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今、日本人は食を巡って大きく二つに分かれている。食の安全のためにお金を使うことを厭わない人々と、安全よりも安さと量を重視する人々。食べ物を通して歴史や社会を読み解きながら、日本人の新たな政治意識を導き出す。
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Posted by ブクログ
食の消費の選択が、その人の考え方やセンス、ひいては政治思想まで表しているとの主張。体内に取り込むものの選択には分断が伴うというところは、食に携わる人間として抑えておくべき主張に思えた。わかりやすく2つの派閥に分けて話しているが、派閥のアウフヘーベンのようなものはないのだろうか。
どう食べるかは、政治的選択でもある。 出版された2013年から、さらに日常的にオーガニックという言葉を目にするようになった2019年に読む。 理想を追求するのが左翼的な思考。 そんな風にお硬く考えてなくても、 自然と関心をもっていた「オーガニック」や「サステイナブル」といったテーマを、全編通し...続きを読むて政治的側面として捉えられて(いや、言うまでもなく。といった感覚で)いたのが、新鮮でおもしろい発見だった。 フード左翼のジレンマについて書かれた部分は、特に共感。 オーガニック農業について、 サステイナブルではない。 左翼というのは、一般的に科学技術に肯定的だが、フード左翼の場合そうではない。 有機農法は従来の農薬を必要とする農法と比べて、倍の農地を必要とし、今後90億人まで増加し続ける世界人口の食事をカバーするには耕地が足りず、大幅な開墾が続き環境破壊が進む。 といった記述部分、こういった見解は初めて触れた。 解決する方法として、「遺伝子組み換え」の技術の活用について書かれていた。原材料ベースだと、20年以上既に食べられているという。 政治を政治として語るのではなく、 消費を通して政治的な視点をもつ、という試みがとてもおもしろいと感じました! 速水氏の文章は、時にやんちゃなのが、 身近に感じられてよいです。 個人的に関心のある分野で、面白いと感じる考察が詰まった本でした。
食左と食右。政治思想で食の嗜好を切り分けるという着想が面白い。確かにファストフードやメガ盛りといったジャンク食を好む人間は,政治的にも右を志向する気がするし,オーガニック,マクロビ,有機栽培,ベジタリアンなどは意識の高い左側に位置するだろう。遺伝子組み換えハンターイなんかも思いっきり左寄りだ。 まぁ...続きを読む実のところはそこまで深いものでもなくて,知らず知らずに健康資本主義に絡めとられていたりする。でももっとまずいのは,皆が食左を追究する社会は到底持続可能でないということ。無農薬もGM・添加物の忌避も食の効率を落としてしまい,それでは世界の人口を養うことができない。著者も食右から食左に転向した口らしいけど,結局のところ食左は一部のアッパークラスの趣味とかファッションに留まらざるを得ないんだろう。自分は基本ノンポリだけど,どちらかといったらマジョリティの食右の方かな。
『ラーメンと愛国』に続き、期待を上回る面白さ。食を通じて政治経済に迫る、というアプローチが成功していて、「山路を歩いていたら、いつの間にか自分の住んでいる街を反対方向から見下ろす丘に出て、よく知っている景色なのにびっくり新鮮わ〜嬉しい」という感じ。 食への態度を「右翼か左翼か」と位置付けることで、食...続きを読むと政治経済の両方に新しい光を当てているのが素晴らしい。 食の面では、食べ物に対する価値観が単なる食べ物への価値観を超えてライフスタイルそのものへの価値観でもあることを示している。 政治経済の面では、政治的には保守ではなく革新(左翼)だが、政府ではなく市場を通じて企業をコントロールすべき(非左翼)という層を浮かびあがらせている。 いやまさにそれ私のコトです。 基本的人権とか自由といった、普遍的な価値が「伝統的」価値観より大切と思い、人類は進歩すると考えている。保守か革新かと問われれば革新。政府の役割は、規制により企業の活動を制限することではなく、適切に市場メカニズムが働いて悪いヤツが自然淘汰されるような場を作ること。 一方で、フードマイレージの少ない地産地消が望ましく、マクドナルドのようなグローバルファストフードより伝統的な文化が反映されているローカルフードスローフードが好ましいとも思っている。