかな生を得る。 どこまでもつらい物語。 だが、比類な物語性を持つ。 今年読んだ中で断トツの作品。
アフリカで生まれ、父母を亡くして奴隷商の手に渡り、アメリカ南部の綿花畑で死んだ祖母。10歳の娘を残し、ひとりで農園から逃げた母。そして18になったコーラもまた、残忍な白人が営む農園を飛びだした。逃亡者を待っていたのは、黒人を北部にある自由州まで連れていくため、地下に張り巡らされたトンネルの中を走る蒸...続きを読む気機関車〈地下鉄道〉だった。しかし、農園の〈所有物〉であるコーラを、奴隷狩り人は執念深く追いかけてくる。安寧の地はどこにあるのか、なぜ彼女とその“家族”ばかりが逃げ続けなければならないのか。19世紀の黒人奴隷の目から見たアメリカの姿をデフォルメしつつ、現在も残る差別の心理を描いた歴史エンターテイメント。 まず文章が上手い。余分な装飾がなく、どの比喩もぴったりと嵌っていて、詩的でありながらストイックなほどエモーションに流れることがない。作中コーラは目を覆いたくなる悲惨な場面に何度も何度も、嫌になるくらい何度も遭遇し、当然泣いたりくずおれてしまうのだが、それを語る文章自体が涙に濡れてしまうことはない。 けれど物語の展開はサービス精神旺盛だ。蒸気機関の黎明期に地下鉄を走らせるというアナクロニックな設定はやっぱりワクワクすると同時に、作中コーラが何度も思いを馳せる「地下のトンネルを掘り線路を敷いた人びと」こそが、現実の奴隷解放運動に尽力した人びとの比喩となっている。コーラが逃亡する州の描写もときにSFのディストピアふうに、ときにホラーふうに誇張されているとはいうものの、特定の人種を絶えさせる目的で強制的に避妊手術をおこなうことや、被差別民同士の対立を煽って密告をさせたり、街中で私刑をおこなったりなどは、20世紀を通じて、そして今になってもさまざまな地域で続いていることを私たちは知っている。 キャラクターもまた魅力的だ。コーラをノース・カロライナへ乗せていく運転手の少年や、奴隷狩り人のリッジウェイと奇妙な絆を築いているホーマー少年はディケンズやマーク・トウェインの小説からやってきたよう。インディアナの理想郷のようなヴァレンタイン農園でランダー氏がおこなう演説はキング牧師を思わせる。そしてその最期はマルコムXのようだ。アメリカとアフリカン・アメリカンの近現代史がコーラの道程に濃縮されて再現されている。 白人のキャラクターももちろん重要な役割を果たす。地下鉄道の駅を守るのは白人でなければできないからだ。ときには駅と地下鉄道の秘密を守るため、彼らも奴隷制支持者のようにふるまわなくてはならない。ノース・カロライナの駅長マーティンとその妻エセル、そしてマーティンの父で元駅長の故・ドナルドのエピソードでは、矛盾を抱えた弱い人間が、それでも誰かを救おうとするギリギリの尊厳のようなものを描いている。私は特にエセルのどうしようもない人間味にリアリティを感じて、彼女の章の“正しくなさ”に涙が出そうにもなった。 また、コーラが女性だということも大きな意味のあることだろう。初潮が来るなり農園の奴隷仲間からレイプされたこと、手術で出産できない体にさせられそうになること。奴隷狩り人の仲間に体を狙われて、逃亡する隙ができたと考えること。かつてレイプされた経験があることをロイヤルに謝ってしまうこと。差別を受ける人種の少女であるがために幾重にも搾取される苦しみ、痛みが描かれている。コーラはとても強いが、深く傷ついてもいる。甲高い叫び声ではなく、闇を直視して深く掘り進む地下鉄道そのもののような低く声で、尊重されるべきものが尊重されない世界の異様さを訴えかけるのだ。 終わり方もシンプルながら現代に接続させていて上手いと思った。アメリカはいつになったらアフリカン・アメリカンの“故郷”になれるのだろう。
アメリカの黒人差別を描いた名作といわれる小説は、描かれる物語の過酷さに加えて、人間の暗部、そしてアメリカという国の暗部まで切り込むような、凄まじい作品が多いと感じます。 この『地下鉄道』も、そうした作品の系譜を継ぐ凄まじさが伝わってくる。自由を求めたコーラが行き着いた土地の数々から、差別の根の深さ...続きを読む、アメリカという国の抱えた矛盾までも透けて見えてくるようです。 19世紀のアメリカ。南部の農園で奴隷として暮らしていた黒人の少女・コーラは、新入りの奴隷の少年・シーザーから、黒人奴隷を逃す“地下鉄道”を利用した、逃亡計画に誘われる。二人は逃亡を決意するが、奴隷狩り人のリッジウェイが二人の後を追い……。そして、コーラは各地で黒人の現実を知っていく。 地下鉄道というのは、史実的には黒人の逃亡を支援した組織の隠語のこと。しかしこの小説では、文字通り地下鉄道は鉄道として登場し、コーラたちは列車に乗り込み、黒人差別が厳しいアメリカの南部から、奴隷制が一足早く撤廃された北部へ向かいます。 物語の序盤で描かれた農園での過酷な生活と逃亡劇。そこから協力者の助けの元、地下鉄道で文字通り自由へ向かって走り出す姿は、自由の象徴としてとても分かりやすい。 作品の文章や話の雰囲気も硬質なのですが、この場面は映像として鮮やかに浮かんでくるよう。