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人類の歴史は病との闘いだ。ペストやコレラの被害を教訓として、天然痘を根絶し、ポリオを抑え込めたのは、20世紀の医療の進歩と国際協力による。しかしマラリアはなお蔓延し、エイズ、エボラ出血熱、新型コロナウイルスなど、新たな感染症が次々と襲いかかる。他方、現代社会では、喫煙や糖分のとりすぎによる生活習慣病も課題だ。医療をめぐる格差も深刻である。国際社会の苦闘をたどり、いかに病と闘うべきかを論じる。
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Posted by ブクログ
2021年4月現在、新型コロナウイルス感染が確認され1年半が過ぎ、第4波のまっただ中。本書は、2015年に企画が始まり、著者のワークライフバランスもあり、新型コロナウイルス感染第1波の渦中に発売された。 国際政治を専攻する筆者が、国際保険分野の専門家との交流を通じて、感染症の歴史を国際政治学の視...続きを読む点を加えて検証します。ペストと隔離、コレラと公衆衛生や赤十字社の設立を紐解きます。2度の世界大戦と感染症との関係では、マラリアやスペイン風邪に対する国際政治の背景を解説。そして、第二次世界大戦後のWHOの設立、天然痘の根絶、ポリオ根絶への道、一方でマラリアとの苦悩などの経過を追います。近年の、エイズの撲滅、サーズの恐怖、エボラ出血熱の教訓、そして新型コロナウイルスと国際政治を概観します。一方で、感染症と生活習慣病対策、自由と健康のせめぎ合いの中で、喫煙の問題にも踏み込みます。最後に、健康への権利をめぐる闘いとして、アクセスと注目の格差に焦点をあて、発展途上国を中心とした、未だに顧みられない熱帯病への研究、資金援助の問題提起をします。健康権、感染症、貧困と格差など、あらためて国際協調が重要であることを強調します。
コロナ禍以降、感染症関連の書籍や記事をいくつか読んできた。それらの多くは、感染症の歴史を俯瞰したタテの視点を提供してくれた。本書は、グローバル化社会にあって重要な国際関係、ヨコの視点を提供してくれる。 本書が扱うのは、ペスト、コレラ、マラリア、エイズ、新型コロナ等の感染症に加えて、タバコ問題、糖尿...続きを読む病等の生活習慣病、そして国力の違いがもたらす健康格差と幅が広い。本書を読むと第一次大戦後、いかに国際社会が協調して健康問題にあたってきたか、はたまた逆に、国同士のパワーバランスがいかに健康問題の解決を遅らせてしまったかがよくわかる。 かつては英国と米国、ソ連が、今は米国と中国が世界のトッププレイヤーだろう。WHO設立の立役者である米国が自国主義を掲げて、そのWHOからの脱退を表明したことも、中国が情報を隠蔽し、国際協調を軽視して自国のプロパガンダに走ることも、百害あって一利なしであることが示される。 実は日本も両国を笑う立場にはない。タバコ問題にあっては足を引っ張る側にあると国際的に指摘されているという。もちろんそれらの影には経済的な利得が見え隠れする。 WHOの定義では、健康とは「身体的・精神的、社会的複利のことで、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」とされる。すなわち、健康とは守られるべき基本的人権なのである。 病は国境を容易に越える。コロナ関連の本では、今、本書は一番読まれるべきものかもしれない。
社会学者女性やジェンダー論女性の書いた情感豊かな文章ばかり読んでいただめ、大変失礼ながら、あとがきで筆者が女性であったことを知り驚いた。
国際政治の動きという観点から、人類がどのように病と闘ってきたのかを論じている本。 何となく、世界史の副読本を読んでいるような感じだった。内容的には、なるほどと思わせるようなことが多い。 結局のところ、 「病に関する国際的な取り組みは、しばしば政治状況に左右される」 という点に集約されるのかな、と...続きを読む思う。 世界から天然痘が根絶されたのは、感染者が比較的分かりやすいという病気の特徴であったり、ワクチンが比較的作りやすかったという要因もあるが、マラリア対策で国際的なイニシアチブを取っていたアメリカに対し、ソ連が天然痘根絶プログラムを提唱したという要因も大きかった。そしてベトナム戦争で国際的信用が失墜したアメリカがそのプログラムに賛同したことで、根絶に向けた動きが加速したのである。 或いは、生活習慣病や喫煙への対策についても、砂糖業界やたばこ業界などのアクターから圧力を受けるという話は、よく聞かれる。 医薬品アクセスについても、特許との関わりによって発展途上国では十分にアクセスできない問題があったり、先進国では注目されない「顧みられない熱帯病」といった病気への対策も、その時々の政治状況によって、動きが緩慢になる。 新型コロナウイルスの初動対応を巡ったWHOへの批判についても、そもそもこうした保健機関も政治のアクターの一つである以上、避けられない事態ではあるのだろう。逆に、そうした状況への理解・関心こそ重要なのだろう。