文化人類学を学んだ者として、世界がフラット化することは良くないことだと信じている。 ただし、それは関税や規制を通じてではなく、市場での競争(企業の工夫と賢い消費者の選択)によって実現されるべきと考えている。 與那覇潤の言葉を借りれば、江戸時代の中国の両方にブレている。 選挙のたびに「しっくりくる支持政党がないなぁ」と思っていたが、こういう分類をされるとびっくりピッタリハマるカテゴリーがあるのか。 食に関する価値観はライフスタイルに密接につながっているだけに「私」の価値観・選択肢の話しになってしまいがち。それを、最後に「私たち」の問題へと引き上げているのも素晴らしい。 急ぎ足になっているのが残念だけど、20世紀初頭のドイツとソ連の社会主義的な共同食堂、共同農場の目指したものと招いたものについての指摘は重要だ。 女性を家事労働から解放させるための、効率的なセントラルキッチン方式。共同生活するなら、たくさんの人に食事を提供するなら、金銭面でも労力面でも設備面でも、あらゆる項目でセントラルキッチン方式が効率的だ。キブツでも、学校給食でも、老人ホームでも、ファミリーレストランでも同じ。 日本の少子高齢化の現実を見ると効率的なセントラルキッチン方式は避けられない。 20世紀の共産主義国家でうまくいかなかった方法を21世紀の資本主義国家がどう扱うのか。 福祉やQOLにもつながる話し。奥が深い。 フード左翼の不都合な真実も明らかにされている。 フード左翼の主張は、美しいものの、問題をはらんでもいる。 例えば、らでぃっしゅぼーやのアピールの矛盾。日経デュアルの記事によると、「全国の野菜産地と契約。南の産地から北の産地へと出荷場所を変えることで、その季節の旬の野菜を長い期間楽しめるのがメリット」とうたっているらしいが、これは「人工栽培ではない、自然の恵み」なのは確かだけど「地産地消、フードマイレージ」の観点からは望ましくない(※らでぃっしゅぼーやは単なる例で、この矛盾は自然派フード左翼の矛盾)。 また、有機肥料無農薬栽培は非常に効率が悪いため、生産量が少なく値段も高い。リッチな人しか買えないし、世界の人口の大多数を飢えさせることになる。有機農業は地球を飢えさせる。これについて「遺伝子操作された農作物」を提示しているのも面白い。 化学肥料や農薬を受け入れるのか、遺伝子操作を受け入れるのか、貧しい者は飢えてもよいというのか。 オキュパイウォールストリート運動で「上位1%が富を独占している」と批判した人たちが、実は世界レベルでみれば上位3%という矛盾。 無邪気にナチュラル=善ではない。 最後に、ちょっとモノ足りなかった点。 フード左翼、フード右翼という切り口は実りの多い素晴らしい切り口だけど、それは「食べる」側の視点。 食を「食べる」視点ではなく「(献立を)考える」「用意する」視点からみると、積極的かつ日常的なフード右翼ってあるのかな?金銭面で仕方なくフード右翼、非日常イベントとしてフード右翼、ではないあり方。(考えにくい) そうすると、フード左翼とフード右翼という概念は対称ではなく、理想と現実、充足と欠落、正規と逸脱という関係になる。であれば、「右翼から左翼への転向はあるが左翼から右翼への転向はない」のは当たり前。ここを掘ると何か出てきそうなのに、軽く触れて終わっているのがもったいない。
左翼の対象としてきたものの流れがつかめておもしろかった。政治闘争から自然派農業への流れはなんとなく理解していたが、なるほどねーと納得させられるものがあった。 自分の周りを見渡しても確かにその傾向はあるかもと実感。 有機栽培はほんとうにサステイナブルか?というポイントも興味深い。もはや態度が科学を...続きを読む凌駕してしまう左翼のジレンマを強く感じた。
速水健朗『フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人』(朝日新書、2013年)は食生活の面から人々の政治意識を分析する書籍です。本書は日本社会がフード左翼とフード右翼に分断されていると主張します。 フード左翼は有機野菜、地産地消、ベジタリアン、ビーガン、マクロビ、ローフーディズムなど自然派の食を愛...続きを読む好します。フード右翼はコンビニ弁当、ファーストフード、メガ盛り、B級グルメなどコスパを重視します。私の消費行動はフード右翼的です。 フード左翼とフード右翼という視点は一般的な左翼と右翼のイメージを逆転させる要素があります。貧困問題は左翼の方が熱心というイメージがあります。