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無活用ラテン語で書かれた小説『猫の下で読むに限る』で道化師と名指された実業家のエイブラムス氏。その作者である友幸友幸は、エイブラムス氏の潤沢な資金と人員を投入した追跡をよそに転居を繰り返し、現地の言葉で書かれた原稿を残してゆく。幾重にも織り上げられた言語をめぐる物語。〈芥川賞受賞作〉
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Posted by ブクログ
2024.02.16〜2024.02.22 相変わらず、文意は読み取れず。 それでも、読後感は、良い。 なんなんだろう、この感覚って。凄いなぁ。文章として破綻してないし、書かれていることは分かる。???だらけでも、新作が出たら読まずにはいられない、作家です。 小学生の読解問題にしたら、凄い答えが出...続きを読むて来そう。
読みやすい円城塔だった。「美文を連ねれば文学」だと『バナナ剥きには最適の日々』を読んだとき感じたが、本書もその類。「道化師の蝶」:美しい話。網に捕われた蝶のように因果の循環に囚われている。「松ノ枝の記」:人類大移動のテーマを読むといつも胸がどきどきするのだが、「あなたたちは、何故、旅をやめてしまった...続きを読むのです」という台詞を見た時、DNAに刻まれた何かが揺さぶられたように感じた。このテーマに強く惹かれるのは何故なんだろうと思う。
旅の間にしか読めない本があるとよい。などという本をすわって読む。飛行機の中では考えがどんどん後ろに取り残されて読めないからである。いやそんなことはない。頭の中の考えも、頭の持ち主と一緒に飛行機で移動しているのだから、考えにも慣性がある。いや考えには質量がないから慣性はないのか。 飛行機の中で捕虫...続きを読む網でアイディアを捕まえようとするA・A・エイブラムス氏の話を聞く私。 さてこそ以上、しからばすなわち、A・A・エイブラムス氏の話は各地を旅してはその土地の言葉で作品を書いた友幸友幸の作品らしい。翻訳。コリアンダーとシラントロとパクチーとシャンツァイは同じ。ウコンとウンコも色が同じ。マンガ的には。 「道化師の蝶」と「松ノ枝の記」の2作品を収録したもの。前者は芥川賞受賞作。 ことほどさようにどちらも翻訳が主題と思われる。さてもこそは翻訳とはトランスレーション。レートは語源が「運ぶ」であって、横断運搬がトランスレーション。何かを横切って運搬するたびに運搬したものは少しずつ変わってしまう。かくてしからばその変容そこが本書の主題。 旅の間にしか読めない本があるといいという本書を椅子にかけて読み始め、列車の中で読み終わる。さすればすなわち私が読んだ奇想は私の部屋からこぼれ落ち、JRの線路の間に転々と痕跡を残す。そしてそれは蝶となりエイブラムス氏の捕虫網で捕らえるほかない。しかしてあにはからんや蝶の蛹は高確率でハバチの幼虫などに寄生されており、蝶がでてくるかハバチがでてくるかそれはわからない。まさしくかかるは翻訳の技。 さてこそ本書は蛹。
個人的には、非常に脳を揺さぶられる感があり、とても楽しめた。時空を飛んで、鏡の中を行き来するようなそんな錯覚を覚えるような、話の展開。年に一冊くらいこんな本に巡り合えたらどんなにか楽しいか。良作だと思いました。
非常に面白かったが、難解で、何が面白かったのかを表現するのが難しい。主題が言葉や物語それ自体の性質について深く言及していて、語りの構造自体を巧みに利用したトリックがふんだんに盛り込まれていたのが面白かった。解説もまた良い。
何を言ってるのかよく分からないのに文字を追うのが気持ちいいのは、 やっぱり言葉の一つ一つを、音の一つ一つを慎重に選び取っているからなのだろう。 それでいてそういう過程を少しも感じさせず、むしろ 自らが自動筆記プログラムそのものであるかのように振る舞って見せているあたりが、人間業とは思えない。 いや、...続きを読むもしかしたら本当に、そういうプログラムなのかも。 もう、その人が実際に小説を書いているところを見なければ、 「円城塔」という人間の存在すら僕は信じられない。
