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工場排水の水銀が引き起こした“文明の病”「水俣病」について、患者とその家族の苦しみを、同じ土地に生きる著者が記録した『苦海浄土』。「水俣病」という固有名にとどまらず、人間の尊厳について普遍的な問いを発し続ける一冊として、ジャンルに縛られない新たな「文学」として読み解いていく。
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Posted by ブクログ
フセンめちゃくちゃ張った……『夜と霧』などといっしょに近代化の最悪の顛末の事例とそこから生まれた思想、言葉として(こう、前向きなまとめ方をするのはあまりよろしくない事例だとも思うのですが)して数多くの人に読んで欲しいですね……
先日、石牟礼道子の「苦海浄土」を読み深く心を動かされた。多くのことに心を動かされたが、とりわけ、第三章と第四章の「聞き書き」の部分、特にその中でも、水俣病の被害者が、まだ海が汚染される前の水俣湾での漁の様子が、どれほど美しいものだったかを語った部分に感動した、ということを、「ブグログ」に感想として書...続きを読むいた。水俣病の被害者からすれば、漁をし、魚を食べるという日常を営んでいただけなのに、チッソの排出する有機水銀により、海が、魚が、そして、それを食べた者の中枢神経が損なわれるというのが、水俣病の実態である。それは、怖いし、悲しいし、怒りや恨みを感じることだと思う。しかし、「聞き書き」の中で被害者が語るのは、昔の水俣のきれいな姿であったし、また、それを読んだ私はその美しさに素直に感動した。どうしてこういうことが起こるのだろうか?と少し疑問を感じながら、感想を書いた。 本書は、NHKの「100分で名著」シリーズの中の1冊で、「苦海浄土」について、あるいは、作家・石牟礼道子について、解説したものである。 本書の第一章の中に、下記のような部分がある。 【引用】 昔の日本人は、悲し、哀しとだけではなく、「愛し」、「美し」と書いても「かなし」と読んだといわれますが、この一文はそうしたかなしみの深みに読む者を導いてくれます。熾烈なまでに悲しいのですが、どこまでも「愛しく」、そして「美しい」何かを読む者の心に残してくれる言葉であるように私には感じられます。 【引用おわり】 水俣病の患者・被害者には、沈黙を強いられていた人が多く存在する。中枢神経系を冒されていたために、物理的に発語が困難な人たちだったり、あるいは、周囲からの差別を受けて、誰も声に耳を傾けてくれなかったりといった人たちだ。「苦海浄土」は、その人たちの声を代弁した物語という側面がある。沈黙を強いられた人たちの心の声を石牟礼道子が、物語として代弁してくれる。そして、彼ら・彼女らが語りたかったことは、多面的であり、ひとたび、世の中に溢れ出たら、とどまるところを知らなかったはずだ。そして、それらは、「悲し」「哀し」「愛し」「美し」の「かなし」の物語だったということであり、その切実さと「かなしさ」に我々は、心を動かされるのだろう。
原本がなかなか読めないので、ガイド本としてこちらを読んでみた。こちらだけでも十分というかかなりの情報量…といった感じ。感想を文字にするのが難しい…人間の崇高な一面を感じた。
石牟礼道子の『苦海浄土』(1969年発行)の本は、読もうとしても、はねつけられる。それでも、苦労して読んでも、レビューが書けなかったが、ユージンスミス、桑原史成、石川武志の写真集をみながら、やっと自分の中にも理解できて、レビューを書いた。ただ、どうも本の芯がつかめないでいる。本の芯がつかめないと、レ...続きを読むビューも薄っぺらくなる。 100分で名著は、実にいい企画である。若松英輔による『苦海浄土』の100分で名著があったので、読んだ。「悲しみのなかの真実」この本は、ノンフィクションではない。水俣病の患者たちが本当の語り部であって、自分、石牟礼道子がその言葉をあずかっただけなのだ。石牟礼道子は、真の作者じゃないと思っている。『苦海浄土』は、生きることを問い、生きる意味を問う。 水俣病の人たちは、五感で感じているが、言葉を奪われている。そのためには、現代の詩の枠組みを超えた新しい「詩」のつもりで書いたと著者に語ったという。浄瑠璃と言われるより、わかりやすい。言葉を奪われた人々の物語。『苦海浄土』は、既存のどのジャンルにも当てはまらない、全く新しい文学の姿と可能性を持って現れた。 ただ、石牟礼道子は、言葉を持たぬ水俣の人々だけではなく、豊穣なる不知火と水俣の自然の語り部たろうとする。1000年以上の豊かな海の恵みの中で、生きてきた。水俣の人たちは、自然の中に生きてきた。それは、古の世界であり今でも続いている。海に支えられ、海の果実を食べることで、豊かさを味わってきた。それが光の部分である。高度経済成長のもとで、公害、その代表的な水俣病が発生した。