人類の健康をめぐる苦闘の歴史を解説した本。 歴史を見ると、新たな病を抑えても一時すると、新種の病が人類に襲っているのがわかります。本書は人類と病の終わらない戦いの歴史を知り、人類は病に対してどう対抗すべきを考えるきっかけになります。
なんとなく知ってるような知らないような伝染病のことが一通りわかる。旅行先でけねんとなるマラリヤやチフスよく聞くけどなんのことかわからないスペイン風邪のことなど。 地域を跨いで感染することや、そもそも戦争行為により感染地域が非常に拡大すること、皮肉にも前後して国際的な防疫の取り組みがなされること、など...続きを読むがよくわかる。2021年にもなって、何世紀も前と変わらないことやってるんだな、て絶望感も。
人類の歴史は病との戦いである。本書はペストやコレラなど感染症の脅威に対し、人類がどのように対峙してきたかを国際政治の視点から検証する。 パンデミックといわれるような人類全体の脅威には、国境を越える国際保健協力が必要になる。だが、その過程で国家間の利害や思惑が作用し、これまで数々の挫折と失敗が繰り返さ...続きを読むれてきた。 WHOの設立については、アメリカがスペイン風邪を教訓にイニシアティブを発揮して進めたが、加盟国をどうするかについてのイギリスと対立や、組織構成や本部の位置についてソ連とのせめぎ合いなど様々な駆け引きや妥協があった。 だが、天然痘は根絶、ポリオに関しても、生ワクチン実用化に向け米ソが協力した。 新型コロナウイルス危機で、国際的な協力の重要性があらためて再認識されている現代、WHOを中心とする国際協力の原点に立ち返ることが必要だと著者は訴える。 このほか、いまだ根絶できないマラリアとの苦闘、エイズ、SARS、エボラ出血熱など新たな脅威、喫煙や糖分の取りすぎによる生活習慣病対策、途上国の健康への権利を巡ってトリップス協定による医薬品の特許保護に柔軟性を持たせることなど国際協力を問う様々な要素が盛り込まれている。
コロナ禍で感染症について書かれている新書を探している中で出会った一冊。 国際保険事業を国際政治と絡めて書かれていて、興味深い内容であった。 感染症だけでなく、生活習慣病の話題もあり面白かった。 世界保健機関(WHO)は国際的に中立な機関だと思っていたが、本機関の設立から現在に至るまでの感染症対策...続きを読むを見ていくと、国際政治の力学からは切り離せないということが、本書で理解できた。 昨今の新型コロナウイルス感染症のパンデミックにおいて、WHOは中国寄りの態度をとっている等の批判が高まっているが、財政面で加盟国に依存していることなどを考慮すればありえないことではない、と改めて認識した。 著者の述べるように、国際政治の影響を受けることを利用していけばよい。 (過去、マラリア対策や天然痘撲滅においては、冷戦中の米ソが互いにイニシアティブを取ろうとしたことが、これらの感染症対策に有効だった。) 国際政治に関する本はほとんど読んだことがなかったので、新鮮な考え方に触れられて良かった。
【263冊目】新型コロナが流行っているこの時期だからこそ手に取った本。きっとこういうことでもないと読まないテーマだと思ったから、逆にこれを未知の世界に出会うチャンスだと思わないと!とはいえ、似たようなテーマの本はこの時期(そしてこの後しばらくは)たくさん出版されると思われるところ、当たり外れあるだろ...続きを読むうなと。その点、「新しい地政学」に寄稿していた筆者なら一定程度のクオリティは担保されてるかと思い、購入。あとがきで知ったが、北岡伸一氏の弟子だとのこと。 内容は、①感染症は国際的な保健協力によって対処されてきておりいくつもの成功例があること、そして、②保健協力にはたぶんに政治的な側面があることを示しているもの。 冒頭、チフスやペストといった有名な感染症の歴史の概観がすでに興味深い。特に、これまで公衆衛生分野に興味を持ってこなかった者としては、流行が当時の世相を作ったり、あるいはまさに現代と同じように家にこもって隔離という措置をとっていたことが興味深かった。 また、インフルエンザが第一次世界大戦のフランス陸軍前線兵士の半分を撤退させたなど、感染症が軍事面にも影響を及ぼしてきた事例も、後に描かれるWHO外交とあわせて、感染症が安全保障に影響を及ぼす例として面白い。 さらに、WHOが根絶に成功した天然痘やポリオと、根絶していないマラリアでは、政策面の違いだけでなく、感染経路(ヒトヒト感染か、媒介物があるか)が異なるというのも興味深い。 あと、最後の章を割いて医薬品への「アクセス」を説明しているのも、僕的には◎。厚労省に就職しようとか考えたことすらなかったけど、薬価に対する規制が日本における医薬品へのアクセスを容易にしている面があるとは知らなかった!厚労省(医政局)ってすごいんだなー! 薄くて読みやすいし、感染症が国際政治や安全保障の問題だという筆者の立場を踏まえれば、内閣官房国家安全保障局の職員さんとか読めばいいのに…笑
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