多層的な(あるいは円環する)物語。「道化師の蝶」も「松ノ枝の記」も一筋縄ではいかない構造をもっているがどちらも最高に刺激的でした。またこの二篇が一冊にまとめられていることもなんだか感ずるところはあります。かんぺきな一冊だと思います。面白かった。
祝文庫化! 久しぶりに美しくて、知的で、楽しい読書の時間を持てたと思った。 こちらに納められているものは中編が2つ。『道化師の蝶』と『松ノ枝の記』どちらも書くという行為の意味を問いかける内容だ。特に『松ノ枝の記』はある小説を翻訳してみるという行為から始まる物語の冒頭が秀逸である。 小説を読む為に...続きを読む語学を学んでいる私にはとても面白い展開であったし、物語が段々と入り組んでいく模様が読んでいてわくわくした。物語は物語をかたり、新たな物語を作り上げる。 まさに彼はこれからの日本文学を背負う人物になるであろうと私は思う。 蛇足ではあるが、どうも彼が芥川賞を受賞した時は同時受賞の田中氏の貰ってやる宣言ばかりが取りざたされて、作品そのものへ目が行っていなかったようで(苦笑) 昨今のこうして出版界のイベント化傾向は本を売るための戦略ではあるのだろうが、本を愛する読書家としてはとても不愉快なものだ。
SNS上の知人が好きな作家、ということでこの人を知り、どうやら「シュールな」系の作風らしいと興味を持ち、読んでみることにした。 フランツ・カフカを嚆矢とする「シュール」文学は、日本ではまずは安部公房だが、安部公房の初期の作品はやたらに饒舌でドタバタで、奇想の背後には、現代音楽の作曲家で言うと三善...続きを読む晃さん辺りに近いような「熱い魂」が持続していた。 その点では、円城塔氏の文章はもっとクールで情動をあまり前面に出さないことからカフカに近い感触だ。どことなくボルヘスのような寓話的な雰囲気も感じるが、もっと「意味が無い」。 各国のホテルを転々としつつテクストを残していく多言語作家・友幸友幸や、虫取り網で着想を捕らえようとするエイブラムス氏、あるいは「何故こうしたのか意図が分からない」構成法、全体が絶対に解き明かし得ない「謎」である点など、さまざまな要素は記号として意味内容=シニフィエを欠くシニフィアンであり、この小説はさまざまなシニフィアンだけが織りなすラカン的な現代芸術である。これは現代詩の言葉が常識的な意味の体系から解き放たれて飛び立つのとおなじ態様であり、近年の現代音楽、現代美術とも同等の領域を示している。 この「無意味さ」の中でも、一応、テーマは「言語」であるらしいのだが、結局はそのテーマも無意味な遊戯であるかのようだ。 2012年に芥川賞を受賞した本作は現代芸術の一典型と思える。ただし、この無-意味なシニフィエ世界が、読んで面白く思われるかどうかは、読者次第という感じはする。特定の情動を惹起しないためにその「無味乾燥」に人は惹かれるものを感じないという場合もあろう。カールハインツ・シュトックハウゼンのある種の音楽が強い情動性を拒みつつも、そこに深い味わいを感じるような感性が、読者に要求されているのかもしれない。 併収されている「松ノ枝の記」は同様に言語をめぐって複雑化された構造を示しており、表題作と似すぎているように感じた。 どうやら円城塔さんはSF小説のジャンルにも進出しているようで、ディック賞なんかも受賞しているらしい。本書の他にどんなふうにこの作風を展開させているのか、興味を持っている。
道化師の蝶は理解が及ばずに感想は書けない。 松の枝の記については、完全に理解ができたとは思えないが、純粋に自己の中に宿るもう一人の自分という発想が、普段の私の生活に示唆的なものであり、興味深かった。記憶の不確かさ、無意識の存在を少し確かめられた、気がする。
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