このイマジネーションだけでも、とてもユニークで、どこかロマンチックな予感を感じさせる。 北部に至るまでにコーラが訪れることになる、アメリカの各州。初めにたどり着いたサウスカロライナでは、コーラたちの農園があったジョージアとは違い、黒人に対しても先駆的な考えを持っているようで、コーラたちもここで仕事を見つけ、徐々に生活の場を築いていきます。このままここに居つくべきか迷うコーラたちですが…… 州を超えるごとに形を変えていく物語。しかし、その根底にあるものは変わらない。一見ユートピアに見えた場所も、一歩足を深く踏み入ればそこには強烈な差別意識が息づいている。そして、新しい生活を築こうとするコーラの後を追うリッジウェイの存在は、現実的な脅威として、そして奴隷時代の過去として、コーラにまとわりつき安息を壊していく。そして地下鉄道自体の存在にも危機が迫り…… 舞台が変わってのノースカロライナの章はかなり過酷。匿ってくれる人は見つけたものの、黒人は見つかり次第処刑され、匿った人物も無事で済まないということから、コーラはほぼ一日中屋根裏に隠れることに。そこから覗くことができる公園では、夜な夜な、黒人の処刑が行われ…… 奴隷を逃すため、全米に張り巡らされた地下鉄道、という、寓話的でロマンチックなアイディアが中核にありながらも、物語自体はなかなかに希望が見えない。ようやく見えた希望や、穏やかな平穏も、裏切られ、崩壊する。そして地下鉄道自体も危機に陥る。これもまた、今の象徴なのかもしれない。 映画だったか報道だったかは忘れたけど、黒人男性が白人警官の前を歩くとき、どうしても緊張してしまう、みたいな話を見た覚えがあります。当時は若干オーバーに思ったものの、最近の情勢なんかを見ていると、それはもはや冗談に受け取れない。平穏に暮らしていても、運が悪ければその平穏が一瞬に崩れる。それは現実としてあるのだろうし、その現実の象徴としてこの『地下鉄道』という小説もあるような気がしてなりません。 一方で単に白人批判に終わらないのも、この小説の力だと思います。白人、黒人以外にも、移民やインディアンなどの先住民族のパワーバランスや歴史も、物語の中に織り込み、そうした歴史を描くことでアメリカという国が誕生時から持ち合わせる、闇を描き、また別の場面では黒人間の意見の対立も描く。 国家の暗部、あらゆる人間の持ち得る闇と対立。それも描くから、物語は単に白人は悪、黒人は被害者、という図式ではなくより重層的になっていく。 コーラ以外の人間にも幕間ごとに焦点を当て、その人物が抱える様々なかたちの差別意識を露わにしたり、あるいは自由を求める人、愛を求めた人の輝きや哀しさを表したりと、そういう点でも素晴らしいと思いました。特にコーラの母の真実が分かるシーンは印象的。 アメリカでピューリッツア賞をはじめ7冠を受賞し、ニューヨークタイムズやウォールストリートジャーナルなど様々な有力紙誌で年間ベストブックに選出された作品だそうですが、その輝かしい実績もうなずける。それだけ迫力に満ち溢れた小説です。 一見天国に見えるところでも、地獄は地続きで存在していて、地獄に見えるところですら、より深い闇がある。それは今のアメリカの人種間の状況も表しているのかもしれないし、人間すべてが抱える、敵や他人と判断した人に対する残酷さ。判断されてしまった人たちの過酷さと絶望までも、表しているのかもしれません。 『地下鉄道』は世界に対し、おぞましいけれど忘れてはならない過去と、そして本来あるべき今の姿、未来に作らなければならない世界の姿を思いだせるような、そんな作品だと感じます。
奴隷制度の残るアメリカ南部。 奴隷が逃げ出すために、地下に鉄道が作られていた、という設定。 地下鉄には駅があって、それぞれの駅から地上に出るごとに全然違う場面に転換する。今っぽい視覚的効果だし、各場面の残虐さもネットドラマみたいな印象は拭えない。 それでも、奴隷制度の残酷さや理不尽さは十分に伝わるし...続きを読む、自由を求めて進んでいく主人公と、途中で命を落とす仲間達や支援者達に、胸が痛む。
過酷な人生、なんていう言葉が甘っちょろく感じてしまう。 逃げるという行為には、残虐な仕打ちがついてくる。 協力者にもおよぶ、そのいたぶるような残忍さ。 それらを目の当たりにしながらも前へ進むコーラ。 読んでいてヒリヒリとした感覚に包まれた。 虐げる側も虐げられる側も、とがった部分をもっていないと生き...続きを読むてゆけないのかもしれない。
奴隷の少女が地下鉄道に乗って自由への逃亡を始める。関わった人々はぞくぞくと悲しい最後を遂げる。それでも逃げ続けることが微かな希望となる。
南北戦争以前のアメリカ。 そこには南部の黒人奴隷達を逃そうとする秘密の“地下鉄道”があった。 著者はその暗喩をそのまま物語の中に登場させる。 本物の地下鉄道に乗るのは黒人の少女コーラ。 逃亡、逃亡、逃亡。 安住はすべて一瞬の間。 偏見に基づく群集心理、 それは人間をここまで残酷にさせるんだ。
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