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正月のしめ飾りは本来、歳神を迎え祭る神聖な場を示し、門松は歳神が依り憑くものであった。お盆は仏教行事ではなく、実は死者・先祖と生きている親の魂祭りである――等々、現代に受け継がれる年中行事から正月、盆、さらに節分、花見、節供、花火、月見、冬至、歳暮などいまでも慣れ親しんでいる40の行事を取りあげて、その歴史的意味、多様性を明らかにする。 ※本書は2013年に(有)アーツアンドクラフツから刊行された単行本に加筆、改訂し、文庫化したものです。
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Posted by ブクログ
・小川直之「日本の歳事伝承」(角川文庫)にかうある、「七草を叩く唱えごとは、嘉禎三年(一二三七)の『桶火鉢』という文献に、現在とほぼ同じ唱えごとが記されている。」(84頁)実は私のこのことを知らなかつた。大体、私自身は七草の唱へ言といふのを知らない。いや、知つてはゐる。ただし、それは知識としてであつ...続きを読むて、決して私自身の体験の中にあるものではない。七草ナズナ唐土の鳥が日本の国に渡らぬ先に云々といふわらべ歌の歳事歌は知識としてはある。だから、「云々」の部分がストトントンとかホトホトとかになることも知つてゐる。知識だからである。しかし、その歌がどこから来たのかと思ひはするものの、それを調べることはしなかつた。手許の角川小事典の「日本年中行事辞典」の七草の項を見ると、6頁近くにわたつて詳細な説明がある。しかし、ここにも「桶火鉢」といふ書名は出てこない。私が見た他の辞典等でも同様であつたと思ふ。だから、唱へ言については分からないか重要ではないかであらうと思つてゐた。それがかうして出てくるのである。試みにインターネットで検索すると、「幻想動物の事典」といふサイトの「日本/唐土の鳥」に中にこれが出てくる。そこにあるのは「唐土の鳥と、日本のとりと、わたらぬ先に、七草なづな、手についいれて、亢觜計張」といふ歌で、確かに今の歌とほとんど違はないと知れる。しかも中国梁代の「荊楚歳時記」の鬼鳥の件も出てゐる。これは本書にも出てゐるのだが、やはり関係ありさうである。「『唐土の鳥』が『鬼鳥』であり、若菜をスリコギなどで叩くのが床や戸を叩くことにな る。」(同前)このやうな対応があるらしい。昔から歳事歌として知られてゐる歌でも、さかのぼればここまでさかのぼれるのであつた。 ・それを今頃知つたといふのもずいぶん間抜けな話である。このやうなのは他にもある。例へば小正月の行事、その有名なかまくらはあれだけで独立した行事ではないぐらゐは知つてゐるのだが、私はそこまでであつた。11日に始まり15日に終わる一連の行事がある。その中日あたりに作るのがかまくらで、15日には年占ひの竹打ちと所謂どんど焼きが行はれるといふ。「小正月には多様な内容が含まれているが、これらの原義は豊穣や除災、新しい年への祝福という意味で ある。」(93頁)一連の行事中には書き初めに当たる「天筆」書きや餅花がある。しかもかまくらの中で鳥追ひ歌を歌ふ。実に立派な小正月行事ではないか。 現在これがこのままの形で行はれてゐるのかどうか。行はれてゐないのは、例へば吉田兼好の、大晦日の夜に「亡き人のくる夜とて、魂まつるわざは、この比都にはなきを、東のかたには、なほする事ありしこそ、あはれなりしか。」といふのがある。これは大晦日に亡きみ霊を供養する行事が以前はあつたが、それが今でも東国では行はれてゐるといふことである。正確にはなくなつたわけではないらしいのだが、本書にはあちこちで出てくる。それだけ正月には重要な行事であつたのであらう。最近かういふ本をよく見かける。年中行事が見直されてゐるのだとも言へるが、逆に、なくなつた、あるいはなくなりさうだからこそかうした解説本が必要になるとも言へる。兼好の時代に解説本はない。だから伝へ聞いたことを書いたのか、あるいは自らの体験か。兼好の時代にもかうして滅びゆく行事はあつた。私たちの時代にも当然ある。問題はそれを生かすのかどうかである。忘れ去られる前に記録をといふのならば、本書はその行事の源までたどるべく調べるといふ方針であるらしい。今まで気にしてゐなかつた行事の源が分かる、かもしれない書……。
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日本の歳時伝承
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