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中島敦の小説「文字禍」、ホーフマンスタールの小説「チャンドス卿の手紙」。この二つの作品に描かれたいわゆる「ゲシュタルト崩壊」、すなわち、文字が意味や表情を失って見える現象をてがかりに、ウィトゲンシュタインの言語論に新しい視座を与え、カール・クラウスの言語論に、すぐれて現代的な意味を見出す。清新な言語哲学の登場! 第41回サントリー学芸賞受賞作。
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Posted by ブクログ
哲学の書ということである程度身構えて読み始めたのだが、最も驚かされたのはそのなめらかな読み心地であった。まさに「なめらか」という言葉がぴったりくると自身で思うほどに、伝えたいことがしっかりと抑揚に乗って伝わりつつ、それでもどこか控えめで、落ち着いた論調で議論が展開されていく。加えて、小手先の言葉で惑...続きを読むわされたり、騙されたり、議論を飛躍させられたりするような感覚がない。非常に真摯に、眼を見つめられながら話されるように、内容が進んでいくのである。ここに著者の誠実さや真剣さを私は感じ、それ故余計にこの書の論に惹き込まれた部分があることは否定できない。あまり類を見ないような、素晴らしい読書体験であった。 書の中で展開されている「言葉」をめぐる議論についても、大変興味深く、おもしろいと感じさせられるものであった。自身が普段体験していることと、自身が思いもよらなかった考え方・思想の広がりが繋がることで、眼前が開けるような感覚が得られた。決して簡単・平易・わかりやすいに振り切ったものではない内容に対して、しっかりと言葉を追いながら、議論を味わっていく。こうして得られる深い味わいもまた、容易に他では得られるものではないと私は思う。 著者も最後に述べているように、この書で得られる啓示は現代の我々にとっても非常に重たいものである。言葉が安易に発せられ、それを安易に受け止められる現在、私達は言葉に対してどのように向き合うべきか。何事も効率化が重視され、140字に収まる効率的な・キャッチーな言葉がすべてを決めるような向きが我々の世界には存在する。それに流される自分を客観視して、今一度「言葉」というものを再考すべきだと私も思う。その思考のための梯子がここにはある。ぜひ多くの人に読んで貰いたい、勧めたいと思える一冊であった。
言葉のゲシュタルト崩壊現象の紹介から始まり、ウィトゲンシュタインやカール・クラウスの言語論を通して、言葉の〝魂〟と呼ばれているものを批評、言葉とどう向き合っていくべきかを論じている。 中島敦『文字禍』という親しみやすい題材から入っていくのもあって読みやすく、最初から最後まで興味深く読めた。 またウィ...続きを読むトゲンシュタインとクラウスの生きた時代から現代にかけて、言葉を巡る環境がどう変わったかを振り返って締めくくられるのだが、ツイッターをはじめSNSを多用するわたしとしても他人事では済まされないと反省させられた。
SNSの投稿や、政治家やよくわからないコンサルタントやベンチャー起業家のカタカナ言葉など、日常生活において「空っぽの言葉を話している」と感じることが多くなってきたこの頃に最適な一冊だった。 言葉のかたち=多面性=ゲシュタルトがなぜ重要なのかということをヴィトゲンシュタインやカール=クラウスの思想から...続きを読む迫っていく後半はとてもワクワクする内容だった。 「空っぽの言葉」と感じるものはここで言う「常套句」であり、それは言葉を選ぶ責任を放棄して常套句を繰り返すナチスのプロパガンダと同等のものであるというとこが分かってきた。
私が大学生の頃、先輩方の印象深かった警句の一つに「違和感を大事にしろ」というのがある。本書で言うところの「しっくりこない」からはじめろ、それを手放すな、ということだろう。 常套句に身を委ねてしまったとき、戦争に代表される社会の破滅がやってくる。リアルな話で、歴史の教訓だ。国家だけでない。企業も組織...続きを読むも、あらゆる人間の集まりがそうだろう。 堕落や破滅は言葉への敏感さを失ったところにある。常に創造せよ、というわけではなく、常套句にも魂を立ち上がらせよ、と本書は言う。 哲学が衒学ではなく、言葉に溺れず、傲らず、しかし、言葉を大切に選ぶこと、待つこと。それが哲学だと。クラウスとウィトゲンシュタインの魂を本書は言葉にしてくれた。
言葉でしか考える事ができない。考える事とは言葉を積み重ねることである。なんとなく分かっていた気もするが、少し深く認識する事ができた。意味とはその一つの言葉だけではなく、文脈によって与えられると。
言葉遊びが好きで常套句とかクソじゃと思ってる人間としては自分の可能性を肯定されたようでなかなかイカした本でした.いやでもホント思考停止はいかんよな.そして読んでて思ったのはこいつはお笑いにも通ずるお話であるよなと.てことでお友達の漫才師にも一読お薦めしておこう.