しかし、フード右翼はコスパ重視の消費行動によって、安くて美味しい食を支持します。閉鎖的な業界の横並び慣行を打ち破る革新的なビジネスの追い風になります。これは食の民主化、貧困の抑制につながります。逆にフード左翼は富裕層に偏り、経済的余裕のある人の道楽という側面があります。 また、右翼には排外主義・国粋主義的なイメージがあります。ところが、フード右翼はグローバルなファーストフードを受け入れます。逆にフード左翼の方が地産地消や国産農作物を重視します。それどころかフード左翼は福島第一原発事故後に福島産農産物を忌避するどころか排撃するなどヘイトとも親和性があります。 フード左翼という切り口から現実の左翼の矛盾が見えてきます。困っている人々のニーズに応えられない独善性です。食費を節約している人々に健康食の購入を勧めるような頓珍漢になります。これが若年層や現役世代のリベラル離れやリベラル嫌悪の要因でしょう。 現実に革新政党や労働組合が昭和の頃からの労働者搾取論を唱えても労働者に刺さりませんが、ゼロ年代前半にインターネット発祥のブラック企業批判に乗っかったところ支持されました。しかし、ゼロ年代後半に安倍政権が働き方改革を打ち出し、お株を奪われた状態です。これは左翼の考える点になります。観念的な昭和の労働者搾取論に逃げず(自分達は唯物論であり、観念論ではないという的外れの反論をしてくるでしょうが)、ブラック企業など現役世代の抱える問題への認識を深める必要があるでしょう。 一方でフード右翼はどうでしょうか。グローバルなファーストフード支持が右翼になることが理解しにくいところです。TPPや移民労働者の議論を思い出しましょう。 ここには左翼のレンズを通した右翼認識が影響しているかもしれません。対米従属の「雇われ右翼」という認識です。戦後の左翼の最大の関心事は日米安保でした。それ故に左翼視点では自分達に対峙する右翼は日米安保推進の対米従属になるでしょう。しかし、日本には「雇われ右翼」しかいないと主張するならば別として、右翼そのものの認識とは異なります。やはり右翼は国産農作物重視、チェーン店よりも個人経営店重視の傾向があるのではないでしょうか。 それを踏まえると、本書のフード右翼は右翼よりも、合理主義的な消費者と感じます。本書はフード右翼を食に無自覚な人々と捉えますが、値段などで価値を決めず、自分の食べたいものを主体的に選択する消費者です。本来のフード右翼とフード左翼は本書のフード左翼になり、右翼も左翼も似た者同士という結論がすっきりします。 日本では右翼は「滅私奉公」、左翼は「一人は皆のために」とどちらも全体主義的傾向があります。これに対してコスパを重視し、食べたいものを食べる本書のフード右翼は経済合理性を重視する個人主義の消費者です。対立軸は全体主義と個人主義になるのではないでしょうか。 このように本書の対立軸には疑問がありますが、消費行動を投票行動のような選択の場と捉える視点は有用です。消費が消費者の主体的選択であることを認識し、責任を持った消費を進めます。
フード左翼とフード右翼の対比がわかりやすく、気軽に読んでいましたが、段々と自分の立ち位置や主義主張のねじれに気付いていき、後半は真剣に読んでいました。 「何を買うか」や「何を食べるか」が政治的な判断となる以上、自分の消費行動にも自覚的でいなければならないと自戒しました。 自戒はしましたが、何という...続きを読むか大変ですね。生きることは。
食を通じて、その人の政治思考を見てみようという面白い一冊。 左翼、右翼、政治という単語を見るとどうもキナ臭い印象があるが、本書は実にとっかかりやすい内容だ。 人にはそれぞれ食の好みがあり、それをマッピングしてみる。 そこから、ジロリアンやB級グルメなどのジャンク好き、有機野菜、ベジタリアン、ビー...続きを読むガン、種々いるわけだ。本書はフード左翼主体九割で書かれているものの、実にあるあると頷き通しだ。 ベジフェスなどで見るフード左翼。ベジタリアンやビーガンになるまでの過程として、健康志向から入る、毒素を抜く(デトックス)気持ち的要素から入る、環境破壊反対から入る、動物愛護精神から入るなど様々だ。 もちろん単純に左右に分けられるわけではない。 ディーンアンドデルーカのトートを下げて、有機野菜たっぷりの弁当を日々作る人も、呼ばれた結婚式のフォアグラを食べたりする人もいるわけだ。 左右どちらが良い悪いということは一言も書かれていない。 かつて、日本では台所は女性の聖域とされた時代があったが、そこから女性を解放しよう(国力の一部に組み込もうという平等主義)という共産主義が生まれたわけだ。 現代。アイランドキッチンで老若男女が地産の有機野菜やオーガニックの種々を調理し、ワインを持ち寄り一席設ける。これは超極左的共産主義キッチンだと。 左右どちらが良い悪いという話ではない。 政治思想と言うと胡散臭いが、その人の消費、食を見ると、その延長線上に結果としての思想(意識、無意識関わらず)が見えて来る。