そして、そこに経済を優先する近代の産業が入り込んできたことへの悲劇が生まれる。工場は、排水の中に毒があることを知りながら、排水を流し続けたのである。そのことを隠蔽しようともした。さらにその会社によって、作り出されているプラスチック。それを近代の人たちは使っている。宇井純は「第三者はいない」という。水俣と関わり合っている。 近代産業の発達によって、海を汚し、そして、人間を破壊した闇の部分。光と闇を、石牟礼道子が語ろうとした。言葉を奪われた人々の心の奥にあるものを、白日のもとに暴き出した。石牟礼道子は「語らざるものたちの口」になり、見る、読むという世界から、感じる世界をつかみとる。 『苦海浄土』は、石牟礼道子にとって長大な詩だった。詩は時に叫びであり、嘆きであり、また呪詛の言葉であり、祈りでもあった。 『苦海浄土』は、第三章の「ゆき女きき書」から書き始められたという。ゆき女は、ぼんのうのふかかけん人間。人間に生まれ変わることができるかと悩む。生きることの愛おしさ。 きよ子は手も足もよじれてきて、手足が縄のようによじれて、わが身を縛っている。きよ子は、桜の花びらがちる頃に、縁から落ちて、花びらをとろうとした。ただ、つまむこともできず、地面に押し付けているだけだった。きよ子の母親は、「何の恨みも言わじゃった嫁入り前の娘が、たった1枚の桜の花びらば拾うのが、望みでした。それであなたにお願いですが、文ば、チッソの方々に、書いてくださいませんか。いや、世間の方々に」というのが、『苦海浄土』を描くことになったのだ。 そして、水俣病の人たちは、行動を起こす。 「東京にゆけば、国のあるち思うとったが、東京にゃ、国はなかったなぁ。あれが国ならば国ちゅうもんは、おとろしか。むごかもんばい。見殺しにするつもりかも知れん。おとろしかところじゃったばい、国ちゅうところは、どこに行けば、俺家の国のあるじゃろが」と痛烈にいう。 「近代産業の所業はどのような人格としてとらえられねばならないか」。国がやった。会社がやったというが、特定の人間がいないようになっている。あくまでも人間の仕業なのだ。人格をなくすことに、石牟礼道子は憤りを感じているのである。 そしてさらに、いのちの問題に金銭で解決できるような暗黙の認識自体に疑問を呈する。 緒方正人は、私はチッソだという。木材の船を浮かべ漁に出る。認定申請を取り消す。もし自分がチッソだったらと考えることで、チッソさえも許す。水俣病事件は、解決の方法はない。自然の中に生きていくしかないと考える。魚を獲って魚を食べる昔からの生活で、魚を食べるなというのは空気を吸うなというのと同じだという。水俣の民の在り方を指し示す。 けっして過ぎ去ることのない永遠につながることが、この世にはある。生命は滅びる。しかし万物のいのちは朽ちることはない。『苦海浄土』を書いているときの心境は「荘厳されているようだ」という。「荘厳」は、仏教の言葉で、仏の光によって深く照らし出されることを意味する。人間の感覚を超えた響き、香り、輝きが広がり、また何かに包まれるような語感がある。闇の閉じた世界のかなで、光をともすような想いを表していく。うーん。100分で名著は本をよく読むためのガイドになる。
『苦海浄土』はまだ読んだことがない。まだそこまで手が出ない。熊本という場所に生まれ育ち、小さいころからその病の名前を聞いていて、石牟礼さんの名前もどこそこで聞いてきたのに、ようやくそちらに意識が向くようになったのは最近のことだ。 このあいだ、高群逸枝さんについて書かれた(というか厳密にはそのご主人と...続きを読むの交流の部分が大きかったが)本を読んで、石牟礼さんにも最初の一歩というものがあったのだという「親しみ」のようなものを感じ、ようやくすこしだけ近づくことができてきたような気がする。でも、まだ全集を手に取るには畏れ多い。そんな私みたいな人間が入門書としてこの本を手に取るのは非常に有益だと思った。 そして、水俣のことは過去のことでなく、現在のことでもある。これは石牟礼さんの文章からの引用ではないが、30ページ中村桂子さんの文章からの引用として、なぜ水俣病が発生したのかの指摘は、今問題になっている福島の廃水を海に流すかという問題とそのまま言葉を入れ替えれば同じことなのだ。
「苦海浄土」の内容を知りたいと思って買った本。この本を読んで、「苦海浄土」の内容を知ることができて良かった。若松英輔先生の解説を読んだ。この本を読んで原発の事故のことを連想した。この本を読んで「苦海浄土」が新しい詩だということを初めて知った。P67のL5の言葉が1番印象に残った。
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NHK「100分de名著」ブックス 石牟礼道子 苦海浄土 悲しみのなかの真実
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