ウィトゲンシュタインとカール・クラウスの言語論についての検討をおこないつつ、「生きた言葉」や「魂ある言葉」とはなにかという問いを考察している本です。 本書ではまず、中島敦とホーフマンスタールの二編の小説がとりあげられ、それらの作品に見られる、いわゆる「ゲシュタルト崩壊」と呼ばれる現象に注目がなされ...続きを読むています。その後、ウィトゲンシュタインの言語論、とりわけアスペクト盲をめぐる議論についての検討がおこなわれています。 後期ウィトゲンシュタインの言語論は、ときおり「意味の使用説」といったことばでまとめられることがありますが、本書では、ウィトゲンシュタインがことばが帯びているアスペクトないし「表情」について検討をおこない、一方では彼が言葉のうちに宿る「魂」の実体化を否定しながらも、他方ではことばを理解しているといえるためにはそのつかいかたを知っているだけではなく、言葉を体験しているのでなければならないという考えをいだいていたことが指摘されます。著者は、「ぴったりと合う」ことばをさがしているときの体験などを例に、ことばのアスペクトを次々と見わたしていくことによってことばの輪郭が把握されるという見かたを提示しています。 つづいて、こうしたことばの見かたにもとづいて、クラウスの言語観が検討され、とりわけことばがたんなる伝達のための道具ではなく、「かたちを成す」機能をそなえていることに目を向けています。さらに、マス・メディアなどを通じて紋切り型のことばが流通することの危険性にいち早く目を向けていた思想家としてクラウスを評価し、ことばへのかかわりが倫理的な問題につながっていることを展望しています。
今一番楽しみな本。 20210426 言葉を選びとること、自分でもよくわかっていない常套句で迷いを手っ取り早くやり過ごさないことの大切さを、ヴィトゲンシュタインやクラウス、中島敦の文字禍などを通じて論ずる本。かいな。 哲学は必要だ、むしろ重要だと思います。そんなものないほうが波風たたないと思うけ...続きを読むど、多面的な視点があると世界の見え方がかわるのだろうなぁ。
中島敦と世紀末ウィーンの人物 中島敦とホーフマンスタールが、言葉から魂が抜ける体験を描いて言語"不信"を表明する一方で、ウィトゲンシュタインとクラウスは、むしろ言葉に魂が宿る体験に着目することで、言葉の豊饒[ほうにょう]な可能性を探る言語"批判"を展開してい...続きを読むる。 ゲシュタルト心理学 ベーコン 思考の歪み「イドラ(幻影)」 「言葉を通じて知性に負わされるイドラ」=「市場のイドラ」が一番厄介 「言葉は知性を無理に加え、すべてを混乱させて、人々を空虚で数知れぬ論争や虚構へと連れ去るものだ」 そのため「真の帰納法」が必要(経験的探究) ①観察・実験を通した事例の網羅 ②適切に吟味し秩序づける ③諸事例を貫く概念を取り出す ゲシュタルト崩壊から抜け出せない理由 P.66 …言葉を現実の(不完全な)代理・媒体と見なす言語観が彼らの物語の前提にある 「語は文から分節化される」という原理 ウィリアム・ジェームズ 「もしも感feeling of if」「しかし感feeling of but」 アスペクト(相貌、表情)変化 アスペクト盲の思考実験 =ウィトゲンシュタイン「かたち盲」「意味盲」 アニミズム物活論 『「いき」の構造』 言語浄化主義 クラウス 韻による「規則性を超えた創造的必然性」 P.196 …〈個々の言葉のもつ奥行きや多面性に触発され、その言葉のかたち(ヴォルトゲシュタルト)を把握する〉という実践を重視する姿勢によって貫かれている。 「言葉というものが、どんな仕方で機械的に使用されようとも、精神の生命によって包まれ保持された有機体であるということの予感」 言語不信 言語批判 [自分の意見・文章と思っているものが、他人(マスメディアなど)の繰り返している常套句の反復に過ぎない] この指摘の翌月、ナチス内部のアドルフ・ヒトラー独裁体制が確立 その10年後ナチス国家が誕生した P.217〜 現在の状況に適用
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古田徹也
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