面白い。自然志向はあくまで都市生活の延長だとか、有機栽培を増やすことが自然破壊に繋がるとか、なるほどと思うことが多かった。他の方も指摘しているが左翼側の話がほとんどで右翼側の視点はあまり出てこない。食べることについて色々考えさせられるという意味ではなかなかいい本だと思う。
試みとしては、非常におもしろかった。 筆者も書いているが、これは「あー、たしかにそうかもね」「あるある、あるわ〜」というノリで読むべき本。 逆に言うと、それ以上は期待しちゃダメです。 さて。 日本人の食は二極化している。 安心・安全を求める人と、安くてボリュームがあればよしとする人。 それを本書は...続きを読む、半ば強引に「フード左翼」と「フード右翼」と呼んでみることから始まる。 が、ここの「左右」の分類に、あまり根拠はない。 もちろん学生運動からの流れで有機農業をやっているグループもいるし、たしかに言われてみれば、私の周りの自然派の友人たちは選挙の時、おそらく自民党には入れないだろうな…という気はする。 でも、右からの農本主義的思想だって、そちらはそちらで脈々とありますよね。 それに左翼・右翼というのはどちらにしても、何らかの思想を積極的に選び取っている人々を指すと思うが、本書で描かれる「フード右翼」には、ほとんど思想性がなさそうだ。 言葉は悪いが、ただ低きに流れているだけというか、あんまり深く考えなければそうなるよね、というだけのような。 もうちょっと、フード右翼側を掘り下げて書いてくれればよかったのに。 掘り下げが足りない、あるいは著者の認識不足と思われるところは他にも結構あって、それもまた気になった。 たとえば。 世界の食糧不足問題を解決するためには、収穫量の少ない有機農業ではダメ→遺伝子組み換え技術が必要→そこにフード左翼のジレンマがある、という。 でも、食糧問題を語るには、先進国における大量廃棄の問題や、途上国に輸出作物ばかりを作らせて自給できない構造になっている問題など、いろんな要素があると思うが、それらは一切触れずに「GM必要」の一点張り。 また、健康志向のランチは丸の内OLにはウケても、コンビニ商品にはならない→地方では売れないから→オーガニック店なんて都市部でしか成り立たない、という。 これは東京から地方移住した身としては、声を大にして反論したい。 そんなこと、全然ないですよ〜! 「オーガニック弁当を買うためにコンビニに行く」なんて人、田舎にはいないでしょ、というだけの話では? …と、ここまで文句を書いてしまったけれど、これはあくまで、ひとつの思考実験なのである。 何を食べるのか。 何を買うのか。選ぶのか。 それは実は、非常に政治的なことなんだ。 そこに気づかせてくれただけでも、本書は大きな収穫だった。 ちょうど読んでいる頃に、Facebookで「買い物は投票だ!」というポスターを見かけたけれど、本当にその通りだと思う。 「キッチンの再魔術化」という下りもおもしろかった。 近代以前、竃(かまど)は信仰の対象であり、日本の農村の女性は一日じゅう竃の前に張り付いていたそうだ。 そして戦後、GHQの民主化政策のスタートは、竃からの女性の解放だったという。 そして現在、フード左翼たちの間で、再びキッチンが竃化しているというのだが…。 たしかに、味噌やら醤油やら梅干しやら、いろいろ手づくりしようとすると、「あれ?私、今日ずっとキッチンにいるよね」みたいなことになっていたりする。 そしてそういう生活は、会社勤めをしながらでは、やはり難しい。 …そんなわけで、食と政治を結びつけて考えると、なかなかおもしろいことが分かった。 興味のある人には一読をおすすめしたい。
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フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人
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